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勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
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外伝 YourWriteOnline・The・Memorys 6

 ある程度攻略した所でハイポーションが尽き、俺たちは一度ユグララシルへと戻って来ていた。俺たち同様に物資の尽きたプレイヤーたちの姿もいくつか見受けられ、路上ではここぞとばかりにプレイヤーたちもポーションを売りつけていた。

 物資の補給を終えた俺たちは再度フィールドの攻略を進めようと城門付近へとやってきた。町中の浮遊は可能だが、城門を潜らなければフィールドには出られない。

 その城門を潜り抜けようとした時、コノミが城門付近にいる商人NPCの頭上を指差した。



「あれ、クエストマーク?」

「ん? 本当だ」



 つられてアザゼルとカユウたちも其方を見た。



「どうする? 受ける?」

「まぁ、内容次第ね」



 そう言ってカユウが勇ましく商人NPCの方へ歩いて行き、俺たちもその後を追った。



「何か困ってますか?」

「ん、あー、冒険者の人かい? 見た感じ強そうだし頼んでも良いか。実は防壁に使う木材やバリスタの木が先の戦いで尽きちまってな。もうこの辺りの木々を削るわけにもいかないから少し遠出しないといけないんだが……」

「護衛系のクエストかな?」

「かもね」



 ふと、それを聞いてセイクが呟き、カユウが頷いた。



「その遠方からの物資も底を付きかけているって話だ。そこで、地上の方から何とか物資を調達出来ないか、とオベイロン様は考えられ、その役が俺ってわけだ。だがなぁ、いくら俺でも地上に行ったことは無いし木材が豊富にある場所も知らん。君たちに心当たりがあれば一緒に行ってくれないかね?」

「護衛プラス案内クエスト、か。良いですよ」

「おお、そりゃ助かるぜ。何時行く?」

「って、言われたけど皆まだ時間大丈夫?」

「俺は大丈夫だぜ」

「私はそろそろログアウトしないと……」

「私とロージンは聞くまでもないわ!」

「私は……ま、気にニャるから付き合うニャ」

「分かった。それじゃ、セイクはここで解散かな」

「はい。皆さん、おやすみなさい」

「おやすみ」

「おやすー」

「ありがとね!」

「また明日」

「ゆっくり寝るのニャ」



 各々挨拶を交わし、セイクはパーティーを抜けてログアウトボタンを押した。

 セイクを見届けて、カユウは商人NPCの方を振り返った。



「おまたせ、おじさん。行きましょう」

「おう」



 とりあえずフィールドに出た俺たちはカユウの後に続いて行く。



「で、カユウは何処か当てがあるのか?」

「当てっていうか、ベターだけどエルフの森かな」

「え、でもエルフって木を大事にする種族だろ? 話し合いでも無理そうな感じがするけど……」



 アザゼルの言う通り、エルフ共はこぞって頭が固く、掟だの森だの自然だのと抜かす。ついでに言えばアイテム化されている木以外を攻撃や採取した場合、オレンジカーソル扱いになってエルフ共からフルボッコされる。ちなみにエルフはNPCでも女性が多いため、わざとオレンジカーソルになってかなり強い女性NPCと戯れる猛者もいる。更にはハーレム動画としてネット上にアップしているPCオブレイズもいる。



「ものは試しよ。ダメならハーフエルフの森とか人間領の方行ってみるけど」

「それニャらハーフエルフの方を先に回ったほうが良いニャ。エルフよりも頭が柔らかいはずニャ」



 設定上でもハーフエルフはエルフと人間の混血種のため人間の柔らかい思考を受け継いでいることが多く、話しやすい特徴がある。それに大多数のプレイヤーが能力値的にハーフエルフを選ぶためパーティーを組みやすく、他種族との交流もしやすい種族だ。



