第三十話・保険
グラたん「第三十話です!」
第三十話
……全員分の内容をまとめてもそこまで大差ない情報だった。
流石に女子から直で情報を引き出せるのは俺くらいだった。
斎藤が立ち上がって円卓の中心に模擬ディスプレイを出した。
「さて、皆の報告も終わったことだし軍議に移ろうか。先程内通者がいることが分かったため俺が考えて来たプランは一部破棄し、各個人もしくは小隊規模で進んで貰った方が良いと判断した。スタート地点は皆バラバラで構わない。一人一つ歩兵の駒を取ってくれ」
駒を取る。すると席に操作ボタンと全体ディスプレイが表示された。
「その駒は自分自身の能力を使えるように設定してある駒だ。弄れば兵力も見えるようになる。さて、各自好きな所に設定してくれ。これからプロジェクト決行まで毎日作戦を練って貰う」
なるほど。全体で模擬戦をするわけだな。
「女子の方は誰がいじるのだ?」
「女子の駒――軍は各個人の行動に対して最善と思われる行動を取るようにプログラムされている。ちなみにST製だ。配置したら一斉にスタートされる。コマンド制じゃないから好き勝手に動いてくれていい。一人でもゴールできれば俺たちの勝ちで全員が捕まれば負けだ」
面白そうだな。良い物作るな、佐藤。
さて、配置フェイズだ。俺の能力は聖剣と理解習得と飛行。それとスキルが少々。流石に邪神とか帝龍のスキルは反映されていない。
「ディスプレイの説明をしておく。正面の一枚が自身の視点だ。リンクが使えるのなら使っても良い。右上にあるのが全体図。青が味方で赤が敵だ。っと、全員配置が終わったようだな。それじゃ、開始!」
[ゲームオーバー]
『な、何が起きた!?』
開始と同時にゲームオーバーだと!? クソゲーも良い所だ!
[死因:安直な配置を先読みされて捕縛されました]
『なんだとぉ―――!?』
「分かったか。このクソゲーをクリア出来てこそ勝利の道が開けるのだ」
くそ。これは予想外だ。もう一度地形を確認しよう。地形は立体型で反映されている。一階から五階まであるこのアジェンド城が舞台だ。それに城下町に街門まである――ん?
「斎藤、これはどこまでが範囲なのだ?」
「お、良い所に気が付いたな。このゲームは現実同様に試作されているため範囲はアジェンド城街門周辺から一km程度までが範囲になっている。それに一人一人画面はバラバラで共通されていないから注意してくれ」
「了解」
それなら――とりあえず城を出て空中に待機する。先に魔法防御魔法を使って護って置く。
「それじゃ、開始!」
斎藤の合図と共に女湯に神風特功。女湯外には兵士共が居るが流石に女湯自体にはいない。
次々と瞬殺されていく仲間たち。先程の教訓を生かしている者も多数いて歩合は三:七。三が俺たちだ。結構良い方だ。そして俺が――。
[ゲームクリア]
「なっ―――ああ、朝宮か」
「なるほど。一応勝ちはあるわけか」
「そうだ。確認しておきたくて。悪いな、斎藤。次、頼む」
「おう。……皆、朝宮だけ良い思いしていいのか!」
『ふざけんなぁ! やってやろうじゃねぇか!』
おお、士気高。俺も飛行無しで頑張るとしましょうか。
「ふむ。二時間五十四戦五勝四十九敗……無理だろ?」
こんなに負ける物なのか。いかに勝ち目のない戦いか分かる数字だ。
「いや、実質四勝だ。それでも四勝出来ると分かった。戦果はある」
斎藤がそうは言うが中々厳しいな。
「ま、今日はこんなもんだろ。今日は終わりだな」
斎藤が終了を告げるとすぐさま各所で反省会が開かれた。
俺も脳内反省をしようか。
まず俺の戦績は五十四戦三勝。実質一勝なわけだが。
