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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第三十六話・教育

グラたん「第三十六話DES」

嵩都「昨日の件をまだ引き摺っているのか?」

グラたん「コクコク」


~嵩都


 時は夕暮れの黄昏時。

 魔王との戦いに勝利した後、俺は一度ムスペルヘイムに戻っていた。

 町は夕暮れに染まり、城下町はいまだに活気溢れている。

 酒場からは宴会か打ち上げでもしているのか騒がしい。

 中には酔いつぶれて路上で寝ている人もいる。

 城へと向かい、城の四階にあるテラスに降り立つ。仮面は特に必要ないから外して置く。



「あ、スルト様」



 出迎えたのはヴェスリーラだ。偶々外にいたのだろう。手を振りながら俺の元に駆け寄ってくる。

 ふと、ヴェスリーラの視線が俺の額へと集中する。



「あれ? スルト様、角が生えていますよ?」



 ああ、そうだったな。これも裏口を合わせておかないとな。



「ああ。魔界全員が人間嫌いのようだからスキル使って生やした。以降は生やしておこうと思う」

「そうでしたか。あ、今日は滞在なされるのですか?」



 ヴェスリーラが何かを期待するような視線を送ってるが、滞在は無理だな。

 数日程度なら何とか言い訳できそうな気もするが、あまり続くようだと不審に思われるだろう。

 予防線の意味でもここは断っておこう。



「いや、日が暮れる前に城を見ておこうと思ってきただけだ。少ししたら戻る」



 そういうとヴェスリーラは少し残念そうな表情になった。



「そうですよね……。お忙しいですものね」

「長期休暇が取れれば良いのだが……しばらくは無さそうだ。それでも時折来るから」

「分かりました」



 ふと外を見てみる。城下町を一望できる良い眺めだ。

 城下町は相当数の人数がいる。ざっと二百万匹。これが現状の戦力だ。

 武器や防具の知識はある。小規模ではあるが工房らしき場所も見える。

 時折だが人間界に落ちてしまう者も少なくない。こちらは規定線を張るように言ってある。

 その落ちてしまった者だが、大方は死んでしまい、俺の所に戻ってくる。

 一部の者は生き残り地上を闊歩しているようだ。見た目はほとんど魔族や人間と変わらないからあまり怖がられる様子もないようだ。

 当然、俺の魔力が含まれている物は俺から見える。普通は無理だがな。

 寿命は人間と同程度あるから人間界でも生活は出来るだろう。

 俺とて彼らの恋路や生活を邪魔するつもりはない。ただ、計画の障害になるようなら死んでもらおう。

 ちなみに人間と交わって子を作った場合、その子にも俺の魔力が伝染するから実質的に俺の命令は絶対順守となる。

 そこまで考えるとテラスの扉が開いた。



「ヴェスリーラ随分遅いようだけど――あら、主様も御一緒でしたか」



 ウリクレアだ。何か会議でもしていたのかもしれないな。

 そう考えるとヴェスリーラは休憩中で俺は邪魔をしてしまったようだ。



「ウリクレアか。邪魔したようだな」

「いえ、ここは主様のお城です。邪魔などということはありません」



 むっ、それもそうか。ウリクレアの言葉に納得してしまう。



「さ、ヴェスリーラ。そろそろ会議を再開しますよ。邪神様も参加なされますか?」



 メニューの時計を確認する。まだ五時前だ。

 ふむ、まだ時間はあるな。最悪でも九時に帰れば大丈夫だろう。



「そうだな。少し見て行こう」



 そういうとヴェスリーラもウリクレアも嬉しそうな表情になった。

 二人の後に続いて城の中を案内される。壁や天井も俺の知識以上に創意工夫を重ねているのが分かる。

 ただし、和洋が入り混じっている。