「それもそうね」



 全員の同意を確認し、最初の目的地はハーフエルフ領に決まった。

 そうして俺たちは地上へ戻るゲートにたどり着き、人間領の草原へと降りたった。

 降りたつと地上の重力の性かやけに体が重い。これは俺だけでなく全員が同じ症状に遭っていた。



「む、やけに体が重いな」

「重力の性かもしれないな。おっさんは大丈夫か?」

「俺ぁ問題無いな」



 クエストNPCということもあり、商人NPCは妖精形態のままだ。

 それはそれで羨ましいとカユウがぼやきつつ立ち上がり、拳を振り上げた。



「じゃー、しゅっぱーつ」



 その言葉にコノミが反応する。確かに徒歩では何十時間かかるか分からない。それならばいっそ人間領の王国まで戻って馬車を借りた方が良い。



「え、まさか歩き?」



 だが、カユウは首を横に振るって笑顔で答えた。



「そんなわけないでしょ。走るわよ」



 それに対して、俺とアザゼルは嫌そうな顔で答えた。



『げぇ……』

「早くしないとおいてくわよ!」



 カユウが草原を走り、あっという間に米粒のサイズになってしまう。



「行くか……」



 アザゼルもやや諦め気味に呟き、俺も頷いた。コノミとロージンはあの体力馬鹿の実力を知らないから余裕そうな表情をしている。



「おじさんもちゃんと付いて来るのニャ」

「お、おう。ま、ゆっくりでいいぜ?」



 何故か商人NPCに気をつかわれた。



「いつもこんな感じなの?」

「大体な」



 アザゼルの言葉を最後に、俺たちは全力疾走を強いられた。






 実に素早さとレベルに物を言わせた四時間の全力疾走の末、俺たちはエルフ領にたどり着いていた。



「ぜぇ……ぜぇ……」

「ちょ、ちょっとたんま……」

「何よ、この程度で情けないわね」

「無理言うなよ。常時走り込んでる俺たちと一緒しちゃいかん」

「この……体力馬鹿共ニャァ……」

「とりあえず最短ルートで行くわよ。ナイト、案内よろしく」

「……まさか?」

「勿論! 最短ルートだからね!」

「……ウニャァ……」



 コノミたちは何が何だか、というよりは疲れて声もあまり出ていない。カユウの言う最短ルートとはすなわち白虎のいる山を駆け抜けるということだ。しかも今回は最短ルートと来た。



「ちょっと待ってるのニャ」



 そう言って俺は皆から少し距離を取り、フレンド通信を開いて白虎へと繋げる。



『にゃ~、誰かにゃ?』

「私ニャ。今エルフ領の町にいて今からそっちいくから付いて来るニャら四十秒で支度して町に来るのニャ」

『うにゃ!? それを先に言うのにゃ!』



 一方的に通信を切られ、俺はカユウたちの方に向かった。



「どう?」

「もうすぐ来るらしいニャ」

「ん、分かった」



 そうして待つこと四十秒後。レベルと素早さに物を言わせたウチの馬鹿虎が幾重にもプレイヤーを轢き殺しながら俺たちの元へとやってきた。



『にゃいと~!!』



 そして俺に抱き着こうとしたので避け、足を引っ掛けて転ばせる。



「ごにゃにゃにゃにゃ!?」



 ゴロゴロゴロ、と何回転もして白虎が道を転がって行った。 

 そして大層ご立腹な様子で戻って来た。



「いきなりにゃにするのにゃ!」

「えっと、この人は?」

「こいつは白虎。ここから西にある山に住んでいるのニャ」

「もっとマシにゃ言い方あるはずにゃ!」



 そう言いつつもちゃっかりパーティー申請飛ばしてきて、ワンクリックで白虎を加入させる。



「ひゃ――っ!?」

「うそぉ!?」



 あ、懐かしいなその反応。最近は皆慣れてたから忘れていた。



「そんじゃ白虎、変身」

「うにゃ? 何処に行くのにゃ?」

「ハーフエルフ領に木材取りに行くのニャ。私たちはともかくコノミとロージンたちは疲れてるみたいニャから乗せてあげて欲しいニャ」

「つにゃ缶欲しいにゃ」

「はい、原動力」



 インベントリから猫が大好きなマタタビ入りのツナ缶を渡すと白虎は目を輝かせながら指先で器用に開け、缶ごとのみ込んだ。



「充電完了にゃ!」



 ボフン、という音を立てて白虎が獣形態へと移行した。



「さ、乗るのにゃ!」

「い、良いの?」

「ナイトさんたちが乗ったほうが……」

「こっちは大丈夫ニャ。さ、乗って乗って」



 ぐいぐいと二人を白虎の背に乗せ、俺たちはいつもよりはゆっくり走る白虎の後を追いかけ、あっという間にハーフエルフ領に到着し、俺たちはその足で領主の屋敷に突撃をかけ、そんな中でもカユウが淡々と事情を説明していた。



「ふむ、そんな事情があったのか。しかし我らとて半分はエルフの血を引く――」

「ガタガタうっさいわよ。返答はイエスかノウの二択よ」



 せめて最後まで言わせてやれ。ちなみに最後まで言わせると『我らとてエルフの血を引く者。木材の伐採にはあまり賛同は出来ない』だ。

 そんなこと聞いてる暇はないとばかりにカユウとアザゼルが領主の首に刀と大剣を突きつけて許可証を書かせていた。



「こ、これで良いのだろう? ど、どうか命だけは助けてくれ!」

「よし、次行くわよ!」

「……マジで?」

「そんな暴力的な……」



 カユウとアザゼルのあまりにも酷いやり方にコノミたちがドン引きしている。



「ナイトさん、カユウさんたちっていつもこうなんですか?」

「お前の物は私の物、私の物は私の物。言う事聞かないなら痛い目みるだけよ、とカユウが言っていたニャ」

「さいですか……」



 ジャイアニズムを聞かされ、ロージンはそっと視線を逸らした。

 ハーフエルフ領のホームタウン付近にある森へとやってきた。そこでは初心者が魔物相手に戦っている様子がいつでも見受けられる。



「はっ! 今だ、ルーテ!」

「やぁ!」



 ただし今日はその限りではなく、初心者とは思えない超高速の狩りが行われていた。



「うわっ……凄い」

「あの剣の動き、全くブレてない……。かなり強いですね」

「ん? って、あれお兄ちゃんだ。おーい!」



 カユウがそれに気付いて嵩都さんの方に手を振った。すると一狩りを終えた嵩都さんたちが此方に気付いて手を振り返しながら此方に歩いて来た。

 嵩都さんの視線が一瞬だけコノミとロージンを見て、すぐに逸らした。そして俺を見て、また逸らした。

 ……まさかだとは思うが、今ので理解したとか言わないよな?



