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勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
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第百四十八話・選択肢

グラたん「第百四十八話です!」


~刻夜


「ねえ刻夜君、一体何があったの?」



 隣にいる聖奈が俺に説明を求めて来る。



「最初に上段からの面の三連打ち。内二発は夕夏が反射神経で躱し、一発は食らった。次に小手が二発。剣を弾くために下段からの打撃だ。そして夕夏の体を浮かせるために胴に下方から一撃、修正とばかりに小手面三発と胴一発。最後に小手二発と小手胴三発だが――小手二発は最後の抵抗で躱されていたな。それに集中したためか胴はかわし損ねてフライアウェイしているけどな」

「全部見えていたの!?」



 聖奈と聞いていたその他大勢が驚く。



「ちなみに、右手しか使ってにゃいにゃ」



 白虎が後付けするようにそう言う。



「白虎さんまで!?」

「むしろにゃんで見えにゃいのか不思議だにゃ? 次は刻夜がやってみるかにゃ?」

「嫌だ。理由はでしゃばると後で勧誘されるからだ。それに部活に入ったら白虎と遊ぶ時間が無くなるけどそれでもいいのか?」

「にゃ~それは嫌にゃぁ」



 うるうるした目で俺の事を上目使いしてくる。

 それが可愛いともっぱらの評判なわけだが常時それをやられると慣れも出てくる。



「ちなみに刻夜君や白虎さんなら勝てそう?」



 聖奈が興味本位で聞いてくる。



「無理だ」

「無理にゃ」



 ほぼ同時の即答だ。



「え、嘘!? 二人がかりでも?」

『無理にゃ(だ)』

「理由として、嵩都さんは全く本気じゃない。多分だけどアレって小手調べ以下じゃないのか?」

「だにゃ。素振り程度だにゃ」

「え……じゃあゲーム内だったら?」

「対等条件で戦ったら負ける。Lv差があっても永遠ヒットアンドアウェイで削り切られる。白虎はどうだ? ルール無しの辻とかだったら?」

「刻夜と全く同じ理由で負けるにゃ。ゲーム内アバターを現実に持ち出して、伝説級装備で全身固めて最大上限までステータスを引き上げてルール無制限だった勝てるかもにゃ。まあ、不可能にゃけどにゃ。そうじゃにゃくてもあの状態だったらまだ勝機があるかも、という話にゃが……ああいう人物は絶対せこい奥の手を隠しているにゃ」

