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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第三十七話・Re:デザートの恨み

斎藤「第三十七話だ……フフフ」


~嵩都



 アジェンド城の自室に戻るとプレアから連絡が来た。

 なんか上手く行きすぎて怖いくらいだ。それはそうとカルラッハにも伝えねばな。

 伝え終わると仕事の速さに驚かれた。





 夕食の時間になり食堂へ向かう。もちろん今日がラグナロクの前哨戦だということは忘れていない。飯を食わねば力は出ないからな。

 集合場所はここ、食堂。メンツは俺、斎藤、片山、鈴木の四人だ。

 そして今、欲望に染まった戦士たちが集った。

 勿論、会話はチャットにて行われる。



『さて、よく来てくれたな』

『前置きは良い。本題に入ろう』

『分かった。今回は相手も警戒している正面突破を行う』

『馬鹿か。死に行くようなものだな』

『これはあくまでも前哨戦だ。相手の注意を惹きつけるための戦いだ。だからこそ明日のために敵戦力を正面突破の場所に集めて置く必要がある。そうすることによって明日の別経路での戦闘が格段に減り攻略難易度が下がるはずだ』

『そういうことか。了解』

『作戦は以上だ。念のため事前に購入しておいた仮面を着けてもらう。面が割れると警戒が俺たちに向くからな。それに体型も誤魔化すための魔法薬もある』

『流石参謀。小生、感服ですぞ』

『異存がなければこれで行く。いいか?』

『了解』

『心得た』

『分かった』



 食事に戻る。斎藤が机の下から俺たちの方に色々と送ってくる。



「そしてこれが例の物だ。効果内容については様々だ。念のため一人二本持っておけ」



 計八本の小瓶が机に並んだ。その内から二本を取る。



「ちなみに効果は?」

「身長を縮める、伸ばす、女性に性転化する、等々」



 なるほど。これはこれで色々使えそうだ。理解習得で記憶しておくか。



「言い忘れたが効果は二時間だ。そこだけ……もぐっ……注意な」

「了解……?」



 なんだ? 今の不自然な一瞬の間は?

 まあいい。さて、今日のデザートはイチゴショコラだったな。ここのデザートは俺の舌を唸らせるほど美味い。将来ここに勤務してもいいかなと思うくらい美味しい。

 デザートの苺ショコラに手を伸ばすが、俺の手は空を切った。

 俺は不思議に思って皿を見るとショコラは跡形も無く消えていた。

 そこでふと斎藤を見る。口元に苺のかけらが残っていた。

 斎藤が実に美味そうに口を動かしている。

 ……ほほう。これは俺に対する嫌がらせでいいのだな? まさか二度目があると思わなかったよ。ホッホッホッホッホ……。

 そして斎藤が食い終わった。

 俺の中の何かのガラスが音を立てて壊れた。



「……ホッホッホ……これは何の冗談ですか? 斎藤さん?」

「…………朝宮?」



 鈴木が顔を青くしながら冷や汗を流しながら問う。



「んー? ああ、美味かったぞ。苺と二段に重ねられたチョコの絶妙な味。重量のある触感。滑らかなクリーム。舌が蕩けるほどの味。何をとっても一級品と呼ばれるにふさわしいデザートだった」



 斎藤がぬけぬけとそんな感想を言う。

 俺の頭の血管が何本かまとめて切れていった。



「……これは…………まずいな。悪いことは言わないから逃げるぞ、片山」



 鈴木が食器を持って逃走準備をしながら片山に言う。だが片山はもう既にそこにはいなかった。



「そこにいると通行の邪魔になるぞ」



 鈴木に注意したのは筑篠だ。ちょうど良い所にきた。



「ああ、筑篠。丁度良い所に。実は斎藤が……」

「ん? 一体どうした?」



 鈴木はこれから起こることが目に見えたのかそそくさと返却口に向かっていた。

 斎藤は何のことか分かっていないらしく、その場に居る。

 さて、処刑といこうか。俺は内心笑みながら饒舌に語り出した。







~斎藤視点~

 朝宮が変なテンションになっている。

 確かに俺はショコラを食った。すげー美味かった。

 俺と朝宮が話していると筑笹に注意されたので椅子に座った。

 すると朝宮が筑篠に何かを言う。



「実は斎藤が……昨日女湯に居たらしくて」



 筑篠の目が俺に向けられる。

 いや、ちょっと待て、冤罪にも程があるぞ!?



