表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇邪の物語  作者: グラたん
第二章YWO編
137/466

第百二十三話・修学旅行 後編

刻夜「寒いなぁ」

刻夜「今日もお仕事頑張って来た俺にあんまりの仕打ちだ」

刻夜「早く気付いてくれないかなぁ」

刻夜「そんな第百二十三話」

 

 その夜。皆が寝静まり、町も静けさを抑える時間。

 私は喉の渇きを潤すために起き上がる。



「あっ――」



 何の偶然か、刻夜が居間の窓の一角を開けて手には黒を持っていた。



「刻夜、また魔物狩り?」



 そう聞くと刻夜は嘆息して此方を向いた。



「魔物――まあ、そうだな。俺は比較的平気な部類の魔物だから昼間の人たちに頼まれていてな」

「ふぅん、私も行った方が良い?」

「いや、別に俺一人で十分だ」

「でも、ここ三十五階だよ?」

「そこは問題ない。俺にだっていくらか対処用装備はあるさ」

「そう……聖奈はどうするの? 例えば誰か来たり伸平が襲ったり――」

「その場合はリアルタイムゼロ秒で戻ってくる手段があるから大丈夫」

「そ。なら、いってらっしゃい」

「うん、行ってきます。朝食までに戻らなかったら聖奈と伸平には上手く言い訳しておいてくれ」

「そんな面倒なことしたくないし、それ、思いっきり死亡フラグだから止めてよね」

「――くそっ、迂闊。だが、安心してくれ。俺は必ず生きて帰る」

「だから死亡フラグだってば」

「……だな。そんじゃまあ後は任せたぜ」



 最後の最後まで死亡フラグを立てて刻夜は夜の空に身を躍らせた。

 一応、刻夜の装備が壊れて地面に叩きつけられて死亡していないかを確認し、窓を閉めた。

 水を一杯飲み、再び部屋に戻って目を瞑る。



 ……

 …………

 


 寝れない。おのれ刻夜。何故あんなに死亡フラグを建てたんだ。

 だが知ったことか。寝てやる。何が何でも寝てやる!



 ZZZ



 そして爽やかな死亡フラグが実現していそうな朝がやってきた。

 今日の分の荷物を確認して部屋の扉を開ける。



「ん、おはよ~」

「おはよ」

「おはようございます。夕夏さん、刻夜君知りませんか?」

 






 ――そこに、刻夜の姿はなかった。







 結局、私は知らないとシラを切った。そもそも何処に行ったかも検討つかずだ。

 朝食の時間が過ぎ、私たちも朝食を得て一度部屋に戻ったがそこに刻夜の姿は無かった。

 あの馬鹿……本当に死んだのか?

 とはいえ、刻夜をただ待ちぼうけているのも馬鹿馬鹿しいので修学旅行二日目を開始した。金閣寺と五重の塔は午後からの見学なのでそれまでは別の場所を見回る。

 今日は三十三間堂と呼ばれる千一体の観音像を見学しに向かった。

 次は伏見稲荷大社と呼ばれるたくさんの鳥居がある場所だ。

 圧巻な半面、少し怖いとも思う。

 いや、怖いと思うのはそこらかしこに散らばっている赤い破片だ。

 どうやらここでも魔物退治が勃発していたらしい。

 社にも斬撃跡みたいのが残っていて、まるで昨日戦ったかのような跡だ。

 ――いや、どう考えても刻夜だろうけどね。

 流石に切れ目とかで判別できるほどではないが、昨夜の情報と照らし合わせるとここに居た可能性が高い。

 社自体にもKEEPOUTのテーピングが成されている。



「何か壮絶な戦い跡って感じだな」



 伸平が見ている先には銃痕と思われる丸みの破壊跡が社にいくつもある。

 それに社外の地面も何かの爆発跡みたいに抉れている。

 一番目を引くのは最奥の寺小屋が半分ほど焼け落ちていることだ。

 それに小屋自体にも斬撃が刻まれ、その周りの木々も爆破されていたり、半ばから斬られていたり、年代物と思われる大木は中央を抉るように熱線みたいのが貫通している。

 こんなことをするのは刻夜くらいだ。いやもう確定路線で良いだろう。

 となると朝方には帰って来ても良いはずだが……別の案件が絡んでいるのだろうか?



