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勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
139/466

第百二十五話・赤装束の住居不法侵入者

刻夜「第百二十五話だ」

~刻夜


 メリークリスマス!

 十二月二十四日だ。あれ、まだイブか。

 まあいいや。なんにせよ例のブツが届いたぜ。

 少々早い気もするが設定や待ち遠しを考えたらちょうど良いだろう。

 何のことかって? VRハードだ。

 ザ・俺からのクリスマスプレゼントだぜ!

 ちなみにVRハード自体は明日発売されるがそこは俺の職権乱用――ゲフン、神の手が発動して入手して来た。

 さて、それはそうと少々困った問題がある。桜だ。



「……」



 ハハハ、この子が寝てくれない性でいつまでたってもプレゼントが置けないぜ。

 今日は姉さんも知っての通りで徹夜をせずに寝ている。

 桜は布団を被り、布団の中からスナイパーライフルに粘着弾を詰めてサンタが来るであろう窓口を狙っている。腰にはスタンガンと非殺傷のゴム弾を用意している。

 更に今日は何があっても寝まいとカフェインや眠気覚ましを用意している。

 良い子も悪い子も決して真似しないでください。

 桜は子供ながら、サンタクロースを捕まえようとしている。

 夢があっていいな。持っている物は非常に現実的だが。

 さて、困ったな。今回のサンタ役は俺だ。

 子供の夢であるサンタが武装するわけにもいかず、丸腰だ。

 プレゼントを置こうにも桜が待ち構えている。

 更に用意周到なことにベランダや玄関には遠隔操作できるドローンが粘着サブマシンガンを詰めて待機している。

 くそっ、どうしてくれようか。

 停電の策を使おうにも桜のスナイパーライフルには赤外線が付いている。

 それになんの嫌がらせか部屋中に赤外線が張り付いている。

 だがしかし桜は知らない。この家には地下があるということを!

 カモン! 人為的な地震!



 グララ……



「――ッ! 姉様、地震です!」



 地震のために桜がライフルから目を離して姉さんを起こそうとするその一瞬の隙をついて俺は赤外線を無効化する赤き違法スーツと帽子を纏い、素早く三つのプレゼントを置き、ベランダの鍵を開ける。



「くっ、不覚ですわ!」



 異変に気付いた桜がライフルを腰溜めで撃ってくる。

 窓を開け、すぐに閉める。一瞬の後、背後に白くてネバネバした奴が三発張り付く。

 この家は対侵入者用に少々高く作ってある。石垣には薔薇の花が植えられ、手が付けられない。そして二階建てだ。

 俺の部屋があるのは一階、今いるのは二階だ。

 飛び降りるのには少々苦労するがせいぜい悪くても打撲程度だ。

 華麗なる着地。そしてすぐさま自室の窓を開けて入る。

 そしてドローンに搭載されている記録情報を全て消去する。

 このドローンだって俺が作ったものだ。ついでに言うと桜が持っている物全てが俺の私物だ。あんにゃろう勝手に拝借しやがって……。



「くぅぅ……! 一生の不覚ですわ! 来年こそは生け捕りにして首輪つけて飼ってあげますわ!!」



 奴隷じゃねぇか!! 我が妹は興奮しすぎて少々頭のねじが外れたようだ。

 さて、それはそうと人の物を勝手に使った桜にはお仕置きが必要だな。

 俺はわざと電気をつけて端末を開き、適当な小説を取り出す。

 真面目な桜のことだ。このあとにトイレと偽って必ずここへ返しにくるだろう。



 ――ガチャリ



「ん?」

「あ、あれ。兄様? まだ起きていらしたのですか?」



 予想通り。そして服の中には何かを隠しているように太っている。



「そうだが……起きていてはいけなかったか?」

「え、えっと……そういうわけではありません」

「そうか? それはそうとこんな夜中にどうした?」



 ――ガシャン



 何の偶然か、桜のパジャマ――主に背中から弾薬が落ちた。



「弾薬? ああ、サンタクロースを捕まえようとしたのか?」

「え、あ、はい。捕まえることは出来ませんでしたけど……」

「それは残念だったな。で、なんで小学生であるはずの桜が弾薬などという物騒な物を持っているんだ? それにどうやって購入したのかその経緯も教えて貰わないとな。そもそも桜はエアガン自体持っていないはず―――」

 


 徐々に詰めていくと桜は膝を折って服の中と背後に隠していたライフルを目の前に置いて土下座した。



「桜?」

「申し訳ありません、兄様! 赤い装束を纏った住居不法侵入者を捕縛するために私は兄様の私物を勝手に拝借してしまいました!」



 ブハッ! 物は言いようだなオイ!

