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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第三十四話・邪神スルト

シャン「うわあああああ!!」

グラたん「何したんですか?」

嵩都「ちょっと煽っただけだ」

グラたん「責任取って何とかしてください」

嵩都「当然だ。では、第三十四話だ」

グラたん「私の台詞……」

~嵩都視点


「ふざけるなぁああああ!!!」



 うむ、ちょっと挑発したら見事に乗ってくれた。子供だな。

 分かったことは二つ。一つ、シャンは人間が嫌いだということ。二つ、『奴隷と孤児』というワードで目つきが変わった。つまり、シャンの逆鱗だということだ。

 恐らく、設定として考えるならシャンたちは昔奴隷で人間に虐げられていた。そして運よく脱出もしくは助けられて人間に復讐しようと思った……そんな所か?

 それか同胞をそんなことにはさせないという怒りか。

 で、そんなシャンは実にブチ切れている。

 これが試合とか全く考えてないようで先程から広範囲系の斬撃や人間に対してなら必殺になるだろうスキルを放ちまくっている。

 無論、俺はその範囲――つまり城や魔族、兵士たちを守りながら戦っている。

 自分で撒いた種だしな……。

 ちなみにシャンたち魔族についてだが、実際は魔族の方が強い。はっきり言ってロンプロウムに攻め込まれたら人間側は後手にしか回れなくなるだろう。

 しかし向こうには勇者共やガンマレーザーとかを普通に創るSTがいる。

 魔神を復活させることだけに目的を集中させるなら魔族に軍配が上がるだろう。

 しかしロンプロウムを攻めるとなるとこちらも相応の被害が出るだろう。

 それと俺が知っている中で最も強いのはプレアだ。嘘は言っていない。

 さて、そろそろ決着と行こうか。

 自分でやっておいてなんだがシャンは魔王というだけあって強い。

 正直言って今のままだと俺も危険だ。力を出す必要が有りそうだ。

 言い忘れていたが俺はまだ邪神にすらなっていない。邪神モードは黒い魔力を覆う必要がある。雰囲気は少し変わるけどな。

 それじゃ、邪神モード・オン。



 ドス黒い魔力が俺を覆う。体の内側から力が溢れてくる。

 紫電が魔力を伝って辺りに飛び散る。

 俺がまるで別の方向から自分を見ているような感覚に陥る。

 目は赤黒く濁り、髪が黄色――いや、金色に染まって行く。

 体も黒い魔力に耐えられるように少し大きくなる。

 ふぅぅ……仮面、邪魔だな。

 仮面を取り外し、ストレージにしまう。

 さて、そろそろ切り上げないとラグナロクに間に合わない。さっさと終わらせよう。

 シャンが俺に向かって剣を振るう。

 遅いなぁ……ぁぁ……思わず欠伸が出た。



「ぁああ!!」



 五月蠅いなぁ。俺がやったけども五月蠅いものは五月蠅い。



「舞え、真空波」



 俺の手が多分見えないほど速く動いて目の前にいるシャンに向かって幾千程度の真空波が飛んで行く。



「うわぁぁぁぁ!!」



 シャンを切り刻む。うん、真空波だから剣じゃ防げない。

 それでも空中で耐えている。俺はシャンの真上に移動し、蹴りを見舞う。

 怒りながらも反射的に蹴りを防御する辺り流石と言える。

 シャンが血まみれになって地面に膝を突いた。それじゃ、心でも折るか。



「弱いなぁ……弱すぎて悲しくなってくるよ」



 真空波が切り刻みつける。シャンのHPバーがみるみる削れて行く。

 シャンの両手から二刀が零れ落ちる。



「お前はだぁれも守れない。お前が弱い性で皆死んでいく。悲しいねぇ……」



 ヴァルナクラムをシャンの喉元に突き付ける。少し突きあげる。



「……悔しいかい? 悔しいよねぇ……くひゃひゃひゃ! ……ああ、涙を流すそんな君もまた良い――――」



 って、馬鹿か俺は!? これじゃ俺が悪人じゃねぇか!

 戻れ! この馬鹿魔力! ……ふぅ。戻ったぜ。

 さて……どう収拾つけようか……。とりあえず……。



「魔王シャン、お前は弱い」



 あああ……俺が言葉を発するたびにシャンが怯えている。

 おいっ、どうしてくれる、俺! 馬鹿野郎、なんとかしやがれ、俺!



