第十二話・最新技術ST
グラたん「第十二話です!」
???「フッ、ようやく出番が回ってきたか」
グラたん「誰ですか?」
???「リア充様とでも名乗っておこう。さあ、本遍を読むが良い!」
グラたん「リア充は死すべし」
???「あ、俺の設定欄をバックスペースするのは勘弁してください」
アジェンド城よ、私は帰って来たぁ―――!!
はい、虚しい木霊が心の中で響いただけだ。
とりあえずギルドに行って生存確認と依頼完了を告げた。
事情は予め考えて置いた理由を説明した。報酬は違反金を引かれた額になった。
続けて依頼を受けて――まあ手持ちがあったのですぐに終わったのだが。
報酬はそれなりにホクホク。ついでにストレージに入っている素材を金に換えた。
うむ、23万エルになった。上々だな。
受付を離れ、適当に飲み物と軽食を頼んだ。その間にステを確認しておく。
朝宮 嵩都
HP 360
MP 250
攻撃力 150
守備力 150
素早さ 100
魔力 100
スキル 剣Lv5 魔法Lv2 極上料理Lv5 菓子Lv3
固有スキル 勇者Lv1 飛翔飛行 理解習得 魔剣所持解放
固有武装 ヴァルナクラム・剣
装備 原型を留めていない襤褸
ぐびぐび……ぱくぱく……。
ふぅ……とりあえず食い終わったら服買いに行くか。
軽食と飲み物が運ばれてきた。
俺の料理と比べると些か美味しさに欠けるがこれが普通だと思って食べる。
久々にジャンクを食ったわ。栄養は偏っているけどこれが良い。
シーハーしているとチャットの方に誰からか連絡が来た。
亮平からだ。今日の夜に集まりがあり、強制参加らしい。
……すごく嫌な予感しかしないが行ってみよう。何があるかは分からんが。
亮平には渋りながらも二つの返事で返しておいた。
さて、会計も済ませたことだし服屋に行くか。
金があるから少しお高めの場所に行く。ブランド品は着心地が良いし選択してもよれないからな。
服は上下黒の着流しを二着購入した。それと外套だな。
城に行く途中でふとある店に目が留まった。
歯車の縁に中にSとTが重なったようなロゴが入った店だ。
土地は広いのか左右に物件はない。多少うるさくしても苦情が来ないのは良いな。
店自体も見た目は広い。それに店前には花壇があり、色んな花が咲いている。
割と繁盛しているようで武具屋のようだ。
武具屋なら砥石くらいはあるはずだと思って入店してみた。
固有武装の聖剣は砥石要らずとは行っても気持ち的に磨くくらいは良いだろう。
扉を開けるとカランとベルが鳴った。
「いらっしゃい」
栗色の髪と少しすすけた顔の美人さんが迎えてくれた。
中は最近ではあまり見かけない武具が置いてある。
可変式とでも言うべきか剣と斧がくっついていたり槍と鎚がくっついていたりしている。この世界の武器は基本的に単一型だからこの世界の住民にしてみれば画期的なのかもしれない。
「あ、お客さん、その顔は初めての人ね」
「ああ、あまり見かけない武器だから驚いた」
すると彼女は自慢するように可変武器の一本を取り出して見せてくれた。
「ウチの旦那が思いつきで作った武具なのよ。少し斬新だけどその分素材は一級品を使っているわ。鑑定している私が保障する。名前は旦那の名前を取ったSTっていう武器よ。性能もちゃんと一級品よ」
エスティー……ああ、店頭にあったあのSTか。
鑑定というのは鑑定スキルでも取っているのだろう。
それにしても――。
「あ、その顔は分かったね。そう、ウチはSTを専門している武具店よ。他では売ってないから注意してね」
カシュ、カシュ、と柄にあるスイッチ一つで形態が変わっていく。
他で売ってないのは利点だな。良い物はリピーターも顧客も増える。
何よりも技術を独占しているのは一番儲けられるからな。
「へぇ……その旦那は天才だな。ここまで綿密に作るのは難しいだろうに」
彼女、褒められるのは慣れていないのか照れくさそうだ。
正直な所、この武器の切れ味は良いし耐久性もある。可変するから戦闘中に距離が変えられる上に相手の意表を突ける。戦闘を有利に進められれば死ににくくもなる。
よく考えられている一品だな。
そうしていると奥から佐藤が顔を出した。
「マベレイズ、客寄せも良いが品を――」
佐藤? 奴は俺を見るなり表情を強張らせた。
佐藤か。あまり見かけないと思ったらここで働いているのか。
んん? おや? そう言えばさっき彼女が旦那とか言っていたような……?