「――何があったんだ?」

「何も無い。ようやく追いついたぞ」



 振り返ると肩で息を切らしている刻夜がいた。



「刻夜君! 今まで何処にいたのですか!」



 よほど疲れているのか目が少々虚ろだ。聖奈の質問を返すより先に私が睨まれた。

 なんで私?



「夕夏、お前、昨日の夜に俺が外出ていたこと忘れて鍵閉めたな……。おかげで中に入れないから寒空の下で寝ることになるし、朝食は食えないし、起きたら中に誰もいないし、フロントまで降りて聞いたら修学旅行続行しているし、マジ鬼畜過ぎるだろ……」



 ……ああ、そういえば確かに閉めたわ。



「それで良くまあここにいるって分かったわね」

「……まさか、冗談のつもりで作った瞬間移動装置を使う羽目になるとは誰が予想しただろうかねぇ?」

「ああ、聖奈が装備しているって噂のあれね」

「そんなものを付けていたのですか!?」



 あれ? 聖奈が非常に驚いている。知らされていなかったらしい。



「ああ、本人には言わない方が良いって某人物から」



 その某人物は知っている限りだと二人に絞られる。



「……でも私を思っての事でしょうし、言わなかった事は許してあげます」 

「それは良かった。さてと夕夏、この落とし前はどう付けてくれるんだ?」

「夜中に浮気していた方が悪いんじゃないの?」

「浮気?」

「さっきも言ったが俺はベランダに居ただけだ。浮気は断じてしていない」



 ちっ、刻夜相手だとこういうのは通用しないか。



「はぁ……しょうがないわね。何して欲しいのよ? まさかエロゲーみたいなことさせる気?」



 聖奈の眼がより一層険しくなった。



「聖奈さん? 腕、痛いんですけど?」



 よく見れば聖奈が刻夜の二の腕を抓っている。



「私は刻夜君がそんな人ではないと信じていますよ?」

「そんなことしないって。――そうだな。悪いって思っているのなら今日の寝床を変わって貰おうか」

『なっ――!』



 こ、こいつ。私にあの部屋で寝ろと!?



「悪いって、思っているはずだ」

「くっ――う、うん。分かったよ」



 仕方がない。あの鎧は後で伸平の部屋にでも置いておこう。







 刻夜も合流したところで私たちは昼食場所に移動した。

 その後、私たち及び三年生の連中は金閣寺周辺に集合していた。

 話題に昇るのは何処に行ったとかどんな旅館に泊まったとかが多い。

 時間になり、点呼出席を取ると一般の修学旅行のように見学が始まった。

 ついでに言っておくと先生たちからは焼肉と酒臭さが漂ってくる。飲んでたな。

 金閣寺は文字通り金色の建物だ。そして銀閣寺はというと銀色ではなく結構素朴な色だ。

 何だろう。これが金のある者とない者の格差だとでも言うのだろうか?

