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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第二十一話・カレー事件 前編

グラたん「おや、今回の話は過去の話ですか?」

嵩都「正確には過去の夢だな。忌まわしい記憶だ」

グラたん「重そうですね~」

嵩都「むしろ重くなければ殺し屋家業なんてやってない」

グラたん「まあ、そりゃそうですよね。それでは第二十一話をどうぞ!」

~嵩都視点~


 気が付き、目を開けると見覚えのある天井が見えた。

 地球の俺の部屋の天井だ。何か長い夢を見ていた気がする。

 少しするとぼんやりとだが思い出した。ロンプロウムという世界のデーテスラ大陸という異世界でアジェンド城という城に召喚された夢だ。

 枕元の時計がなる。時刻は五時を差していた。いつも通りだな。

 俺の家は両親が不仲で喧嘩が絶えない毎日だ。親は寝ないと静かにならない。

 五時という時間は親が就寝している時間だ。

 この時間にいつも俺は起きて、妹である夕夏の朝食と弁当を作る。

 五時半位になると夕夏は不眠で目が赤いまま階段を降りてくる。

 親が深夜まで絶えず喧嘩しているせいで俺も夕夏も寝れていないのだ。

 いっそ離婚でもしろと思う。

 俺たちが寝るのは授業前、昼休み、放課後だ。

 決して家で休むことはない。良くて仮眠だ。



 場面が変わった。変わったということは、俺は寝ているのだろうと検討を付ける。

 場面は学校だ。亮平や鈴木たちと会話するいつもの光景だ。

 突然の地震。軋む音とガラスと瓦礫。小川になった人の血肉。

 ああ、この間の転移の光景だな。



 ふと目の前が暗くなってまた場面が変わった。

 今度は遠くから冷めた目で俺が俺を見ている。遠い方が俺だな。

 光景は炎上した家、それにいくつもの死体と倒れている夕夏。

 そして拳銃を持っている俺。

 ああ、時折見る夢……過去だな。実際に在った過去。

 向こうの俺はその手に持った拳銃をまだ息のある男に向ける。

 パン、パン、パパン。

 四回の渇いた銃声が鳴り響いた。全部が首に当たって男の首が千切れた。

 俺はただただ壊れた高笑いをしながら引き金を引き続ける。

 弾が無くなれば落ちているナイフで死体を切り開いていく。

 抉り、剥いて、引きずり出す。幾度となく繰り返される作業。

 二度と生き返らないように、転生などしないようにぐちゃぐちゃに掻き混ぜていく。

 その様子を目が覚めた夕夏は酷く怯えながら見ている。

 その時の俺は――快楽殺人に酔いしれたかのような高笑いを上げていた。



 更に過去に遡ろうとすると不意に体が揺れた。

 夢は幾重にも分裂と分解を繰り返し、色褪せて、俺の視界が黒く染まった。

 ……目を開けるとそこには魔王、魔帝、隊長、プレア、亮平たちがいた。



「大丈夫か? 嵩都」



 先程の揺れは亮平が俺の両肩に手を置いて揺らしたからだな。現に今がその状態だ。



「……ああ、途中から記憶がないが……俺自身に異常はない」



 周囲がホッとしたように見えたのは何故だろうか?



「……異常無いようですね。では、今日の訓練はこれにて終了としましょう」



 魔帝が締めの言葉を口にすると兵士たちが一斉に退出する。



「亮平さんたちも解散としましょう。ヴァインもご苦労様です」

「ハッ」

「先行っているぞ、嵩都。食堂な」

「あ、ああ……」



 隊長が敬礼し、亮平も見様見真似で敬礼した後に俺に場所を告げた。

 んん? 記憶が無いとは言ってもお咎めなしなのはどういうことだ?

 そう疑問に思っているとプレアが説明してくれた。

 えっと、俺は魔王に取り押さえられたあと暴走をした、と。それも尋常じゃなく。

 その過程で魔王の首を撥ね飛ばすという処刑されてもおかしくは無いことをしでかしたがそんなことをして首の皮が繋がっているのはここにいるプレアが助命してくれたということらしい。

 ……笑顔で言われるほど胡散臭いと感じるが本当だった場合は大変失礼なので素直にお礼を言っておく。



「そうだったのか。助かったよ、プレア」

「良いって。貸しだから」



 この日、この時、俺の首に二つ目の首輪が繋がれた瞬間だった。

 さて、そんなことにはなった物のプレアからの命令は未だに無し。

 何時命令されるか分からないのがネックだ。

 余程の事を命令されると見て良いだろう。



「さて、嵩都さんも目覚めたことですし私たちも昼食にしましょうか」

「はい。今日はカレーでしたよね」

「ええ、皆大好きのカレーです」



 マジで? カレーなのですか!? 