「……だろうな」



 時折、白虎は鋭い勘を発揮する。

 確かに嵩都さんはヴァルナクラムシリーズや邪神魔力や聖魔力を保持している。

 あれ等を使われて、一対一で勝てる生物はいない。断言できる。

 ゲーム内の四神が総がかりで殺しに来ても一分持たないだろう。



「あ、終わった見たいだね」



 気が付いたら試合もいつの間にか終わっていた。



「それにしても私が知っている中で最強の二人が揃って無理なんていう日が見れるとは思っても見なかったよ」

「ハハハ、上には上がいるもんだ」

「だにゃ。あの人は例外で規格外で化け物だにゃ」

「白虎さんにそこまで言わせちゃうんだね……」



 聖奈が驚愕しつつも嵩都さんたちを視ている。

 試合は嵩都さんの勝利で終わり、顧問の先生が自身が所属するチームに勧誘していたが嵩都さんは剣道バランスが崩れるからという理由で辞退していた。

 その間に夕夏がこちらに戻ってきた。



「お疲れ様、夕夏さん」

「うう……お兄ちゃん強過ぎる」

「夕夏がにゃき事言うにゃんて珍しいにゃ」

「だって……」

「まあ、よくやったと思うぞ」



 夕夏がぐったりしながら白虎に倒れ掛かった。



「んにゃ」



 白虎がその豊満な胸で受け止めた。



「……全国決勝で敗れた人の気持ちが味わえた気がする……」



 ぼそっと夕夏がそんなことを呟いていた。

 余程悔しかったのだと思う。

 嵩都さんは満足したのかいずこへと去って行った。

 ……後で授業内容を確認してみた方が良いかもしれない。

 嵩都さんたちにとってはノーマルワークでも俺たちにとってはベリーハードワークかもしれないからだ。

 いや、むしろそれで魔法が使えるようになるなら安い代償か……。

 そう考えつつ、夕夏を介抱した。

 結局、夕夏は無様な剣道部に入部するのを少々ためらった。

 理由として、先ほどの嵩都さんとの試合で自分の強さをここでは伸ばせないと思ったらしい。

 ルールに乗っ取った試合なら夕夏は持前の自力で五輪さえも優勝出来るだろう。

 だが、嵩都さんと対等――は無理にしても善戦出来るようになるんだったら剣道にかまけている暇はない。

 それも人間の状態で強くなりたいなら尚更だ。



「それで、夕夏はどうしたんだ?」

「ん~、とりあえずは強くなっておきたいね」



 強くなりたい――誰もが一度は思う願望だ。

 俺はそれを否定はしないが……やはり最後にモノを言うのは才能なんだろうな。

 いくら努力したって才能には勝てん。

 ちなみに異能とかは別問題だ。あれは人外の力だからな。



「具体的には?」

「さあ? お兄ちゃん直々に稽古つけて貰うしかないんじゃないの?」

「……まあ、それが一番手っ取り早いけど絶対忙しいと思うよ」

「あれで?」



 俺たちが居るのはグラウンドだ。

 そこではサッカー部と嵩都さんが試合している。

 点数は見るまでもない。一方的な試合だ。

 仕事しろと言いたいが、多分一か月前後の仕事はもう終わっているのだろう。

 本人は力があり過ぎる性で気が付いてないかもしれないが、元々嵩都さん自身が筑笹 さん同様の万遍なく全てをこなせる天才だ。

 ……ちなみに嵩都さんを有能な人種にしたらその他の生物は全て無能になるだろう。

 俺も例外じゃない。

 さて、そんな人生謳歌している嵩都さんがサッカー部に文字通りの完勝を果たし、悠々と次の部活を荒らしに向かった。



「くそぉ……」



 伸平が途中参戦して一回もボールを取れず惨敗して戻っていた。



「お疲れ~。そっちも散々だったみたいね」



 夕夏が嵩都被害者の会の同士を向かえ入れた。



「なあ……俺たちのあの血と汗と涙の努力は一体なんだったんだ?」

「さあね……努力を嘲笑わないだけマシじゃないの?」

「嘲笑われる程度の努力はしてない。……って、夕夏もやられたのか?」

「完敗よ」

「お前が……? ありえねぇ」

「私だって信じられないわよ。普通ならエース級のあんたが手玉に取られてるんだから」

「……やべ、なんか泣けてきた」

「全く同感」



 弁護しておくが伸平自身の身体能力はかなり高い。

 ゲームでもそれは遺憾なく発揮されている。

 ゲーム内では大剣を振るうため鈍重の様に思われるがそれを補う身体能力がある。

 通常のチャンバラなら夕夏といい勝負になる。



「で、これからどうするんだ?」



 勝手に泣いている二人にそう言い、話を戻す。



「うーん……今から今までの事柄を全部捨てて鞍替えするのはちょっと気が引けるというか……でもそうしないと勝てないのよね、多分」

「だが、そうするとこの先の生涯が全部変わっちまいそうなんだよな……」

「なんか人生の分岐点みたいね」

「……ちなみに刻夜はどう思う?」



 伸平が結構真面目に話題を振ってきた。



「はっきり言って助言は出来ないな。俺の一言で人生全部を変えてしまうかもしれないし責任は取れないからこればかりは自分で考えるんだな」



 それと同時に二通りほど助言を考えた。


 一、『嵩都さんに勝ちたいのなら全てを捨ててでも嵩都さんに教えを乞う』。


 設定上、嵩都さんはシスコンの節があるため夕夏の決心を無駄にはしないだろう。

 結果的に人外の強さになることは目に見えているし、生涯をかけてでも勝とうとするだろう。

