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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第十六話・訓練しよう

グラたん「第十六話です!」


~嵩都視点~

 朝食を食べ終えた俺は部屋に戻り、訓練用の胴着に着替えた。

 訓練用の胴着は男性は柔道の胴着を薄くして柔軟に動きやすくしたものを思い浮かべてくれればあながち間違いじゃない。下は黒のジャージっぽい奴だ。

 女性用は上が白の半袖と胸当てで、下は同じ黒いジャージっぽいの。

 俺は木剣を手に取り部屋を出て鍵をかけてから訓練場に向けて歩き出した。



「おっ、朝宮、おはよう」

「ああ、おはよう」



 挨拶したのは三井だ。猛たちとは一緒ではないらしい。軽く雑談しつつ向かう。

 訓練場に来た。既に何十人と集まり、正規兵もいた。

 訓練場はかなり広く奥の方まで見ても平原が続いているだけだ。



「あ、そうだ朝宮」

「なんだ?」



 俺はアドバイスをくれるのかと思い三井に向き直る。



「先に言っておくが訓練は男女共同かつ見習い兵士混同だからな。それと私怨の持ち込みは禁止されているから気をつけろよ」

「そうか、分かったが……どうした?」

「いや、ボロを出さないようにしろよ」

「当然だろ」



 ラグナロクのことだな。何を当たり前のことを。



「ついでに言うとゲロ――――いや、なんでもない」



 ゲロ――嫌なイメージしかない。



「そんなにきついのか?」

「きついなんてもんじゃない、地獄だ」



 俺は苦渋に満ちた顔をした。



「グッドラック」



 三井がそう言って先行する。訓練はとてもきつそうだ。覚悟しておこう。







「全員集合!」



 隊長の声が響き招集がかけられる。訓練の監督は隊長だ。他にも九人いる。

 周りにいた全員が整列する。

 筋肉の凄い人、背の高い人、低い人、種族の違う人、色々な人が集まる。

 俺達も含めて三千人前後だろう。ここにいるのは皆見習い兵らしい。



「なあ、お前も今日が初めてか?」



 隣を見ると見習いらしき獣人の兵士が声をかけてくる。年齢は俺よりも年下だろう。



「ああ、そうだ。よろしく」

「おう、こっちこそよろしく」

「こちらこそ」

「初日ダウンするなよ」



 つられて周りから声が上がる。

 普通の軍隊なら叱責ものだがそこら辺の規則はゆるいらしい。



「ほう、君たちは人のことを気遣う余裕があるようだな?」



 だが、隊長が兵士たちに目を向けて言う。訂正――叱責の代わりがありそうだ。

 目を向けられた兵士たちが一斉に目を逸らすが隊長は気にせず言う。



「全員、今日の訓練の走り込みを五周増やしてやろう」



 皆、明らかに嫌そうにしている。



「嬉しいだろう?」



 隊長が問うと響くように兵士たちは答える。



『うれしいです』



 棒読み臭かったのは気のせいか。



「おや、元気が無いようだ。喜べ、もう五周追加してやろう!」



 酷い。元気が無いだけで五周追加された!



