第三十八話・第二次ラグナロク 前編
斎藤「さて、全国全世界の野郎共。待ちに待ったラグナロクの時間だ」
斎藤「今、この日、この時を持って我々は桃源郷への道を開く」
斎藤「武器を持て! 服を脱げ! 俺たちに必要なのはなんだ!」
野郎共「それは漢の心だ!」
斎藤「よろしい! さあ、第三十八話……行くぞ!」
野郎共「オオオ!!」
~嵩都
翌朝には性転化の効果は切れていた。
朝食を食べ、ポノルたちから連絡を貰い人数を確認。それをプレアに伝えた。
何かお礼をしたいと言ったら今度デートしてほしいと言われ、俺も二つ返事で了解した。
ふむ、今からでもデートコースを見繕っておかないとな。
昼を過ぎた頃に亮平が姫様を連れて帰って来た。
死亡フラグでも立っていれば良いのにと思った。
そして第一王女様を護衛し、救出した手柄と引き換えに将来の就職先が約束された。
何もなければ近衛兵、それも王女様の側近騎士だという。
棚から牡丹餅というやつだろう。うらやましい限りだ。
そして夜。俺は食堂手前に来ていた。
無論、手元には例の物を持ってきている。
まずは斎藤だな。奴に餌食になって貰おう。
「斎藤、大変な事がわかったぞ」
「朝宮か。血相抱えてどうした?」
「ああ、実はここに来る前にこんなものを売っているとこを見かけて……」
俺はストレージから拝借した数枚の写真を取り出した。
それを表にして斎藤に渡す。
「ぐっ、これは……」
そこに映っていたのはホモされた亮平と海広だ。
斎藤が写真を俺に返してうずくまり、床に額を打ち付ける。
「どうした?」
そこで俺を見つけて寄ってきたのは亮平だ。
よし、次はこいつに犠牲になってもらおう。写真を無言で渡す。
「……ごふっ!」
擬音を出しながら亮平が粟吹いて気絶した。必殺の威力を誇っていたようだ。
「おい、大丈夫か?」
来たのは海広だ。俺は亮平が手に持っていたのを海広に渡す。
「がはっ!」
海広が地面に手をついて頭を打ち付け、更に喀血する。
喀血は止めて欲しかった。床が汚れる。
「おいおい」
「一体何をしている」
「随分と面白そうなことになっているな」
来たのは猛と三井だ。俺は二人に写真を見せる。
「ぐっ……」
「なぁっ……」
二者二様の同じ反応が返ってきた。ついでにストレージ欄に残っていた奴も見せる。
全く同じようにシンクロ率百%で気絶した。
そんなことをやっていると隊長が来た。
「朝宮、田中たちの様子がおかしいが何かあったの……か?」
ありのままの写真を隊長が見つける。
俺は隊長にその写真を渡す。
「なるほど……よく分かった。私も自分の行動に気を付けるとしよう」
そう言って隊長は写真を持ったまま何処へと去って行った。
うむ、まあまあ満足の結果だ。
その後、俺も気持ち悪くなった。
食堂に着いた。
元に戻った斎藤たちと共に夕食を受け取って手ごろな席に着いた。
そこでふと周りを見ると少し違和感があった。
女子たちが異様に俺達を見ている気がした。
「いただき」
「ちょっと待て」
俺が制止を掛けると不満そうに亮平が言った。
「なんだよ。早く食おうぜ」
「なあ、なんだか女子たちの様子が変じゃないか?」
亮平が周りを見渡した。すると女子たちは一斉に視線を逸らした。
「……何だ?」
「確かに何かありそうだな」
亮平と佐藤も気付いたようだ。
「何かはありそうだがとりあえず食べよう」
俺は毒味を兼ねて先に食う。味に問題は無い。嗅覚も正常。視界もクリア。一体何だろう?
