第二十七話・邪神軍創立
グラたん「第二十七話です!」
???「おお、我が主!」
???「邪神様!」
???「主様!」
???「ス――」
グラたん「あ、ネタバレ駄目です」
???「私の台詞ぅ――!」
今日は城内が忙しい日だ。文官があちらこちらに駆けずり回って書類の束を運んでいる。
しかし魔帝が死んだ後でもラグナロクはある。国王は当然書類に謀殺されているためにそちらの指揮は斎藤が行うことになっている。
さて、今日、俺は自身の軍隊『邪神軍』を作る地盤を作った。具体的には適当に大陸を切り取って浮遊させた。城はムスペルヘイムと命名した。
いやぁ、魔剣レーヴァテインときたらそれしか思いつかなかった。
浮遊大陸は地球感覚で言えば北海道くらいの広さだ。その中央にアジェンド城並の居城を構えた。城の内部まで無駄に徹底的にこだわった作りになっている。
さて、それじゃ基盤は出来たし魔物を作ろう!
創った大陸に降りる。そして城が一望できる位置に移動した。
邪神スキルの創生を起動。底なしと化したMPと魔力を自在に操って形を作る。そこに水や蛋白質、カルシウム、鉄、亜鉛、ナトリウム等々の成分を入れることによって生物の基盤が出来る。人間型にしたから作りは一緒だな。この辺はアジェンド城に売っていた物を買ってきた。
最初に創ったのは四人の男女だ。とは言え、魔物に変わりはないが。
完成させると地面に魔方陣が出た。原初の四天王とでも呼ぼうか。俺のイメージから作られたために全員が美形だ。作られた四天王は目を開いて俺を確認するや一斉に膝を突いた。
基礎的な知識は俺の知識を使っているからな。礼儀系統もバッチリだ。
「主様、御命令を」
最初に言ったのは長髪で黄色の髪をした聖母の様な美形の魔物……語弊があるな。実際、見た目は人型と何ら変わりないから人だな。で、こいつは女の方だ。衣装は予め俺が購入しておいたローブを着せてある。それは全員が同じことだ。
二人目を見る。彼女と同じように女だ。こちらは茶色のショートカットで整えられている女の子。この子は気が弱そうな見た目をしている。
三人目は男。赤髪で隆々とした筋肉を持つ能筋をイメージさせる。実際この中では力パラメータが一番高い。だが、決して馬鹿ではないと言っておく。
四人目は知己的な雰囲気を醸し出す男だ。水色の髪の軍師タイプだ。
予定では一人目と四人目が政治・外交を担当し、二人目と三人目が軍事を担当、一人目と二人目が人心掌握、三人目と四人目で策略を練る、という感じに進めて生きたい。
だが、このまま番号で呼ぶのは不便なので命名することにする。
「楽にして良い。まずお前たちに名をつけるため憶えて貰う。これが最初の命令だ。まず、黄色髪のお前は『ウリクレア』だ」
「ウリクレア、ですね」
その返答に俺は深く頷いた。もう一度見ると彼女は聖母と思えるような微笑みをしていた。
「茶髪のお前は『ヴェスリーラ』だ」
「ヴェスリーラ、ですか?」
「そうだ」
……この子は本当に気が弱そうだ。発した言葉も弱々しい。
「赤髪のお前は『フェイグラッド』だ」
「おう! 分かったぜ、主!」
こいつはこいつでそのままだな。剛毅で豪快な性格の様だ。
「水色髪のお前は『カルラッハ』だ」
「……了解しました」
実に忠実そうな感じがする。ああ、創ったとは言っても全部俺の意思に従うわけじゃない。性格だって環境によっては変わって行くだろう。それと寿命は俺が死んだ後も生きていく並にある。最も、既に人間を止めた俺が人間と同じ寿命なのかは疑わしいが。
彼等は各々の名を理解したのか立ち上がり、自身等の表情を俺に向けた。
「次の命だ。お前たちには俺が創った城と住民をこれから管理、運営し、強力無比な軍隊を作ってもらう。もちろん俺も参加するし運営に当たっての資金面や資源に関しては俺がなんとかしよう。そのためにお前たちにはまず、この大陸から知ってもらう必要がある。そのための飛行スキルは全員に配備しておいた。各自に一週間の期間を設けるため各自に与えられた役割を全うしてほしい。もし別のことをしてみたい時は遠慮なくやって良い」
するとカルラッハが口を開いた。あ、別に俺はそこら辺を注意する気は無い。
「邪神様の命は理解した。目的は何かお教え願いたい」
