第二十五話・『役割』
グラたん「第二十五話です!」
プレア「関係者以外立ち入り禁止だよ」
グラたん「追い出されてしまいました。では、本遍をどうぞ!」
来たのは俺の自室だ。その中に引き込まれる。
不審に思って尾行している輩が数名いたが突然の圧縮現象が起きてそのまま帰らぬ人となった。
中に入るとプレアが鍵を閉めて施錠する。音消しも壁に貼り付けていた。
壁の向こう側にいた間諜はことごとく爆破音と断末魔を上げて死亡した。
そんな残虐なことをした張本人が何もしていないというように微笑んで俺に言う。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし嵩都に伝えること伝えちゃおうか」
そう言いつつ備え付けの紅茶を煎れる。座り、紅茶を進められる。
――ズズッ、不思議な飲みごたえだ。何種類もの茶葉が混ざっている気がする。
プレアのオリジナルブレンドだな、これは。
堪能した後で一度カップを置く。
「まずは嵩都にこれだけは守ってほしいことがある」
プレアが真剣な表情で人差し指を立てる。
「なんだ?」
「今からいう事はボクともう一人以外に相談しない、口外しないことを守って欲しい。ちなみにもう一人は霧谷司っていう女の子だよ。その内紹介するね」
「分かった。守ろう」
即答。
その答えに疑問を持ったのかプレアは首を傾げた。
「そうしてくれると助かるけど……嵩都ってさ、何で急にボクに肩入れすることにしたの? ボクは嵩都に何も言ってないはずだけど?」
「ああ、そのことか。……まあ話してもいいか」
全部仮定でしかない話だけど、と前置きをする。
「そうだな、まず俺はこの世界を何処かのゲーム世界に似た世界と仮定した。ゲームというのはこの世界に似た事象を物語に仕立てて多くの人に遊んで貰う者だ」
と言ってもあまり分からないだろう。この世界には無いからな。
「最初、俺たちのありとあらゆる行動を読んだプレアを俺は疑問視し、一つの仮定を立てた。俺たちの故郷、地球では良くある転生物の小説だと悪役令嬢系だな。概要としては文字通り『主人公』を虐めて蹴落とすキャラクターに転生した自分がなってしまったという不思議な話だ」
最も、この世界に転生した俺たちもその不思議に該当する。
「俺はその物語と仮定し、プレアを『主人公』と仮定した。そうするとその物語に出てくるだろう俺たち『攻略対象・ライバル等』の行動を読めたのも納得がいく」
だが、そう考えていた矢先に昨日の事件だ。
「しかしそこまで考えて昨日の誤算、プレアが『主人公』ではなく『敵』だったということだ。そして魔帝を殺害した俺も『敵』というわけだ。この性で俺は根元から仮定を再構築する羽目になった」
そして通常なら俺はもう処分されても良いはずだ。
それなのに生かしておくのはまだ利用価値があるからか、それとも温情とか愛なのか。
まあそれはおいて置いてだ。
「それで様々な事柄を知っているプレアは『敵でありながら必ず何処かで関わってくる重要キャラ』に位置が変更されたわけだ」
『主人公』が誰なのかはまだはっきりしていないけどな。
「それでそんなキャラクターが最後にどうなるかなんて分かり切ったことだ。そこで俺は、俺が召喚された理由はそんな『重要人物を助け出すこと』だと勝手に思った」
まあそれも理由の一つではあるが、はっきり言えば好きになった彼女を守らない男はいないわけであり、当然ながら協力――同盟によってもよらなくても協力するということだ。
「そうしてその『重要人物』であるプレアを守るために俺は行動することに決めたわけだ。勿論、守るより前に好きが先だけどな」
―――ん? なんかデジャウ。話したのはこれが初めてだと思うが?