俺たちは分からないまま食べ終わってしまった。
そして気付いた時にはアフターカーニバル。男子勢が全員酔っぱらっていた。
「なんだとゴラァ!」
「だからよ、俺が気付いた時には……」
「ううぅぅ……」
怒る奴、饒舌になる奴、泣く奴、笑う奴……まさに混沌。
女子共は男子勢に捕まって延々と愚痴られていた。かくいう俺は厨房に籠って料理していた。
「塩三g、砂糖四十g、隠しに蜂蜜二g」
永遠とお菓子を作っていた。作ったお菓子は男子勢のつまみになっていた。
俺としては皆に食べてもらうことこそが幸せだ。
ちゃっかり悠木さんたちも摘まんでいる。これで契約は出来たと思いたい。
「焼き加減に注意して……よし、このまま十五分」
厨房には料理長以下の料理組が俺のお菓子を食べながら満喫していた。
「ううっ、美味しいです」
「認めたくないけど、認めたくないけど、美味しいです」
「もういや……私のプライドはズタズタよ」
「何でこんなに作れるのよ……」
以下等々と太鼓判を頂きました。
彼女たちもこのくらいは作れそうな腕前な気がするが、自分で作るのと他人が作るのとでは何かが違うのだろう。やはり、師匠の味は一味違うということか。
『オオオオオオ!!』
食堂が騒がしいな。何かあったのか?
まあいい。今はそれどころじゃない。クッキングが優先だ。
すると亮平が厨房に来た。
「朝宮、出陣だ!!」
「勝手に行っていろ」
「馬鹿野郎! ラグナロクを忘れたのか!」
ああ、あったなそんなの。よしサボロー。
「悪いが今忙しい。また明日にしてくれ」
「馬鹿言うな! お前がいないと勝負にならないから呼んでいる!」
まったく、しょうがないな。そこまで頼まれたら行くっきゃねぇな。
「あと十二分後に取り出して食って」
俺はエプロンを綺麗に畳んでシンクに置いた。一杯の水を飲む。
それだけ言い残して俺は亮平たちの所へ行く。
「またせたな」
俺が行くとそこには酔っぱらった馬鹿共がいた。
「いよ、待っていました御大将!!」
鈴木が茶化すように言った。だから俺はこう言ってやる。
「さあ行くぜ! 桃源郷は目の前だ!」
『おお!!』
俺達は勢いだけで女湯に突撃した。下策中の下策である正面突破で。
待ち構えていたのは女兵士共。突撃するは我らが第一部隊。
当然、昨夜のことを思えばここに兵力が集中している。
馬鹿だなぁと思いつつ前を見る。
「ヒャッハー!! 食らえ、グングニル!!」
と言って槍を飛ばすが盾に弾かれる結果に終わる。
「ひひひひ、ア――ル、テ―――マ、ソォォォウドゥゥゥ!!」
と言って大剣を上段から振り下ろす。
なまじ素人なだけに訓練された兵士達に軽くあしらわれる。
「ふっ」
「遅い」
あっという間に数人が捕まった。そこで来るのが我らが亮平隊長。
「……来い、聖剣エクスカリバァァアアア!!!」
亮平が天に手を上げて叫ぶとそこには一振りの聖剣があった。
「行くぜ……加速!!」
瞬間、亮平が超高速で女兵士を蹴散らした。
フッ、流石に出番はなかったか。それにしても亮平も強くなってきているな。
『ぐぁああ!!』
奴らは悲鳴を上げて散った。
全く、俺の出番が無いじゃないか。そこで俺の視界が真っ暗になった。
あれ? 俺の手持ちが全滅したのか?
次に気が付くとそこは見慣れた天井だった。つまり自室だ。
……夢だったのかな? 俺は日付を確認する。
歴一五六六 三月二十日
何が起きたのだろうか? 時刻はまだ夕方。寝ていたのだろうか?
それにしてはリアル過ぎる夢だった。俺は鍵を掛けて部屋を出る。
食堂に向かう途中で亮平と佐藤に出くわした。
そして食堂に入って夕食を受け取り、手頃な席に……これも夢と同じだ。
『いただき』
「ちょっと待て」
俺が制止を掛けると、やはり不満そうな顔をした。
「なんだよ。早く食べようぜ」
「なあ、これと同じ夢を見たと言ったら信じられるか?」
俺の唐突な質問に亮平が笑った。
「ははは、それは面白いな。聞こうか。それで、このあとはどうなったよ?」
「ああ、この後は全員が酔っぱらう」
「ははは、それはないだろう」
亮平が一笑した。隣の斎藤をみると何故か青褪めている。
「おい、どうした?」
「いや、何故かデジャヴしてな……」
佐藤は何かに気付いたのだろうか?
