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勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
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第百五十三話・破壊の調べ

刻夜「第百五十三話だ」

~ポノル


 ああ……これぞ至福。

 我々魔族が人間を甚振り、嘆くこの絶望溢れる地獄絵図こそが私の何よりの美酒。

 あの日以来、この光景を何度夢みたことでしょう。



「アハハハハ!」



 ほら、シャンもあんなに楽しそうに逃げ惑う人間を切り殺しています。

 シャンは物理的攻撃力と素早さだけなら魔王軍の中でもトップクラスを誇ります。

 つまりは愚鈍な人間共はシャンを目視する間もなく殺されているのです。

 今までも何度か戦争で人間を八つ裂きにはしましたが、やはり無力な相手の方が殺しがいがありますね。



「そらそらそらぁ!!」

「砕け散れっ!」



 ジェルズもベラケットも年甲斐もなくはしゃいで……全くもう。

 とは言え、私だって少しくらい羽目を外していますから人のことは言えませんね。



「ひっ! もう止めてくれぇ―――」



 バババババと機械音が響きました。

 良いですわね、この機関銃という武器は。

 威力こそ低いですけれど連射性があり拷問に向いていますね。



「ひぎゃぁぁああああ!!!」



 人間の手足が飛び散りました。

 まあ、ひ弱な人間では拷問にすらなりませんか。

 それでも醜く生き残ろうとするのですから、ああ、鬱陶しいです。



「や、止めろ! パパに何するんだ!」



 目の前には子供。昔の私たちくらいの年齢でしょうね。

 その子供が近くに会った鉄の塊で殴り掛かってきました。



「や、やべて―――」



 ―――バババババ



 子供は一瞬にして無残な死体になりました。

 幾重の銃痕をその身に刻み、手足は当然、首から上は肉塊に変貌しました。

 力なき者は死ぬ。たったそれだけのことですから。

 それに武器を持ったのなら、それが子供であろうとも私は容赦しません。

 それにしても結構抵抗してきますね。

 地上には刀や銃を持った人間がいます。上空には鉄の塊が五月蠅い音を立てて飛んでいます。

 どれにしても私たちに効くわけもありません。

 はあ、せっかく奴隷にでもしようと思ったのですがもうどうでもいいですね。



「ぎぃ……軍師殿。こいつら貰っても良いですか?」



 そこへゴブリンの団体が到着しました。

 魔界のゴブリンは繁殖能力が高く好戦的ですが、強者には絶対服従という鉄の掟があるそうです。この場合は私の方が強者なので私の様子を伺っているのでしょう。



「これらの処分は好きになさい。私は飽きましたから」



 そういうとゴブリンのリーダーは近くにいた女性に襲い掛かる。



「ありがたき幸せ……ぎひぃ――!」

「や、いやぁああああ!!!」



 剥かれ犯され。流石は人間、良い声で鳴きますわね。

 ああ、そこで絶望している男性の顔もまた良いです。

 他の人間が銃器を構えてゴブリンに向かって撃つも効いているようには見えませんね。

 あ、それを背後からオークや蝙蝠が男性を襲って喰い散らかします。

 それらを後目に私は一度城へと戻ります。

