第十五話・デザートの恨み
嵩都「……(やけ食いしている)」
グラたん「第十五話です! それにしても嵩都さん、そんなにプリン食べて大丈夫ですか? お腹とか壊しませんか? それにカロリーが高いですよ?」
嵩都「(手をとめて)……問題ない。そもそも俺はあまり太らない体質だし、日々鍛えているからな」
グラたん「うわ、羨ましいですね~」
~嵩都視点~
「んー」
俺は朝起きると必ずと言っていいほどの伸びをする。
理由は背筋が伸びるとか気持ちがいいとかって言う理由だ。徐に視界の時計を見る。
AM 6:10
いつも起きる時間より早い時間だ。朝食が7時半からだったか?
とりあえず基礎トレだけして今朝は聖剣の手入れに当てることにした。
部屋の中じゃ濡れるので中庭に出て購入した砥石を取り出し、布、水を用意した。
やり方は包丁研ぎと同じ要領でしか出来ないが手際良く研いでいく。
一時間ほどかけて研いだら少し切れ味が良くなった気がする。
うん。気がするだけ。実際には何も変わっていないだろう。
しばらくしていると『ラグナロクのスレ』より亮平からチャットが入った。
『朝宮嵩都:遊撃』
俺の希望は無事に通ったようだ。
他に詳細や日程を保存用として送ってきてくれた。簡単にまとめられたのがこれだ。
『日程:三月二十日、二十一、二十二のいずれか。
武具:無い者はSTより支給。基本的に木製と魔法のみ。殺傷性の高い武器はダメ。
責任:自己負担。ただし参加者全員の厳罰は免れないだろう。
作戦:後程詳しく。
裏切り:重罪。
密告:異端審問にかける。
第一隊・第二隊:1300に食堂に集合。
右翼・左翼:上記同様。
補給部隊:随時物資の連絡。
遊撃部隊:情報聴取。
以上。何かあればチャットよろしく』
了解。固有武装は使えなさそうだが俺は素手でも十分だ。
しかし試作のSTも気になるな。一応貰っておこう。
朝食の時間になったので食堂へと向かった。
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
「朝食のメニューはなんですか?」
「はい、朝食のメニューはパンとスクランブルエッグ、キャドルの千切り、エクスピガの肉詰めです、デザートは特製プリンです」
途中の2つは聞き覚えが無かったが、キャベツの千切りとウインナー、もしくはピーマンの肉詰めみたいなものだろうと思った。
だが、まさか異世界に来てプリン……それも特製を食えるとは思ってもいなかった。
プリンは俺の好物の一つだ。今回の特製プリンはシャンパングラスのような容器に入っていて下にカラメルソースがあり、その上にプリンが乗っていて三重に巻かれた生クリームが乗っている。
これの調理法知りたいな。好きなものは自分で作ってナンボだからな。
ちなみに俺はお菓子、デザート作りに関しては素材から拘り緻密な計算式を持って完成度の高い物を作る。
味も見た目もかなり良く作れるので前の世界に居た時はバイトをして金を溜めてまで作ったものだ。もちろんバイト先も洋菓子屋だ。
思い出にふけっている内に説明が進んでいた。
「そちらの配膳台に沿っていて行って下さい」
「分かりました、有難うございます」
俺はお礼を言ってその場から離れる。
「あっ、あと水と牛乳は自分でとってくださいね、パンもお替り自由ですよ」
「はい」
朝食を貰って窓側の席に向かっていると声をかけられた。
「あれ、朝宮じゃないか。おはよう」
声をかけてきたのは斎藤だ。
仲は良くもなく悪くもないが面白い奴だ。遠目に見ても『楽しそう』を体現しているような人物だ。
「ああ、おはよう」
「お前は何処の所属にしたんだ?」
斎藤が不用意な発言をしたために俺は少し周りを見る。
すると入口の辺りで女子共の群れがたむろしていた。
「少し場所を変えようか」
「――そうだな。せっかくの飯が冷めちまう」
そう言って俺達は窓側の席に移動する。席に座り朝食を咀嚼する。
パンにスクランブルエッグと肉詰めとか諸々はさんで口に入れる。
パンと野菜と肉がソースと一緒に絡まって絶妙な波長を醸し出す。
野菜のシャキシャキとした歯ごたえ、時折味を出す肉詰め、しょっぱいソースに対抗するかのように甘さを際立たせるのはスクランブルエッグだ。
美味いな。やはり自分で作るのと作られるのでは違うな。
「むぐ、もぐ、うま、うま」
「ゴクっ、ぐびぐび……ぷはっ」
ふと俺の目の前を何かが通った。
「デザートのプリン貰い」
「あっ、斎藤てめぇ!」
俺の楽しみになんてことしやがる!
