第三十一話・死亡フラグ
グラたん「第三十一話です!」
嵩都「鈴木、乙」
鈴木博太「待て! 勝手に殺すな!」
夜。
ラグナロク、それはかつてこの世界で起きたと言われる神話の風呂戦争。
野郎が求愛する女性に猛突撃をかけるイベントの一つであり、フラれれば玉砕する。
文字通り、男の玉で命で償うのがお約束だ。
その逸話はこの世界の少々アダルトの文学にもなっている。
そして俺たちもそれに倣って、ただの愉快犯的なノリでラグナロクを引き起こす。
野郎総勢十八名が集まり今日も女子と内通者を出し抜くための会議が始まっ――。
「皆、すまねぇ。この戦いが終わったら俺、結婚するんだ」
鈴木のこの一言(死亡フラグ)により、ラグナロク会議は殺伐としたものに変わってしまった。
ちなみに鈴木は至って真面目な表情で言ったため本当だと思う。
鈴木の身柄はたったの数秒で簀巻きになり、いつの間にかに異端審問の感じになった。
「死ね、クソが!」
「裏切り者だ! ぶっ殺せ!」
「彼女のいない俺たちに対しての嫌がらせか! 嫌味か!」
「爆ぜろ、ボケェ!」
村八分とはこのことだろう。凄まじい手のひら返しだ。
鈴木もわざわざここでいう事ないだろうに。
それに死亡フラグは立てるのは止めて欲しい。
「まあ待て、皆。この間も聖王が言ったが可能性は皆にもあると思うから一度落ち着け」
流石亮平。俺がこの台詞を言おうものなら奴等の矛先が俺に向いていた所だろう。
「ふざけんな! 仮にそうだとしても許せん!」
「そうだそうだ!」
「刑罰は何が良いだろうか?」
「死を! と言いたいところだが、それは勘弁してやろう。アレ持ってこい!」
そうして持って来られたのは十七枚のカードだ。
それを表にするとKと一からQまでの文字が入ったカードが現れた。
それで十二枚。他に2~6までのカードが追加で現れる。
「王様ゲームは知っているよな?」
「Kは王様。それ以外は奴隷。そしてこの王様ゲームのルールは至って簡単だ。俺たちが王様ゲームをし、罰は全て貴様が受ける。ただそれだけだ」
「王様の命令は絶対順守。破れば貴様は腐女子共の餌食だ」
「簀巻きにされた貴様は〇〇〇に〇〇〇を〇〇され、〇〇〇の〇〇を〇〇〇のだ!」
「くっ……」
鈴木が悔しそうに此方を見てくるが自業自得かつフラグ回収お疲れ様です。
鈴木の意志は完全に無視され、人権を失った奴隷と王様の一方的なゲームが始まる。
「さあ、ゲームを始めようか」
『盟約に誓って!』
「何の盟約だ!!」
鈴木が突っ込む間にカードがシャッフルされて配当される。
切り方を良く見ていたがイカサマはしていないようだな。
そして最初に当たったのは――。
「あ、俺だ」
俺だ。ヒャッホイ!!
命令は何にしようか。とは言え後々に俺にこれが回ってくる可能性もあるわけだからやり過ぎな命令は止めておこう。
「よし決めた。鈴木博太、お前は簀巻きのままうさぎ跳びでこの部屋を一周。こけたら一周追加な」
「鬼ィィ!!」
安心しろ。多分、まだ優しい命令のはずだから。
そう言いつつも鈴木がうさぎ跳びを慣行する。背後には仮面と黒いローブを纏った誰かが槍を持って鈴木の背後を追従している。
怖いと素直に思った。
流石の俺も足をわざと引っ掛けて追加させるなんて鬼畜なことはしない。
――ビタンッ!
「ぐぅ!」
無情にも鈴木は冷たい床に這いつくばる。
足を引っ掛けているのは斎藤だ。あの斎藤だ。やることなすこと全てがフラグ化するアイツだ。
だがまあ、今回はないだろうな。
ちなみに他数名も悪乗りしているので実質五周だな。
それが終わると第二回戦だ。
次は遠藤だな。さて、何を命令するのだろうか?