気のせいだと思い直してプレアを見る。
「そっか……嵩都はそう思っていてくれたのかぁ……」
顔を赤らめてもじもじする姿は実に可愛らしい。話は進まないけど。
「そういうことだ。分かって貰えて何より。さて、俺が言いたいことは言ったぞ」
「うん、そうだね。……じゃあ、話そうか。ボクもこの壮大過ぎる話を信じ、そしてボクの力になってくれると信じて―――」
プレアの口から零れてくる言葉―――世界の姿。
ありきたりな異世界ならではのテンプレートな話。
この世界は神が作り、天軍と呼ばれる天使たちがいて、その楽園を追放されたのが人間や獣人、獣。
その獣や亜人たちが堕ちたのが魔界と呼ばれる場所に住む魔物。
地球で言うところのアダムイヴだな。
分類は大きく分けて天使、人間たち、魔物の三つに分けられる。
それと日和見している――具体的にはどこの軍にも属さない竜族と呼ばれる種族がいるらしい。
それに邪神と呼ばれる悪しき神の軍、邪神軍。この五大軍に分けられる。
この世界に生を受ける者は全て何かしら役割を与えられて生まれてくるのだという。
プレアが参戦しているのが魔界の魔王軍。
やっぱり魔界があり、魔王が居るのかと感慨深く思った。
そして魔王軍の目的は魔神と呼ばれる神の復活。
プレアは元々世界から与えられた役割はその魔神だったらしい。
とは言っても手順がありそれを達成することによって完全に魔神として復活出来るのだとか。
そして魔神の役割は人間たちを滅ぼすことだ。
魔神は決められた八人の力を食らうことで復活する。
そして勇者たちの役割はそれを阻止すること。
また、人間たちが始めた戦争を鎮圧して平和を保つこと。
ふう……重要な役割とは思っていたがここまでとは。
さて、ここでもう一つ重要な役割がある。
それは『邪神』だ。
魔神がいるのに何故邪神までいるのかということだ。
プレア曰く『この世界を作った神が非常に殺伐とした性格で勇者という希望を根こそぎ奪った上で人類が絶望に泣き叫ぶのを酒の肴にしているため』と最低極まりない神の悪戯だと言っている。
そしてその邪神の役割が『俺』と。
プレアは俺がこの世界に来てから俺がすぐさま暴走して邪神にならないようにするために『邪神』というスキルを奪ったのだとか。
そのおかげで今の俺があるわけだ。
プレアも神の作った物語をそのまま進めるつもりはないらしく誤差修正が不可能なように壊し回っているらしい。魔帝を早い段階で殺したのはそのためらしい。
実際はもっと後、俺が邪神軍を率いて各城や町を壊滅させている段階で俺がアジェンド城に攻め入り、暗躍している魔王軍と共に襲い掛かり天軍と人類連合軍との決戦の最中に魔帝が死ぬはずだったようだ。
殺すのは、やはり俺のようだ。
さて、結局プレアの目的はというとこの終わりが決まっている物語を終わらせないようにすることだ。
正確には終わらせる前に神を殺して続きを自分たちで書いていくことらしい。
つまり俺たちは今、神が書いた物語の中にいるらしい。
だけどここで起こったことは本当のことだ。
現実と同じで死ねば二度と生き返らない。
そしてこの物語が完結すると完結後、すぐに壊れてしまうらしい。
神を殺すという目的――そのための手順をプレアは全て知っている。
プレアはこの世界に俺たちが転移してきて物語が始まる以前に準備を整えて反逆の準備を進めていたようだ。
知ったのは五歳の頃。
知らない人に連れ去られて体を弄られ、感情を失い、様々な生物、魔物、魔獣を合成され、生体兵器として生まれ変わったプレアがそいつからプログラムされたこと。
この世界の真実。これから起きること。
そして神に反逆するための準備と殺すための手段。
それらを終えると同時に彼は自分たちの役割を終えたように死んだらしい。
彼等に関しては転生者もしくは転移者だと推測をつけるが心底ブチ殺したい殺意が芽生える。
目の前で起こったら間違いなく俺はそいつを嬲り殺しにする自信がある。
まあ、それをやったら計画が狂うからダメなんだとは思う。
彼等はプレアが生まれる以前から準備をしていたと分かる。
そしてどうやってかは知らないがこの世界の真実を知り、神を殺すための手順を計算したのだろう。
そしてそれをプレアに埋め込み生体兵器としたわけだな。
それからプレアは表向きには誘拐から救われた少女として生活し、裏では俺たちが来るまでに用意しておかなければならないことを全て用意していた。
魔剣もその一つ。全八本ある魔剣を見つけだし、俺以外の所有者を殺害し強奪したそうだ。
それと俺以外にももう二人協力者がいてそいつにも全貌を話してあるらしい。
その内の一人は魔界にいるそうだ。
そしてこれも魔神を復活させるための手順の一つ。
『八人の力を特別な魔力を封じ、魔神に捧げる』
――つまりプレアが完全な魔神になるための方法だということだ。