 あらかた満足したのも理由の一つですが、指揮系統も一応確認しないといけませんからね。

 シャンが遊んでいる分、私が頑張ります。



「あら、お帰りなさい。ポノルさん」



 会議室でモニタリングしていたのは魔神様ことプレアデス様です。

 スルトさんとの関係を知った時は驚きましたが、今では立派な魔神様です。

 ああ、いつ見てもお美しい。本心からそう思い、同時に女性としても嫉妬してしまいます。

 そんな彼女をベタ惚れさせているスルト様はやはり邪神なのですね。

 悪いお人です。



「只今戻りました」

「指揮なら問題ありませんよ? それにバウゼンローネさんもいますので」



 その隣には静かに椅子に座らされてポテチと炭酸を広げてつまんでいる第二位バウゼンローネの姿がありました。

 別段、幹部が魔神様と共にこうしているのも珍しくはありません。

 魔神様のお人柄か温暖な性格か、部下がいない場だと結構だらけています。

 魔神様の護衛は基本的にバウゼンローネが務めています。

 前々からのお付き合いがある故か一番の適任者です。

 ――余談ですが、この二人は太らない体質らしいのでいくら油物や甘い物を食べても大丈夫という女性……私たちにとっては羨ましい体質をしています。

 さて、問題がないならそれでも良いのですけれど。



「そういえば、地球制圧ってどれくらいの時間がかかるの?」



 魔神様が質問されてきました。



「そうですね……既存の兵器しかないのなら一月とかからないでしょう」

「一か月かぁ……。地球側の勇者――特異点だっけ? その人たちは出てきたの?」

「いえ、スルト様が協力者と共に別の世界に封じ込めているようです」

「そうなんだ……。だけど、その特異点の彼らが出てきた場合はどうするの?」

「出てきた場合、ですか……」



 そういえば考えていませんでしたね。

 いっそ殺してしまえばそれで済んでしまう話なのですけれど……それだと人間たちに与える絶望が軽くなってしまいますね。

 さて――どうしましょうか?

 そう考えた次の瞬間、バウゼンローネが読んでいる雑誌が目に入りました。

 何かのバトルものの漫画のようですね。そして私は閃きます。



「では、地球を掛けた五番勝負でもしてみましょうか」



 勿論、内容は殺し合いです。人数は十人くらいで良いでしょう。

 各国代表や特異点を まとめてなぶり殺しに出来るチャンスです。

 例え負けても滅ぼせばいいだけですからね。反発は出るでしょうけど。

 ロンプロウム側の勇者もこの星の何処かにいるようですが、それは事前契約を盾にすれば良いことですね。

 ハッ、まさかスルトさんはこれを見越して……?

 流石にあり得ないと思い直しました。



「軍師がそういうことを言うのは珍しいですね」



 熟読しているローネが雑誌から顔を上げました。




「あら、ローネはこういうの嫌いですか?」



 嫌いなわけないのは読んでいる雑誌から分かりますが敢えて聞きます。

 すると、予想通りにローネは首を左右に振って否定しました。



「ううん。とっても魅力的だと思いますよ」

「魔神様は如何でしょうか?」

「面白そうだね。良いと思うよ」



 二人のお墨付きを頂いたのでこの催し物を開催することにしましょう。

 そうなるとやることがちょっと増えてきますね。

 対戦地を選び、ルールを決めて、人員を選抜する―――と。

 フフフ、なんだか楽しくなってきましたわ!