「憎しみに囚われるな。自分を知り、相手を知れ……嫌いな物を知ることによって道が開かれることもある。学べ……強くなれ……」



 そこでシャンは糸が切れたように地面に倒れ込んだ。



「おっと」



 シャンを支える。流石に地面に倒れると汚れが目立つからな。

 そしてこれ以上出血させないように勇者スキルの回復で傷を治していく。

 で――適当に思いついた言葉を言ってみたがどうだろうか……ダメだよなぁ。

 いや、これをバネに伸びていくと信じよう! うん。



「そこまで! 此度の試合はスルトさんの勝ちとします!」

『うおおおお!!』



 幹部共(主に野郎共)が雄叫びを上げた。

 ポノルがこちらにくる。シャンを引き取りに来たのだろう。



「おめでとうござ――――」



 ん? ポノルが固まった。なん―――あ、やべっ、仮面付け忘れていた。

 この後に出てくる言葉なんぞ分かっているから先手を打つ。



「人間界に出入りする際にはこの姿が優良手段だと思っていてだな、姿を変え忘れていた」



 すぐさま帝龍スキルを発動。頭部限定で姿を変える。

 二本の黒い角が額の少し上から生え、耳が少し尖る。

 そしてポノルの硬直が解ける。

 ふぅ……危ない。そうそう、こいつら人間嫌いだったよな。

 魔界に来るときはこの姿でいよう。そうしよう。



「ハッ、そうですよね。失礼しました。改めておめでとうございます、スルトさん」

「ああ。流石は魔王、手強かった」

「ふふっ、御冗談を。圧倒していたではありませんか」



 ポノルが初めて笑いながら答える。

 へぇ、不愛想だと思っていたけど思い違いだったな。可愛い笑顔だ。



「いいや、本当さ。さて、そろそろ戻らんと四天王に怒られそうだ」

「まあ。下の者に怒られるなんてシャンだけかと思っていました」

「ははは……。それでは、シャンをお返しします」



 そう苦笑いしながらシャンをポノルに渡す。



「ありがとうございます。道中お気を付けて」

「ええ。あ、それとシャンに伝言お願いできますか?」

「はい。構いませんよ」



 俺は先ほど言ったことを少々ニュアンスを変えてポノルに伝えた。



「分かりました。しかと、伝えておきます」

「頼む。では、ゲート」



 先程解析し終わったゲートを開く。ポノルが少し驚いていた。

 外套を翻してゲートの中を歩む。

 歩んでいる途中、ラグナロクのスレに亮平からチャットが届いた。





『悪い。第一王女様と野宿するから帰れない』





 ――――――――――あん?

 この日のスレは荒れに荒れたと言っておく。








~シャン

 これは夢だ。偶に見る嫌な夢。

 さっき嵩都に言われた性なのだろうか?