 今の一瞬で桜の世界のサンタクロースが犯罪者になってしまった。

 それに聞きようによっては桜の言い分に主張性があるように思えてしまう。



「本当に申し訳ありません!」



 さて、そんな事実を本人の口から聞いてしまった俺は少々ご立腹の演技をしよう。



「はぁ……桜はそんなことをする子じゃないと思っていたんだがな。それにエアガンだとしても桜にはまだ早い。使うなんて以ての外だ。ゲームと現実は違う。それは分かっているはずだろう? もしその赤装束が犯罪者だとして、桜は本当にそいつを撃てたのか? 非殺傷弾でも当たり所が悪ければ死ぬ可能性だってあるんだぞ。エアガンだって人は殺せる。ゲームではリスポーン出来るが現実は死ぬ。銃や武器を持つことの重みを良く考えた方が良い」



 俺は失望の色濃く桜を諭す。

 だが、桜は顔を上げて尚も弁明しようとする。



「で、ですが、これは粘着弾で――」

「それで? 粘着弾で撃って捕縛し、その威力も不確かなスタンガンで気絶させようとでもしたのか? そのスタンガンがどれだけの威力があるのかちゃんと実証したのか? 何度も言うがそういうのは全部殺傷できる武器だ。狙いを定めることが出来るなんて考えるなよ。捕縛したって捕縛された方は抵抗する。殺すという可能性を考えろ」



 そう言ってから後で気が付いた。

 なんでそんな物騒な物を俺が違法改良してまで持っているのかと聞かれたら俺はきっと何も答えられなかっただろう。



「……」

「――はぁ。そういう武器類はちゃんと隠していたはずなんだがなぁ……。隠し方が甘かったか。ともかく本当の緊急時以外は使用するな。いいな?」

「はい……」

「分かったのならもう寝なさい」

「……失礼しました」



 扉が閉まる。

 同時に廊下にこっそり取り付けてある試験用カメラに桜を移す。



『えぐっ……う……』



 うむ。やはり泣いていたな。

 桜は俺と姉さんを良く慕ってくれるが故にいつも失望されないようにしている。

 しかし今日の事で俺に嫌われたと内心では思っているだろう。

 死ぬだの殺すだの脅したが、桜や姉さんはそういう武器を持つ必要なんてない。

 そういうのは全部俺に任せれば良いんだ。

 桜たちは綺麗な表だけを見ていれば良い。汚い裏なんてわざわざ見る必要もない。

 俺は桜が完全に就寝したのを見計らってこのクソ寒い中、バケツと雑巾を持って窓にこびりついた粘着弾の掃除を始めた。

 一時間ほどかかってようやく終わり、俺も就寝した。





 翌日の朝、桜は高熱を出した。



「刻夜、桜に何したのよ?」



 昨日の夜起きていたらしい姉さんにしっかりと問い詰められていた。

 いや、まさか叱って熱出すとか思わないでしょ?

 昨日の一夜でどんだけ自己嫌悪と罪悪感に陥っていたのか良く分かる。

 事情は話してみたが姉さんの嫌疑の疑いはかかったままだ。

 何故だ。ものすごい理不尽だ。

 くそっ、ならば使ってやる。俺の異能様ァ―――!!