 五重の塔を回り、全体行動も終わりを迎えた。

 そのまま向かう所は皆一緒と言うべきか鹿が沢山いる場所だ。



「中々にファンタジックな眺めだな」



 刻夜の言う通り、人間と鹿が共存しているのだ。それに鹿は結構気ままにしているようで木の影にいたり歩道を歩いていたりする。

 中には修学旅行のしおりを食われている者もいた。



「でさ、なんか一際違う奴がいるのは私の眼の錯覚?」

「安心しろ。俺もそう見える」



 歩道を歩く中にハンターたちに付き従っている鹿がいる。

 鹿、というには角が異常進化しているねじまき角だ。あれが人に刺さったら間違いなく致命傷だ。

 だが、あの鹿からは人間に対する敵意は感じられない。手なずけられているみたいだ。



「害がないなら大丈夫だ。それにハンターたちもいる」

「そうだね。それにしても……何か猫多くない?」

「可愛いからって餌やる人たちが多いからな。夕夏は猫好きか?」

「三次元猫はそんなに。私が好きなのは二次猫と四次猫」

「そうか。なら言うけど、実を言うとこうみえても猫の数は少ないんだ」

「ん? そう? 結構いると思うけど」

「昨日の内に俺がハンターたちと一緒に駆除して回ったからな」



 ……。



「可哀想に……」

「そう思うなら餌をあげる人間共を何とかして欲しいものだな」

「ま、そうなんだけどね。あ、信号変わったよ」



 信号が青になり、私たちは鹿の町を練り歩いた。





 その夜。私は止む無しに和室へと移動し、甲冑を伸平の部屋へと移動した。



「っぎゃぁああああああああ!!」



 その夜、近所迷惑な声が洋室から聞こえた。







「夕夏ぁ!! なんで俺の部屋に甲冑置いておくんだよ!!」



 次の日の朝、伸平にめっちゃ怒られた。



「いや、だって怖いからさ」

「だからって俺の部屋に置いとくなよ!! クローゼット開けたら甲冑とか死ぬかと思ったぞ! 超怖ぇえよ!」



 その後も朝食の席でも愚痴を聞かされた。







 修学旅行三日目。明日は休日で部活も無いため今日も精一杯見学しようと思っている。

 旅館のチェックアウトも済ませ、荷物を郵送した。

 今日向かうのは映画発祥の地、映画村。

 撮影現場や衣装を見ることが出来る場所だ。



「お~、侍だ」



 そこには侍衣装を着た役者や忍者衣装の役者がいる。

 その役者たちが囲んでいるのは一人の侍。持っているのは日本刀。その背後にいるのは村娘というベタな展開だ。



「一人の女子を囲むとはなんと卑怯なりや!」



 味方と思われる侍が声を上げると敵役の人たちが刀を抜いて舌舐めずりする。

 ついでに言うと顔も演技に合わせて悪人面だ。



「グヘヘヘヘ、退いて貰おうか。そいつは借金の肩に売られたからなぁ」



 ベタな展開だなぁと見ていると味方の侍が驚きに目を開いた。



「な、なんと! それは失礼した。ささっ、お通り下され」



 味方の侍が急に遜って村娘を売るアドリブをする。



「いやいやちょっと! 助けて下さいよ!」

「あ、やっぱりダメ?」



 そんなやりとりに観客たちが笑いをこぼす。



「何だか知らねぇが、お前等、やっちまえ!」

「イー!」

「イー!」

「イー!」



 部下たちが一斉に右手を上げて侍を取り囲む。

 これもネタなのか分かる人は笑っている。



「くっ、多勢に無勢。されど引くわけにはいかぬ!」



 侍が敵役に斬りかかり、剣戟の応酬が始まる。



「よっしゃ! あいつから手を出したぞ! 正当防衛だ!」



 敵役もアドリブをかます。もうお腹痛い。

 そうして少しすると下っ端がやられ、敵の侍がたじたじになる。



「さあ、お仲間はいなくなったぞ! まだやるか!」

「ひ、ヒィ! どうか許して下せぇ! なんなら靴でも舐めましょうかヘヘヘ……」



 いっそ清々しいほどの命乞いだ。



「汚いわ!」



 味方の侍が敵の背中をバッサリ斬った。



「バッサリやられた!」



 ベタっと地面に倒れる。



「イー」

「イイ?」

「イー」



 すかさず下っ端共が担架を持って来て敵の侍を運んで退場させていく。



「これにて一件落着! 大事ござらぬか?」



 侍が振り向くとそこにいたはずの村娘はガタイの良い人に変わっていた。



「あんらいい男ねぇ。食ぁべちゃいたいくらぁい」

「ぎゃーお助け!」



 最後の最後まで喜劇にしたて上げているようだ。

 すっごいお腹痛い。



「はい、ありがとうございました! 次の公演は二時からです!」