『有難き幸せであります!』



 はぁ……全員だと俺も含まれるのか。隊長は兵士たちの様子は露知らず続ける。

 一通りの説明が終わった。訓練の内容は周りを見て憶えろということらしく一切の説明がなかった。仕方ないので皆より少し遅れて開始する。

 訓練自体は腕立てや素振りなどの基礎的なことばかりだ。

 魔法の訓練も同時並行で魔力を使って魔法を出したりしている。

 基本的なことは無属性のようだ。凝縮と拡散の繰り返し。

 亮平も同じことをしていたのでちょっとレクチャーしてもらった。

 火と水は料理する際に必須だったため既に使える。

 魔法の使い方は要約すると血の流れもしくは心臓からあふれ出すイメージでだせ、という事らしい。

 とにかく、まず手に集めることから始めた。

 某ゲームの大魔王がフハハハハーと言いながら集めるようにやってみた。

 成果は僅かではあるが手に光る物体……無属性の魔法を作成することに成功した。

 無属性魔法……小説なんかの世界ではユニーク魔法だとかチートスキルなどの総称だが、この世界では本当に何の属性もないただの打撲魔法だ。

 当然だが当たれば痛いし、一定以上の魔力を込めると木を破壊したり岩を割ったりできるというのを亮平から訓練中に教えてもらった。

 今日出来たのは凝縮だけだった。

 ようやく訓練が終わったときは大の字になって寝ころんだ。

 空気と水がここまで美味しいと感じたのは初めてのことだ。



「そろそろ訓練を再開するぞ」



 隊長に呼ばれた俺達は隊長の方に移動した。

 ちなみに亮平は歩いていたが俺は歩くことがだるかったので飛翔飛行で座りながら低空飛行した。亮平が非常に悔しがっていた。

 隊長が話し始める頃には止めて立った。

 それでも足腰が立たなくなっている奴もいるようだが。



「さて、今日は模擬戦をしてみようと思う」



 その言葉に全員が隊長に目を向けた。

 特に座っていた仲間たちが目を輝かせている。

 馬鹿だな。サバゲーみたいのを期待しているようだがそんな風になるわけないだろ。



「模擬戦なのだが最初は五人チームを作ってほしい」



 いきなり大人数でやると怪我をすると言いたいのだろう。スポーツと同じだな。



「チームを作る時の注意点だが偏らないように魔法師一人、回復師一人を入れること」



 例えば魔法師五人のチームなら開始と同時に魔法で殲滅なんて言うことが出来、逆にその初撃目をしのがれたら全滅するのは魔法師チームだからな。



「基本的には好きに組んで良い。転移組も兵士と組んで良いことにする」



 しかし慣れたパーティーの方がやりやすいだろうから組むことは少ないだろうな。



「尚、今回は訓練に魔王様が参加して頂けることになった」

『うおおお!!』



 途端に騒めきが強まる。皆の視線に釣られて同じ方向を見ると魔王がそこにいた。

 へぇ、魔王も戦うのか。

ふとプレアを探してみるが流石にいなかった。



「ただし、使う魔法は『リ』のみとする」



 最弱の魔法のみ。しかし俺たちとはスキルLvが違うからいいハンデだとは思う。



「以上でチームについての注意事項の説明を終わる。各自で組んでくれ」



 その言葉がきっかけとなり辺りは一瞬で喧噪騒ぎとなった。



「魔王様、是非とも我がチームに!」

「黙れ、魔王様は我らのチームに入って頂くのだ!」

「いや、我らのチームこそが相応しい!」

「いやいや、我が……」



 流石は魔王。アイドル的な立場から声を掛けられる数が違う。



「なあ、朝宮、うちのチームに入らないか?」



 俺が魔王の方を向いていると声を掛けられた。誘ってきたのは久藤だ。



「おいおい。抜け駆けは良くないぜ、久藤」



 そう言ったのは鈴木だ。



「そうだ。朝宮は俺のチームに入ってもらうのだからな」



 続いたのは富谷。



「俺は今日が初めてだから連携もへったくれもないぞ」



 奴等は問題ないというように頷いた。



「待ちなさい。朝宮さんは私たちのチームに入ってもらいます」

「そうよ。男子ばかり良いようにはさせないから」

「それ、皆で朝宮を奪い取れ。早い者勝ちだ!」



 おい、俺は物じゃないぞ。

 そういえばいつの間に俺はこんな人気物になったのだろうか?



