第三十五話・田中亮平と第一王女
亮平「くぅ、祝! 俺のメイン回!」
グラたん「おめでとうございます」
亮平「おう、ありがとう」
グラたん「それで、誰と出会ったんですか?」
亮平「それは第三十五話を見てくれ」
~亮平
ラグナロク当日。俺こと田中亮平は試験勉強も終わり、実技も問題ないと筑篠に判断されたので暇を持て余していた。
そこで、せっかくいい天気なのでギルドで何か適当な日帰りの依頼を受けた。
Dランクの依頼だ。単独で討伐する――もとい肩慣らしには丁度良かった。
剣は固有武装である聖剣エクスカリバーを使えば良かったが、流石に防具は新調せざるを得なかった。金? もちろん時折夜中に依頼を受けて溜めていた金だ。
依頼自体は半日山脈を歩き討伐した。
その帰り道のことだ。女性が道端で倒れていた。
おそらくアジェンド城に向かっている途中で行き倒れたのだろう。
こんなところに放置しておくと山賊や魔物が群がってくるので一応助けることにした。
木の日蔭のある所に彼女を運び寝かせる。手に持っていた杖は適当に掛けて置く。
見た感じ出血や傷は無さそうだ。それにしても美人だな。
髪は青色、着ている物は城内にいる貴族とかが着ていそうな高価な服だ。
だが、そう考えると護衛の一人もつけていないのが不思議だ。
それともなんらかの事情で逃げて伸びて来た人なのか……。
夕方に差し掛かる頃に彼女は目を覚ました。
いや、俺が作っていた夕食の匂いで目を覚ましたのかもしれない。
俺は薪をくべて鍋を置き、適当に食材を入れたポトフもどきを作っていた。
嵩都並とはいかないもののそれなりには作れるつもりだ。
「……ん……ここは?」
彼女が起き上る。こういう場合は優しく声を掛けるのがセオリーだよな。
「気がついたか」
「えっ!?」
「ああ、怪しいものではない。君がたおれていたところに差し掛かった者だ。このあたりは少々物騒だから目を覚ますまでそばにいようと思っただけで他意はない」
彼女は驚き、数秒後に納得した表情になった。
「そうでしたか……ご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ」
そこで彼女の方から腹の虫が鳴った。彼女は顔を赤らめて俯いた。
「食うか? 口に合うかどうかは分からんが」
皿によそいながら彼女にそういうと彼女は顔を上げてしっかりと頷いた。
彼女に皿とスプーンを渡すと彼女は余程腹が減っていたのか即食べ始めた。
数瞬後には俺におかわりを申し出た。再びよそうとまた数瞬で消えた。
繰り返すうちに彼女が満足し、俺の夕食が消えた。
突如彼女はハッとして俺に顔を向けた。
「あ、あの、いえ、全部食べるつもりではなかったのですよ?」
しどろもどろにアタフタして顔が赤い彼女。何が言いたいのかはすぐに分かったが面白いので少し待ってみる。
「え、えっと……その、つまり…………ごめんなさい」
少々予想を裏切られたが俺はすぐに気持ちを切り替える。
素直に謝れるということはそれなりに教育の出来ている人だ。
つまり、この人は結構良い所出の人だ。
「大丈夫だ。別に死にやしない」
そう言いつつ飲み物を渡す。彼女が受け取って口を付けた。
申し訳なさそうな空気が漂う。少し気まずい。
しばらくの沈黙が流れた後、彼女が先に口を開いた。
「あの、もしよろしければお名前を聞かせて貰っても? 助けて下さったお礼もしたいですし」
「なに、名乗るほどのものではない」
カッコをつけて見た。誰でも一度は行ってみたい台詞だ。
「そんな、そう言わずに教えて下さい」
彼女はお礼をしたいからと言わんばかりに食いついてきた。
これ以上からかうのも気が引けるので素直に言う。
「俺は田中亮平という者だ。今年の四月から学校に通う予定だ」
「学校? 見た所十八歳位の気もしますけど」
「ああ。ちょっと訳ありでね。ま、アジェンド城に着けば分かるけどさ」
「差支えなければ教えて欲しいです」
……ん、まあ、どうせ何時分かるかの違いだ。
「知っているかどうかは分からないけど俺はこの世界に召喚された勇者の一人……らしい。どうも確証はないけど」
「勇者!? それではやはりお父様がしたことは事実だったのですか……」
「お父様?」
「あ、ええ。申し遅れました。私、アジェンド城第一王女兼外務高官、クロフィナ・スファリアス・アジェンドですわ」
思わず椅子から転げ落ちた。
「お、王女様でしたか……」
予想外過ぎる出会いだ。ハッ、これが運命の出会い!? ……なわけないか。
「ええ。ですが、本当に勇者なのですか?」
まあ……証拠がなければ分からないか。
聖剣エクスカリバーを出して見せる。
「あ、それは聖剣エクスカリバーではないですか? よく物語や伝記などに乗っていて、その昔に聖王様が振るったとされている」
そういえば歴史書にも勇ましい女性の写真が載っていたような……。