「最低だな」



 筑篠の目線が塵を見るそれになった。

 筑篠がとりあえず腰を落ち着けようと俺の前の席に視線を移した。

 酷い冤罪だ。俺は弁解するために口を開くが、その口に朝宮が筑篠の皿からガトーショコラを取って俺の口に詰めた。

 筑篠の視線が椅子に向いた一瞬の出来事だ。

 俺は咳込みそうになり口に手を当てる。



「筑篠」

「何だ?」



 朝宮が俺の口に指を差す。



「斎藤がお前の皿のショコラを取っていたぞ。それも返すまいと口に手を当てる始末だ」



 ちょ――――お前――っ!?

 筑篠が皿と俺の口を見比べる。そして絶対零度の視線へと変わった。

 俺は口に入っているショコラを飲み込んで口を開けようとする。



「どうしたの、鹿耶ちゃん?」



 そこに来たのは岩沢、枠野、林の女子三人だ。今、言ったのは林だ。



「ああ、実はこの世界の塵が私のショコラを食ってだな」



 女子共が不潔という目で俺を見た。

 違う、違う! これは朝宮の陰謀だ!

 だが俺の口から出るのはもごもごという音だけだ。

 くそっ、早く飲み込まないと何も言えないまま終わるぞ!



「しかも昨日、隠蔽魔法まで使って女湯にまで入ってきたらしい」



 筑篠が追加を告げる――って、おい! それはやってない!

 女子共が逃がさない様にと俺の周りに座り始める。

 そこで俺はようやくショコラを食べ終える。

 しかしまたしても朝宮が女子共の皿からショコラを取って俺の口に詰めようとする。

 巧みな会話によって意識が俺に向けられた瞬間に盗った。

 盗り方が異様に手慣れている上に俺が見ても手先がぶれて見えていた。

 だが、俺だって二度も同じ手を食うほど馬鹿じゃない。

 俺は顎を引いて顔を左に向ける。

 そして追撃されないように体ごと体重移動する。

 ――だが、予想外の事が起きた。

 急に俺の視界が暗くなったのだ。しかもなにやら柔らかくて暖かいものに左右から挟みこまれて―――。

 俺はある一つの可能性にたどり着く。思えばいくらでもヒントはあった。

 ショコラ、三人の女子、朝宮の追撃、椅子、俺の顔の位置。

 ここまでくればもう分かるだろう。

 俺はそれから顔を退けようと後ろに下がるが、ここで本日二度目の予想外。

 後ろに下がると後頭部に何やら柔らかいものが――――。



「いっ…………きゃぁああああ!!!!」



 まず、前にいた岩沢からボディーブローを貰った。



「ごふぉ!」

「死ね、この塵がぁぁ!!」



 次に後ろに居た枠野から後頭部に肘鉄を貰う。



「がっ!」



 俺は椅子から前のめりに転げ落ちる。

 くっそぉ……俺は悪くないのに。悪いのは朝宮なのに。



「このラッキースケベ」



 視線を上げると朝宮がやけに嬉しそうな顔をしてショコラを食べていた。

 しかもむかつくことに俺の視線があたる、さっきよりも少し後ろで肘を突きながら足を組み、俺視点で見たらイラつく笑顔で座っている。

 まあ、最初から見れば俺が悪いのだが。だが、前も思ったがこれは酷くないか?