 結果的に、不自然ではない次の日に桜の熱は下がり、姉さんも考えを改めてくれたらしく、俺も概ね満足の結果に終わった。

 さて、クリプレを開けて中のハードを取りだし、自室にてセッティングを行う。

 ここで行うのはVR内で使われるアバター設定や自身の身体測定や脳波の計測だ。

 時間がかかるため非常に面倒くさい。

 半場眠りつつ今日という日を費やした。





 そして年末が過ぎ、元旦になった。

 うむ。清々しい初日の出だな。

 最初に姉さん、桜に挨拶し、着替えてお参りに向かう。

 神社には多くの参拝客に紛れて聖奈と大海夫妻もいた。

 こちらも挨拶を済ませ、順番を待つ。

 先に姉さんたちと総一郎さんたちが参拝し、周りが空気を読んだのか次は俺と聖奈だけになっていた。

 お賽銭を投げ入れ、二杯二拍手一礼する。



「VRMMOがデスゲームになりませんように」



 そう願ったのは聖奈だ。全く、小説やアニメの見過ぎだな。俺がそんなことをするわけないだろうに。

 参拝が終わり、後ろに居た人に会釈して姉さんたちと合流する。

 そして総一郎さんは甘酒、俺たちはミカンを貰ってその場でいただく。

 食べ終わった後は毎年恒例に大海家で一泊二日のお泊りだ。

 大海家に招待され、恒例のお年玉を貰い桜は大喜び。

 そしておせちを食べつつダラダラゴロゴロゲームゲーム……している暇はない。

 食休み後は聖奈たちに連れられて正月の街並みを歩いていく。

 目的は元旦限定で行われるVRMMOで使える『サポート妖精』というナビゲーターが当たる抽選会だ。 全国十か所で行われ、当たるのはなんとたった百名だ。

 しかも当たると同時にVRとMMOのの引換券が付いてくる。

 VRハードを手に入れ損ねた人もこのイベントで起死回生を狙っているようだ。

 MMOは予定通り三日に発売されるので結局もう一度取りに来る必要があるのだが。

 それを福袋とでも言うように年明けの十二時、除夜の鐘一発目に全国一斉緊急速報したため俺たちゲーマー共はこんな朝早くから並ぶ羽目になってしまった。

 大混雑は予想されていたので各地のデパートには警備員を置き、元旦出勤をして貰っている。そして我先にとここで陣取る馬鹿共もいた。



「あ、聖奈に刻夜! あけおめ~」

「おっ、やっぱり目的は一緒だったか? それとあけおめ」



 そのデパートに俺たちも来たわけだが徹夜で陣取っていた夕夏と伸平にも出会った。

 もはや不必要な問いは無しで中に入れて貰った。


「そうだな。……挨拶はおまけかよ」

「明けましておめでとうございます。夕夏さん、伸平君」



 聖奈が二人に挨拶すると伸平が手を繋いでいる俺たちを見て頭を抱えた。



「かぁ――。年始早々に腹立つな! だが、当たってもハードは俺たちが貰うぞ」



 ああ、そうだったな。

 夕夏も伸平も先の大会を不純な動機で優勝し、確実に手に入ると顔が言っていた。

 しかも自分の実力だ。俺は約束通り、プレゼントすることになった。



「分かっているって」



 そうして雑談しつつ並んでいると定時になり、誘導員が破裂寸前の爆弾を抱えるように少々早足で案内を開始した。

 ――さて、ここに並んでいる皆には悪いが確定させて貰うぞ!



『元旦MMOサポート妖精抽選会にて、藤林桜、朝宮夕夏、二名が特等に当選し、藤林刻夜が一等、田中伸平、藤林雫が二等に当選する』



 確定完了。

 さて、前を見ていると絶望感溢れる人種と喜びの絶頂にいる人種の二通りに分かれている。要するに勝ち組と負け組だ。

 抽選内容と玉の色は以下の通りだ。

 特等であるサポート妖精と引換券の金色が十本、一等はVRハード銀色が二本、二等はMMO引換券の赤色が五本、三等は商品券五万円分の黄色が二十本、四等は三千円分の青色が五十本、五等は千円分の緑色が百本、六等はお好きなドリンク茶色千本、七等は箱ティッシュ千本という内容だ。



