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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第百五話・記憶喪失

グラたん「第百五話です」

~アネルーテ


 アジェンド城に戻ってきたアストはそのまま医務室へと運ばれました。

 最初にアストが息をしていないのを見た時はショックのあまり死のうとさえ思ってしまいました。

 そのあとはもの凄く後悔しました。

 私が考え無しだったばかりにアストを死なせかけてしまいました。

 アストが目を覚ました日からずっと後悔しています。

 医務室に来ました。あれから私はずっとアストの看病を続けていますが、基本的には何もしていません。

 何をすれば良いかも分かりません。

 下手に何かしたらより悪化させてしまうのではないかと思い、何もできずにいるのです。

 私は無知なのでしょうね。アストのことを知っているようで何も知りません。

 ずっと一緒に居たプレアなら……知っていたかもしれませんね。

 私はアストの傍にいます。目を覚ますまで一緒にいるつもりです。



 「ごめんなさい……」



 私は、ただ謝ることしか出来ません。





 ……気が付けば日の光が病室を照らしていました。



「……あの」



 声がします。起き上がり、辺りを見回してみます。

 正面でアストが体を起こしていました。

 もう回復したというのでしょうか?

 あ、いえ。と、とにかく、謝らないと―――。



「あの、すみませんが……ここは何処なのでしょうか?」





 ――――――――え?





 ……

 …………





 しばらく頭が働きません。少ししてアストが話してくれたことを思い出して答えます。



「えっと、ここはアジェンド城よ。私たちは一足先に戻ってきたの」



 アストは首を傾げる。



「戻ってきた……。一体、何処からでしょう?」

「孤島よ? 憶えてないの?」

「……すみません。何も思い出せません。それと、貴方はどなたですか? それに私は誰なのでしょう? 何も……分かりません」



 ふと、記憶喪失という言葉が浮かびました。



「貴方はアス――朝宮嵩都。私はアネルーテ・スファリアス・アジェンドよ」



 自己紹介が終わるとアストはまたしても首を捻ります。



「朝宮……嵩都……。それが私の名前……」

「そうよ。憶えてないのなら、教えます」



 私はまるで懺悔のように嵩都にあの時の事や孤島でのことを伝えました。

 この記憶喪失も――多分、私が原因です。

 説明は徐々に涙声になってしまいました。



「……なるほど。そんなことがあったのですか」

「ええ……ごめんなさい……私が不甲斐無いばかりに…………」

「それで貴方は私に対して贖罪をしたい……そういうことですね」

「えぐっ……はい……」

「本来なら記憶のない私ではなく記憶があった頃の私がするべきなのですが……貴方が言っている通りの人であるならば、きっとこういうでしょう」



 アストは一つ区切り、口を開きます。



『分かった。許すよ。ちゃんと言っていなかった俺も悪かった。贖罪が欲しいのなら、これから俺の事を知ってほしい。俺も分かる限りの事を話しておくよ。代わりに俺にも君のことを教えて欲しい』



 それはまるで記憶が戻ったかのような言葉でした。



「ですが、これは本来の私の記憶ではありません。今の私には贖罪は敵いません。私の記憶が戻った時、その時に贖罪を果たしてください」

「はい……はい……!」

「では、泣くのを止めてください。私を前にその涙は不要です。私の義兄様にも連絡が必要でしょうから」



 私は必死に泣くのを止めます。

 そして、亮平さんたちにリンクを飛ばしました。








~筑笹鹿耶


 アネルーテ様からリンクが来た。

 どうやら嵩都は目覚めたようだが記憶喪失になったらしい。

 私は聞いた内容を皆に伝え、帰宅準備を開始した。

 なんにせよ目が覚めて良かった。記憶喪失は時間が経ったり何かのきっかりで戻ることが多い。

 帰宅したら今の嵩都の様子を録画して後年の楽しみにしてやろう。

 さて、それはそうと最近アジェンド城内では腐女子が急に増えだしている。

 無論、私も関係がないとは言い難い。とは言え、どちらかというと私は純情派だ。

 どれにしたって否定するわけではない。肯定もしてはいないが。

 オホン。何を言いたいのかというと、そういう同人誌系を販売している奴らが二か月前に修行中の男子共が引き起こした第三次ラグナロクという馬鹿げた戦いを今度はこちらから仕掛けて腐腐腐としてやろうと言い出した。