 俺は朝宮に物申すために頭を上げる。

 そして――――本日三回目の予想外に遭う。

 また目の前が暗くなったのだ。しかし今度は胸では無く、柔らかく暖かく、それでいで幸せになる……。

 俺はそれを退けるために頭に被さっているものをとろうと手をあてて一気に捲し上げる。

 そして明るくなった俺の目に見えたのは水色と白の縞々のパ――――。



「―――――――――ッッ!!」



 瞬間、俺の顎が何かに撃ち抜かれた。

 顔が上を向く。俺が再び視線を戻すと、そこには顔を赤らめた林が短いスカートを抑えていた。

 奥には食器を持って驚いた顔で佇む朝宮。

 奥にいた朝宮が食器を置いて俺を見て笑顔で親指を立てた。

 それは男子共通の認識。つまり朝宮も見たという事だろう。

 このラッキースケベが。感謝しやがれ。

 それを言うなら今の事態は俺のおかげでもある。

 にしても縞々ね……外見にそぐわずこど――――。

 そこまで考えると、また目の前が暗くなった。

 手を後ろに縛られ、床に転がされた。顔に被さっているのは質感から麻袋だな。



「世界の恥さらし」

「ゴミ屑にも劣る畜生が」

「生かしておけないわ」



 三者三様の声が聞こえる。俺はこれから起こることを予知した。

 もうある意味、朝宮に関わったことによる報いだろう。

 だが、前にもあったため対策はしてある。舌を動かして奥歯に詰めて置いた睡眠薬を確認。

 起きた時が地獄だが、そこはまあしょうがない。長々と甚振られる方が辛いからな。

 はぁ……こうなると分かっていてもやるのは性分なのだろうな。

 俺は体を持ち上げられる感覚を覚えて睡眠薬を噛み砕いて飲んだ。

 そして俺は意識を手放した。







~朝宮視点~


 斎藤が連れて行かれた。行先は厨房だ。

 麻袋を被せるとか今時怖いおじさんたちでもやらない手法だぞ。

 だがしかし、俺は見てしまった。斎藤の口が僅かに動き、何かをかみ砕いて飲んだ。

 前回の反省を生かした対策なのだろうが、見てしまったからには解除せねばなるまい。

 俺は覚醒魔法を(目が醒めるほうの覚醒)斎藤に掛けた。

 さて、いい仕事したし、部屋に戻ろう。

 食器を返却口に返して食堂を出た。



「朝宮の馬鹿野郎―――――――ッ!!」



 食堂を出ると背後から絶叫が聞こえた。

 そのあとに高い声で『イッツ、ショウ、タ―――イムッ!!』とかなりの人数の声が聞こえた。恐らく筑篠がリークしたのだろう。

 ……許せ、斎藤。これは必要な犠牲だったのだ。

 と、最悪感も何もないどうでもいい懺悔をしながら部屋に戻った。





 さて、時間だな。理解習得を発動させ、俺は斎藤から貰った小瓶を飲む。



「うっ……ぐぁぁぁ……か、体が―――痛くない」



 体から変な煙が出ているが特に変わった様子も――なくもない。

 せいぜい胸筋が膨れたのと股間のアレが取れたぐらいだ。ハハハ……。



「嘘ぉぉおおおお!?」



 声のトーンも高くなっていた。

 そこで先程の斎藤の言葉を思い出した。



『身長を縮める、伸ばす、女性に性転化する、等々』



 わお。まさかのTSですか。

 しかも理解習得のせいで薬品の仕組みまで分かってしまった。

 TSの小瓶=水銀+トルパゴスの体液+クロロホルム+ヘモグロビン+テトロドトキシン。

 猛毒薬の間違いだろ。だがこのトルパゴスの体液とやらがその他の毒を吸収する仕組みがあるらしい。そして同様に他の素材を分解して繋ぎ合わせる効果もある。

 トルパゴスというのは小さな蟹のような動物だ。生息域は磯や浜にいるらしい。

 さて、それはそうとして初の女性化(理解習得によれば一度女性化するとその外見で固定されるらしい)だが、割と良い外見だな。美人の部類に入るんじゃないか?

 髪は白色に染まり(白髪ではない)整った顔立ち。女性の大半が羨ましいと思うよう体型。胸だって見た感じC程度はある。

 己惚れか。否! 客観的に見ても良いと判断できる。

 オホン。さて、仮面もつけ、ローブも纏ったし行くか。

 武器はSTのガンマレーザーだが魔法を主体に使って行こうと思う。

 ――ん? 待てよ。女ということはわざわざ正面突破する必要なくない? だって普通に浴場にいけばいい話だし。ヒャッハー! 堂々と覗きが出来るぜ!