 ただし、この場合は確実に人生を棒に振り、尚且つ勝てるかどうかは不明瞭だ。


 二、『別に嵩都さんに勝つだけが生き方じゃない。今まで通りで良いんじゃないか?』。

 これは今まで通りに剣道とサッカーを歩む道だ。こちらの方がまだマシかもしれない。

 だが、あと半年もすれば地球は終わり、その道を閉ざすことになる。

 未来が分かっているが故に教えてあげたくもなるが、無為に絶望をくれてやることもあるまい。後は両立かな? 多分、二人ともこれを取りそうな気がする。


 人間というのは結局、妥協して終わる生物なのだろうな。

 最後のを取った場合、嵩都さんを追いかけながらも途中でまた分岐点で悩み、勝てなさそうと思い、自分の道を進むのだろう。



「少し考えてみるわ」

「――そうだな。まだ時間はあるんだし」

「それが良いかもな」



 いずれにせよ、俺の出る幕はない。

 聖奈だってこんな問題は経験したことがあるのか、黙っている。

 二人がどんな結論を出そうとも、俺たちは傍観者だ。





 次の日、二人はまだ悩んでいた。

 嵩都さんの授業が始まってからも悩んでいた。

 嵩都さん自身はそんな二人を見て気遣っていたが、二人に断られ、引き下がった。

 五・六限目に行われる嵩都さんの授業では基本的に魔法の講義だ。

 事前のプリントは既に熟読していること前提だと最初に言っていた。

 理論よりも実践。

 いきなり魔法ぶっ放しとかは出来ないため、まずは地味な魔力開眼から始める。

 最初こそ嵩都さんが自身の魔力を分け与えてイメージさせる。

 最初に開眼したのはやはり俺たち四人組だ。

 元から筋が良いのと、俺がさっさと確定したからだ。

 こんなところでつまずいても困る。

 他? 知ったこっちゃない。モブだから。

 とは言え、ここに居る大半が真面目な奴とゲーマーの奴等だ。

 そのためかイメトレやコソ練の積み重ねで二週目に開眼していた。

 その間に俺たちは身体強化して竹刀でチャンバラしていた。



「蓮華!」



 無論、体に染み込んだゲームの技を使ってだ。

 蓮華は突進からの上段斬りだ。刀スキルの技で使用しているのは夕夏だ。



「まだだ、斬月!」



 それに対応するのは伸平だ。

 斬月はバックステップで一泊置いて斜め右に跳躍し、左から右へ斬る大剣の技だ。

 それを身体強化し、ゲーム内とほぼ変わらない速さ……要するに常人の動体視力では全く見えない軌道を描いている。

 対応できるのは同じ強化をしている奴か俺か白虎くらいだろう。

 現状の皆じゃ無理だ。

 これに困ったのは俺だ。

 元々素手主体の攻撃や体術しか使っていないため竹刀はただの飾りだ。

 むしろカンフー映画みたいな動きになっている。



「にゃ!」

「ふっ!」



 からの空中殺法である。

 ゲーム内でしか使う事がないと思っていた三次元高機動戦闘を現実で出来るとは思っていなかった。

 相対するのは白虎だ。もう毎日殺り合っているほどの恒例勝負だ。

 尚、ゲーム内では辻勝負なので負けたら一方的なデスペナ(白虎に好き放題される)が科せられる。気が付いたらイかされて寝落ちしていたなんてことはザラだ。

 今回も変わらずお互いの人権を賭けた戦いとなる。

 ――負けるわけにはいかねぇ……ッ!

 負ければ現実で生々しい十八禁展開になることは必須。

 しかも現実での俺は男だ。

 俺が作っただけあって白虎が操る体はいくらでも調整が効いてしまうため不妊処理は実に簡単だ。

 そしてそれが一度でもばれれば白虎は何度だって俺を犯しにくるだろう。

 それこそ、食事中に入浴中、果ては夜這いさえして精神的に病むだろう。俺が。

 普通ならヒャッハーありがとうございます展開なんだが、俺にはどうしても避けなければいけない理由がある。

 姉さんと桜の存在だ。特に桜にとっては精神衛生上良くない。

 なので、今日ばかりは本気の本気モードだ。

 自分で作って置いてなんだが、白虎の体は非常に強い。

 殴る蹴るだけで殺人可能な域にいる。

 それが強化された現状……指は対物ライフル弾、拳は超電磁砲、蹴りは誘導型拡散ミサイルが妥当な所だろう。

 身体強化していなければ各部位がはじけ飛ぶレベルだ。

 いくら医療技術が俺のおかげで進歩していると言ってもせいぜいちぎれ飛んだ箇所を縫合して再生し、生きていくのに支障がない程度に戻すくらいだ。

 何度も言うが、はじけ飛んだら元には戻せない。

 それこそ、嵩都さんの超回復魔法でもない限りは。

 なのに白虎は一切手加減しない。俺が死んでも良いらしい。





「負けたにゃー!」



 か、勝った……。

 今回の賭けの内容はお互いの人権だったな。

 そういえば最近、白虎が俺の言う事を聞かなくなっていたような……。 

 ククク、二度と逆らえないように今夜、そのAI機能にたっぷりと教え込んでやろう。



「にゃ……にゃ?」



 白虎が困惑した声をあげるが知ったことじゃない。

 そうして授業は終わっていく。



刻夜「次回、」

グラたん「次回! 調教! 撫でる!」

グラたん「昨日のお返しです!」

刻夜「……お前、次回予告でなんてことを口走ってんだ……」

グラたん「えっ? ……あぅ……」

刻夜「引くわー」

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