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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第十四話・魔帝の思考

グラたん「第十四話です!」

サフィティーナ「私の出番は後半ですか」

グラたん「そうですね。あ、彼女はサフィティーナ・スファリアス・アジェンド、通称、魔帝様です」

サフィティーナ「以後、よろしくお願いしますね」

~嵩都視点

「こんばんは」

 食堂の少女に挨拶する。見た目は明るめで猫の獣人さん。

 茶色の髪を軽く編んである。結構な美少女で、萌えるが……下心の方は自重しよう。 

 服は動きやすいように半袖でショートパンツを着用している。色は上下とも黄色で袖などに白のフリルが付いているのが特徴的だ。

 この食堂の制服みたいなものか。中のシャツとかは皆違うからな。

 身長はルーテと同じくらいで胸大きめ……自重、自重。

 ここの食堂は獣人の女性の人が働いている。

 主にカウンターにいるのは猫耳の人が多い。人間はいない。

 萌え狙いなのだろうか?ちなみに十代の人が九割だ。



「こんばんは、初めての方ですか?」



 一発で見抜くとはこの子、やるな。

 この分だと全員の顔を記憶しているかもしれないと思った。



「そうです。しばらく依頼で帰って来られなかったのでこれが初めてです」

「分かりました。では説明しますね。ここの食堂は基本的に配膳式となります。パンとか水などはお替り自由です。配膳は右側に沿って行ってください」



 そう言って食器を渡される。

 四角いお盆とフォークとスプーンだ。器の方は後から渡されるようだ。

 一つ一つが安物ではなくそれなりに良い品を使っている。



「質問等がありましたら何時でもご相談くださいね」

「ありがとうございます」



 俺はお礼を言ってその場を離れ、厨房の方に向かった。

 厨房に向かうとやはり獣人さんたちがせわしなく動いている。

 それなのに笑顔が眩しい。働くのが好きなのだろうか? それとも趣味とか?