「この世界に来る前にオーディンの爺さんに選ばれて授かった物だ」
「では、オーディン様や天界もあるのですね!」
「ああ。確かに会っていてその聖剣があるからな」
天界とかは存在すら怪しまれていたほどだがこの事実は彼女にとっても嬉しいようだ。
「あ……」
彼女は興奮し過ぎたためかそれとも疲労からか俺の肩に頭を預けた。
「大丈夫か?」
「ええ……すみません」
彼女はすぐに頭を上げた。もう少し寄りかかっても良かったのに……。
「いいよ。まだ疲れているのだろう。俺が見張っているから寝て良いよ」
「い、いえ。こんな機会滅多にないことですしもっとお話ししたいです」
明らかに疲れを隠している様子だがそこは本人に任せるか。
「そうか。そういえばクロフィナさんは一人なのか?」
「ええ……ほんの数日前に魔王軍と名乗る者たちに襲われ、彼等は私を逃がして……」
「ま、魔王軍!? そうか、遂に来たのか……」
俺が驚いているとクロフィナさんが詰め寄って来た。
「知っていらしたの?」
「いや……この間魔帝様が暗殺された際にな……」
あ……まず――――口が滑った。
「……なんですって!」
彼女は急激に俺に詰め寄って押し倒した。
ガクガクガクガク……胸倉掴まれて、ガクガクガク……。
「苦……しい……」
「その報告は聞いていましたが深い内容までは知りません! 何処の誰ですか! お母様を殺したのは!」
だ、誰だ、そんな中途半端な報告した奴――。
「ま、魔王軍か貴族か――」
べちっ……地面に放り投げられた。王女とは思えん……。
「魔王軍……そうですか。もっと詳しくは分かりませんの?」
少しは落ち着いてくれたようだ。うう……。
とにかく話さないと俺の命にかかわりそうだ。
「まず―――」
それから俺は聞かれるままに答えて行った。
そしてようやく整理がついたのか俺に寄りかかり泣いてしまった。
少し分かったがクロフィナさんはアルドメラ国王の帰還命令によって外交先から戻ってきている最中だったらしい。
魔帝が暗殺された。それだけの短い文が送られていたらしい。
それじゃ分かるわけない。その詳しい内容を俺から知ったのが今だったというわけだ。
そして俺はクロフィナさんが泣き疲れてしまうまで、ずっと動かないでいた。
ラグナロクは参加出来ないな。一言打ち込んでおこう。
送った瞬間、スレは大炎上した。
翌日。なんとか炎上を収めて皆に納得して貰った。
徹夜の暇を潰せたと思えばいいか。でも、眠い……。
クロフィナさんのため朝食を作って置く。
またしても匂いにつられたのか、丁度出来上がったタイミングで起きた。
「おはようございます、亮平さん」
「ん、おはよう。朝食は作って置いたから……」
「す、すみません。私のために……」
「良いって」
そう言いつつ彼女に朝食、葉野菜と焼肉のサンドイッチ、水を渡す。
俺もそれを食べる。しかし眠気が勝って味が分からん。
それはそうとして昨日、アジェンド城に俺たちの場所と迎えを頼んだら断られた。
なんでか。こっちは疲れているというのに野郎共が何を思ったのかお楽しみ道中ということで迎えを断られたのだ。あの野郎共の手によって!
まあ、分からなくもない。王女様と一緒に居られるなんて普通は出来ないからな。
そう思っている間にクロフィナさんが朝食を終えた。片付ける。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「はい」
クロフィナさんは杖を持ち、俺はその横に付いて歩き出した。
道中は眠気を忘れるくらい楽しいものだった。適度に戦闘もあった。
前衛は俺。後方からはクロフィナさんが支援魔法を飛ばしてくれた。
クロフィナさんはやはり魔法使いのようだ。それもかなりの使い手だ。
そんな道中でふとした拍子にクロフィナさんが手を叩いた。
「よし、決めた!」
「何を?」
この時、何故俺はそう言ってしまったのか分からない。
「リン、あなた、私の近衛になりなさい!」
それは全くの突拍子もない発言だったから。
「リ、リン? 近衛? 一体どういう事だ?」
「リンは亮平の愛称。近衛は文字通り私にずっと使えるための兵士よ!」
――その言葉でおおよそは理解した。
要するに、彼女は俺をいたく気にいったから愛称を付けた。そして俺の今後の戦闘力を買って近衛兵士にしようとしている。
「そのリンは一体何処から……」
「内緒」
一指し指を口に当てるしぐさは実に子供らしかったが、少し見とれてしまった。
なんか、王女らしくない王女だと思った。
「ま、近衛兵昇格は現代国王となったお父様から命が無いと出来ないけど……なんとかして見せるわ。ゆくゆくは……」
最後の方はよく聞き取れなかったが概ねの予測は出来る。
というか、ここまであからさまにされたら否が応でも分かる。
手を繋いだり腕を絡ませたり好意を向けてくれたり……光栄です!