 と、浮かれあがった一瞬後、何やら魔帝が含み嗤いをしたように感じた。

 今、現在進行形で何か良くない物が蠢いているような……。



「あ、それと嵩都さん」

「は、はい」



 魔帝に呼ばれて立ち上がる。直立不動だ。



「大事な話があります。貴方はここに残りなさい」



 大事な話? 全く心当たりがないのだが?



「分かりました」



 そう言うと魔帝は満足そうに頷いて踵を返した。



「よろしい。アネルーテ、プレアさん、下がりなさい」

「はい」

「はーい」



 魔帝が命じるとプレアと魔王は下がり、俺と魔帝の二人を残すのみとなった。

 大事な話ねぇ……。あるとすればさっきの事とかかな?



「さて、嵩都さん。先程の力ですが」



 ああ、やっぱりその件なのね。



「あれは制御出来ますか? また、何時から意識が無くなったのですか?」



 ん? んー、どうかなぁ……。意識が飛んだのは――。



「制御、ですか。意識が飛んでしまったことから今は制御不可と考えます。意識が飛んだのは押さえつけられた後です」

「ふむ……では、その前の真空波は正常に使えるのですか?」



 魔帝の言いたいことが分からない。



「はい。真空波は通常時でも使えます」



 そこまで言うと魔帝は黙りこくった。何なのだろうか?

 魔帝がシステムメニューを開いてストレージから一枚の紙を取り出した。

 その紙と俺を見比べている。何だか観察されているような感じがする。

 いや、正確には試されていると言った方が正しいか。



「嵩都さん」



 魔帝が長い沈黙を破って俺の名を口にした。



「はい」

「貴方に縁談があります」



 え、縁談? 縁談って貴族が婚約とか結婚する時にやるお見合いみたいな物だろ?

 勇者とはいえ事実上市民と変わらない俺には不分相応のように思える。



「相手は我が娘の第二王女アネルーテ。どうでしょうか?」



 ――――はい?

 瞬間、心のブレーカーが落ちたように頭が真っ白になった。

 ――復旧。ふぅ……魔帝の言葉を整理してみようか。

 魔帝は魔王と俺をくっつけようとしているわけだ。

 …………え? 何この転機。人生の分岐点じゃないか!?

 しかし不可解だ。第二王女ともなれば他の縁談も来ているはずだし俺よりも美味しいと思われる貴族はいくらでもいるはずだ。



「何を考えているかは大体分かります。大方、他の縁談はどうしたか、でしょう?」



 魔帝が察したために俺は頷くしかなかった。

 魔帝は深いため息をついて俺を見た。



「アネルーテの縁談はこれまで全て破談にさせられました。主に本人の手によって」



 うわぁ……王女らしくない反抗。

 普通は政略結婚が云々で嫁いでいくはずだけどな……。



「……心中お察しします。それよりも何故俺に白羽の矢が立ったのでしょうか?」



 今聞きたいのはこっちの方だ。少なくても俺以外にも良い物件はいたはずだ。



「理由の一つとして今度の世界会議にて起こると思われる『勇者の争奪戦』、それが起こる前に勇者の中でも一際になると思う人物を二名厳選して先に取って置こうという魂胆です」



 物は言いようだな。ここまで正直に言われるとは思って無かった。

 それだけ魔帝のお眼鏡に適ったということだろうか?



「なるほど」

「そろそろ答えを聞いておきましょうか。情報によれば召喚された者たちは全員が上級文官並の知能と近衛――貴方は将軍以上の武力があると判断します。振る舞い的なものは婚約した後にでも教えれば良い話ですし。私は貴方が娘の縁談相手としては良いと考えています」



 正直に言って縁談の答えはもう決まっている。



「この縁談、謹んでお受けいたします」



 俺は深々と頭を下げる。

 この縁談が成功すれば富と名声と身分と嫁が手に入るわけだ。一気にリア充だ。

 それに俺の人生が決まると言っても過言ではないし、権力も取れる。

 継承権は低いが恐らく将来にはエンテンス城を貰えると皮算用出来る。

 ――まあ、上が馬鹿や阿呆ばかりなら暗殺して主権を握っても良いのだが。



「面を上げなさい」



 魔帝に言われて顔を上げ、立ち上がって姿勢を正す。

 魔帝の目はいつもの怜悧な視線ではなく母親特有の優しい光が灯っていた。



「先に言っておきますが、この縁談は何が何でも成功させなければなりません。何故かというと我が娘が年増になってしまうからです。そのために私たちはこの縁談に全力を持って臨みます」



