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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百六十四話 夜襲

グラたん「第三百六十四話です!」


 夜になりました。夕食を食べ、私たちも交代でシャワーを浴びたり休息を取ったりします。非常事態になる可能性は拭えないため先に涼音さんとイムリスさんには休息を取って貰います。繭の監視には私とシィブルさんが付いています。

 断崖の上からの監視のため義兄様たちが来る方向の警戒も出来ます。予定では朝から昼までの間に此方に到着するはずです。


「そういえばニーマって王女様なのよね?」 


 ふとシィブルさんが聞いてきましたので頷きます。


「はい。そうですけれど、どうかしましたか?」

「王女様って普通前線に来ちゃダメな気がするんだけど、この世界が特殊なのかしら? 私が知る限りとかだと王族って普段は姿を見せないらしいし厳重な警護がついているのよ」


 私はシィブルさんの世界の王族を知らないため今の自分の事しか言えませんが、その人たちも間違っているとは思いません。


「普通はその通りだと思います。現にネーティスの王族は常に警備が付いていますし、少し前に滅んだテベルグやレーゼンベルグのトップにも護衛はいました。私たちの場合は戦える力がありますし、出来ることをしたいというのが本音です。それにお父さんたちが戦っているのに私たちが何もしないのは歯がゆいですから」


 そう言うとシィブルさんは少し驚いた様子です。


「行動力があるのは良い事だけど貴方もエンタールにしても、もう少し立場を鑑みた方が良いかもしれないわね。特にニーマは居なくなったらクレリウスの跡継ぎがいなくなるでしょう?」

「それは……そうですけれど、それを理由に持っている力を惜しむのは違うと思います。義兄様もきっと同じことを言うと思います」


 反論するとシィブルさんも義兄様のことを思い出したのか呆れたように頷きました。


「そうね……。エンタールならきっとそう言うわね」

「はい」 


 私も頷くと、不意に視界に明るい光が見えました。方向は義兄様たちが戦っているはずの方です。


「あれは……何でしょうか?」

「うーん?」  


 シィブルさんも思いつかないみたいです。その光はドンドン此方に近づいてきます。


「何か来るぞ! 警戒態勢!」


 それと同時くらいに繭もピシリと音を立てました。振り返ると繭に罅が入っています。そして明るい光が近づくと共にまるで共鳴するかのように罅が増え、今にも割れそうになります。


「光の束縛!」


 私はすぐに魔法を発動して繭の崩壊を食い止めようと多重に鎖を巻き付けます。ですが繭は内側から膨張するように大きくなっていき、鎖では抑えきれそうにもありません。束縛は少しの間しか持たず、破壊されてしまいます。


「くぅっ!」

「ォォォ」


 繭が破壊され、中からは3mほどの白い蝶のようなゴウルが現れました。頭部からは長い髪のようなものが生えており、顔は三重の赤い丸で埋められています。体付きは女性のように細く、手足には小さな刃が生えています。背中からは二対の蝶のような羽が生えています。


「あれは――焔?」


 シィブルさんもMOSRを抜いて警戒しますが、光の正体が分かったのか声を上げ、私たちは繭から距離を取ります。


「ォォォォォォォォォォ!!」


 その背後からはゴーラストの雄たけびが聞こえます。その瞬間に警報は鳴らされ、階段からは涼音さんとイムリスさんが駆け上がってきました。


「襲撃!?」

「焔がゴーラストから逃げて来ているみたいよ! ただ、繭の方からもゴウルが!」


 涼音さんたちは手短に状況を確認し、その白いゴウルが瀬露さんかもしれないと共通の認識を得ます。


「白い方はニーマ、イムリスで足止めして頂戴。絶対に逃がさないように!」

「はい!」

「了解です!」

「涼音は魔道兵器に大剣を接続して待機! 私は焔に事情を聞くわ」

「オッケー!」


 私とイムリスさんはすぐさま白いゴウルの束縛をしようと思いますが、彼女はゴーラストの方に向き直ります。いえ、その視線の先は走ってきている焔さんに向けられているように思えます。

