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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百五十九話 ゴーラスト戦線

グラたん「第三百五十九話です!」


 すぐに町を出立し、馬車に乗った俺たちは最前線へと進んでいく。

 途中には断崖があり、バベルさんから連絡が行っていたらしく検問を受けることなく俺たちは通過する。断崖を抜けた後で振り返ってみると断崖の上では突貫工事が始まっていた。

 御者を瀬露と交代して馬車の中へと戻るとシィブルが肘掛に肘をついていた。


「流石というべきか、権力の使い方と言うべきか……」 

「どうした、シィブル?」


 俺を見ながら突然そんなことを言い、俺は疑問に思う。


「いや、ね。エンタールって普段はうっかり者だし馬鹿やってるけど王子なんだなぁって思ってね」

「おい……」


 そりゃまあ……色々やらかすし迷惑もかけるけどさ……。


「別に馬鹿にしてるわけじゃないのよ。自分で決定してその責任を負える、国や民のために率先して行動できるエンタールが羨ましいってだけ」

「それならシィブルたちだって同じだ。俺一人が出来ることなんてたかがしれているさ。俺は俺が出来ることをしているだけだ」


 俺が本心からの言葉を言うとシィブルは溜息を吐いて微笑んだ。


「上に立つ者の正しい力の使い方を貴方は知っている。そしてそれを正しく使える人は本当に極僅かなのよ」

「そうか?」

「そうよ」


 シィブルは肯定してくれるが、それは多分親父や母さん、叔父様たちが我先にと行動している姿を見て育ったからだろう。いや、それだけじゃない。俺自身が王子でありたい、英雄になりたいという願望が強くあるからだろう。

 そうでなければ俺は第二王子(おとうと)たちのように権力に胡坐を掻いていたかもしれない。それにダナンやニーマ、銀次たちにシィブルたちという人にも恵まれているからだろう。