遠藤は立ち上がり、台詞と同時に手を横に伸ばしていく。
「我、遠藤海広が命じる。全員から憤怒のしっぺを受けるが良い!」
しっぺか。対象は腕をまくり、指二本を直立させて素肌に振り下ろすアレだな。
――パァン! パァン! パァン!
軽快な音が鳴り響き、野郎共は絶好の機会とばかりに指を振り下ろしていく。
「あれ、嵩都は良いのか?」
亮平は俺がしっぺしていないことに気付く。
「ダメだぞ、王様の命令は――」
『絶対!』
亮平の言葉に合わせるように他の野郎共が言葉を被せた。
「いや、流石に俺は不味いだろう」
「何言ってんだ! やるなら今だ!」
「……一応、これを見てからもう一度言って貰おうかな」
亮平に頼んで木の棒を取り出して貰う。それを瓦割りの様に横に置く。
そして指を二本立て、渾身の力を込めて木の棒に振り下ろす。
ちなみに言っておくが木の棒と言っても棍棒だからな。
で、その棍棒が爆散した。欠片が辺りに飛び散る。
叩いたのは棍棒の最も硬い殴る部分だ。そこが今や破砕して陥没している。
試しに取っ手を持って持ち上げてみると、陥没した部分とそうでない部分の合間にある細いしなやかな木がしなり、バキッという音と共に陥没した部分が折れた。
それをやった上で俺はもう一度彼らに聞く。
「多分、下手したら右腕が無くなると思うけどそれでも良いか?」
全員が無言で首を横に振り、鈴木に至っては惨めなくらい土下座して命乞いをしていた。
それからも王様ゲームは続き、半数が王様になったところで切り上げられた。
鈴木が肉体的も精神的にも限界を迎えていたから頃合いだっただろう。
公開処刑が終わり、皆が良い笑顔で席に座った。
「さて、会議を再開しよう。情報自体は特にないと思うから別にいいよな?」
斎藤の問いかけに皆頷いた。
「うん。なら次に行くぞ。今日は女子を出し抜くために特務という職を作ろうと思う」
言外に『そろそろ内通者に知られない行動をしたい』と言っている。
それは俺も賛成だ。だが、それは同時に身内を優先するという意味もありそうだ。
そんな懐疑的視線で見ていると斎藤が此方に気付いて首を横に振る。
いや、俺だけじゃなかった。皆がそう思っていたようだ。
「問題はないだろ。それで誰を特務にするのだ?」
亮平の問いかけに斎藤は少し思案してから答える。
「そうだな……面は良くても性格上でモテない遠藤とか逆に性格良くてもモテない片山なんかにやって見てほしいと思っている。言い忘れたが戦闘に関しては安牌を取るから死ぬようなことは絶対にない」
幾分ホッとしたような声がそこらから上がる。
「斎藤殿、小生のために……誠に感謝しますぞ」
「いいのか? 俺なんかが?」
小生と自分を差しているのが片山だ。
「ああ。この任は二人が適任だと俺は考えている。もし他にやりたい人がいれば手を挙げてくれ。何人でも構わない」
「じゃ、俺も!」
「吾輩も行かせて貰おうか」
ヒキと明智……ある意味こいつ等が一番可哀想な人種かもしれない。
ちなみに吾輩は明智だ。別名を不登校軍団。
「いないようだな」
『スルー!?』
「冗談だ。川城と明智だな。それじゃ四人一組で結成してくれ。任務は明日チャットで連絡する。時間は0六00だ」
「了解ですぞ」
「分かった」
「ブヒィィイイイ!!」
「心得た」
見事にバラバラの返答。ヒキに関してはもう何もいうまい。
いや、ヒキは言葉を、他は表情と動作で気違いっぷりが半端ない。
「OK。それじゃ、今夜も攻略戦といこうか」
そして円卓中央に立体の城が現れて俺たちの目の前にディスプレイが表示された。
と、その前に佐藤からようやく返信が来た。
『駄目だ。お前にはもっと良い物を作っているから返却してくれ』
マジ? そういうことならと返信を返して置く。
わくわく。何を作ってくれているのだろう。というか俺だけ?