 その一例として、城の中は洋風なのに中庭が和風だったりする。

 まあ、勝手にさせている俺がとやかく言う必要はないな。



 中へ進み会議室へと来た。

 会議室にはフェイグラッドと警備隊らしき人物が数名、カルラッハと文官が数名いた。

 ウリクレアは女性の文官、ヴェスリーラには意外ながら女性の武官が付いていた。

 会議室自体は円卓構造になっている。中央に立体モニターがある。



「おや、ウリクレア様、その方はどなたですかな?」



 カルラッハの方にいた宰相みたいな人物がそう言う。



「この御方は邪神スルト様ですよ」



 ウリクレアがそう言うと一斉に俺に視線が集まった。



「こ、これは失礼致しました。お初お目にかかります。この度カルラッハ様より宰相に 任ぜられましたオルクレットと申します」



 宰相が腰を九十度近くまで曲げて深く深くお辞儀をする。



「左様か。これは皆に言えることだが、期待している」

『ハハッ!』



 全員が一斉に敬礼する。ふむ、悪くない眺めだ。

 言い忘れたが四天王はほぼ白紙委任状と変わりない権限を与えている。

 はっきり言って俺がそこまで出来ないからだ。



「俺は後ろから見ていよう。会議を始めてくれ」

「かしこまりました」



 俺はウリクレアの後ろに下がり、空中に浮いて足を組んで無駄に偉そうにしてみる。

 全員が着席するのを確認して宰相が画面を起動させる。



「それでは会議を再開します」



 今回のテーマは農作と教育についてだ。

 農作については畑の区分や税金などの取り決めを話していたらしい。

 基本的には地球同様に効率的な形に収まっているが、何とか利益を上げようと模索しているようだ。

 中には愚案や独創的な案もあるが、一応の意味も込めてカルラッハは全てを少しずつ実行してみるらしい。それに、民からも草案を聞いて回っているようだ。

 それで問題は教育の方だ。こちらは俺が知っている以上の知識はないので難航している。

 当然だな。現に俺は学生だったわけだし。ある程度の教育理念と教育の仕方は知っていてもそれを実行に移した経験はない。筑笹がいれば生徒会とかの経験が役に立ちそうなものだが、無理だな。



「そういうわけでして教育上必要な学校を建てても――」



 とはいえ、その解決案はなくもないが……。言ってみるか。

 見た感じ足りないのは人員だな。



「教員数は足りているのか?」

「いえ……少なからずはいるのですが圧倒的に数が足りません」

「ふむ、確か人間界や魔界にも教育機関があったはずだ。研修という名目で送る事は出来ると思うが……どうだ?」



 そういうと宰相は少し驚いた。



「魔界はともかく人間界ですか?」

「ああ。どちらからも学ぶことはあると思うぞ」

「ふむ……少々意外でしたな。邪神様がそう言う風に考えておられたとは」

「そうか。まあいい。それでどうする?」



 そこへカルラッハが立ち上がる。



「僭越ながらその案が現状を打破するのに一番有効だと考えられます」

「ふむ、では決まりだな。この件はこちらで何とかしておこう」

「ありがとうございます……どちらへ?」



 会議室の扉前まで来るとカルラッハに不審げに思われたようだ。



「会議については俺がいなくても問題ないと判断した。この件の仕込みに行く」

「なるほど。善は急げということですか」

「そういうことだ。後は任せた」



 そう言い残して扉を閉める。

 言った通り、会議や議題、全員の意欲は問題ない。俺がいる必要もない。

 それほどまでに彼らは自身らで思考して動いている。

 さて、魔王とプレアにリンクを飛ばして借りを作るか。







~ポノル


 夕刻、スルトさんから通話魔法が飛んできました。



『ポノルさん? スルトです。今お時間宜しいでしょうか?』



 まさか今のさっきで何かが起こったのでしょうか?