 つまり、第四次ラグナロクを奴らは引き起こそうとしている。

 私にそれを止める理由はない。むしろ今までの事を考えれば推奨したいくらいだ。

 狙いはアジェンド城に帰還してからの一日らしい。疲れているからということだ。

 準備はもう既に出来ているそうだ。私はお祭り感覚で参加するつもりだ。

 女子もほとんどが参加することに決まっている。

 貴族の者たちも多少なり参加するつもりらしい。

 私の役目は皆がハメを外し過ぎないように、あと男連中にお持ち帰りされないようにすることだ。

 マベレイズさんの協力もありSTを借りることに成功している。

 大典には話が通っているようだ。そのために大典は知りながらも黙秘を強制させられている。

 どこにいても嫁の尻に引かれているようだな。

 とにかく今日の夜、腐女子の大群が男湯に襲撃する。








~亮平

 城に戻った俺たちは嵩都に面会した。

 ものの見事に記憶を失っていた。プレアさんのことも忘れているようだ。

 ふう……そして俺たちの青春も忘れてしまったらしい。

 俺はアネルーテに断って嵩都を会議室に連れて行き、聖王の元に集合した。

 聖王が壇上に登る。



「あの、義兄様? これから何が起こるのでしょうか?」



 ぐっ―――拒絶反応が出た。

 鳥肌が立ち、悪寒が背中を駆け抜け、吐き気と眩暈がしていた。



「嵩都。義兄様は止めろ。亮平で良いから」

「分かりました。亮平」



 敬語も止めて欲しいがこれはどうにもならないと本人談。

 聖王にスポットライトが当たり、聖王は音消しされているこの部屋で叫ぶ。



「野郎共、第四次ラグナロクをするぞ! 後先は考えるな! 俺たちは城賊だ!!」



 聖王の馬鹿丸出し発現に全員が拳を振り上げる。

 相変わらずの馬鹿野郎共だ。



「え、ええ?」



 嵩都は物凄く希少で純粋に驚いている顔をしている。



「嵩都。お前には前回の第三次ラグナロク、その前のことも教えておこう。尚、このことは他言無用だ。いいな?」



 嵩都が頷いたのを確認して俺は過去を思い返す――。










~回想・修行

 あれは七月。嵩都と別れた俺たちはネーティスへと向かった。

 ネーティスはアジェンド城を出て南に向かい、貿易船に乗って向かう。

 ネーティスは敵国であるバルフォレス方面にあるからな。国境侵害をするわけには行かないため必然的に海路を取るしかない。

 船旅は非常に酔った。筑笹が邪神城に囚われていたために女子指揮を執るのにも一苦労だった。というか今回の修行は基本的に俺がリーダーとして行動することになっていた。

 ネーティスに到着し、俺とフィーは王族のため謁見し、それから修行に移った。

 修行は国公認で貸し切られた海辺で行われた。

 筑笹が事前に立ててくれたスケジュールをこなし、その後に模擬戦をしてみたりもした。

 最も効果的なのはやはりダンジョン攻略だったな。高難易度の場所に行けば行くほど死線を超えて行った。途中では実際に何回か死にそうにもなった。

 あの頃はまだHPバーがあったからそれに気をつけていれば良かった。

 それにスキルなんていう便利かつ強力な物もあった。川城なんかは諸に廃ゲーマーだからスキル上げの速度が速かった。後に全部なくなった時はえらい凹んでいたが。

 スキルを使うのも良いが、対人戦――PVPだとスキルを使うことはない。

 構えている間に剣や魔法を打ち込まれるからだ。おかげで地の技術も上がった。

 海辺にはネーティス国が手配してくれた剣術や槍術の師範、魔法の師範に剣術等も教わった。

 そのために型の練習もした。型はほぼ全世界共通らしい。

 教わること自体は二日で終わった。三日目には師範を片手で倒せるようになってしまった。