まさかオリジナルの奴だったりするのかな? 凄い楽しみだ。
事前にSTの武具を見ているからか期待値は高い。
「それじゃ用意はいいか?」
っと、早く配置しない――『開始!』ギャァアアアア!?
俺の画面に瞬殺という文字が浮かび上がった。
第五戦目の最中。阿部からチャットが回って来た。
『ラグナロク開戦時間変更。明後日に戦う』
はあ!? どうした斎藤。意味が分からんぞ?
まあいい。隣にいる源道に回す。そして源道も同じように驚いていた。
推測だが、内通者から予定日がバレたのかもしれない。それに、このチャット自体に何か細工がしてあるのかもしれないな。
第七戦が終わった所で聖王が立ち上がった。
「定時を過ぎたので本日はここまでとする」
気が付けば既に夜九時を回っていた。
さ、俺も戻って寝るかな。
待て、そう言えば四天王にちゃんとした説明をしてなかったな。
明日にでも渡そうと思って早急に簡単にまとめた内容を書き綴った。
深夜。誰もが寝静まる時間。俺の部屋の扉が僅かに開く。
最大限にまで押し殺した足音が入ってくる。そして閉まり、鍵も閉まった。
「はぁ……はぁ……」
そして数歩歩き、俺の布団がめくれ上がる。
俺より一回り程小さい体。冷たくて細い肢体が触れる。
鼻孔を突く良い香り。仰向けになった俺にゆっくりと体重を預けてくる。
顔にかかる髪の毛が少しくすぐったい。少しだけ目を開ける。夕日色の髪の毛だ。
プレアか。そういえば最近会ってなかったな。城内でも見かけなかったし何処に行っていたのだろう。
そう考える合間にいつものキスをされる。本当にされるがままされた。
「嵩都……」
今日はそれだけで満足したのか俺の上に乗ったまま布団をかけなおして寝てしまった。
疲れているのだろうか? いつもより元気が無いようだった。
そう言う時は俺が寄り添ってあげよう。寝ぼけているふりをしてそっとプレアを腕に包んだ。
プレアは一瞬体を強張らせたが緊張がほぐれたのか力が抜けていき、ついでに俺も意識が薄れて行った。
~プレアデス
疲れた……その一言に尽きる。
いや、肉体的は大丈夫だが、精神的な疲労だ。
その原因はボクの妹にある。妹は今年で十歳になる少女だ。
十歳と言えばこの世界では生き方を確立する年頃でもある。そんな節目の年齢なのだ。
そんなボクの妹、名前をリーナという。
リーナは特別何かに優れているというわけじゃない。
はっきり言って魔法も武術も底辺中の底辺、最底辺だ。他の勉強はボクが教えているから成績は良い。
そんなリーナが得意とするのが召喚魔法。妹は召喚士としての才ならあった。
召喚魔法というのは自身の魔力とMPを消費して魔物を召喚する魔法だ。
厳しいかもしれないけど『役割』を与えられていない人がこの世界で生きていくためには相応の戦闘力が求められる。それにこれから先の戦いには武器が不可欠となる。
もちろん戦いの時、リーナに死なれて欲しくないからというのもある。
最も、戦わせたりはしないんだけどね。
物語の期限はあと半年。うん、凄く短い。
このことを知っているのはボクと嵩都だけ。
ボクが言いたいのはその半年後の世界の話。全て上手く行った半年後、この後は全ての『役割』が消えるから何がどうなるかボクにも予想が付かない。
だからせめて偶に嵩都に甘えるくらいはいいよね?
グラたん「皆、鬼ですね」
鈴木「(静かに泣いている)」
グラたん「特に嵩都さん、まさか友人の右腕を爆散させるとは……」
嵩都「やってないからな」
グラたん「さて、次回予告しましょう」
悠木「次回、魔王軍第二位」
嵩都「遂に魔王軍の登場か……なあ、二人に聞かせて良かったのか?」
グラたん「記憶は消しておきますから安心してください」
鈴木「ぎゃー!」