 なんかメタな発言が飛び出た。



「さて、先程も言いましたが私たちはこの縁談を全力で支援します。よって、しばらくの間貴方はこの城に滞在して貰い、明日より立ち振る舞いや動作、戦術、実地戦闘訓練等の基礎を憶えるまで行って貰います」



 訓練か……俺の元の身体能力を考慮するなら必要ないとは思う。

 礼儀作法は習うしかないな。くそっ、意外と面倒くさそうだな。

 だが、王女様を貰えるのなら俺も全力を尽くさねばなるまい。



「了解しました!」



 俺は威勢よく魔帝に礼をした。

 ――ふと、何故かプレアの笑顔が俺の脳裏を横切った。なんだったのだろう?







~魔帝視点~

 嵩都が退出した後、魔帝は私室に向かっていた。



(ふぅ……口ではああ言ったものの実は適当に選んだとか言えませんからねぇ……。よくもまあ、あんな思いつきが出来たものだと自分をほめたいくらいです)



 実際、次の会談は世界の領主や国王たちが集まる世界会議だ。

 勇者を召喚したことも間諜によって既にばれている。

 アルドメラの失態を各国に詫びると共に、おそらく各国に十人ずつほど勇者を分配することになる。



(まあ、あんな個性豊かな勇者たちが言う事を聞くと思えませんけどね……)



 要するに戦争が必然的に起こることを魔帝は危惧していた。



(嵩都さんだけでなく全員を重宝しておけば自主的に戦争に行ってくれるでしょう……はぁ、歳を取るにつれて自分が性悪になるのが分かるわ……)



 魔帝は長い通路を歩きながら大きく溜息をついた。



(いっそのこと魔物が大反乱でもしてくれないでしょうか……)



 魔帝はもう一度億劫そうに溜息をついた。

 私室の扉に手を掛けた時には既に意識を切り替えて侍女の一人を読んだ。







~幕間

 食堂で魔王と共に昼食を取っていたプレアはスキルによって強化された聴力を使って嵩都と魔帝の会話を聞いていた。



(概ね予想通りかな? じゃあ、そろそろ実験開始と行こうか)



 そんな思考を表面には出さず、幻惑魔法がかかっているカレーを解呪しながら食べていた。

 食事を終わらせたプレアは倒れたアネルーテを介抱しながらリンクを飛ばした。







~嵩都視点~

 魔帝との話も一段落着き、まずは昼食を取りに向かった。

 食堂に来てみると既に長蛇のお替りの列が出来ていた。流石はカレーだな。

 待つこと五分。俺の番が来た。用意してくれるのは大柄の獣人女性だ。

 他の獣人たちにも指示を出していることから料理長だと推測を付ける。

 推測はほぼ間違っていることはなさそうだ。

 先程から全部の指示を彼女が出している。



「来たかい。さあ、沢山と食べておいき!」

「ありがとうございます」



 俺はカレーを貰い、手頃な席に座った。

 さて、記念すべき異世界カレーの一口目を頂きますか。

 頬張る。一見普通のカレー……レストランなどでよく見る具無しカレーだが、これは違う。一口喰えば分かる。異世界独特の食材が濃縮されて詰まっている。

 白米とも実にマッチしていて食べれば食べるほど涎が出て汗が吹き出し、手が進む。

 ……はっ、もう食べてしまったのか。

 時間にしてわずか一分。カレーはあっという間に俺の胃袋に消えてしまった。

 足りない、もっと食べたい。そう思うほどに食欲を圧倒的にそそる。

 気付けば俺はお替りを求めて並んでいた。辺りからも次々にお替りする人が出てきている。



「ほら、次が来たよ! 気合入れな!」

『イエス・マム!』



 厨房からは料理長の声が響き渡り、それに続いて女の子達が唱和する。

 これだけの人数相手にどれだけ持つのだろうか。

 鍋は次から次へと運ばれてくる。だが、それを上回る人数が押し掛ける。

 あっ、俺の番だ。またカレーを貰い、席に戻った。

 …………げっふぅぅぅ。

 あり得ない。二杯目をあっという間に平らげてしまった。

 あと、もう一回……もう一回だけなら大丈夫だ。



「ちょっと待ちなさい」



 来たな天使。だが俺の覇道を邪魔はさせない!