「はい。如何なされました?」

『ええ、実はこちらの方で教育に関する問題が起きまして学校を建てるまでは良かったのですが教師数が足りないようでして、しばらくそちらで研修させて貰えないでしょうか?』



 あら、意外な問題ですね。王が民のために動く、シャンもこのくらいはして欲しい所ですが……期待するだけ無駄なのは私が一番良く分かっています。

 そのシャンは先程職務を終え、バウゼンローネを引き連れて中庭で模擬戦をしています。

 他の幹部や兵士たちも先程の戦いに当てられたのか次々にシャンに挑んでは敗れています。

 シャンが負ける相手というのはクリエテイスかジェルズくらいですからね。今日の戦いできっとまた強くなることでしょう。

 ともかく返事をしておきましょう。



「構いませんよ」



 スルトさんに貸しを作ってコネを作れるのは魔王軍にとってもきっと良いことになります。

 それこそ、人間界を攻め入る時には有力な一角となってくれることでしょう。

 他にもいくつか同盟を組んではいますが、正直、邪神軍とスルトさんだけでも十分かもしれません。

 それほどまでに私の評価は高く、彼の実力を見ています。



『ありがとうございます。それと人間界の方にも教員という名目で工作員を送ろうと思っているのですがそちらもどうでしょう? 伝手はありますよ?』



 人間界……悪くない案ですね。いずれしてみようと思っていたことですから良いかもしれません。

 私は一泊おいて返事を返します。



「良いですね。それでは此方から数名選抜しておきます。出来次第連絡をします」

『分かりました。それでは』



 切れました。書類がまた増えそうですが面白そうですね。

 こちらの準備もそろそろ終盤段階に移行しますし、工作員の一手はきっと致命的な手になります。

 現に数年前まで魔界で戦争をしていた時には有効な手段でしたから。

 さて、シャンと皆に伝えに行きましょう。










~プレアデス


 ボクことプレアデスはアジェンド城第二王女様であるアネルーテ(ボクはルー姉と呼んでいる)のお手伝いで学校に来ていた。

 僅かに開けた春休み中に書類は山の様に溜まっていた。

 先日からそれを処理するためルー姉のお達し(有給)で書類と格闘していた。

 ボクとしては無償でも構わないのだけどルー姉が払うと言って聴かないので止むを得ず貰っている。

 それはそうと珍しく嵩都からリンクが来た。

 内容は嵩都の城、ムスペルヘイム城から教員を派遣したいとのことだった。

 話を聞く限り教育問題に困っているようだ。

 ついでに魔界の方からも工作員が来るようだ。

 ボクにとって嵩都が頼ってくれるのはとても嬉しい事だ。

 勿論、二つの返事をしておいた。

 ルー姉にお茶を煎れる。大方片付いた書類を避けてお茶を差し出す。



「ありがとう、プレア」



 ボクは微笑み、ルー姉はお茶をゆっくり飲んでいく。

 少し待ってからボクは本題を切り出した。



「そういえばルー姉、この間教員が欲しいって言って無かったっけ?」

「ん? ええ、そうよ。どうしたの?」

「いま嵩都から連絡があって教員志望の方がいるらしいよ」

「あら、それは好都合ね。是非ともこちらからもお願いしたいわ。どれくらい来るの?」

「人数はまだ分からないらしいよ」

「分かったわ。全員と面接の後決定します。書類を用意しておくわね」

「うん、分かった。嵩都にも伝えるね」



 僅かな休憩を取ったルー姉は引き出しから書類を取り出した。

 ボクは一度外に出て嵩都に折り返しリンクを繋いだ。



嵩都「ふむ……」

ヴェスリーラ「コソコソ(何かをしている)」

嵩都「やはり人手が足りないか……」

ヴェスリーラ「ススッ(書類に何かを紛れ込ませた)」

嵩都「ヴェスリーラ」

ヴェスリーラ「は、はい!」

嵩都「すまないがこれを読んでくれ」

ヴェスリーラ「は、はい。えっと、次回、Re:デザートの恨み……スルト様?」

嵩都「どうした?」

ヴェスリーラ「何かデザートに恨みでもあるのですか?」

嵩都「何を言っている? デザートは俺の好物だ。恨みなど抱くはずもない」

ヴェスリーラ「では一体誰が……?」

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