 見ているのはあの日、全てを奪われた時の夢だ。

 ここは小規模な村だ。名前は――忘れちゃった。

 僕たちはあの日まで慎ましく暮らしている魔族だった。

 僕、姉ちゃん、お母さん、お父さんの四人家族がそこにいる。

 何事もない平和な世界。この暮らしはずっと続くのだと思っていた。

 そんな夕暮れ。人間がやってきた。それも大人数だ。

 彼らは僕たちを見つけるなり容赦なく殺していく。

 僕たちは何も悪いことなんてしていない。少なくても人間に恨まれるようなことはしたことがない。

 それなのに、理由も分からないまま人間たちは僕たちを殺していく。

 火が放たれる。村はあっという間に焼けていく。

 逃げていると人間たちから声が聞こえる。

 れべりんぐ、まもの、けいけんち。

 何のことだが良く分からない。僕は姉ちゃんに手を引かれて逃げた。

 お母さんとお父さんは人間に殺された。

 逃げていると人間たちは追ってくる。

 逃げて、逃げて、逃げた先に、人間たちよりも圧倒的に強い魔族が人間たちを食い散らかした。僕たちは助けられたのだ。

 彼女の名はこの魔王軍にもいるクリエテイスという人物だ。

 彼女は魔王軍の中でも最古の人だ。

 無口不愛想が常だが偶に微笑することもある。

 クリエテイスの隣にはいつも師匠がいた。そして金髪の子供を連れていた。

 その師匠は数年前、僕たちがこの『カティラス』城を作った時に行方知れずになった。不思議なことに顔が思い出せない。ただ、そこにいたことだけは間違いない。

 それから僕たちは彼女について行き放浪し、実力をつけた。

 その過程でクリエテイスが女の子だってことが分かった時は僕も姉ちゃんも驚いた。

 やがて僕たちの周りに同じような境遇の魔族が集まってきた。

 ジェルズは人間に娘を奪われ、目の前で妻を殺されたと言っていた。

 ベラケットはとある森で人間に襲われているのを発見して助け、勧誘した。

 この時点で大規模な軍となり、僕は姉ちゃんに担ぎあげられて魔王になった。

 その後は魔界の統一に移行した。

 この時くらいにジェルズが幹部入りしたっけ?

 次にペルペロネたち魔界貴族が僕たちの傘下に入った。

 そしてその後にハーデス……本名はプレアデスって言ったっけ?

 そのハーデスとツクヨミ、バウゼンローネが仲間になった。

 魔王軍は最初から明確な目的を持っていた。ハーデスが加入したことによって目的がより具体性を帯びた。

 それまで目的を達成したら人間たちを殺す、根絶やしにすることしか考えてなかったからね。

 そう言えばローちゃんはちょっと先の未来から手違いで召喚されたって言っていたっけ?

 まあいいや。とりあえずそんな感じで仲間を集め、指針を決めて今に至る。

 そこで僕は目を覚ました。

 相変わらずの嫌な夢だ。苛々してくる。

 ふぅ。そこでスルトの言葉を思い出す。更に苛々する。



「スルトめぇぇ……次は絶対に倒してやるんだからぁ!!」

「朝から騒がしいですよ、シャン」



 姉ちゃんに咎められた。声に出ていたみたいだ。

 僕が寝ているのは医務室の寝床だ。姉ちゃんはずっと付き添ってくれていたらしい。

 起き上がり、体の調子を確認する。

 うん、何処も異常ないね。斬られた所がちょっと痛いけど。



「スルトさんなら昨日お帰りになられました。それと、貴方に伝言です」

「なに?」



 何故か、姉ちゃんは嬉しそうに笑いながら口を開いた。



「シャン、お前は中々に強い。しかし、君はまだ伸びることが出来ると思っている。願わくば、次に戦える時は俺を圧倒して負かせる強さを見せつけて欲しい。無論、俺はまだまだ強くなる。俺はシャンを好敵手として認めておこう――以上です」



 そんな風に思っていてくれたのか。

 ……あれは戦闘中で気が高ぶったからあんな風に言ったのだろう。



「シャン、私から見ても貴方の限界はまだ先にあると思いますよ」

「分かった! また今日から頑張るよ!」

「ええ。しかし、頑張るのは職務を終えてからにしましょうね」

「―――はい」



 僕は姉ちゃんに基本的に逆らう事が出来ない。

 着替え、身だしなみを整え、今日も謁見場に向かう。

 ――スルト、僕は君を倒せるくらい強くなってみせるよ。





 部屋を出る瞬間、何かが頭をよぎった。

 ザラザラと何か映しの悪い水晶体を見ているかのような映像が脳裏を焼いた。

 その中にいるのは黒衣の人と倒れて泣いている僕だ。



 ――スルト? 黒衣の…………?

 僕は、前にあの人に会っていただろうか?

 初対面のはずなのに、知らないはずなのに体が憶えている気がした。

 蹴られた箇所が痛みだすが、同時に何か懐かしく感じた。

 分からない。何が――――。



「シャン、どうしました?」



 姉ちゃんに呼ばれて我に返るとその事はすっかり頭から抜け落ちていた。



「ううん、大丈夫」



今日も一日が始まる。


シャン「ズキズキ(頭を押さえている)」

ポノル「シャン、どうしましたか?」

シャン「なんか頭痛い」

ポノル「風邪でしょうか? 最近また寒くなってきましたからね。ちゃんと温かい恰好をして布団にくるまって寝ていなさい」

シャン「うん、分かったよ(退出)」

ポノル「……頭痛ですか。やはりシャンも……(退出)」

悠木「次回、田中亮平と第一王女」

嵩都「ほう、奴がメイン回か」

悠木「そしてまた新キャラ登場ね……」



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