 そう考えていると食事を渡された。



「はいよ、お待ちどうさま」

「ありがとうございます」



 俺は料理を貰い、水とパンを食器に乗せてテーブルの方に行く。

 料理をテーブルに置いて席に座る。



「それじゃ、いただきます」



 いつもの言葉を口にして食事を頬張った。

 夕食のメニューはパンと煮物、それから鯵のような魚の干物だった。

 煮物は味付けを薄くしており魚の方の味を引き立てる役目を持っているようだ。

 干物は干物とは思えない油の乗りがあり、尚且つしつこくなくパンが進む。

 普通パンと干物は合わないと思うだろう。しかしこのパンは触感がほぼ米に似ておりもちっとしている。割と食文化が近いのかもしれないな。

 しばらく食事に舌鼓を打ち、こんな食事を毎日のように取っている兵士たちを羨ましく思った。

 森でレパートリーはずいぶんと増えたけど味の方が固定化されていたからな。

 ちなみに俺の料理は基本薄味だ。ほんのり桃の風味がするのはある意味当然だった。

 そのうちに料理の方も終わりを迎えてしまった。

 最後に残った水を飲みほして席を立ち、返却口の方に食器を返した。



「御馳走様でした」



 食器を返却し、一度部屋に戻って風呂の支度を済ませて部屋を出る。

 風呂は良い。特に露天風呂が良い。



「おっ、嵩都。今食べ終わったのか」



 風呂に行く途中で俺を呼んだのは亮平だ。手には布袋を持っている。



「ああ、そうだ」

「お前はこれから風呂か?」

「そうだな。初湯と行こうかな」

「なら一緒に行こうぜ。城壁の方の説明もするからさ」

「わかった」



 亮平に引き連れられて大浴場の方に向かった。

 大浴場の暖簾を潜り、中に入った。自分の衣服に手をかけて脱ぎ、脱衣籠にいれた。



「うお、すげぇな」



 亮平が俺の体を見るなりそう言った。



「そうか?」

「なんか歴戦の戦士みたいだな」



 確かに筋肉と相まってそう見えるのかもしれない。

 ……あ、そうか。俺は修学旅行とかでも風呂は個別に入っていたから知らないのか。

 確かに俺は普通の日本人より鍛えている。まあ、せいぜい屋根の上や電線を走る程度だけど。



「お前の方もだいぶ筋肉が付いたように見えるけどな」

「おうよ」



 亮平は腕を曲げて筋肉を見せびらかす。

 俺は体に大きなタオルを巻きつけて大浴場に向かった。



「先に行っている」

「すぐ行く」



 大浴場に入った。大浴場には湯が二つあり目視平方面積十五mはありそうだ。

 もうひとつは露天風呂だ。ラグナロク時はこの壁を破壊するのだろうと思った。

 俺は近くにあった桶に手を伸ばし頭と体を洗った。

 流石に五日も入らないと痒くなるものだ。

 洗い終わって露天風呂の方に移動して入浴した。

 風呂の温度は40度前後だろう。熱くなく寒くなく極楽、極楽。



「いたいた」



 しばらく入っていると亮平が俺を見つけて入ってくる。



「朝宮……タオル巻いたまま入ったら駄目だろう」

「それはそうだが……って、お前は知っているだろう」



 亮平には既に話したことがあるから分かっているはずなのだが……。



「ははは、言ってみただけだ」



 やっぱり茶かしただけか。過去を弄られるのはそんなに好きじゃない。



「全く。それより例の説明してくれ」

「分かった。まずは目の前の城壁についてだ。この城壁は触れば分かるがとても固い。魔法耐性も付与されていて生半可な攻撃では破壊が不可能だ。魔法とて万能ではないらしい」



 物理はほぼダメ。魔法も効果薄と。厄介だな。

 余程の前科があると見えるな。誰だ、覗いた奴。



「ただ、集中的に攻撃するかもしくは大魔法級の魔法を放てば限界値を超えて壊れる」

「なるほど……この城壁は自動回復するのか?」

「僅かながら……参考までに城壁のHPは82600だ」



 無理だろ? そう思えるHPの高さだった。

 現に一般人の一人のHPが100から150程度。俺たちでも300強くらいだ。

 魔物にしても3000を超える奴は珍しく、5000以上は今のところ倒されたハウルベアーくらいしか知らない。

 それだけ、破格の壁だ。



「そういえば、覗き見魔法はやったのか?」

「あのな……」



 流石にご都合主義が過ぎるし会ったらこんな苦労はしていないか。



「さっきも言ったが魔法の防御耐性が高すぎて見えないんだ」



 あるし! しかもやったのかよ。しかしそこは防壁だな。



「なるほど。さてと、俺はそろそろ上がるか」

「そうか、俺はもう少し入っている」

「わかった。じゃ、お先に」



 そう言って先に湯船から出る。外の風が丁度良く涼しく感じる。

 タオルで水をふき取って購入した着流しを身に纏った。

 魔法はまだ使い方が分からないからな、仕方ない。

 着替えた俺は部屋に戻り、疲れを癒すように寝床に倒れこんだ。

 あー、寝床が冷たくて気持ち良い。

 ただの食客と変わらないのに寝床の布団がメイキングされているなんて最高だ。

 引き篭もろうと思えば引き篭もれそうだ。

 まあ、阿呆なことしている時間なんて惜しい。なんたって異世界だからな。やることは沢山あるし見たいところや行ってみたい場所、倒していない敵も見てみたい。

 そんなことを考えながら眠りに落ちて行った。

 





~執務室・魔帝視点~

 嵩都が就寝した後のこと。魔帝は執務室で一人黙々と書類作業をしていた。

 その書類は此度アルドメラの性で召喚された勇者たちが学校へ入学するための推薦証と偵察隊に頼んで調べ上げた書類であった。

 魔帝はこの書類と格闘すると共に頭の中では別のことを考えていた。



(そろそろクロフィナとアネルーテの婚約者を決めないといけませんねぇ……)



 この国での成人は十五歳。アネルーテは十六歳を迎えていた。



(ですが、本当に残念ながら他国の縁談を次々に破談していくあの子たちに吊り合う縁談などないのですよね……)