 「くっ、女子に渡すな!」

「朝宮、早く俺のチームに!」

「いや、俺の!」



 まあいいや。ふっ……人気者は辛いぜ。





 結局、俺は鈴木のチームに入ることになった。

 メンバーは俺、鈴木、青葉、後藤の女子ペアとヒキだ。



「よし、朝宮も居ることだし俺たちの勝利は決まったな」



 鈴木が意気揚々と勝利宣言をするが正直過大評価していると思う。



「こらこら、朝宮にそんな期待かけないの」

「やいだ、やいだぁ!」



 そう言ったのは後藤だ。ちなみにバックでやったのはヒキだ。

 後藤は前の世界に居た時は太り気味の女子として記憶していたが今は引き締まって健康そうな身体を保っている魔法師だ。



「そうですね。私達だって頑張っていますし朝宮さんだけ良い恰好はさせませんよ」

「そうだ、そうだ!」



 丁寧な口調なのは青葉だ。彼女は大体後藤と一緒にいることが多い。

 彼女は後藤と対照的にやせ気味だったが後藤と同じような肉付きになっている。

 ちなみに回復師だ。



「そうだったな」

「自分を過小評価しないで頑張りましょう?」

「よし、それじゃあ皆、やるぞ!」

『おお!! (ふぉおお!!)』



 こういう時のリーダーシップは助かる。



「役割を確認しようか」



 役割は鈴木が前衛、魔法師の後藤と回復の青葉が後衛、ヒキが中衛という事だ。



「そして朝宮には遊撃を頼みたい」

「分かった。けど具体的にはどの辺りに居れば良い?」

「最初は俺と前衛、戦況が変わったら中衛か後衛の護衛に回ってほしい」

「分かった」



 まず俺自身がどこまで出来るか分からないからな。今日で立ち位置を見極めよう。



「他は何かあるか?」

「はい」



 手を上げたのは後藤だ。



「どうぞ」

「うん、最初の開戦時だけど敵の魔法はどうするの?」

「うーん、出来れば相殺が好ましいが」

「相殺はまだ出来ないかな」

「そうか、なら俺と朝宮と川城で受ける」

「えっ、俺も!?」



 ヒキが驚くが……何を驚くことがある、それが戦士(男)の宿命だ。



「わかりました、私がそれを回復するのですね」

「そうだな、頼めるか?」

「お任せを」

「よし、後は無いか?」



 他は思いつかないな。



「とりあえずはこれでいいと思う」

「そうか……なら俺からは以上だ」



 初の模擬戦、是非とも勝ちたいところだ。



「よし、そろそろ良いか?」



 隊長が見事なタイミングで声をかける。



「兵士諸君は分かっていると思うが、模擬戦のルールのおさらいだ。まず、剣スキルは二連撃まで。ポーション等の使用、女性に対してのセクハラ、見えないところでの私刑、一定の暴力を禁止する。その他、良識の範囲で行動。制限時間は二十分、勝利条件は相手の無力化、敗北条件は味方全員の無力化。また、こちらの判断で戦闘続行が不可とみなされた場合は退場とする。そして一番重要だが、この模擬戦の私怨を引きずらないこと、他の私怨を持ち込まないことを約束してもらう。破った場合は素振り十万回をやってもらうので覚えておくように。訓練終了後に使いたい場合は個別にくること。組んだチームは一日交代とする。以上、質問が無ければ模擬戦を始める。言い忘れたが模擬戦は特殊フィールドを張るから死ぬことはないし、本物の地面が無くなることも無いので安心して励んでくれ」



 ほう、何とも便利な……ラグナロクで使えないかな?



「一応検討中だ」



 鈴木が小声でそう言った。

 途中から声が漏れていたか。



「分かった」

「いまさらかも知れないが気を付けろ」



 俺は頷いて返した。



「では最初の組を言うから前に出てくるように。一戦目、佐藤チーム対海広チーム」



 隊長に言われて佐藤たちと海広たちが前に出る。



『お前には負けねぇ』



 見事なくらい声が合わさっていた。その仲間たちも相手チームにガンを飛ばしていた。

 ちなみにだが佐藤は海広をイケメン爆ぜろと思っていて海広は昨日の彼女持ちのことを言っているのだろう。

 思いっきり私怨だが表面上は対抗意識しか見えていないので分からないだろう。

 佐藤チームは東側へ、海広チームは西側へ移動した。



「フィールド展開」



 隊長が言うと水色の薄膜が張られる。



「両チームは中に入って待機」



 隊長が首からかけていた石に声をかざす。

 マイクの魔法バージョンなのだろう。



「では、残った者は観戦室に行くように」



 その声で皆が動き出す。



「俺達も行こうぜ」

「ああ」



 鈴木の後を追って俺達も移動を開始した。



 移動途中、何故俺にそんな期待を掛けているか鈴木に聞いた所、極上料理スキルの伝聞が迂曲の末に変に解釈されて『朝宮嵩都は料理スキル(対人の意味)が高いらしい』と伝わったようだ。もちろん誤解は解いて置いたので大丈夫だと思いたい。


嵩都「ストックが無い割りには文章量多いな」

グラたん「最低四千字をノルマにしていますから!」

鈴木博太「また自分で首を絞めたな」

グラたん「こうなればヤケですよ! さ、次回予告行きますよ!」

嵩都「次回、模擬戦 前編」

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