そういうわけで……まあ、勘違いだったら俺は後で自分を殴り飛ばすが、先手を打つぜ。
「そうか。俺もクロフィナさんのことが好きだぜ」
決まった――。
「私もリンのこと好きよ。それじゃ、二人の時は私のことはフィーと呼びなさい。いいわね?」
「分かった、フィー」
するとフィーは顔を赤らめた。分かりやすい。
ハァ、ハァ―――!! おいおいおい、マジか! マジですかぁ――!?
俺なんかでいいのですか! ありがとうございます!
やったぜ、嵩都! 俺にも春が来たァ――――――!!
興奮収まらぬまま俺のし―――いやいや、アジェンド城に戻って来た。
ギルドに依頼達成の報告をする。報酬を受け取って外に出る。
外に出てフィーと合流。フィーは最近大企業になってきたST工房の方へ行っていたらしい。
手にはSTのロゴが入った短剣を持っていた。
当然、フィーの顔は俺より割れているわけだから住民や学生が大盛況。
そしてフィーが俺にくっつくと奴等の視線が嫉妬―――否、恨みがましい視線に代わり、俺に降り注いだ。
城門を潜り謁見場へと上がるとアルドメラ王と嵩都たちがいた。それに第二王女様に兵士が数人。後は文官たちだ。
「戻りましたわ、お父様」
フィーが一礼する。俺もそのあとに続いて礼をする。
「おお、無事であったか」
「ええ。亮平が守ってくれましたから」
「そうか、よくぞ護衛を務めてくれたな、亮平よ」
「いえ、当然のことです」
「さて、クロフィナには色々と知らせることがある」
「それには及びません。亮平から聞きましたので」
「むっ、そうか……」
「それはそうとお父様。亮平に褒美を与えてはくださらない? 例えば私専用の近衛に就任させるとか」
そういうことか……。俺の手柄と引き換えにするわけか。
「ふむ? 確かにお前たちには専属はいなかったな。まあ、良いだろう。亮平、これへ」
「ハッ」
いつの間にかに簡易式のセットが回りにあった。
国王が剣を取り、それをフィーに渡した。
「やり方は分かるな?」
「ええ。存じております」
フィーは剣を受け取ると俺の目の前に来た。
そこへ嵩都からリンクが飛んできた。
『亮平、立膝』
ああ、やっぱりそういう感じか。
言われるままに立膝を突く。そしてフィーが俺の両肩に剣を一回ずつ軽く乗せた。
「私、クロフィナ・スファリアス・アジェンドの名において汝を我が専属近衛に就任させます。我が剣となり盾となり私に仕えさない」
「謹んでお受けいたします」
そしてまた嵩都からリンクが来る。
『立って剣を受け取れ』
はいよ。立つ。そしてフィーから剣を受け取る。
周りからも特に依存ないようで拍手が送られた。そして国王が玉座に座って言う。
「オホン、おめでとう。しかし亮平は今年から学生予定だ。実際の就任は一年後とする。権限の一部は先にやろう。専属なのに自由に会えないのでは意味がないからな」
「ありがとうございます、国王様」
礼をすると国王が妙にニコニコしていた。なにが言いたいのかはよく存じております。
「さて、クロフィナも亮平も寝ずの番で疲れていることだろう。ゆっくり休むと良い」
「ハハッ」
胸に平手を当てて見様見真似の騎士礼をする。間違ってはいないはずだ。
「では、解散とする」
国王の言葉が終わり、フィーとも別れる。
「お疲れ、亮平。大手柄に大出世じゃないか」
嵩都だ。全くだな。ちょっと俺も信じられない出世だと思う。
「ああ、確かに。それと昨日はすまなかった」
「良いさ。どうせ昨日は威力偵察だったからな。本番は今夜だ。国王も言っていただろ、夜までゆっくり休んでおけよ」
肩を二度叩かれる。そう言って嵩都は去って行った。
そうだな。それじゃ、お言葉に甘えて寝るとするか。
俺は自室に向けて足を進めた。
グラたん「ぐぬぬ、一話でヒロインを獲得し、出世するとは……ッ!(超歯噛み)」
嵩都「亮平のくせにやりやがったな」
グラたん「許すまじき。いでよ、我が眷属! 奴を倒してくるのです!」
鈴木博太「……(視線を逸らす)」
斎藤博文「……(ラグナロクで忙しい)」
佐藤大典「……(マベレイズとイチャイチャ)」
遠藤海広「……(ナンパ中)」
グラたん「……」
嵩都「次回、教育。ま、元気出せよ」
グラたん「プルプル……(涙目)」




