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勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
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第百二十四話・全国大会

夕夏「第百二十四話!」

 

 修学旅行から一か月が経過した。

 七月。剣道部の関東大会の月だ。

 並みいる強豪校を蹴散らして輝いた関東大会一位と個人部門一位の戦績。

 それらは次の週に行われる終業式で発表された。

 つまり私たちは全国大会行きを決めたのだ。

 夏休みに入った私たちに待ち受けているのは合宿と受験だ。

 夏休みの課題も例外なくある。漫画とかだと免除されたりもするのだが……現実はそう甘くないことが良く分かる。

 部活は夏に倒れてもあれなので、という顧問の言い分によって週二回になっていて、そのかわり部費による剣道部員全員の強化合宿が行われた。

 部員全員だが、刻夜はどうしても外せない用事があるということで免除された。

 一応その理由を聞くと、『日本の将来を背負って立つカーリュ・レミテスの講義と実習を受けてくるので無理』だそうだ。

 あのカーリュ・レミテスとマンツーマン授業なんて羨ましいったらありゃしない。

 それならばしょうがない顧問さえも納得してしまっている。

 合宿は群馬の森林地帯に行って三拍四日で行われる。

 早朝に起きて走り込み、素振り、朝食、部活のいつものメニュー、レギュラー陣の勝ち抜き試合等々が行われ、初日に立っていたのはレギュラー陣以外いなかった。

 夜になり、私は森林地帯を走り込んでいた。

 それというのも魔物がそこらかしこにいるからだ。

 ハンターさんもいるにはいるが流石に手が回らないようだ。

 そういうわけで私もこっそり作業を手伝っている。

 次の日、昨日と同じメニューが全員に課せられ、更にレギュラー陣には重りが付けられた。全身合わせても三kgちょいくらいかな? そんなに重くない。

 ちなみに一年は一kg、二年は二kgだ。

 そうして今日も終わると、私以外立っている者はいなかった。

 三日、四日と経過した。やはり魔物と一対一で殺し合っていたのが良かったのか筋力や反射速度が上がった気がする。

 七月の最後の週にはOBの先輩たちがやってきて剣を合わせてくれたが……まさか、誰が私の一人勝ちになろうと思っただろうか。

 それならもう大丈夫だろうと顧問からも先輩からも頷かれた。

 大丈夫。まだ、まだ人類を止めてはいないはずだ。



 八月に入った。剣道部は相変わらずあるが、それよりも一大ニュースだ。

 世界が震撼し、激動した。



『VR、遂に完成。12月25日発売』



 その一文が掲載された瞬間、ネットのサーバーが落ちた。

 それからも復旧することはなかったが、次の日の朝刊や全番組のニュースで報道された。

 何度も何度も繰り返し報道された。

 剣道部にもゲーマーは多くいる。話題がそれ一式になるのも無理はない。

 藤林宅でのゲーム合宿が始まった。

 いや、ゲームだけでなく来週に控えた受験の面接や残っている夏の宿題を終わらせる目的もある。

 剣道部の三年生も下旬の二週間は休みとなっている。



「VR……VR……」 



 もはやうわ言のように繰り返しているのは伸平だ。



「その前に受験と宿題を終わらせるわよ」

「はっ! そうだったな」



 今日の面接官は先日の担任よりも頭の回る姉妹二人だ。

 それに対して私たちは四人。

 先に逝った聖奈は何事も無かったかのように戻ってきた。

 次に入った刻夜は少し悔しそうな表情をして戻ってきた。

 刻夜が悔しそうにするなんて相当珍しい。余程手強かったのだろう。

 そして私は――――その後の記憶が飛んでいる。

 伸平に至っては目を充血させて戻ってきた。

 


 その甲斐あってか付属校の進学は決まり、私は剣道に再び専念できることになる。







 まだ残暑の残る九月が過ぎ、十月を迎えた。



「βテストかぁ……」



 公式サイトを見ているとβテスト募集と大きく書かれた見出しが出ていた。



「やりたかったなぁ……」



 十月十五日。それは全国大会の始まる曜日だ。決してすっぽかすことが出来ない。

 Your Write Online と題打たれたページをじっくり見ながらため息を付いた。

 YWOはVRの中で最初に発売されるゲーム名だ。

 昨日、刻夜は全国大会優勝したらハードとソフトをセットでプレゼントすると言っていた。ハード一台で五万円という価格、それが二個で十万円。結構な出費なはずだが、まあ良い。宣言通りに出費させてやろう。

 それで、そのYWOというのは『一人一人が選ぶ未来』というサブタイを備えているゲームであり、現実同然のグラフィックと無限数の武器、スキル、容姿を選べるようだ。

 クリア目的はまだ掲載されていないがそれだけでも想像が膨らむ。

 それに性別も変えられるようだ。

 愚痴もこれくらいにして全国大会に備えるとしよう。





 全国大会が始まった。私だけでなく伸平の方も開始されている。

 初戦の相手は昨年ベスト十六の中学校だ。



「小手面!」



 ――――バチィィン!!



「一本!」

『うおおおお!!』



 勝利し、勝利を積み重ねる。

 負けた人たちは悔し涙を流して去って行く。

 負けるわけには行かない。VRMMOを手に入れるためにも!