「悪いことは言わない、やめとけ」



 おい、悪魔。何でお前が天使の味方している?



「美味い物を食ったときくらいはいいだろ」



 まあなんでもいいが。とりあえず何で止めとくべきだ?



「気付いてないのか?」



 何に、だ?



「お前の腹はもう腹八分目だよ」



 嘘だろ?



「いえ、気付いていないだけで本当です」



 いや、だってまだ俺は食えるぜ? 感覚的には腹三分位だ。



「確かに美味しくてもっと食べたいですが……このカレー、幻惑魔法がかかっていますよ?」



 ……え? 幻惑――ああ、いくらでも食べられるという幻惑か?



「そうですね」

「まあ、とにかくやめておくべきだ」



 そこまで言うのならやめておくか。



「分かってくれて何よりです。それでは」

「じゃな」



 そう言って両者は消えていった。

 ――――さて、もう一杯。



『駄目だって言っただろうが!』 



 冗談だ。分かっているから。

 俺は席を立って食器を持ち、返却口に向かった。



「御馳走様でした」

「おや、もういいのかい?」



 返却口に行くと先程の料理長がいた。



「はい、とても美味しかったです」

「そりゃあ何よりだ……あんた命拾いしたね」



 一泊置いて料理長が凄く危険な発言をした。命かかっちゃうのですか。



「食い終わった人に言っていいと魔帝様から言われていてね」

「どういうことです?」

「さっき魔帝様がねぇ、訓練課程のため魔力入りのカレーを作れと言って来てね」



 料理長が苦笑い気味に答える。



「もしかして、幻惑魔法入りですか?」



 俺の答えに料理長は目を見開き、苦笑いから笑いの表情になった。



「魔帝様も御茶目なとこがたまにあるのさ」



 それ、肯定と受け取って良いのですね?



「限度ってものがあるでしょうに」



 視線で問うと料理長は首を縦に振って頷いた。



「魔帝様に限度は無いよ。参考までに聞くけどあんたはどうやって魔法から抜けた?」



 別に隠すようなことじゃないから素直に言う。



「自分の中に居る天使と悪魔に止められました」

「くっ、面白いこと言うね、あんた。気に入ったよ」



 どうも俺の天使と悪魔のおかげで気に入られたようだ。



「それはどうも」

「ふふっ、ははは!!」



 料理長は笑いを噛み殺さず陽気に笑い声を上げていた。



「はぁ~、笑ったわ。そうそう、あんたのお仲間にも言ってやりな。きっと今頃満腹とは知らずに食い続けているだろうからね」

「料理長、次が出来上がります!」



 料理長が言い終わると同時くらいに厨房の方から声が上がった。



「ああ、分かったよ。今行く!」



 それでは俺も行くとしようか。少し引き留め過ぎたな。



「それでは、また夕食をお願いします」

「はいよ、訓練頑張りな」

「はい」



 俺は食堂の出口に向かって歩き出した。

 だが、さっきはああ言ったけどリークぐらいはしてやるか。

 俺はチャットの画面を開いて亮平、源道、三井、山下、鈴木、青葉、後藤、斎藤、ヒキたちに一斉に送れるようにセットした。

 ちなみにこれを見るとリンク魔法が要らないように見えるが長距離の相手には出来ないし戦闘中に文字を打つのは時間の無駄だからリンクは必要だ。

 で、チャットの内容はさっきの話だ。



『これを見ている者に告げる。そのカレーには幻惑魔法が掛けられている。これは魔帝様が我々に食い過ぎた時の訓練をさせるつもりらしい。リーク元は料理長だから確かな情報だ。現在のカレーを食い終わったらすぐさま片付けるべし。これを近くの者にも回されたし』



 チャットに書き終わり、俺は彼らが信じてくれるように祈って飛ばした。

 さて、楽しい食休みと行こうか。俺は食堂を出て、訓練場に戻った。


グラたん「おうおう、一気にリア充街道まっしぐらですね。羨ましい」

嵩都「へへへ……」

グラたん「さて、次回予告行きましょうか」

魔帝「次回、嵩都の処刑」

嵩都「ちょっと!?」

魔帝「冗談です。次回、カレー事件 後編」

グラたん「さてさて、こっちは設定処分をしましょうか」

嵩都「首輪でも何でも良いんで出番減らすのは勘弁してください」

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