 四日目には全員が免許皆伝した。五日目には一瞬ではあるが海が割れる規模の模擬戦が起こった。魔法の方もここで全員が習得し終えた。

 こんな泥臭い修行はまあ置いといて。

 ラグナロクはその次の日。六日目に起こった。

 具体的にはネーティス城が魔物に襲われるというテンプレ襲撃イベントを退けた夜だ。



「第三次ラグナロクをしよう」



 斎藤の頭が遂に狂ったかとこの時は思った。



「馬鹿野郎! 第二次でアレだったんだぞ!」

「死ぬ気か!」

「文字通り大参事のラグナロクになるぞ!」



 と、皆が口々に言うがこいつらも狂ったのか口元がにやけている。

 夜のテンションって怖いよな。



「だが、俺たちだけ良い思いしてもしょうがないだろ? そこで、このお城の兵士さんたちにも来ていただきました! さあどうぞお入りください!」



 扉からゾロゾロと私服姿で『覗き上等』という馬鹿げた鉢巻をしている馬鹿共が入ってきた。

 国を破滅させたいのか王に第一王子、第二王子、第三王子、宰相、大臣たちまでいる。

 更に百合志望も掌握させたのか女子が入ってきた。



「さて、まずはネーティス王を旗頭としたいが依存あるだろうか?」

『ありません!』

「よし。ではネーティス王、お一言お願いします」



 斎藤が壇上を王に譲る。王が昇り、挨拶を始める。



「旗頭のネーティスである。此度はこのような面白い催し物に参加出来ることを感謝しよう。先に桃源郷に逝った盟友アルドメラ王に続き、我らも同じ道を辿ろうではないか!」

『イエス・マイロォォォォォォド!!!』



 王の言葉に兵士共が一斉に敬礼する。



「さあ、参謀殿。我らに知恵を授けてくれ!」



 斎藤が再び壇上に上がる。今度は何やら紙束を持っている。



「了解した。まずはこの紙を一人一枚持ってくれ。この城の見取り図と侵入経路だ」



 紙を受け取って確認すると確かに現在位置と敵陣についての目印、侵入経路と逃走経路が書かれている。

 二枚目には女子の風呂ローテーションの時間割。

 三枚目には監視カメラの位置、監視員の数、見つかった時の対処法。

 四枚目には女子に見つかった時の心構えと受け答え。五枚目以降は数々の作戦だ。

 表紙にはラグナロクの掟と書かれた三条がある。


 1.ラグナロクは性なる戦いであるため、殺傷性の高い武器は禁止。

 2.ラグナロクは視る戦いであるため、襲わない。

 3.ラグナロクは犯罪なので女子から何をされても文句を言えない。



「その資料を今から頭に叩き込んでくれ。覗きのマニュアルみたいなものだ」



 覗きのマニュアル……なんか凄い背徳感。



「資料自体は君たちにあげよう。しばらく時間を取ろう」



 俺たちはその資料を食い入るように見つめ、頭に叩き込んでいく。

 しばらく時間が経った後、斎藤が壇上に上がる。



「さて、そろそろ良いかな? 今回のメインはツヤとハリのあるうら若き女子が入る2000からを狙おうと思う。侵入はパターンΣ。敵の行動によって随時指示を出す。行動開始は2010。移動時間は十分間だ。目標到達は2020~2040だ。それ以上は女子が風呂から出てしまうだろう。以上だ」


『了解!』



 斎藤の作戦に異議はなく、全員が声を揃えて肯定した。



「では、解散!」



 さぁて、楽しくなってきたぜ。

 今の時刻は午後の六時だ。まずは腹ごしらえといこう。

 俺は食堂へと向かった。


グラたん「次回――」

筑笹「サードラグナロク。ク腐腐腐……」

グラたん「何か背筋が凍りますね……」


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