 そこ、動機が不純とか言わない。私にとっては死活問題なんだから!



 試合は順調に解消されていく。

 十月二十五日、私たちの決勝戦の日だ。



「――え……部長が骨折?」

「ああ。昨夜帰る時に事故ったらしい」



 オーダーを提出しようと部長を待っていると顧問からそんな残酷な話を聞かされた。



「痛いけど応援には行くと言っていた。さて、部長がいないとなるとオーダーも変えないとな……」



 そうは言うが、部長は今回の大将だ。私はいつも通り先鋒だから配置換えなんてできない――。



「よし、朝宮。お前大将な」

「えっ――!?」



 そんな急に言われても心の準備ができちゃいない。



「先鋒は大喜利、次鋒は新坂、中堅は常葉、副将は……藤林、行けるか?」



 ここでまさかの刻夜が指名された。



「お任せあれ」



 刻夜が何処ぞの貴族のように一礼した。



「と、まあこんな感じに思いついてみたわけだが、どうだろうか?」

「部長がいなくても何とかするのが俺たちの仕事ッスから!」

「大将までまわさねぇよ」



 皆のやる気は十分だ。ここで水を差すのも何だし私も頷いておく。



 そして試合が始まった。

 先鋒は玉砕覚悟で猛攻し、相手を反則負けに追い込みそのまま勝利した。

 だが、次鋒、中堅と二敗して逆転されてしまった。

 次は刻夜だ。心配しないと言えば嘘になるが、何とかしてくれるとも思っている。



「刻夜……」



 そう口に出しながら刻夜の方を向く。

 ――刻夜が滅多に見せない険しい顔をして正面を向き、僅かに口を動かした。



「叩き潰す」



 そう、私以外には聞こえそうもない小声で呟いた。

 そして刻夜が竹刀を持って決戦の場に向かう。

 刻夜が構えるのは滅多に使わない最上段だ。それに対して相手はそれよりも先に面を打とうと上段に構えた。



「始め!」



 審判が高らかに声をあげ、刻夜の姿がぶれた。



「小手面ッ!!」



 ――バキャッ!!



 私の眼でも見えない程の速度で竹刀が振り下ろされ、そのまま真一文字に相手の副将の頭を穿ち、勢い余って地面に叩き伏せた。



 ――ダァン!!



 音が、遅れて聞こえるなど漫画だけの出来事だと私は思っていた。



「二本! タイム!」



 冷たい床に叩き伏せられた敵の副将がピクリとも動かないのを見て審判が試合中断した。

 相手方の顧問とウチの顧問も素早く動き、状況を見に行く。

 そして副将の面と防具を外し、その場で心臓マッサージが始まった。

 それを見て会場が騒めき、私たちも目を見開いた。

 よく見ると相手選手の左手が変な方向に曲がっている。

 刻夜は試合が終わったのを確認して悠々と戻ってきた。



「こ、刻夜?」

「試合は俺の勝利だ。後は任せたぜ、大将」



 刻夜はただそれだけを伝え、防具の取り外しに掛かった。

 普通の中学生には、いや、私ですら異能を使ってもあんな風にはならない。

 やがて救急車が到着して彼は運ばれて行った。

 試合は再開され、最後の大将戦になった。

 ここまできて負けることは出来ない。私も異能ありで仕留めさせてもらう。

 構えは小手狙い。運が良ければそのまま抜き胴に繋げても良い。

 異能を全開にして開始の合図を待つ。



「始め!」



 開始と同時に相手が距離を詰めてくる。鍔迫り合いに持ち込むようだ。

 それは私としても好都合だ。小手面で終わらせてやる。



 ――ガッ



 竹刀と竹刀がぶつかり、拮抗したのは一瞬。

 身体能力を強化している私に勝てるわけもなく、敵将はバランスを崩す。



「手えぇ!!」



 ――バシンッ!



「面ッ!!」



 ――バンッ!!



「小手面あり! 勝者、朝宮夕夏!」



 一瞬の攻防の末に、私は勝利を勝ち取った。



『わあああああああ!!』



 観客席からも、背後にいる皆からも喜びの声が聞こえてくる。

 さぁてと、これでVRMMOは確定した。ぐふふ。



 試合終了後は閉会式と授与がある。

 今回大将を務めた私が授与を受け取り、拍手を贈られた。

 両親も顧問も後輩たちも大喜びしている。

 それで、伸平の方はどうだったかというと、そちらも無事に勝利を納めていたようだ。

 


 その後で刻夜に聞いた話。刻夜が叩き潰した相手は聖奈に色目使ったらしくああなったそうだ。聖奈ラブもそこまでいくと誰にも止められはしないだろう。

 ちなみにその様子もテレビ報道されていたようで、相手選手は意識不明の重体のようだ。

 頭骨を砕く一撃って相当なもんだと思うよ……。

 あ、そうそう。個人部門でも一位だったよ。

 そっちは自宅にお持ち帰りしてお兄ちゃんにご報告した。







 十二月。私たち三年生は輝かしい栄誉を中学校に残して引退した。

 そうして迎えた冬休み。クリスマスも過ぎ、大晦日を迎えようとしていた。



「遊ぶぞー!」



 自宅の自室にて私は大いに叫んでいた。

 この爽快かつ快感的な解放感。溢れんばかりのアドレナリン!