『おめでとうございます!!』



 カランカランと鐘が鳴る。周りが羨望と殺意の視線を当選者に当てている。

 そしてまた一人、また一人と当選していく。



「うう……私たちの番まで回ってくるのかなぁ?」



 夕夏がキリキリと痛む胃と高鳴る心臓を必死に押さえつけつつ言う。

 残り五人にまで減ってしまった。

 そしていよいよ伸平の番が来た。



「よ、よし、行くぜ!!」



 俺たちの誰もが手汗を握る中、回っていく。

 カラン――――コロ。

 果たして、赤だ。



『おめでとうございます!! 二等出ました!』

「よっしゃあ! 特等じゃなくてもよっしゃあ!」



 伸平が両手を握りこぶしに固め、天高く上げた。

 伸平に一枚の引換券が渡された。

 次は桜だ。体が緊張で硬直やして動きがカタカタになっている。

 取っ手を掴み、回す。

 カラカラカラ……コロ。出たのは金色だ。



『と、特賞です! 特賞が出ました! おめでとうございます!!』

「や、やりましたよ、兄様、姉様!」

「良かったわねぇ」

「ああ。良かったな」



 桜が飛び跳ねてはしゃいでいる。



「当たるもんなんだなぁ……」



 伸平が二等が当たった癖に唖然としてしている。



「確かにね。さて、私も続くわよ!」



 次は夕夏だ。回し、出たのはまたしても金だ。



『に、二連!? 二回連続で特賞です! おめでとうございます!!』

「ラッキー! 年明け早々ついているわね!」



 夕夏が三枚の引換券を受け取り、伸平と桜のいる方に避ける。

 次は姉さんだ。そして結果は赤。



『ば、馬鹿なぁぁ!! 二等です! おめでとうございます!!』



 店員さんが絶叫するのも分かる。確率的にあり得ないからな。



「うふふ、取りましたわ」

「流石は姉様です!」



 姉さんも悠々と凱旋した。



「ふむ……この流れなら!」



 次に意気込んで挑戦するのは総一郎さんだ。



『六等です。お好きなドリンクをどうぞ!』

「む、無念……」



 意気込んで挑んだはいいが惨敗し、負け組へ参入した。

 運営側や背後の組がホッとしているのは気のせいではないのだろう。



「あらあら。仇は取りますわよ……えい!」



 次に回したのは里美さんだ。



『黄色、三等です! おめでとうございます!!』

「やりましたよ、貴方!」

「おお……よくやったな!」



 里美さんが引換券を受け取り、脇に逸れる。

 っと、次は俺か。



「頑張って、刻夜君!」



 聖奈が横から応援してくれる。



「フッ、俺には見える……特等の玉が!!」



 ガラガラガラ……銀。



『一等です! 確率おかしいだろ!? おめでとうございます!!』



 途中で愚痴が入ったがまあそうも言いたくなるような確率だからな。



「最後は聖奈ね」



 夕夏の言葉を聞いて俺たち全員の視線が聖奈に向く。



「行け、聖奈!」

「えい!」



 可愛らしい掛け声と共に繰り出された渾身の回し―――出たのは金と茶色。



『出たのは金と茶色―――金と茶色!? 後列の皆様すいません、ちょっと問題が発生しました! 少々お待ちください!』

「あらま」

「これはまた……なんというか……」

「幸と不幸が一辺に押し寄せた感じですね」



 様々な感想を残し、俺は聖奈の元に寄る。



「あ、でしたら私は茶色で良いですよ?」



 聖奈が笑顔でそういうと係員の人がバツの悪そうな表情で頬を掻く。



「え、いやぁ……そうは言われても……」



 ちらりと聖奈の背後に視線が行っていた。

 見てみると……聖奈を聖人君子で見るよな視線が多数と係員に対しての苛立ちを募らせる視線が多数。

 このまま硬直しても良いことはないので横から提案してみる。



「でしたら、妖精引換券だけ貰うというのはどうでしょうか?」

「え? あー……先輩、どう思います?」



 係員の人が隣の先輩という人に尋ねると少々考えた末に頷いた。



「そうだな。折衷案にはなるか……。うん、それじゃ、おめでとうございます。ついでに六等賞も持って行ってください」

「えっ、でも、悪いですよ」

「いえ。こういう結果になったのもお客様の運が良かったからに他なりません。どうぞ、遠慮しないでください」

「え、えっと……ありがとうございます」



 そうして俺の案は採用され、聖奈に引換券と飲み物が渡された。

 係員の人は抽選箱の中に赤と銀色の玉を一つずつまた入れた。



『あーテステス。皆様、おまたせ致しました! 協議の結果、妖精引換券と六等賞がなくなりましたが、お客様のご提案により、VRとMMOが一つずつ増加されました! 繰り返します――』



 そんなアナウンスを聞きつつ、俺たちは皆の所に戻った。

 次に向かう場所はVRを引き換えるための玩具売り場だ。



「良かったのかなぁ……」



 戻った後でも聖奈が少々罪悪感を憶えていた。



「良いんじゃないか? 元々欲しかったのは妖精なんだし」



 伸平がそう言い、次に俺に向かった。

 そして視線が俺の手元に向かった。



「分かっているから。夕夏は自分で引き当てたから良いだろう?」

「ん、まあね。でも代わりに貸し一にしてあげるわ」

「酷いなぁ」



 夕夏にそう言いつつ、手の引換券は伸平に譲渡する。



「うっし、サンキュ。それにしても凄い強運ラッシュだったな」



 引換券を渡し、仕舞うのを確認してから会話に参加する。



「運よく固まっていたのかしらね」

「それはそれで問題な気もするが……」

「あ、着いたね。早速引き換えよう!」



 夕夏が小走りでカウンターに駆け寄って行く。

 それに俺たちも続き、ブツを受け取った。

 これで一応全員のダイブが決まったか。楽しみだな。



桜「サンタさん……」

刻夜「(これで首輪つけて飼いたいとか言わなければなぁ……)」

刻夜「次回、ナイト」

刻夜「いよいよYWO編が本格的に始まるのか……」


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