ちなみに殺すのにも順番があり一つでも間違うと復活させた時に自分たちにその力が降りかかる可能性があるらしい。最もそこはプレア次第だが。
俺たちが来たことによってプレアにプログラムされた反逆が始まった。
プレアの役割が――いや、全ての生物の役割が始まったのは俺たちが来てからだ。
この反逆はプレア自身の意思ではない。
彼によって無理矢理忠実に実行しているだけのプログラム。
でもプレアは僅かずつ自分が考えた方向へと引っ張っているという。
元々の話だと俺はこの世界に来た瞬間に役割が始まり暴走を始めるはずだった。
それを救ったのがプレアだ。
そのしわ寄せとでも言うべきか本来なら予定になかった『帝龍』というスキルが発現した。
そのことにプレアは無理矢理に役割を変更させられそうと思ったらしい。
それがあの訓練中の出来事の裏だ。
プレア自身もそろそろ潮時と考えているらしく『邪神』スキルは俺に返すことになった。
さて、長くなったな。内容をまとめようか。
プレアの目的は『物語を終わらせる前に神を殺し、物語を継続させること』。
そしてプレア本来の役割は『魔神』。魔王軍を率いて人間たちを滅ぼすこと。
俺の役割は『邪神』。邪神軍を作って各地を無差別に破壊していくことだと思う。
俺の役割には条件があり、人間と魔族のどちらの味方をしても良いということだ。
この物語を作った神とやらの性根がネジ曲がった、勇者が苦悩するための設定だ。
俺たちが予想外に動けば動くほどそれが正規の物語へのダメージになると見ていいだろう。
神がどういう人物かは知らないが壊すことを前提に完結させているのなら神がこの物語をみることはもうないだろう。
つまり反逆自体は容易いということだ。
早期に魔帝を殺したのもそのため……つまり、プレアにしてみれば魔帝を早期に殺すことで神が気付くかどうかという橋を渡ったわけだ。
そして結果は不干渉。決まったのも同然だ。
ちゃんとしたモラルを持っている人からみればそんなのは許されざる行為だろう。
だが俺は、俺たちは既に壊れている。物語が終われば俺たちは死を迎えたのも同然だ。
そんな俺は嫌だ。皆には悪いが俺は生きたい。
全てを聞き終わった後、俺はプレアの傍に行き片膝を地に付け頭を垂れて誓う。
「プレア、お前が望むのなら俺は邪神になりお前を支えよう」
プレアは拒否されると思っていたのか、安堵の涙を流していた。
「俺の全てを捧げる」
「俺が命果てるまで寄り添うと誓う」
「俺はお前が魔神だろうと生体兵器だろうと構わない」
「俺はお前が好きだ、プレア。俺はずっとお前の傍にいたい」
一つ一つの言葉を丁寧に、慈しんで、全てを捧げるように言葉にしていく。
プレアは自分を話してくれたと思う。
俺は例えプレアが魔神で生体兵器だとして俺たちを思うように操って神殺しをしてもプレアが好きだ。
好きと感じたのは出会った当初から――これも神に言わせれば設定なのだろう。
だが、それでも俺は本心からプレアを好きになっている。そのことに後悔はない。
プレアが別次元の生物なら俺がその場所に行けばいい。
不死なら俺も不死になればいい。
プレアが願うのなら、俺は全てを費やしてそれを叶える。
今度は不確かなものでなく確信を持って頷ける。
――プレアの隣にいること。
それが俺の『役割』だ。
そしてプレアは立ち上がり俺の頭を包むようにして胸に抱きしめて言った。
表情は見えないが彼女の胸が高鳴り、そして涙を流しているのが分かった。
「……ボクも……嵩都が好き。この世界から幸せな時間がもっと欲しい」
プレアがそう言葉にし、俺は小さく頷く。
「俺が叶えてやる。だから……俺と一生を共にしてくれないか?」
俺の頭の上に、プレアの涙が落ち、俺の頬を伝ってくる。
今までプレアは頑張ってきたのだろう。
俺はその全てを分かち合い、解ることは出来ない。
だけど、認めてあげることは出来る。
隣にいて寄り添うことは出来る。
プレアの手が一度離れ、今度は俺がプレアを抱きしめる。
「うん……うん! ずっと一緒だよ、嵩都」
「ああ。これからずっと一緒だ」
プレアが何度も頷き、俺はずっとプレアの髪を撫でていた。
寝る前。
「……あ、言い忘れていたけどこの物語が終わる期限『半年』だから」
――――え? それ、一番重要じゃないか。
俺は再びプレアを問い詰めることになる。
グラたん「祝! ヒロイン獲得ですね!」
嵩都「ありがとう」
グラたん「それはともあれ、完全に勇者と袂を分かちましたね」
嵩都「邪魔するなら誰であろうと排除する」
グラたん「例え相手が亮平さんやアネルーテさんでも、ですか?」
嵩都「必要とあれば、だ」
グラたん「完全には割り切れてなさそうですね」
プレア「嵩都~、そろそろ行こ~」
嵩都「ああ、分かった!」
グラたん「あ、次回予告が――って行ってしまいました」
グラたん「次回、国葬とこれから。暗い話が続きますね……」