 仮面を取り外してローブのみを羽織って行くか。

 仮面をストレージにしまい着替えを持って扉を開けた。



「あ、嵩……都?」



 偶然、恐いよね。扉を開けると目の前にプレアがいた。

 そのプレアは驚愕し、少し気まずそうに扉を閉めようとする。



「あ、ごめんなさい。部屋を間違えま――」


 ヤバイ!! このままでは俺に要らん冤罪が掛かる!!

 すぐさま扉に手をかけて閉じるのを塞ぐ。


「いや、合っている。斎藤の罠に嵌って性転化させられたが間違いなく朝宮嵩都だ」



 斎藤、すまん。全ての罪をお前に被せる。



「そ、そうなの?」

「そうだ。それで何か用だったのか?」

「あ……うん。もし良かったら空いている時間に混浴場にでもどう? と思ったのだけどその必要はなさそうだね」



 ごふっ……こ、混浴ですか……。なんか勿体ない気もしたがまあいい。



「それじゃ、行こう」



 頷く。……斎藤、鈴木、亮平、悪いな。俺は先に桃源郷に行くぜ!





 不思議だなぁ……全く性欲が湧かなかった。同じ性別の弊害だろうか。

 だが、桃源郷はそこにあった。桃にリンゴにスイカ……果てはまな板まで選り取り見取りだった。

 プレアは満足したのかそのまま自宅に帰る様だ。妹がいると言っていた。

 本当に混浴目的で来ていたらしい。一番欲望に忠実なのはプレアかもしれない。

 さて、そんな帰り道。俺は見てはいけない暗黒商会を見つけてしまった。

 まだ性転化の効果が切れていないのを確認してブツを確認しに行く。



「分かったわ。その決め写真二枚でいいわ」

「まいど」



 片方は見る限り商売人。もう片方は買い手らしい。

 どちらもローブとターバンを巻いていて恰好が怪しい人そのものだ。

 写真と言っていたから何かあるのだろう。



「ふふふ、これで…………ね」

「くくく、お主も悪だのぉ」

「いえいえ、お代官様ほどでは」



 何だろうか。今、キコエナカッタ部分は何か危険なものを感じた。

 俺は上がる心拍数を抑えながら近づく。そして売っている物を見た。

 それは亮平や海広等のドヤ顔やポーズを決めた写真だ。

 勿論、俺のもある………………………いや、ちょっと待て。これはないだろ。

 そして彼女らの手元を見る。それは間違いなく腐女子向けなやつだった。

合成加工されているのは間違いない。

 こっちの世界に来てから割と男女共に欲望が開花しているという噂は耳にしたことがある。

 男女恋愛や妄想は勿論、中には同性愛も含まれている。

 俺等が俺等なら女子も女子という所だろう。

 その中から最も効果がありそうなのを数枚買って同胞への手土産にする。

 今日は流石にもう遅いので明日に回す。自室に戻って就寝。







~筑篠


 ラグナロク。我々にとって忌まわしい事この上ない忌み語だ。

 それがいよいよ明日。先日も偵察と思われる馬鹿を三人見かけた。

 当然捕え、相応の罰をくれてやった。一応警備人数を増やした方が良いかもしれない。

 何と言っても明日が本戦らしいからな。

 私は今、食堂の奥、厨房にて数人の女子と話をしていた。

 ここにいるのは私、悠木さん、料理長であるシエルさんと料理人が数名。



「なるほど。それで嬢ちゃんたちは明日の夕食に先手を打ちたいわけだね」



 シエルさんは実に察しが良い方だ。私の考えていることも分かってくれる。



「そういうことです。ご協力お願いします」

「任せときな。覗きをする輩なんぞ私が許さないよ!」



 その手に持っているのは魔印がしてある秘伝の書。この間の幻惑カレーもその一つだったらしい。実に敵に回したくない。

 さて、私たちはその次の日の準備をしておこう。

 どうせ奴等は明日とっちめても諦めずに来るだろう。それくらいは分かる。


斎藤「ビグンビグン!!(体が拒否反応を起こしている)」

グラたん「盛大にやりましたね」

嵩都「当然の報いだ」

グラたん「それにしても惨い……」

筑笹「次回、第二次ラグナロク 前編……おい待て、何だこのタイトルは?」

嵩都「(素知らぬ顔)……斎藤のメイン回じゃないのか?」

筑笹「(斎藤を睨む)」

斎藤「ビグンビグン!!」

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