 まず最初にやるべきは数か月間封印していたYWOの記事だ。

 


 ――ピン



 ちょうど新記事が発行されたみたいだ。どれどれ――。



『MMOソフト、一月三日発売! 更に全国十か所でYWO生産記特典のサポート妖精を百名様にプレゼント! 詳しくはこちら!』



 クリック。

 あ、わりと近くのデパートの抽選会だ。良し行こう。伸平も誘って是非行こう。

 早速電話を繋げる。



『もしもし?』

「あ、私。伸平、早速で悪いけど荷物まとめてリヨンに並ぶよ!」

『……何がお前をそんなに急がせる?』

「決まっているじゃない。YWOのサポート妖精抽選会に行くのよ! 今さっき更新されたばかりの情報よ!」

『マジか!? 良し待ってろ! ゲーム機と金と寝袋持って誘いに行くから準備しておけよ!』 

「了解!」



 尚、時刻は絶賛深夜の一時を回っている。

 それから一時間後。両親は寝静まるのを見計らって書き置きを残し、合鍵を使って玄関前で待つ。



「あけおめ、待ったか?」

「あけおめ、今出た所。さ、走るよ」

「おう」



 ひそひそと夜逃げするかの如く私たちは夜の町を走り抜けた。



「ちぃ、流石廃ゲーマー共」



 リヨンの入り口には既に数十人の人たちがたむろしていた。



「よう、あけおめ。兄弟」

「あけおめ、兄弟。席は取って置いたぜ」



 伸平はその人たちと面識があるのか――あ、ってかこいつらサッカー部の連中だ。

 私と伸平は手慣れた手つきで路上に椅子を設置した。

 それから三十分もしない内に私たちの背後に長蛇の列が出来た。

 真夜中のゲーム大会が始まった。

 

 



 無事にサポート妖精をゲットし、自宅に戻り、ハードを早速セットする。

 起動させると意識は一瞬で暗転し、目の前に人間が現れた。



『ようこそYWOへ! ただいま正式サービス前ですのでログインは出来ませんがキャラクター設定をすることは可能です。設定なさいますか?』



 身長も口調も人間のそれにしか聞こえない。

 グラフィック……には到底見えない。光沢や艶まであるように見える。



「はい」



 ともかく聞かれているのだから答えよう。



『では、キャラクター設定を開始します。最初に種族を選択してください』



 目の前に私と同じ身長のアバターが五つ現れた。


 一つは人間。

 一つは獣人。

 一つはエルフ。

 一つは半獣人。

 一つはハーフエルフ。


 パラメータに差異はあるもののどれも格好良く可愛い外見だ。

 特に一目見てインスピレーションが来たのは半獣人だ。そしてその猫耳!

 猫耳萌え属性の私としては外せない。えっ? 猫? 私が好きなのは猫の耳であり猫本体ではない。

 半獣人の外見を選択し、決定を押す。



『次に髪型、髪の色、肌の色、毛並み、尻尾の形状等々をお選び下さい』



 こ、細かい。やろうと思えば永遠と作り込めそうなくらいの数だ。

 髪の毛は茶色で良いとして、目の色は赤色かな? 肌の色は白い方が良いな。毛並みは整っている方が良い。尻尾……うーん、どうせならモフモフの方が良い。

 半獣人だから人間と獣人の設定の大半が盛り込まれている。しかも一重に耳が無くても半獣人の可能性もあるし、耳あり尻尾無しの半獣人もありか……悩む。

 だが、どうせやるならトコトンやろう。美少女を作ろう!







 それからクリエイトすること三十九時間が経過した。



「ま、満足ぅ」



 決定ボタンを押し、セーブする。



『お疲れ様でした。以上でキャラクタークリエイトを終了します。正式サービス開始までお待ちください』



 そうして私はログアウトし、現実世界からもログアウトした。



夕夏「ねえねえ刻夜」

刻夜「なんだ?」

夕夏「大会って優勝したは良いんだけど、相手の選手大丈夫かな?」

刻夜「さあな」

夕夏「向こうの顧問の先生、結構怒ってたよ。『何故謝罪に来ない!』ってね」

刻夜「謝る理由が無い」

夕夏「あ、ほら『裁判沙汰にしてやる!』って叫んでるよ」

刻夜「(端末を弄って)……ん、良し」

夕夏「何してるのよ」

刻夜「上の人たちにチョメチョメやってチョイチョイした」

夕夏「それは良いんだけど……いや国の人間にそんなことするのは良くないけど……本当に裁判になっちゃうかもよ?」

刻夜「ああ、それなら大丈夫だ。むしろ上等」

夕夏「ええ……」

夕夏「ま、良いけどね。それより次回予告しないと」

刻夜「そうだな。次回はサンタクロースの話だ」

夕夏「刻夜が聖奈に何かして真っ赤なトナカイになるの?」

刻夜「違うからな」

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