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勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
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外伝 YourWriteOnline・The・Memorys 3

「そういえば午後から中央広間でPvPのイベントがあるって知ってる?」



 昼食もどきを食べていると、カユウがそんなことを言い出した。 



「公式イベントか?」

「ううん、プレイヤーが主催のイベントらしくてプレイヤーの力試しって感じらしいよ。あ、賞品はこんな感じ」



 カユウが見せてくれたディスプレイには、優勝金1000万レンと書かれていた。



「随分と破格だな」

「トトカルチョがあるらしいからね」

「それなら納得だ」



 運営側が儲けるかどうかは別として。



「だーかーら! やっぱりそうなんだって!」

「考えすぎだって、コノミ」



 ふと視線を彷徨わせると隣の席に座っていた男女が声を上げていたようだ。

 その程度のことはよくあることなので視線を紅茶に戻した。



「絶対そうだって! あの洞窟が怪しいもん!」

「まあ、そりゃそうだったけど……」

「それにこれが最後だもん! 大ギルドなんかに負けたくない!」



 そりゃ無理だな。個人で大ギルドを相手しようと思うこと自体が間違っている。

 しかし最後というのは気になるな。受験とかかな?



「ナイト~、そろそろ行くわよ」 



 カユウに呼ばれ、意識を其方に向ける。



「分かったニャ」






 カユウたちと共に中央広場へ向かうとそこはもう人でごった返していた。

 サーバーを分けているとは言ってもサーバーを移られたら人数は増える。

 特にトトカルチョやPvPがあるのなら猶更だ。



「さあさあ今日のトトカルチョは好カードばかりだよ!」



 そう声を上げたのは主催者のマーケンだ。

 見上げてみると掲示板にはプレイヤーネームが書かれている。

 ファインゼ、オブレイズ、マーケン、レビディア、ソウベン……確かにトッププレイヤー同士のカードが揃っていて、相手は噛ませ犬だろうか?

 トーナメント戦を組んでいるようだから勝ち上がればトッププレイヤー同士の戦いも見られるが、上がれば上がるほど難しいな。



「参加者はまだまだ募集中だ!」

「だってさ、どうする?」    



 隣を向くとカユウが『戦いたい』と顔に出していた。

 プレイヤーの参加費は500レン。優勝金はともかく5位までなら賞金が出る。



「やってみようかニャ」

「お、珍しくナイトがやる気だな。じゃ、俺もやろうかな」

「皆がやるなら私もやります」

「おー、セイクもやる気満々だね」

「マーケンさん、私たちもお願いします!」

「お、カユウじゃねぇか! くぅー、これだからバトイベは止めらんねぇな!」



 全員の意見が一致した所で俺たちも登録した。



「わぁ! 凄いな!」

「私たちもやってみましょうよ!」



 ふと視線を向けるとさっきのプレイヤーたちがそこにいた。

 ……出るというのなら対戦相手になるかもしれないな。少し装備や外見を見て見る。

 女性の方のプレイヤーは素早さ特化、男性の方は攻撃力優先、いや防御型か?



「ちょうどこのイベント2対2だね」



 ……何?