~嵩都

 VRMMO、YWOにログインし、スタート地点に来ていた。

 その町では大多数のPCが既に町から姿を消していた。

 中央大陸へ向かうための準備をしているのだろう。

 俺の姿はハーフエルフだ。

 このゲーム内でも操作のしやすさから一番の人気を誇っているアバターだ。

 まずはフレンドコールを繋ぎ、ログインしている亮平たちに声をかける。



『亮平、聞こえているか?』

『ああ、聞こえているとも。お前を殴らないと気が済まん。今何処にいやがる』



 うわ、凄いご立腹だ。



『まあ落ち着け。とりあえず亮平たち全員の身柄は保護した。言っちゃなんだがコレって出来レースなんだ』

『……ほほう』



 その一拍の間が実に怖い。



『詳しいことはナイトと共に話すから。場所は人間領の王国の宿屋だ』

『――分かった』



 通信が切れる。



「絶対リンチにされるニャ」



 ナイトが長い耳をピクピクさせながら怯える。



「しょうがないな、こればかりは。ナイトは自分がアレだってことばらすのか?」

「いわニャくてもそう――大海正業社の社長さんがばらすだろうニャ」

「そうか……」



 それから待つこと十分程すると怒り心頭の勇者様御一行が到着した。


 ――表に連れていかれてぶんなぐられた。

 主に打撃武器や魔法を中心的に使われて集中リンチされた。

 町中はPK不可能でHPバーが減らない代わりに精神的苦痛がある。

 ナイトは女だからということか身内の女性陣にボコボコにされていた。



「さて、そろそろ話を聞こうか。嵩都」



 PCネームは面倒くさいのでそのまま自分の名前を使っている。

 他の皆も似たり寄ったりだ。中にはPCネームがある奴もいるのだが、面倒くさいので割愛し、リアルネームで呼ぶ。



「あのさ、椅子に括りつけて目隠しして身動き取れなくするのって拷問だよな?」

「うっせぇ。それじゃ、まずは俺たちが無事な出来レースについて説明して貰おうか」

「納得のいく説明があるんだろうな? オイ」



 亮平も大典も多分凄みのある表情なのだろうと思う。



「俺に聞くよりもナイトに聞いた方がよく分かると思うんだが……」

「ということらしいぞ。ナイトさん」



 あ、そこにいたんだ。目隠ししていると配置が分からんな。



「酷い……」

「ほら、さっさと言っちゃいなよ」



 夕夏の声もする。



「そうだぞ、ナイト――いや、カーリュ・レミテス君」



 この声は大海正業社の社長さんだな。知っていて当然か。



『―――えっ!?』



 なんか驚いている声がするんだが。



「亮平、目隠しとってくれないか? 誰がいるのかさっぱり分からん」

「仕方ないな」



 目隠しが取れ、辺りを確認するとここにいるのは先ほどいた面子と変わらないようだ。



「う、嘘でしょ……」



 最初に呟いたのは夕夏だ。



「本当……なのですか、兄様?」



 このご時世で兄様という妹がいるんだ、と思いつつ眺める。



「本当だニャ。しかし少し困ったことにニャってしまってニャ。まさか社ニャいに置いてあるAIがバグってしまってだニャァ、GMアカウントを乗っ取られてしまったんだニャ」



 その言葉に思わずナイトの方を向く。



「―――え、おい、そんな話聞いてないぞ」



 いや、本当に。初耳なんだけど。



「いや、本当についさっき乗っ取られて……クリア条件だけは介入で来たのでノアの箱舟にたどり着けば現実世界に戻れると思うのニャ」

「……ちなみに聞いておくが嵩都はこの事を知らなかったのか?」

「あ、ああ。これは相当予想外だぞ……」

「この反応は本当だな。なるほど、今回は嵩都の策じゃないか……となると真面目に攻略だな。途中でレベリングも兼ねて」



 俺への嫌疑が晴れたので解放された。



「さて、それはそうとこっちはこっちでお話しましょうか、ナイト」



 そういって『クラウス』なる女性アバターの人物がナイトの頭を無造作に掴む。



「ア……ガァ……痛い! 痛い、姉さん!!」



 姉のようだな。この扱いも納得が行く。



「そうですね」



 続いて『アギト』という女性アバターがナイトを足から順繰りに簀巻きにして聞く。



「今まで何で黙っていたのか聞こうじゃないの」

「そうだな」



 そして夕夏――『カユウ』と『アザゼル』――こちらは伸平君だな。

 その二人が首や拳を鳴らしている。



「ヒニャ!? あ、セイク、助けてニャ!」



 ナイトが振り向いた先には『セイク』と書かれた女性PCが居た。



「ダメだよ、ナイト。罰と鞭と獄はちゃんと受けないと」

「ニャんか一個多いニャ!?」



 最後の獄は多分、地獄の獄だろうと思った。
















~ロンプロウムにて

 嵩都たちがVRMMOにログインする少し前のこと。

 軍備を完全に整えたバルフォレスがアジェンドに対して進軍を始めていた。

 先陣を突き進むのはかつての仲間、寝返った勇者の軍団。

 対抗するのは炎魔王アルドメラとその手勢三千人。

 とても対抗しきれるものではなかったが、アルドメラの奮戦はバルフォレス軍に恐怖を植え付けた。

 アジェンド陥落。


 この時は誰も知らない。これが後に起こる大惨劇の幕開けだと……。


 これが、バルフォレス国最後の戦争であることを――。






刻夜「次回、決別」

嵩都「そりゃそうだろうな」

グラたん「うんうん」

刻夜「ファハハハハ! 知ったことか! 人間など全て滅べ!」

グラたん「うわぁ……悪役の台詞ですね」


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