あ、そうか。つまり佐藤のSと大典Tを取ってSTか。
確認を取るように俺は佐藤に指を向ける。彼女は察したようで頷いた。
「ほほう。中々異世界ライフを満喫しているようだな」
「いや……違っ、マベレイズとはそんな関係じゃ――」
「もう、レイって呼んでって言っているじゃない。シュー!」
俺が佐藤に問いただすと彼女が追撃を掛ける。
うむ、確定だな。この野郎……。
「シュー、ねぇ?」
そして厭らしく笑ってみたりする。
佐藤は何か悟って諦めたようだ。奥から観念して出てきた。
「まさか最初に来る客がお前だったとは……数ある武具店でも底辺に等しいこの場所がまさか見つかるとは思っていなかったぜ」
苦笑いをしつつ佐藤がこちらに来る。
底辺の割には店が大きいような気がするんだがな。
「お前……接客する気ないだろ」
「俺は作る専門だからな」
おいおい……良いのか、それで。
あ、そうか、こっちの美人さんが客を寄せるのか。
そう考えるとちょうど良いな。うらやまけしからん。
「まあまあ、ちょっと待っていてね。お茶入れてくるから」
彼女は知り合いという雰囲気を感じ取ったのか少し席を外した。
「あ、お構いなく」
彼女はニコニコしながら奥へと行ってしまった。
このさりげない気遣い、彼女は良いお嫁さんになるな。
まあ、その婿になるのがこいつだとは到底思えないが……将来が楽しみだな。
「で、随分と関係が進んでいるじゃないか、佐藤君? 旦那様とは良い御身分ですなぁ?」
とりあえず、リア充は弾けて混ざれば良い。だってまだこっち来てから二週間だぜ?
「い、いや、旦那とは言っても結婚しているわけじゃないし……」
それは重要じゃぁない。一緒にいることが罪なのだよ。
最も、それは俺にも言える事だ。プレアとかアネルーテとか……。
その内ブーメランしてきそうだな。
「あだ名で呼び合う仲ですかい。羨ましい限りですな」
「あ、朝宮?」
「羨ましいな、この野郎! いつの間にあんな美人さんを嫁にしやがって畜生がぁ!!」
俺の魂の叫びが店舗に炸裂した。
佐藤は世間体や周り近所(百m単位でいないのに)を気にしてアタフタしている。
ふむ、こういう反応は面白いな。
そこで彼女が顔を赤らめながら上機嫌でお茶を持ってきた。
「もう、そんなこと人から言われたのは初めてよ。シューには毎日夜な夜な言われているけど」
彼女の言葉に俺は佐藤を視殺せんとばかりに歯噛みする。
だが俺はそれ以上を口にするほど子供じゃない。
引きつった爽やかな笑顔で佐藤たちに向き直る。
というか同棲してやがりますか。
「さて、と。それじゃあ用件の方に入ろうか。今日来たのは砥石とか包丁が欲しかったからだ」
「包丁? 料理でもするのか?」
佐藤が首を傾げて聞く。ふっ、それを待っていたぜ。
聞くが良い、我がスキルの一端を!