ほう、流石軍師。良い所突くな。
「俺の目的は『魔神を復活させること』だ。詳しい事はその内説明する。今は任務に従事してくれ」
「心得た」
「あ、あのぉ……」
今度はヴェスリーラが手を上げた。
「どうした?」
「あの、御名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
そういえば言っていなかったな。
「嵩都、それが俺の名だ」
朝宮を付けなかったのはこの世界にまで来て『朝宮』に縛られたくなかったからだ。
「スート……スート、スゥルト……分かりました、スルト様ですね」
何故そうなった……まあいいか。スルト、ムスペル、レーヴァテインの三拍子だしな。邪神スルト、良い響きだ。
「良い。それでは各自、行動を開始せよ」
『了解!』
俺が命令を出すや彼等は空を舞った。当然のことながら北海道並の広さを誇るこの大陸を徒歩で移動させるほど俺も鬼畜じゃない。四天王には全員飛行スキルを事前に備え付けた。
創生するだけでスキルはつけられないと思ったから非常に楽だ。ただし飛行スキルはかなりレアなスキルに分類されていてそれだけに初期スキルポイントを全振りしてしまった。
その間に俺は城へと向かい、何百匹もの魔物を創生した。一週間もすれば一大国家が出来るくらい彼等の繁殖能力は高く設定した。生まれてくる子は親ほど高くはない。
最初の管理・運営は俺がする。そのあとにウリクレアたちに引き継がせる手筈だ。
そうそう、四天王たちだが魔力供給は俺がしている。それを切ると死にはしないが著しい能力低下を強いられるようになっている。
この大陸の調査は四天王に任せて俺は下界へと降りるとしよう。
さて、これとは別に学校のことがある。気が付けば三月も下旬に入っている。ということは俺たちもそろそろ試験対策をしなくてはいけない。最低限の試験をしてから入った方がクラス分けが楽だからという理由で俺たちは少し遅れの受験をすることになっている。
誤解がないように言っておくと入学は確実だからクラス分けの試験と思って望めば良いそうだ。午後には筑篠主催の試験対策が例の会議室で行われる。そして筑篠が代表として一括で制服とか規則事項の本とかを受け取っているためこの試験対策に出ないと何ももらえないということだ。試験嫌いの俺たちにしてみればただの地獄と何ら変わりないし、出れば筑篠の思うようにしか動かないという最悪の循環だ。俺たちは腹を括って行く必要がある。
それとこの試験対策の前にはアネルーテがプレアと共に来るらしい。
何故分かるか。それは先程筑篠から『試験対策のスレ』より連絡が回ったからだ。
とりあえずは昼食を取るために食堂へと向かった。
食堂は実にしんみりしていた。国王がああは言ってもやはりこうなるわな。
それだけ魔帝が慕われていた証拠だ。昼食を貰って手頃な席に座る。
これだけしんみり重い空気でも食事の質は落ちていない。うん、美味い。
黙って食った食事は実に早く終わってしまう。食器を返却口に返し、食堂を後にした。
筑篠が指定した時間まで後一時間ほどある。暇だ。
四天王からの報告は随時リンクで受け付けている。勇者の一人が持っていたスキル:並列処理。現在同時進行で三つの思考が頭の中を渦巻いている。一つは四天王用、一つは資材や資金の工面について、一つは今の俺だ。実に便利で快適だが慣れていない性か些か気持ち悪い。
中庭に来た。例の会議室は中庭から見て東側の三階中央に位置している。そのため飛翔すれば遅れることはない。さて、適当に素振りでもするか。
ヴァルナクラムを取り出して真空波をオフにして素振りする。
体は常に冷却しているため汗を掻くことはない。心臓の音もよほどのことが無い限り上がることはない。素振りは残像が見えてしまうほどゆっくりと振った。
「お、嵩都。こんなところにいたのか」
亮平だ。手にはエクスカリバーを持っていた。これから素振りでもするつもりだったのかな。
俺は一度手を止めて亮平に向き直る。
「ああ。まだ時間があったから素振りをしていたところだ」
「そっか。……なあ、急で悪いが俺と模擬戦してくれないか?」
「模擬戦? 俺は構わないが……」
普段の亮平からしたらあまり見られない選択だ。気が昂ぶっているのだろうか?