 その隙に私たちは束縛を発動し、その身体を封じます。次いで焔さんが階下から跳躍してきました。明るかったのは走っている際に発火していたからみたいですね。


「はぁ、はぁ」 


 息を切らせる程の走りとなると全力疾走だったのでしょうか? それと義兄様の姿や他の皆さんの姿が見えません。まさか……いえ、義兄様がやられるなんてことは……。


「焔、一体どうしたの? 予定と全然違うじゃないの」  

「それどころじゃない。涼音は――大丈夫か。瀬露は? 瀬露はどうした?」

「それが……」


 シィブルさんが視線と共に事情を話していきます。その内容は私が見て話したことと同じです。


「……瀬露が奴を食ってゴウルに……だと……」


 焔さんは困惑した表情で呟き、白いゴウルを見上げます。


「ォォォォォ!!!!」


 すると白いゴウルは突然暴れ出し、束縛を破壊しようとしますが私たちも魔力を込めて束縛の力を増大させます。


「二人とも、そのまま頼む」


 焔さんは右手に赤い炎を灯し、青く、そして白く輝く炎を作り出しました。私はそんな炎を見たことが無かったため思わず目を奪われてしまいます。

 その白い炎を纏ったまま焔さんは跳躍し、その拳で白いゴウルの顔を殴りました。その頭部はパンッ、という軽快な音を鳴らして跡形もなく弾け飛びました。


「焔!?」 

「焔さん!?」


 いきなりの暴行に私たちは驚いて目を見開きました。シィブルさんも驚愕しますが、焔さんの表情は冷静そのものです。


「焔、一体何を――」

「見ろ」


 焔さんが指差す先には頭部のない白いゴウルがいますが――その頭部がみるみる再生されていきます。数十秒もすれば完全に元に戻ってしまい、私はとてつもない違和感を覚えました。


「恐らく草月有を取り込んだためG細胞が活性化し、超再生と不死性を得たんだろう」

「有さんを?」


 私の疑問に答えつつも焔さんは周囲に赤い炎を作り、攻撃していきます。


「ああ。元々草月有はゴウルが持つG細胞を人間にして保有する超生物だ。その細胞を採取・培養して他の人間に貼り付けた失敗作がゴウルだ。つまり草月有はゴウルの母と言える存在であり、俺たちを作り出した研究者の一人だ」

「その細胞を利用して次の人類を作ろうとしたのが調整人類計画という計画よ。そしてその第一人者が私の母ジュラル・ティ・ウィマー……それを知り、私も調整人類計画の成功体だったと知ったわ。瀬露も、ゴーラストたちも、ね。もしかすると涼音の代わりになっていたかもしれないわ」 


 どうやらシィブルさんと焔さんは同じことを知っているみたいです。


「ああ、涼音には言うなよ? あいつは別に知らなくても良い情報だからな」


 焔さんは視線と攻撃の手はそのままに私たちに口留めをしてきます。


「詳しい話は後でするわ。焔、これからどうするつもり?」

「G細胞を付与され、ゴウルになった人間は人には戻れない。瀬露のG細胞を俺のG細胞で対消滅させて消し飛ばす」

「瀬露を殺すってこと?」

「……それでも恐らく死なないだろう。有は俺が一度完全に消滅させた。そのはずだったがどういうわけかこの世界に現れた。奴を完全に殺すためには消滅以上の何かの手段で倒すか、再生限界を超えるまで殺すか――現実的な案はこの二つだろう」


 間違ってはいないように思えますが、もう一つ道があるようにも思えます。


「話を聞いた限りですが、瀬露さんは元々ゴウルの成功体だったというわけですか?」

「ええ、そうよ」

「その理屈であれば瀬露さんは元々G細胞を持っていることになりますので有さんのG細胞だけ切り離すとか倒すようにすれば瀬露さんは元に戻るのではないでしょうか?」

「そんな都合よく行くと思うか? そもそもどうやるんだ」


 焔さんの言葉は現実を見据えた正論です。ですが、焔さんたちの世界には無かったものがこの世界にはあり、私は持っています。


「鑑定魔法と分解魔法を使います。本来の用途は違うのですが、鑑定魔法で瀬露さんのG細胞と有さんのG細胞を見分け、分解魔法で分断していきます。見ていてください」


 光の束縛はそのままに目には鑑定魔法を使い、白いゴウルを見ます。風魔法で浅く肉体を切ってそれを鑑定し、判明した肉片を二つに分解して水魔法で此方に持ってきます。五重の魔法を同時に使うのは大変ですがお父さん、お母さんと特訓したおかげで余力は充分にあります。