「聞いて驚け。俺の料理スキルは二段階進化して極上料理というスキルになったのだ」
「極上料理スキル? 聞いたことない――」
「ご、極上料理スキル!?」
佐藤の代わりに彼女の方が大層驚いている。
その彼女が佐藤に食いよる。
「な、なんだ? 知っているのかマベレイズ?」
「……知っているも何もそのスキルを持っているのは世界でもたった数人。全員が国家お抱えの専用料理人。しかも全員が齢八十を超えるご老体よ。スキルを習得するには人生すべてを捧げても足りないと言われる天才のみしか扱えないスキルなのよ!」
大絶賛だ。フフフ、当然だな。彼の世界でも料理とお菓子作りにかけては師匠意外に負けたことはない。
来年こそ師匠越えを、と思っていたが故に残念だ。
何かの世界大会を制覇した師匠だったけど何故か喫茶店やっていたんだよな……。
「そ、そんななのか……」
「そう! 私たち主婦の中では一般的に料理スキルがLv5に達することで主婦と認められ、Lv8で料理教室が開けるのよ。ちなみに私はLv3……何よ、シュー」
と、話が進んでいたな。
佐藤が何かを納得したような視線を彼女に向けた。
ちなみに佐藤、それは地雷だ。
「いや、マベレイズが鍛冶一筋なのは知っているから」
「何よ! 私が料理下手だって言いたいの!?」
「そんなことは言っていない」
痴話喧嘩が始まった。ああ、微笑ましいこと。
しばらく収まりそうにも無いので店を適当に散策していく。
STも手に取ってみて武器変化をしてみる。
形状が剣から槍に変わった。具体的には柄が伸びて剣先が縮んだという感じだな。
中々面白い発想だと思う。これなら近中距離で戦うことが出来る。
俺にしてみればそれがなんだという話なのだが。
さて、それより砥石と包丁――……砥石は在った。
包丁は調理器具が合体したSTになっていた。
包丁、お玉、フライ返し、菜箸の四種類だ。洗うのが少々面倒くさそうと思う反面、使いこなせば料理のスピードが上がるなと思った。
面白そうだから購入することにした。
それと他に家電製品……魔力で動くから家魔製品か? 冷蔵庫や掃除機などが作られていた。意外にもこういう製品はこの世界にはあまりない。
ついでに言えば俺たちも作り方を知らないため作りようがない。
結論、主婦に大人気。
とりあえず目的の品を見つけたので未だ痴話喧嘩を続けている佐藤たちの元に行く。
そして購入が済み、意外にも高い二万エルという手痛い出費をした。
これは必要なことだと自分に言い聞かせ、佐藤たちのお得意様第一歩を踏み出した。
――ST工房を出た俺はすぐさま亮平たちにチャットを送る。
『緊急:佐藤の野郎が美人の奥さんを手に入れていた』
ん? 口にはしていないぞ? 俺は。
帰宅途中で寝間着がないことに気が付き適当に購入した。
城に戻った俺は炎上し続ける佐藤のスレに油を注ぎこんでいた。
~そんなスレ
嵩都「佐藤の野郎が美人の奥さんを手に入れていた」
亮平「なんだと!?」
源道「有り得えねぇ!」
三井「それはマジな情報か!?」
嵩都「本当だ」
遠藤「馬鹿な……俺より先にだと……」
斎藤「有り得ない有り得ない有り得ない」
鈴木「認めない俺は絶対認めない」
嵩都「ST工房っていう店だ」
安倍「燃やせ!」
片桐「氏ねぇ!」
安藤「モテ男には死を!」
亮平「そうだ!」
鈴木「任せろ! 俺のアロンダイトの濁流でそのハートごと流してやる!」
安倍「俺もry」
それ以降はずっと署名が連なっていく。
佐藤大典「全く嵩都め……」
グラたん「やっぱり貴方でしたか」
大典「俺以外の他に誰がいるんだ」
グラたん「そりゃまあ色々……ぶっちゃけ設定上じゃモブ扱いでしたからね」
大典「俺が……モブだと……」
グラたん「だって物語序盤で絡む不良って大抵噛ませ犬ですからね」
大典「ひでぇ……俺だって一人の人間なんだぞ!」
グラたん「私にしてみればモブリストの一人ですよ。エキストラも良い所です」
大典「じゃあなんで今回は出してくれたんだ?」
グラたん「死亡前の友情出演じゃないですか?」
大典「止めてくれ……」
グラたん「さて、次回予告です!」
マベレイズ「次回、第二次ラグナロク会議。……ねえ、シュー。ラグナロクって何?」
大典「(そそくさと退出)」