 もう一度掲示板を見上げてみると確かに2対2だ。



「……」  



 カユウとアザゼル、俺とセイクといういつもの組み合わせだ。

 カユウの方を見るとニヤリとしていた。

 やれやれ、気が利くというかなんというか……。

 もう一度彼女たちの方を見る……意味はあんまりないと思う。大して強くないだろうし。やはりさっき見たから少し気になっただけだろう。



「さあ! そろそろ開催するぞー!」



 マーケンの声が聞こえてくる。



「あ、そう言えばトトカルチョかけ損ねていたわね」



 カユウの言葉を聞き、俺もそれを思い出した。

 最初の組み合わせは……オブレイズ&ソウベン対ロージン&コノミか。

 コノミ……ああ、さっきの子か。いきなりトッププレイヤーたちと当たるとは運がない。トトカルチョもそれを分かっているのか倍率は1.3倍と64.9倍。



「酷いね」

「聞かない名前だからな」

「まあ……しょうがないですよね」



 三人がそう言いつつオブレイズたちの方にかけていく。

 オブレイズは重戦士、ソウベンは速さ厨。リア充。最後のはどうでも良いとしてもトッププレイヤーの力量としては俺たちも頷ける強さだ。

 コノミたちも似たようなものだが……レベル差がなぁ……。

 68&71対24&21。

 悲惨だ。泣けてくる。彼女たちに賭けるのは大穴狙いの酔狂な奴だけだ。



「あれ? ナイトはそっちにかけるの?」



 俺とか。



「大穴狙いニャ」

「いくらかけたの?」

「秘密ニャ」



 言えるわけない。

 そんな会話をしつつ俺たちは闘技場の観客席に向かい、座っていく。

 少し時間が経つと全体に向かってマーケンが声を上げていく。



『さあさあいよいよ始まるぜ! 第一戦目はオブレイズ&ソウベン対ロージン&コノミ! 誰だこの抽選した奴! 釣り合わないにも程があるだろ!』



 マーケンの言葉に会場がドッと沸いた。



『さて! いよいよ選手の入場だー!』



 そうして四人が入ってくる。あの二人も可哀想に、という視線が多い。



「あんまり虐めてやるなよ!」

「この初心者殺し!」



 まあ野次が飛ぶわ飛ぶわ。



「もー! ひどーい!」

「まあ当然だな」



 だろうな。



『さあ四人とも準備は良いか? カウント10! 9! 8! 7!』



 カウントも減っていき、両者が武器を構える。

 俺の予想ではソウベンが一瞬で切り捨てて終わりだろう。



『3! 2! 1! ――0!』

「ジャハッ!」



 カウントがゼロになると同時にソウベンが動き、誰もが決着がついたと思っていた。

 事実俺でさえ大して期待していなかった。



「うあっ!?」



 ガンッと良い音がしてソウベンの攻撃がロージンの盾に当たり、上手く受け流した。



「てぇいや!」



 その背後からコノミがソウベンを刺突してダメージを僅かにだが与えた。



『おおっ!?』



 思わぬ先発攻撃に会場が沸き上がる。



「ぬぅ……」



 まさかダメージを食らうと思っていなかったソウベンが一度下がり、距離を取る。



「おいおいソウベン、ニュービー相手に何やってんだ」      

「いや……すまん」

「だが、ちぃっと変なんだよな……」

「何がだ?」

「それが解ったら苦労せんわ。いくぞ!」

「おう」



 今度は二人が同時に動き、距離を詰めていく。

 そしてオブレイズが右手の剣を下段に構えると剣が黄色に輝き出した。



「ソードスラスター!」



 剣スキルの上位突進技だ。確か最大5mをコンマ一秒で突進する技だったな。



「ふぅっ!」



 対してロージンは左足を引いて重心を右足に乗せ、剣と盾がぶつかると同時に受け流し、更に単発の斬撃をその背に浴びせた。



「まだまだ!」



 先程の仕返しにとソウベンががら空きのロージンを狙った。



「てやっ!」



 その右側からコノミが突撃をかまし、ソウベンの意識が一瞬其方に向く。

 ソウベンは何とかコノミの攻撃を防ぐが、それに呼応してロージンが剣スキルの刺突三連撃、ロードラッシュを繰り出した。



「あ……」



 誰がその言葉を発したのかは分からないが、そのロードラッシュは頭に二発と首に一発入った。YWOにおいてもその部位はクリティカルヒットが設定されているため皆が皆積極的に狙う。この際だからはっきり言おう。対人戦においてレベルはあんまり意味が無い。どちらかというとスキルとプレイヤースキル重視。何故なら……首や頭にヒットしてしまえばクリティカル補正で弱者が強者を倒すことも出来るからだ。最も上位ランカーたちは簡単にそんなことにならないし、対人スキルだってそれなりに高い。

 だから今回のような番狂わせは実に珍しい。



『オオオオオオオオオオオオオ!!』



 まさかのソウベンが倒されたことにより、会場は絶叫。



「だっしゃぁ!」



 続けて、格下にソウベンがやられたことによってオブレイズが激昂。剣スキルの派生形、ユニークスキル『剣王』のジ・アブカルムストライクを繰り出した。俺も何回かレイドで組んで間近で見ているが、盾による突進三回と盾強打五回、その後にスタン付与の高速十四連撃と容赦のない最上位スキルを繰り出した。