この勝利の要因は道無き道を進んだ結果だ。どこを通ったかは絶対に言わない。そしてこの策を実行するくらいなら辞退するような策だ。最高の下策。
次に亮平や鈴木、源道たちとの五人一組での突破作戦。これは意外と良い所まで行けたが最終的に数の暴力で負けた。全員で連携すれば突破できそうな気もするがそうすると他で散っていた兵士共も来るから結局は変わらないか。
他には男湯からあの化け物壁を破壊する方法。これは一撃粉砕を要求され、一回目は全員で総攻撃をしたが破壊できず女兵士が入ってきて捕縛。二回目は俺が単独でSTを発動させて最大出力で八回ガンマバーストした。そうすると破壊成功しゲームクリアの文字が現れた。
だが、実際は八回も女子が待ってくれるわけがない。没だ。
一応他にも通路を軽装ダッシュや壁走りをしてみたが失敗。実に良く再現されていて俺の胴体が貫かれて殺され、魔法で焼き殺されることもしばしば。
まだ時間はある。侵入経路はまだ無数にあるから試してみよう。
後は計略で戦うかだな。火計とか落とし穴とか落石とか。……覗く前に城が崩壊しそうだな。
止めよう。せめてゴキ○○用のシートを設置するくらいか。よし、反省終了。
「よし、では解散!」
聖王の号令と共に皆立ち上がった。
筑篠視点~
試験当日まであと一週間を切った。皆仕上がってきて最上位クラスであるS組に入れそうだ。
さて、模試を受ける者がいなくなり後は実技の方だな。
それに男子共のラグナロクもある。こちらの方が難題だと言っても過言ではない。
密告者から情報は入って来たものの男子共にこちらの動向が知られたようだ。
困った。しかも情報を流しているのがよりにもよって女子だと言う。
最近執事と家庭教師役を買って出た朝宮から情報が流れているようだ。
本来ならば即解任するところだが……あいつには実績がある。ラグナロクを差し引いても優秀な人材だと言わざるを得ない。本当に取扱いに困る。
コンコン……誰だろうか?
「朝宮だ。筑篠、いるか?」
噂をすればなんとやら。ちょうど良い。直談判で聞いてやろう。
鍵を開ける。執事服ではなく紺色の着流しを着ている。寝間着かな?
「どうした? こんな夜中に」
「ああ。今日の仕事は終わったから何か手伝えることはないかなと思って」
建前……かな? それとも本心か。分かり辛い問いだな。
そうだな……手伝えること……あ、そうだ。朝宮にも手伝って貰おう。
「手伝えること……そうだ、朝宮は魔帝暗殺事件について何か知っているか?」
「魔帝? ……いや、思い当たる節はないな。どうした急に?」
「いや、探偵というわけではないが少々調べていてな。もしかしたら何かに繋がるかもしれないと思って」
ん? なんだろう。朝宮がやけに緊張しているように見える。
「そうか……あまり深入りし過ぎて殺されるなよ?」
気のせいか。普通に心配してくれているし。
「ああ。私の他にも数人協力者がいてくれてね……そうだ、朝宮も何か分かったら連絡をくれないか? 本当に小さなことでもいいから」
「ん、分かった。――なあ、もしかして筑篠って小説とか読む感じか?」
「ああ。探偵系やラノベ系は好きだ。特に真実が明かされる場面が好きだ」
「……そうか。なら、こういうファンタジーな世界は好みの範疇だな」
「そうだな。あの頃は転移するなんて考えられなかったけど……それはそうと私もお前に聞きたいことがあった」
「なんだ?」
「ああ、最近お前たち男子勢が良からぬことを企んでいると、そして尚且つお前から情報が漏えいしていると噂を聞くのだが?」
あ、物の見事に当たりだ。朝宮の額から変な汗が流れている。
「……その噂は誰から?」
「それは言えない」
「……なるほど。やはり此方側に内通者がいるようだな」