「はぁ……」



 魔帝の二人娘である第一王女クロフィナと第二王女アネルーテには未だ婚約者がいない。

 あろうことか彼女たちは縁談先の相手が気に居らなければ容赦なく婚約者を吹き飛ばす。

 その大抵は自慢話をする貴族だから自業自得とも言える。

 おかげで魔帝や宰相たちは戦争や内紛にならないように予め縁談先の親を懐柔し、言い包めて納得して貰うという気苦労をしている。

 もちろん当人たちは知る由もない。



(もういっそのこと、この中から選ぶのも良いかもしれませんね)



 魔帝はようやく終わった書類の束を片付けて召喚された勇者(先生を含む)の証明書をパラパラとめくった。そして適当に執務机に広げた。



(それでは目を瞑って引いた一枚を今回の縁談相手にしましょう)



 魔帝はそう考えるが早く、目を瞑って素早く書類の一枚を取った。



(……あら、この人は確か魔剣所有と飛行持ちでおまけに聖剣持ちの……名前は『朝宮嵩都』……経歴・過去等は不明。性格は比較的温暖。顔は貴族顔負けする美貌。料理と家事が得意であり極上料理スキルを習得している。ただし聖剣を料理器具にしている節がある……と)



 魔帝は一度情報を整理するためにも紅茶を飲んだ。

 紅茶は落ち着く。頭の中が冴えていく。

 そして自分とは似て非なる客観的な自分を呼び覚ます。



(ふむ……少々危うい感じもしますが悪くはなく優良物件。勇者というブランド入り。習字・数学は彼等だけでなく全員が上級文官以上の知能で戦闘力は近衛に匹敵しますね。それに彼は他の勇者よりも体術や身のこなしが上、足の使い方が暗殺者ですか。それに勇者の中で唯一飛行能力を持っているようですね。後は……その実力を間近で一度見たいものですね)



 魔帝は思ったそれがまさか次の日に来るとはこの時は想像すらしていなかった。









 魔帝は今日の分を片付けた後、執務室を出た。

 私室に戻った魔帝は遅い夕食を取り、風呂に入り、衣装も楽な物に変えていた。

 椅子に腰を掛けると侍女が手に手紙らしきものを抱えていた。



「魔帝様、先程ハーデスという方から魔帝様へ緊急の手紙を承っております」



 侍女は手に持っていた手紙を魔帝に差出し魔帝はそれを受け取った。

 裏を見ると名前が書いてある。



「ハーデス……聞いたことのない名前ですね」



 厳重に封と蝋をされた封筒を開き、中の紙を取り出した。

 手紙を読み進めていくと魔帝は息を詰めた。



「……フェリス、今日はもう下がって良いです」



 侍女は魔帝の言葉が震えたのを見逃さなかったが自分の立ち入ることではないと思い直して魔帝に一礼して部屋を出た。

 侍女が出たのを見て魔帝はもう一度紙を見た。

 そこには赤い血文字で簡単に一文章が書かれていた。



『あなたの ほのおのちから もらいます』 



「なぜ……これを知っているのでしょう……。これは私しか知らないはず……」



 そして最後の一文に目を通すと魔帝は酷く動揺し、浅い呼吸を繰り返した。

 手紙を机に置き、椅子に深くもたれかかって天を仰いだ。



「ハーデス……貴方は一体誰なのですか…」


サフィティーナ「ハーデス……」

グラたん「敵キャラでしょうか?」

サフィティーナ「私が知る限り、そのような名前はありません」

グラたん「だとすると誰なのでしょう? それにほのおのちからとは……」

サフィティーナ「それよりも次回予告は良いのですか?」

グラたん「ああ、そうでした。次回はデザートの恨み。なんだか美味しそうな回になりそうですね!」

サフィティーナ「我がアジェンド城の食堂は常に鮮度が高く、兵の士気を上げるのにはうってつけな料理が多くありますから」

グラたん「楽しみですね!」


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