 二人はそれを見て逃げ出す――のではなく、迎撃を選択していた。



「はぁ!」



 多分、何も知らないロージンは盾スキルの突進技と勘違いして迎撃すべくアールスパイクを繰り出した。

 当然、一度目は迎撃されても二打、三打とぶち込まれてロージンが押される。そして盾による五回の強襲を受け、ロージンの盾耐久力が0へ落ちて割れてしまう。

 オブレイズは鬼もかくやというような笑みを浮かべ、剣を振りかぶった。

 きっと誰もが『あ、惨殺されるな』と思った。

 ぶっちゃけ十四連撃とか初心者に使うスキルじゃないからな。一瞬で挽肉になってもおかしくない。



「そーれっ!」



 だが、隙だらけのオブレイズの背後からコノミがその首目掛けて細剣スキルの突進刺突、リーズシュラスコを的確に打ち込み、オブレイズのHPがあっけなく0に落ちた。

 ……まあ確かに背中はがら空きだなぁ、と俺も何度か思っていたのだがそれを見事に突かれたな。

 誰もが茫然として、司会のマーケンですら声を失っていた。



「やったぁ!」

「よしっ! 一回戦突破だな!」



 会場の中心から二人の声が響き、皆が少しずつ我を取り戻していく。



「お、」

『ウオオオオオオオ!!』



 会場中から雄たけびが上がり、皆が彼らを称えた。



『ま、まさかの結果! まさかの結果になりました! トッププレイヤー二人がやられ、ここに新たな強敵が誕生しました!』

「え、ええ?」

「な、なんか凄いことしちゃったのかな?」



 二人はまだ良く分かっていない顔をしている。とは言え、二回戦もあるのでマーケンが二人を控室に向かわせ、次の戦いが始まろうとしていた。

 三人はまだ茫然としていたので俺は先に支払いの方を済ませる。

 ニャフフ、三億と四千九百万レン。奴等のギルド財産は実に二十億近くあるが、これはかなりの痛手だろう。

 適当に飲み物を買って戻ってくるとカユウたちがさっきの戦いを議論していた。



「……なあ、カユウはあれどう思う?」

「古武術、じゃないわね。足や重心の動きは剣道に似ているけどもっと軽やかというか……でも解せないのは受け流すタイミングね。まるで解っていたみたいな動きだったわ」

「よっぽど研究していたのか?」

「だとしてもあのレベルじゃオブレイズたちの素早さには勝てないわよ。それこそどっかの馬鹿エルフ猫みたいに西方山で修行でもいない限り――」

「だーれが馬鹿エルフ猫ニャ」



 その背中に良く冷えた水滴を垂らす。



「ぴぎゃあ!」



 飲み物をセイクをアザゼルに渡し、反射的にカユウが上げた拳が俺の頬にクリティカルヒットして俺は観客席の奥まで飛ばされた。

 一応会場は破壊不能オブジェクト設定が付いているから破損とかは無いが、他のプレイヤーに大層驚かれた。戻ってくるとカユウが頬を赤くしながら肩を震わせていた。



「こ、この馬鹿! いきなり何するのよ!」

「先に言ったのはカユウニャ!」

「ああ、そうだな」

「あんたは黙ってなさい!」



 逆切れにも等しいカユウの拳がアザゼルの毛深い腹に埋まった。



「ぐふっ、理不尽だ」

「まあまあ、三人共落ち着いて」



 セイクの言葉で俺たちは渋々席に着いてクールダウンする。



「で、話を戻すけど、あの二人についてナイトは何か知ってる?」

「んニャぁ……残念ニャがらニャにも」

「ナイトが知らないとなると誰も知らないわね、これは」



 カユウもアザゼルもセイクも知らないダークホース。特にセイクは情報を集めるのが好きなため一番詳しそうなのだが、知らないと。



「あ、次私たちだ。行くわよアザゼル」

「もうそんなか。おう!」

「行ってらっしゃい」

「頑張るニャ」



 二人を見送り、掲示板の方を確認する。

 カユウ&アザゼル対リベット&バスター。

 うん、相手は中層クラスのプレイヤーだ。実際プレイヤースキルもそんなに高くない。



「面!」

「どっせい!」



 予想通り開始と同時に唐竹割りと胴体真っ二つという酷い一撃で決着がついた。

 もういっそ相手が可哀想とすら思う。いやそもそもこれがあるべき姿で先程の二人の決着の方がおかしかったんだ。

 

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