ほほう。『此方側』と言ったな。やはりラグナロクは行われるようだ。
内通者に関しては秘匿しておくべきだろう。しかしこちらも手札を切って行かないと情報を引き出すことが困難になるだろう。ギブ&テイクと行こうか。
「やはりお前たちは何か企んでいるのではないか? ラグナロクとか」
朝宮の眉が上がった。感づいたようだな。
「そこまで知っているなら隠す意味はないな。単純に俺たちは裏切り者を知りたいだけだ」
「先程も言ったがそいつの名前は言えない。それが約束だからな。まあ、そいつは全て終わったあとに助かる条約を結んでいるとだけ言っておく」
「なるほど。その対価は俺たちからの情報漏洩と首輪……そんなところか?」
流石。良く分かっている。だからこそ尚更敵に回したくないな、朝宮は。
「そうだ。良い機会だから朝宮もどうだ?」
すると奴はチャットを開いて口にはニヒルな嗤いを描いた。
「……ふっ、見くびるなよ。俺は死んでも仲間は売らん!」
『是非とも助けて下さい。情報漏洩程度なら流せる。流石に首輪は勘弁してくれ』
見事な建前と本音の使い分けだ。戦慄するよ。
そして聞き耳立てている輩がいるな。朝宮もそれに感づいての切り替えなのだろう。
「それがお前の答えか。後で許しを乞うても知らないぞ?」
『良い。なら情報漏えいだけで構わない。少しこちらの情報も流してやろう』
「上等。公私混合が俺の信条でね」
『ありがとうございます。お代官様』
「最低だな」
『協定成立。有意義な時間だった』
「それじゃ、用件は以上だ」
「ああ。明日は実技を頼む」
扉が閉まる。さて、いい拾い物をしてスッキリした所で寝るか。
~嵩都視点
筑篠の部屋を出て自室に戻るまで結構焦っていた。
いや、まさか筑篠がそう言う行動に出るとは思って無かった。ついでに言えばこのまま筑篠を放置しておくと本気で殺しにかからないと行けなくなる。
うむ――とは言っても下手に動けば他にも気づかれかねない。
結局は何もしない方向にしか行けないな。
さて、ラグナロクの方はまあまあの収穫だ。
まず確実に裏切り者がいる。まあ……もう別に誰が裏切っても俺も一緒に助かろうとするわけだから……いや、待てよ。あの筑篠だぞ? 条約なんぞ破棄するくらい普通にやる女だぞ? ……これは他の所でも保険を張って置いた方が良さそうだ。
それかいっそ弱みでも握れればそれを盾に交渉出来るが……無理だな。
それとさっき聞き耳立てていたのは遠藤だ。
あいつ意外と隠蔽スキルと盗聴スキルが無駄に高いことが分かった。
言動には十分注意する必要があるな。
さ、寝るか。
次の日の昼の事だ。今日は実技を彼女たち五人に教えている。それとおまけの野郎共が二人。
女子は新名さん、悠木さん、加藤さん、飯田さん、邦枝さんの五人。
男子は亮平と源道だ。
とは言え俺は試験内容をテストしたり難しい点を特訓したりするだけだ。
亮平と源道は既に課題を満点合格しているため俺のサポートに回って復習して貰い、悠木さんと新名さんも終えているがまだ危うい個所があるのでそこを重点的にしている。加藤さん、飯田さん、邦枝さんの三人は補習中だ。
亮平たちの隙を見て悠木さんに交渉し、美味しいお菓子を条件に根回しした。
当然一人一人と言う手間はせず悠木さんを仲介して他の女子にも頼んで貰った。
グラたん「なるほど、セコイ」
嵩都「言ってくれるな。何事にも保険はかけておくべきだ」
グラたん「セコイ」
嵩都「戦略的と言って欲しい物だな」
グラたん「さて、次回予告です」
嵩都「次回、死亡フラグ。……遂に誰かが死ぬのか」
グラたん「ふふふ」
嵩都「意味深な笑みは止めてくれ」