 運んできた肉片は二つ。黒い方と白い方です。


「この白い方が有さんのG細胞です。黒い方は瀬露さんのG細胞ですね」

「……マジか」


 ちょっと待ってくれ、と焔さんは告げて白いゴウルの元に駆け寄り、太腿の辺りの肉を抉って戻って来ました。


「なるほどな。奴はまだ完全に瀬露を支配出来ていないみたいだ。見てくれ」


 焔さんが持ってきた肉片は骨まで抉った肉です。


「内部を見れば分かるが、奴が支配出来ているのは表面だけだ。今は内側に侵食しているようだが、これなら俺が焼き尽くす方が早い」

「火力調節は出来るんですか?」 


 その一番の問題点をイムリスさんが指摘します。


「ある程度は出来るが、多分炭になるだろうから肉が削れた時点で、水を被せて止めてくれ」


 焔さん……それって全く火力調節が出来ていないと思います。


「でも有さんって細胞を消滅させても生き返るんでしょ? どうするのよ?」

「それについてだが、奴を見てくれ」


 焔さんに言われて白いゴウルに視線を向けるとその体は青い炎に包まれて燃え盛っており、悲鳴を上げています。


「ォォォォォ!!」


 惨いとは思いますが、表面の傷に対して回復速度が間に合っていないように思えます。確か先程はすぐに回復していましたね。


「今、全身を焼いているんだが奴の細胞は急速な分解と再生を繰り返し、俺の対消滅を凌いでいる状態だ。拮抗するほど弱まっていると言っていい」


「ならニーマが完全分解し終える間は耐久ってことね。ニーマ、水魔法は使える?」

「使えますが、これ以上の魔法行使はちょっと厳しいです」

「なら水を被せるのはイムリスね。出来る?」

「勿論です!」


 イムリスさんはやる気充分みたいですね。それを見て私も頷き、焔さんも納得しました。シィブルさんも肯定してゴーラストの方を見ます。そちらに視線を向けると距離はかなり近づいており兵士さんたちも防衛戦を展開しようとしています。


「焔、ゴーラストのコアが無いんだけど?」

「ああ。一回分は殺したが復活した。こっちが終わったら最大火力で消し去る予定だ」

「へー……」


 焔さんは白いゴウルだけを見て誰とも視線を合わせようとしません。嘘はついていないみたいですが本当のことは隠しているみたいですね。


「じゃ、エンタールや他の兵士たちは?」

「ゴーラストを倒した後、もしかしてゴーラストを復活させた奴が居るんじゃないかと思って出現したと言っていた海に行って貰った。その後は分からん」

「ちょっと焔、それじゃエンタールは行方不明ってこと?」

「あいつはそう簡単にやられない。有の姿が見えて嫌な予感がしたから俺はこっちに来たんだ」

「――なら、町にいた人たちは?」

「半数が逃亡し、残ったほとんども除隊した」

「言い方が悪かったわね。残った指揮官と兵士と町はどうなったのよ」

「滅んだ」


 シィブルさんの言葉に焔さんは淡々と答え、私たちはとても冷たい半眼を焔さんに向けます。


「見捨ててきたんですね。最低です」

「酷いです、焔さん」

「見損なったわ、焔」

「何とでも言え。俺は自分が正しいと思う方に行ったんだ」


 その気持ちは分からなくはありませんが人としては最低ですね。


「まあ、後でしっかり問い詰めましょうか。ニーマ、イムリス、今はすべきことをしましょう」


 シィブルさんも納得はしていないみたいですが、私たちの事情で被害を増やすことはしたくありません。今は気持ちを飲み込んで肯定します。


「分かりました」

「はい」


 シィブルさんは踵を返し、私も瀬露さんを救うため魔法の行使に意識を集中させていきます。……私の中にある魔力がどんどん減っていきますが外部からの魔力吸収も併用して行うことで一定の魔力量で使用を続けます。


「ふぅー……」


 焔さんも燃やす方法を手からの火力でなく、吐息による炎に変えて焔さんなりに極力助けようとする意識が見て取れます。


「ォォォォォ!」


 白いゴウルから有さんのG細胞が剥がれ、焼け爛れて消滅し、瀬露さんの黒いG細胞が露わになっていきます。勿論、ほぼ骨ですが。


「ォォォォォ……ォォォォォ!」


 最後の抵抗なのか白いゴウルは口元を動かして何かの言葉を発したように思えます。


「焔さん、彼女は何て言っていますか?」

「『無駄ですよ。ここで私を消滅させてもまたいずれ――』と言っている。どうやら不死を不死たらしめる強力なバックがいるようだな」

「……分かりました」


 この情報はお父さんたちにも伝えておいた方が良さそうですね。


「ォォォォォ……」


 断末魔が途切れると焔さんも炎を吐き出すのを止め、イムリスさんがアロンダイトの水流で火を止めました。しばらく様子を見ますが有さんのG細胞が纏わりつく様子はありませんね。


「さて、これで有の細胞は消滅したと思うが……どうやって瀬露を元に戻すか、だな」

「あの黒い骸の中に入っているのではないのですか?」 

「どういうことだ?」 


 そういえば瀬露さんがどのように変化したのかまでは説明していませんね。私はその様子を一部始終見ていますので焔さんと情報を共有します。

 すると焔さんは腕を組んで黒いゴウルの方を見ました。


「そうか……」


 そう言って焔さんは黒いゴウルに近寄り、おもむろに素手であばら骨からこじ開けて肉を引き裂いていきます。

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