「なに、俺の力が今どれくらいなのかを知りたいだけだ。そっちは全力で良いし魔法もありで良い。あとスキルとかも使ってくれて構わない」
悪い、亮平。全力でやったら一瞬で消し炭にしかねないから全力は出せないわ。
代わりにそういうチート系スキル無しで戦うから。
「分かった。開始のタイミングはそっちで良い」
「おう」
そう言って亮平は最も得意なのであろう間合いに下がる。
初端で終わっても味気ないので初撃くらいは防ぐなり躱すなりしてやるよ。
心の中でそう思いながら俺は聖剣を構えた。
構えたと言ってもぶら下げているだけだが。
「……嵩都、まさかそれが構えだとか言わないよな?」
あ、やっぱり不審に思われた。
「そんなわけないだろ。俺にも考えがあるからこうしているだけだ」
実際は亮平が魔法なり斬撃なり肉薄なりした時にスキル無し状態の俺がどのくらいの反応速度が出るのかという実験だ。
万一間に合わなくて身で受けかけたら邪神モードの守備力が自動発動するけどな。
「そうか……なら、そろそろ行くぞ」
亮平がそういうとエクスカリバーが黄色の稲妻を纏い始めた。
「来い」
「食らえ!」
そして俺が言い終わると同時くらいに亮平はエクスカリバーを最上段に構え、俺に向かってそのまま振り下ろした。
理解習得:起動。斬撃系統=属性攻撃スキル(雷)Lv3:閃雷斬衡と判断。
理解完了及び習得完了。既存のため破棄。斬撃予測完了。死亡率80%。スキル使用で0%。スキル使用――許可。
対抗スキル発動。第一候補――不許可。第二候補――不許可。勇者スキル:光皇の盾、発動。死亡率0%に減少。備考:感電する可能性あり。
……亮平よ。お前、俺に何か恨みでもあるのか?
仮にも友人に死亡率80%のスキル撃つとか正気か?
ま、俺の場合死んでも生き返るくらいわけないし。
自動発動した勇者スキル:光皇の盾とやらが俺の前に現れた。
読んで字の如く光の盾だな。範囲は縦三m、横幅一m位か。それが複数枚張られているわけだ。
ちなみに第一候補はスキル:反射。第二候補はスキル:無効化。
どっちも使えば多分コピーしたのがばれるから不許可した。
ようやく閃雷斬衡とやらが光皇の盾と衝突した。あくびが出るほど安全だ。
「亮平、もっと本気だしていいぞー」
「なにぃ!?」
あ、これが割と本気らしい。そんな驚き方だ。
やべぇな、下手すると他の奴等もこの程度の可能性がある。
まあそれはそれで目的を達成しやすいからそのままで良いのだが。
さて、亮平の本気も分かった事だし亮平が本気を出してもギリギリ勝てないくらいの強さで相手をするとしよう。おおよその目安だけど。
構えは居合。当てる所は峰。スキル:加速を発動。
次の瞬間に俺は胴体がら空きの亮平に肉薄して聖剣を一閃。
そしてそのまま亮平の後方へと移動し、聖剣を振り抜いた形から降ろす。
同時に背後から亮平が地面に伏せる音が聞こえた。
……まさか防御すら出来ないとは思って無かった。
次からはもっとゆっくり振り抜くとしよう。
それからしばらくすると亮平が目を覚ました。
「あ、起きたか」
「うん? ……ああ、俺は負けたのか……」
亮平は起きて早々溜息をついた。
「はぁ……弱いな、俺……」
その言葉に俺は否定も肯定も出来なかった。
「と、とりあえずスキルのレベ上げしようぜ? 俺が受けるからさ」
「ああ……頼む……」
亮平、はやく立ち直ってくれ。お前が負けるのは必然だったのだから。
そんなことを思いながら俺はヴァルナクラムを構えた。
グラたん「次回予告のお時間です」
フェイグラッド「次回、ロンプロウム侵攻!」
カルラッハ「次回、邪神様を崇め称えよ!」
ウリクレア「次回、主様の御為に!」
ヴェスリーラ「え、えっと、次回、入学説明会!」
カルラッハ「ヴェスリーラ、何処へ行くのかね?」
ヴェスリーラ「え、えっと、それは言えません……」