その間にも奴はスプーンで俺のプリンを平らげていく。
「うめぇぇぇぇ! 他人の不幸は蜜の味!」
こ、こ、こ、この野郎……。
「あとで覚えていろよ」
「やれるものならやってみたまえ」
果てしなくムカつく。しかし言質は取った。目にモノを見せてくれる!
「今の言葉忘れるなよ」
絶対仇を取ると思いつつしばらく朝食の旨さに舌鼓を打ちながら斎藤と話した。
少しして食堂に俺の視界に奴ら(話し合いを終えた女子ども)が来るのが見えた。
「斎藤、少し下を向け……奴らが来た」
俺が言うと同時に気付いたらしく食事をしているふりをする。
しばらくすると話声が聞こえる。
「でね……が来て…………なの」
「だから…………だった……から」
「……いてね、それで……窓側?」
所々しか聞き取れない。くそっ。
「なぁ、盗聴魔法ってないのか?」
俺は声を極力小さくしてご都合主義の便利魔法があるか聞く。
「普通にあるが……どうした?」
「これからそう言う魔法が必要になると思ってな」
異世界は本当に何でもありそうで怖いな。
「そうだな、後で検討してみよう」
「助かる、それとリンクって言う魔法は使えるのか?」
これはアネルーテも使っていた魔法だ。連携するには必須の魔法だろう。
「そうだな、ヴァインさんが使っているのを見た事があるから後で聞いてみよう」
「分かった。じゃあ先に失礼する」
俺は食い終わったから席を立って食器をもって返却口に移動する。
「早いな。もう少しゆっくり食えばいいじゃないか」
「先に言っておくぞ、女子が四名ほどこっちに向かって来ているからな」
先程の会話から推測するにこっちで食べるのではないかと予想していた。
ものの見事に的中してこっちに来ている。
ちなみに窓側からは城下町が見えるから女子には大人気だ。
「なっ……まってくれ、頼む、周りが女子ばかりは嫌だ!」
と、斎藤が囲まれる恐怖に怯える。何かの拍子でばれたら死刑物だからな。
――良いこと思いついたぞ。さっきの仕返しだ。
「……このメス豚以上の家畜以下が! と大声で十回言えたら考えてやる」
「分かった、言うから少し待てくれ!」
斎藤は冷静な判断が出来ていないようだ。俺ならさっさと食って退散するね。
その間にもどんどん女子共が近づいてきている。
「どうした? 早く言った方がいいぞ」
俺は踵を返すふりをして斎藤を焦らせる。そして斎藤が深呼吸をして大声で叫んだ。
「このメス豚以上の家畜以下が! メス豚以上の家畜以下が! メス(以下略)」
馬鹿な奴だ。目の前からやってくる女子共に向かっていうとは……前代未聞の阿保だ。女子共が近くのテーブルに食器を置いて斎藤に見えないように取り囲む。
「斎藤」
「はぁ、はぁ、言ったぞ、何だ?」
まだ分かっていないようで首を傾げている。
「さっきのプリンの恨みだ……悪く思うな」
「はぁ? なにを言――」
次の瞬間、残像が見えるほど素早く動いた彼女たちが斎藤を取り囲んだ。
「おはよう斎藤君。今日が君の命日だよ」
「朝宮助け、ぐぼぁ」
斎藤の背後に回っていた女子が首を絞める。徐々に顔が青くなっていく。ざまあ。
「うふふ、挽肉にしてあげる」
「人間ハンバーグにしてあげる。ソースは体内に一杯詰まっているから要らないよね」
ソースは血だな。どれだけミンチにされるのだろうな。
女子のドスの聞いた声は何時聞いても恐いぜ。
「げふっ……はっ、まさか朝宮、俺を嵌め」
首絞めを抜け出した斎藤が問い詰める。
「人聞きの悪いことを言うな。冷静に考えた結果、待ってやらないだけだ」
世の人はそれをお約束の裏切りと言う。
「それを嵌めたと――」
その言葉が最後まで続けられることは無かった。
「メス豚以上家畜以下の恐さをたっぷり教え込んであげるよ」
拳をゴリゴリ鳴らしながら斎藤の首を絞めた。
「ま、まってくれ! 俺は朝宮に騙されて――」
「今日は寝かせてあげないからね」