 味方の侍が手を振ってお礼を言い、私たちもお腹を抱えながらその場を後にした。





 甘味処に寄り、少し休憩を取ることにした。



「はぁ、はぁ……」



 伸平と聖奈はまだ笑っている。よほどツボに入ったようだ。



「アドリブ凄かったもんね」



 刻夜も無言で頷く。



「この後はお土産を見繕うんだっけ?」

「そうだな。――っと、またか」



 相槌を打った刻夜が立ち上がる。



「また?」

「いつもの奴等。五分で片を付けるからちょっと待っていてくれ」



 言うが速く刻夜は甘味処を飛び出して行った。



「あら? 刻夜君は何処へ?」

「トイレだってさ」



 聖奈と伸平にはそう誤魔化しておいた。





「お待たせ」



 トイレと言う名の魔物狩りを終えた刻夜が戻ってきたので私たちも席を立った。

 そうして、村の中でお土産を見て回る。



「お、中々かわいー子もいるじゃねぇか」

「ねぇ君たち、お兄さんと一緒に良いことしなーい?」



 そんな阿保らしい声が聞こえて来た。

 振り返るとそれはもう典型的な金髪不良共がいた。

 数は五人。瞬殺しようと思えばいつでも可能な輩だ。



 ――パチン



 刻夜の方から指が鳴る音がした。

 するとそこらかしこから強面のハンターさんたちが一斉に姿を現し、不良たちの肩を掴んだ。



「おう、あんちゃんたち。ちょっと面ァ貸して貰おうか」

「なぁに、そんな時間とらせねぇよ」

「安心しろ。日本海に沈めるだけだ」

「ヒィ!?」

「なんでヤクザが――!」



 ひぃやぁぁぁという哀れな声を伴って不良たちは茂みの中に連れ去られていった。



「ねえ刻夜?」

「どうした?」

「今の人たちって――」

「昨日のハンターさんたち。依頼なら密輸から誘拐まで幅広くやってくれる――ってのは冗談だ。昨日の依頼報酬で俺たちの修学旅行に邪魔が入ったらそいつらをセメントで固めて日本海に沈める約束をしただけだ」

「それ、おもっきり犯罪――」

「大丈夫。本当は終身刑にするだけだから」

「うわっ……どっちがマシなんだろ?」

「さてな。だがまあ、俺たちが生涯会うことはないよ」



 ……なんか怖い話を聞いてしまった。



「刻夜君、決まりました」



 そこへ何も知らない聖奈が品を決めてきた。

 知らない方が幸せって事もあるんだなぁ……。







 何はともあれ私たちは京都駅まで戻ってきていた。



「いよいよ終わりだね」

「早かったなぁ」



 私も伸平もしみじみとそう呟いていた。

 新幹線をまたしても貸し切りにして乗った。

 帰りの道では撮影した写真を見せあい、その楽しさに浸った。



「ほら、一押しはこれだな」



 伸平が見せて来たのは私が虎と戦っている場面だ。



『逆芽椿!』



 しかもよりにもよって動画だ。黒歴史確定だ。



「ああ、それな」

「夕夏さんが一番輝いていた時ですね」

「ちょっと待って! その言い方だと私が戦闘狂みたいじゃない!」

『えっ?』



 全員に疑問符を浮かべられ、私は泣き寝入りする羽目になった。

 確かに動画の私は虎と戦っている時は良い笑顔だったけども……。





『新横浜ー、新横浜に到着です。忘れ物の無いようにご注意ください』



 新幹線の旅も終わり、駅を出ると私たちのお迎え要員の雫お姉さんがいた。



「姉さん、お迎えありがとう」 

「お帰り、刻夜。桜もお土産話を楽しみにしているみたいよ。それはそうと、何処かで食べてから帰りましょうか。お腹……空いたから」



 グゥ~と雫お姉さんのお腹が鳴り、私たちもつられて鳴る。



「姉さん、まさかだとは思うけど何も食べてないとか言わないよね?」

「大丈夫よ。桜もいるからちゃんと作って食べているわ」



 じゃあ、いなかったら食べないのかと言いたい。



「なら良いけどね」



 車に乗り込み、移動を開始する。





 昼食を済ませた私たちは帰宅し、両親に土産話を聞かせた。

 だけどやっぱり一番はお兄ちゃんに聞かせたかった。



聖奈「ん~、楽しかったぁ」

伸平「ちょっと短かったけどな」

夕夏「そうかな? 私はちょうど良かったけど」

刻夜「何にしてもこれで二人は何の憂いもなく全国大会を目指せるわけだ」

伸平「ああ……そう言えばそうだっけ」

夕夏「ちょっと刻夜、違うわよ」

刻夜「ん? 何がだ?」

夕夏「全国大会を目指すんじゃなくて、全国で優勝するのよ」

刻夜「ああ、そうか。決定事項か」

伸平「オイ!?」

刻夜「次回、全国大会」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