「こんばんわ、夕――いえ、カユウさん、アザゼルさん、ナイトさん」

「こんばんわ。アネルーテさんもYWOを始めたんですね」

「ええ。でもカユウさんたちがいるなんて珍しいわね」

「私たちは素材収集です。あ、こちらはコノミとロージン。それと白虎と商人のおっちゃんです」

「初めまして。私はアネルーテ・スファ……オホン、アネルーテです。以後、お見知り置きを」

「ど、どうも」

「ロージンと申します。で、でも凄い美人だなぁ……YWOってこんなアバターもあるんですね」



 と、ロージンが褒めるとアネルーテさんが照れている。



「そんでもってこっちがお兄ちゃんことアストだよ」

「アストと言う。カユウたちが迷惑をかけているみたいだな」

「い、いえ、そんなことはありませんよ!」



 コノミもやけに嵩都さん相手に緊張している。……まあ、二人ともリアルの容姿を少し弄った程度でログインしているからな。分からなくもない。



「そういえばお兄ちゃん、YWO始めたなら言ってくれれば良かったのに」

「いや、開始早々カユウに頼るわけにもいかないだろう。それに今回はルーテを一緒に楽しみたいからな」

「むぅ……それよかお兄ちゃん、よくハードとソフト手に入れたね? 今だと追加生産版も売り切れちゃってるでしょ?」

「そこはコネだ」

「くっ、流石はお兄ちゃん。ずるい……」



 そんなカユウの様子に嵩都さんはやれやれと肩を竦めた。



「あ、そうだ。せっかくだしフレ登録しておこうよ」

「そうだな。ルーテも良いか?」

「勿論。それに皆のも知っておきたいからね」



 嵩都さんはともかく、アネルーテさんがやけに手慣れた手つきでメニュー画面を開き、フレンド申請を皆に送って来た。それに続いて嵩都さんのも送られてきて受諾した。



「コノミたちはどうするかニャ?」

「あ、やぁ、私たちはまだ良いかな?」

「あ、うん。そうですね。すみません」

「ううん、大丈夫よ」



 コノミたちは断ってしまったが、やはり自分たちのことを気にしているのだろう。 

 そう考えていると嵩都さんが俺を見て……視線を逸らした。



「ところで刻……いや、何でもない。そういう趣味があったとは知らなかったけどな」

「誤解ニャ!」

「分かっている。さて、そろそろ次に行くとしようか、ルーテ」

「はい。それじゃあ、皆、またね」

「レベ上げ頑張ってね、お兄ちゃん、アネルーテさん」



 誤解が解けたのかどうか今一つ疑問に思うが、俺たちは嵩都さんたちと別れ、木材の採取へと向かった。

 木材を切っていると嵩都さんからメッセージが届いた。



『刻夜君もといナイトへ。そちらにいるコノミとロージンというプレイヤーだが、見た感じ皆から一線引いているような気がした。もしかすると何か重い事情があるのかもしれない。カユウやアザゼルが不用意なことをしたらカバーして欲しい』



 一応、了解とだけ打っておく。この文章だけでコノミたちに事情があるのはバレた上に俺が既に事情に踏み込んでいることに気が付かれている。コノミたちに話す必要は無いが、カユウたちの動向には十分注意を払ってはいる。



「よっし、終わり! コノミはどう?」

「こっちも終わったよ!」



 メニューを閉じて皆を見れば、必要な規定数は達しているようだった。



「や~、助かったぜ。後はこれを持ち帰れば依頼は完了だ」



 NPC商人がそう言い、俺たちは今度は転移結晶を使って浮遊大陸へと戻った。

 依頼も無事に完了し、報酬を受け取った。素材収集クエストなだけあって報酬は割としょぼかったのは否めない。

 俺たちは一度宿屋に戻り、クエストの疲れを取っていた。



「ふぁぁ……眠くなってきたかも」



 そこでコノミに眠気が来たらしく、少しボーっとしている。



「ちょうど良い時間だし今日は一旦落ちようか」

「そうだな」

「了解です」

「うニャ」

「ごめんね~」



 コノミの言葉に各々が返答を返し、パーティーを抜けてログアウトしていく。

 念の為俺は最後にログアウトして今日は解散となった。 

 


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