「そう見えているのなら、俺をこの場に居させてくれる皆のおかげだな」


 笑いながらそう言うとニーマたちは頷き、涼音と焔も微笑した。


「エンタールは皆から慕われてるからね~」 

「王の器だな。俺はさっぱりだったが」


 そっか。焔もゴウルの王様みたいなものだからか……。


「人によりけりですね。焔さんには向いてなかっただけだと思います」 

「ホムラには私と瀬露がいるから良いの!」

「それを言ったらエンタールには私とウラカがいます!」

「ま、まあまあ……」


 イムリスの毒に涼音が反論し、俺と焔で抑えて苦笑いする。


「シィブルさんは違ったのですか?」


 が、よりによってニーマが爆弾を投下した。偶に天然が入るニーマのことだから素直に疑問を聞いたのだろうけど……察した俺と焔は固唾を飲み込んだ。


「……ま、上手くは使えなかったというべきかしら? う~ん……上手く言葉に出来ないわね」

「シィブル?」


 涼音が心配そうに首を傾げつつシィブルを見つめ、シィブルは苦笑い気味に見つめ返した。焔は何か知っている風な態度だが、誰かが追及する前にシィブルは言葉を出した。


「そういえば皆に作戦は伝えなくて良いの?」


 露骨な話題の切り替え方だが触れられたくないのだろうと思い、俺は空間から地図を取り出した。


「ああ、そうだったな。瀬露にも後で伝えるが、作戦はこうだ」


 最初は訝しんだニーマも作戦を聞くにつれて意識を変えてくれたようだ。



 最前線の町に到着したのは夕方だった。ゴウルは焔が現れたことで近くの森や茂みに身を隠してしまい、ゴーラストだけが未だ戦闘を継続していた。


「でかいな……」


 流石は100mちょいある。町の街壁は20mあるかないかだが、町の防御結界を多重に展開することでゴーラストの攻撃を何とか凌いでいるようだ。


「開門! アジェンドから来た援軍だ!」

「了解! 報告は受けております!」


 ここも伝達があったらしく顔パスで裏手から入り、馬車を兵士たちに預けて俺たちは城壁に上がって西門へと走って行く。


「うおおお!!」


 中でも涼音は真っ直ぐに突撃してしまい、陣形は伝える必要がなさそうだ。


「焔とニーマは涼音を援護! シィブル、瀬露、イムリスは押し返した後、街壁から奴を引き離してくれ!」


『おう!』


 返事が聞こえると共に涼音が跳躍し、大剣を砲撃モードに切り替えて街壁から連射した。その周囲にはニーマが展開した魔法陣が出現していた。


「光の束縛!」

「ォォォォォォォォォォ!?」 


 ゴーラストの巨体に魔力に物を言わせた巨大な鎖が巻き付き、動きを大きく制限した。その数、およそ20本。


「炎穿!」


 真正面からは焔が腕に炎を纏わせ、ゴーラストを焼き尽くさんとばかりに高出力で放射し続けている。

 ゴーラストが大きく仰け反るとニーマは魔法陣を鎖ごと移動させていく。


「行くわよ!」


 それを城壁から飛び出したシィブルたちが斬撃を加え、少しずつ引き離していく。

 そんな状況に兵士、魔法師、冒険者たちは困惑した。


「な、なんだ?」

「何が起こってるんだ?」


 これをどうにかするのが俺の仕事だ。ある程度引き離したのを確認し、俺は街壁に登ってイクス・ターンを掲げる。


「俺たちはアジェンドの援軍だ! ここは俺たちに任せて皆は下がってくれ! 指揮官バベルとアジェンドの王子より奴を討伐するための作戦を伝える!」

「全軍、今日の戦いはこれまでだ! 補給を整えた後、二時間後に町の中央に集合せよ! 繰り返す、今日の戦いは終わりだ!」


 俺の声に合わせて櫓から現場指揮官の命令が発せられる。遠目からにはなるが若い女性の将校のようだ。

 命令を受けると兵士たちは順次町へと降り、補給を済ませ、夕食を受け取っていく。この戦線で唯一の救いは物資が尽きないことだな。

 そっちの指揮は彼女に任せることにし、俺は町から引き離されていくゴーラストを見上げた。正直、ニーマたちだけで充分とも思えるが実際に叩いて感触を確かめておく方が良いだろう。

 全身を強化して壁を蹴り、剣を右下段に構えてゴーラストに接近する。 


「まずは、足!」


 全体が大きいこともあって奴は四足歩行だ。最低でも二本切り落とせば動きは大きく阻害されるはずだ。

 足に刃が入る。肉質は固過ぎないが柔らかくもないと言ったところか。力任せに振り抜くと斬撃跡が刻まれ――まるで樹木型魔物トレントのように足の傷が塞がっていく。回復力も桁違いだ。

 二度、三度と繰り返し、傷口を雷撃で焼いて見たりもしたがあまり効果はないな。


「やっぱりコアを狙うしかないか」


 動きながら焔たちを見渡すとゴーラストの超回復があるからか決定打に欠けているようだった。

 陽が沈む頃合いを見計らって俺たちは町へと撤退し、ゴーラストも少し離れた位置で動きを止めた。



 サクルの町へ戻ってきた俺たちは現場指揮官の女性将校と会っていた。見た目はネーティスの軍服を着ていて、真面目そうでダナンがいれば息が合いそうな相手だ。


「ようこそ、サクル最前線へ。私はケイラと申します」

「アジェンド第一王子エンタール・スファリアス・アジェンドです。こっちは焔、涼音、シィブル、瀬露、イムリス、ニーマ」

「協力に感謝します、王子。早速ではありますが作戦の確認に入ります」


 彼女の口から語られたのは俺とバベルさんが立てた作戦の概ねだ。シィブルたちも作戦を再確認し、これを発表することとなった。

 焔たちには先に夕食を取っていてもらい、俺とケイラさんは町中へとやってきていた。戦時ということもあって物々しい雰囲気だが闘志は廃れていないようだ。これなら作戦士気は問題無いだろう。


「――と、いうわけだ。奴を倒すためにも諸君等には協力して欲しい」

『おおっ!』


 やはり勝利に分のある作戦があると士気は各段に違うな。 

 勝利の前夜祭という名目でケイラさんは冒険者たちに酒を振る舞い、警備の兵士たちにも交代で飲酒制限を解除するようだ。


「すまん、助けてくれ」


 会議室に戻ってくると焔は中央に正座させられ、その両隣には瀬露と涼音が立っている。シィブルは我関せずを貫いているしイムリスも困り顔だ。


「……何してるんだ?」

「これは一体……?」


 流石に状況がつかめずに俺もケイラさんも苦笑いする。


「むぅぅ」 

「むー」


 この二人に話しかけると、とんでもない飛び火になりそうなのでシィブルに視線を向けると凄く嫌そうな顔をされた。


「シィブル、これはどういう状況なんだ?」

「はぁ……部屋割りで揉めてるのよ。割り当てられる部屋が四部屋しかないってことで二人一部屋余り一ってことになってね。私はニーマと、エンタールはイムリスと一緒だから、じゃあ焔はって話になったわけ」