「……もっと別のシチュエーションで聞きたかっ、ぐああ!」
別の女子がグリンと腕の関節を決めながら言った。
「うふふ、たっぷりと絞ってあげるわ」
もう片方の腕を、雑巾を絞るが如く絞り上げる。
「それも同じ笑顔で言われても……」
「青い狸がいい? サンタクロースのトナカイがいい?」
「…………」
また別の女子が今度は足の関節を決めた。
最後は涙目の無言で助けを求めてくるが知らん。自業自得だ。
ちなみに青い狸は丸い手、トナカイは真っ赤なお鼻だ。
「さ、楽しい、楽しいお料理の時間ですよー」
「あっ……まって、嫌だぁぁ……」
斎藤がか弱い乙女のような声を出して厨房に連れていかれた。
抵抗も許されないとは哀れな。俺は返却口に向けて踵を返した。
「御馳走様でした」
食器返却の人にひと声かけて置く。
「はい、お粗末様でした」
ちょうど返却口に来ていたのは明るそうな顔でツインテールの女の子だった。
そうして俺は訓練の準備をするべく部屋に移動した。
訓練場に移動していると真っ赤に染まったビニール袋が入っている台車が目の前を通って行った。生死と問われれば死んでいると言えそうだがピクピク動いていたので大丈夫だろう。
~最高の恐怖・斎藤視点~
女子が輪になって円陣を組んでいた。目の前には釜。
俺こと斎藤博文は生まれて初めて心の底から震え上がった……。
真の恐怖と絶対的な挫折に……恐ろしさと絶望に涙すら流した。
これも初めての事だった。
「ホッホッホ……ザーヴォンさん、ドヴォリアさん」
目の前にいる女子という名のフウィーザ様は手下を呼び寄せて――手下に殴られた。
「誰がザーヴォンさんよ」
「私はそんなに太ってないわよ」
「あはは、ごめん、斎藤の泣き方を見ていたらつい……」
さっさと七個のボールを集めに行ってくれ。俺はその間に逃げるから。
だが、小さき二人がやってくる――ましてや亡国の王子が叫んでくれることもなくその試みは徒労に終わった。
「さて、そんなことよりも――この女の敵に罰を」
そして女子の一言で和んだ空気が一気に冷却された。
『イエス! 血の祭典を!!』
「ば、馬鹿、やめろぉ――!!!」
女子達は俺を持ち上げて目の前でグツグツ煮られている熱湯の中に放り込んだ。
「ぎゃあああぁぁぁぁ………………」
俺は生まれて初めて釜で煮られた。これも初めてのことだった。
ぼんやりとした白昼夢の中、釜で煮られた俺は全身から血を噴き出していた。
妙に手際よくビニール袋に詰められ、台車に乗せられた。行先はゴミ捨て場だろう。
ぼんやりした意識の中連れてこられたのは医務室だ。
俺はすぐさま全回復させられた。死に掛けていたけどなぁ。
――――この世界で命は羽のように軽いということを思い知らされた。
グラたん「食べ物の恨みって怖いですよね……」
斎藤博文「痛ってぇ……」
グラたん「さて次回予告です!」
斎藤「次回、訓練しよう」
グラたん「訓練、頑張ってください!」
斎藤「ああ。……俺たちのことは良いが、これでストックが切れたんじゃないか?」
グラたん「……(そっと視線を逸らす)」
斎藤「……」
グラたん「いや、言おうとは思っていたんですけどね。何時言おうかと迷っていたらあっという間に時間が過ぎてしまって……」
斎藤「最初に毎日更新って宣言しちまったからな」
グラたん「うう……」
斎藤「まさか今になって三日空け更新とは言わないよな?」
グラたん「(ギクリ!)」
斎藤「やるよな?」
グラたん「い、いや私だってリアル的な事情がありますし……」
斎藤「それはそれ、これはこれ、な?」
グラたん「(覚悟を決めて)分かりました! やりますよ!」
斎藤「よっ! それでこそ男だ!」
グラたん「……私、一応女の子ですよ?」
斎藤「……えっ?」
グラたん「髪は水色で、服は少しゴスロリ衣装で、あと自分で言うのもなんですけど顔は可愛いと思ってますよ?」
斎藤「……そんな……馬鹿な……」