「まあいいだろ。とりあえず食おうぜ」
「あ、ああ」
俺は何もないことを祈りつつ口に運んだ。
そしてアフターカーニバル。夢と同じ光景が繰り返された。
流石におかしいと思って解除魔法を使った。
俺は椅子に座って水を飲んでいると亮平が声を掛けてきた。
「朝宮、出陣だ!!」
ここでついて行くと目の前が真っ暗になるのだったな。今回は遠慮させて貰おう。
「すまん。ちょっと気分が悪くて……。先に行ってくれ」
「そっか。なら先に行くぜ」
そういうと亮平はあっさり引き下がった。
全く同じ光景。いくらなんでもおかしくないか?
そしてまた目の前が暗くなる。
目が醒めると見慣れた――――背筋に寒気が走った。
おかしい。これは何かがおかしい。時刻を見ても夕方。
とある異世界生活じゃないことを祈る。
確か幻惑に打ち勝つには目的を達成すると目覚める。となんかの本で読んだな。
つまり、俺の目的はラグナロクということか。
俺は部屋に鍵を掛けて、食堂に向かわずに女湯目がけて走った。
今なら警備もザルと思ったが、まさかここまでいなかったとは。
俺は今、女湯の目の前に居る。そして中を通過して風呂場に出た。
そうすると女子達の悲鳴と共に頭に何かが当たって、目の前が真っ暗になった。
気が付く……目が閉じられたまま気が付くと俺はどこかへと運ばれているようだ。
視覚は何かで塞がれているようだ。聴覚から声が聞こえてくる。
『死刑』とか『アイアンメイデン』とか『ファラリス』とか『ダークプロミネンス・ノヴァ』とか……死刑一択やん。
そして突如目が開けた。そこには鬼の仮面をかぶった女子がいる。
そして目の前には亮平や鈴木たちの死体が――――。
えっ、ちょっ、待って、これが現実なの!?
待って! お願い! もう一チャンくれません!?
もがこうとするが体が縄で縛られていて動けない。
そして大きな鎌を持った筑篠が遠心力を使って俺の頭に鎌を―――。
目が醒めるとそこはお花畠だった。どこまでも続く花畠に川のせせらぎ。鳥のさえずりが聞こえる。川の向こうでプレアがおいでおいでして……おいコラ、プレアを殺すな。
一瞬で我に返って、今度こそ俺は目を覚ます。
見慣れた天井を見ながら日にちを確認する。
ラグナロクの最終日だ。
時刻は朝。すがすがしく体が痛い。ようやく長い悪夢が終わったか。
俺は起き上って回復魔法を掛ける。痛みが引いて、代わりに腹が減る。
朝食の時間にはまだ早いので昨日のことを振り返る。
それにしても、昨日の夕食は大変な目にあった。まさか奴等から仕掛けてくるとは思って無かった。間違いなく女子共の仕業だろう。
朝食は外食した方が身の……いや、あえて食堂に行こう。これで盛られていたなら現行犯で逆に訴訟できる。
食堂に来た。朝食は流石に入っていなかった。おそらく夕食は俺たちが食べない事を見越して魔法を入れていないと思われる。
昼間はポノルや四天王との打ち合わせ。それに学校入学も近いからそちらの書類も作って置く必要がある。それはそうとラグナロクのスレには斎藤からチャットが届いていた。
『聖王からだが、ラグナロクは今日が最終日だ。行動開始は各々に任せるそうだ。そして参加も昨日の鞭を考えて療養したいものはそれでも良いそうだ。報酬は明後日渡す』
確かに昨日の鞭はかなり堪えた。次々にチャットされる。辞退者も多い。
最終的に残ったのは聖王たちを含めても八人ほどだ。
俺は……参加したいがこちらの仕事が終わらないと参加は難しいな。
皆には悪いが途中参加と入れて置いた。
斎藤「ぐっ――馬鹿な、先手を打たれただと!?」
嵩都「ある意味当然だな。わざわざ時間指定までしているんだから」
斎藤「……まだだ、俺は諦めないぞ。次回、第二次ラグナロク 中編」
嵩都「……正気か?」
斎藤「無論だ。俺は皆を桃源郷へと導く義務がある!」
嵩都「(これが覗きでなければと何度も思う)」