「……俺と焔じゃダメなのか、それ」

『ダメ!!』


 涼音と珍しく瀬露も声を荒げた。普通に考えれば野郎一部屋、女子二部屋で何の問題もないと思うんだが……。


「……そうか」

「頼む、諦めないでくれ!」


 焔が必死の形相で諦めかけた俺の腕を掴み懇願する。首を突っ込むと碌なことにならなそうだが喧嘩が原因で作戦が失敗したら笑えないし、何とかしてみるか。


「なら、ベッドをもう一つ並べて寝れば良いんじゃないか? 中央に焔を置けば問題ないだろ?」

「何てこと言うんだ!?」

「そっか、その手があった」

「なるほど! そうしよう!」


 言うが早く焔は瀬露に引きずられ、涼音はベッドを調達しに行った。これぞ師匠から教えてもらった外道技の一つ、『丁寧な味方の売り方』。


「さ、俺たちも夕食を食べてしまいましょう」

「あ、ああ」


 ケイラさんはドン引きしていた。

 席に座ると俺たちの分のサンドイッチが置いてあり、胃に詰め込んでいく。その後、焔たちは戻ってこなかったから上手くいったのだろう。

 夕食を食べ終わり、明日は俺たちも最前線で戦うためニーマ、シィブル、イムリス、ケイラさんと地図を囲んで陣形を話し合う。


「陣形は焔、涼音、瀬露が前衛、俺とシィブルは中衛と戦況把握、ニーマとイムリスは遊撃だ。四日目については撤退戦になるため俺と焔が殿をすることになる」


 実質一番キツイのが撤退戦だ。その上、俺たちは撤退後も休みがない。


「それ自体については異論は無いけど、残った町はどうするの?」

「勿論、有効活用するつもりだ」 


 地図の上の町にゴーラストの駒を置き、周囲に石を置いていく。


「予定では四日目の魔法師撤退と入れ違いに大量の爆薬が来る。それを爆発させる予定だ」


 例えやらなくても町に入った時点で壊滅確定だから盛大に足止めしようという算段だ。


「爆破させるってわけね。……それ、上手くいくの? 先のゴーラストが破壊したら意味ないと思うけど」

「そこは抜かりない。配置箇所はゴーラストの正面だ」


 結界が解除されると同時に西門から俺が雷撃を落として大爆発させる。


「……不安はあるけど、そっちは任せるわ」

「ああ」

「義兄様、他に作戦はあるのでしょうか? 一つだけでは少々足りないような気もします」


 その心配はニーマだけじゃないはずだ。


「勿論、第二、第三作戦は用意してある」


 それについても説明し、シィブルたちからも大丈夫だろうとお墨付きを貰った。

 撤退の質問は無くなったが、代わりにイムリスから根本的な質問が飛んできた。


「エンタール、もし断崖で仕留めきれなかった場合はどうするの?」

「一応、射撃は限界の第三射まであるが……もしダメな場合は全員ネーティスまで撤退して貰い、その間に俺たちが足止め、ニーマがアジェンドに戻って援軍を要請してくれ。可能ならダナンたち全員を連れて来てくれれば総攻撃で倒せると思う」

「確かに、それなら可能かもしれないけど戻っても誰もいなかったら?」   

「その場合はコアだけを集中攻撃し、それもダメなら正直お手上げだな。アジェンドに退却することも視野に入れ、アジェンドから正式に追加援軍を送る」


 最悪、親父に泣きついてみるか。情けないけどな……。


「自分たちで最大限やってからってことね」

「分かりました。私も頑張ります」

「はい」


 皆の意見は一致してくれたようだ。


「分かりました。その手筈で行きましょう」


 ケイラさんも納得してくれたようで、会議はここで一旦終了となった。

 会議を終えて水浴びをし、俺たちは割り当てられた部屋へと向かう。その道中で俺はイムリスたちと協議する。


「やっぱ男女二人っきりは不味いと思うんだ」

「そりゃそうでしょうとも。イムリスは私たちと一緒の部屋よ」

「う、うん……」


 後で聞くと俺が言い出さなければシィブル、ニーマから打診を立てる予定だったらしい。イムリスも同意してくれたが心なしか残念そうに見えた。

 部屋に入って少しすると廊下から焔の絶叫が聞こえ、ドタドタとこっちに向かってくる足音が聞こえてきた。扉が勢いよく開けられ、上半身裸の焔が入ってきた。


「ぜぇ、ぜぇ! 匿ってくれ! 礼なら弾む!」


 何があったのかは知らないが必死なことだけは分かった。


「お、おう」 


 扉を閉め、焔をベッドの下に隠してシーツで足元が見えないように細工しておく。俺は椅子に座って廊下から猛ダッシュしてくる涼音たちを待った。

 コンコン、と足音とは裏腹に丁寧に扉を叩く音がした。


「ん? 誰だ?」


 扉を開けるとやはりというべきか涼音と瀬露がニッコリと笑って(目は全く笑ってない)佇んでいた。その背にはMOSRが装備されていることから余程のことをやらかしたらしいと推測を付ける。


「二人とも、どうした?」

「こっちに焔が来なかった?」

「いや、来てないが……」

「そっか。見かけたら教えてね!」


 そう言って涼音たちはまた何処かへと走って行ってしまった。二人を見送る。


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