第百四話・献身
グラたん「第百四話です」
~亮平
今日はダンジョン攻略の最終日だ。
このダンジョンはかなりの難易度を誇っているようだ。
ボス攻略の指揮は俺と筑笹が取り、参謀は斎藤だ。
拠点にはアネルーテとヴェスリーラさんが残っている。
ボスは水竜型のボスでフロア内は水浸しになっている。
攻撃パターンは全身を使った攻撃、水を圧縮したレーザー、尾を使った薙ぎ払いがほとんどだ。―――なんかどっかにいるような魔物だな?
それに水と氷の魔法を使ってくるようだ。
対して俺たちは基本を崩さず、盾役を前衛に置き、ちまちま攻撃することにした。
後衛は回復と支援を中心に暇があれば遠距離攻撃という具合だ。
「よし、それじゃ開けるぞ!」
筑笹が先陣を切って扉を開けていく。
中には待ち構えていたように水竜の姿があった。
「ギャォオオオ!!」
俺たちを見つけるなり水竜が勢いよく突撃してくる。
今回の盾役である、猛、武久、川城、海広、斎藤が大楯を持って突撃していく。
盾を地面に突き刺して水竜の巨体を押しとどめる。
それに続いて主攻である俺、筑笹、博太、フェルノ、大典が水竜に向かって走っていく。当たり前だが全員が固有武装を展開している。スキルは使えないけどな。
それでも覚醒スキルは健在なので、俺はエクスカリバーの発展形の黄金鎧『ブリターニア』を装備している。嵩都みたいに完全武装ではなく鎧だけだ。
後衛である加奈子、フィー、明日香さん、ネイルさん、後藤、青葉から支援魔法がかかり、俺たちは各々の獲物で水竜を切り刻んでいく。
水竜が首を上げて後衛に水レーザーを吐こうと口を開ける。
そこへ中衛のマベレイズさん、スーマさん、ペルペロネさんが物理防御を展開する。それによって水レーザーは防いだ。
そこへ火力と速さがある遊撃の司さんと悠木が水竜に切り込んだ。
「グギャァァ!!」
着実にダメージは入っている。スキルは使えなくなったからほぼ自力で戦うしかない物の敵もそれは同じだ。
少し下がった位置では大典が一斉射撃しようとSTを起動させている。
STは魔物相手でも十分に威力のある攻撃が出来る。この戦いのキモと言っても良い。水竜はそれを分かってか大典がチャージするのを尾で薙ぎ払おうとする。
当然、俺たちがそれをさせることはない。
水竜の鱗はしなやかなことで有名な素材だ。普通に叩いても弾かれるだけだ。
だが、容量は魚の鱗落としと同じだ。削ることで落とせる。
ああ、しなやかと言っても固いわけじゃないから貫通攻撃は通りやすい。
特にヴェスリーラさんの槍とかは大打撃を与えられるが残念ながら今はいない。
後は大鎌とかの先端攻撃は一層効きやすいかもな。
後衛からは雷の貫通特化した魔法攻撃が飛んでくる。
とは言え、相手は竜の一種だ。魔法防御は張るし、避ける。
この人数でも苦戦する強さを誇っている。
俺たちは戦い続ける。
~邪神
ヴェスリーラから連絡があった。
どうやら我が主が危篤状態に陥ったようだ。
余は主の分身体だ。主が死ねば私たちは存在意義を失う。
それだけは絶対に避けねばなるまい。
城内は騒然としている。あの冷静沈着なカルラッハがパニックになったどこぞの青狸のように使い物にならなくなっている。
フェイグラッドは茫然自失となり寝込んだ。
ウリクレアは教皇という立場上、聖堂から動くことは出来ない。
ええい、これが邪神軍か! なんと情けない。
はぁ……。愚痴も言ったしスッキリした。
さて、主を救う方法は簡単だ。余が主の元に戻り、現在の状態を上書きすれば良い。
聞くところによると違法薬物を主は他人から使用されてしまっていたためそれによって危篤状態に陥っているそうだな。
余が主の元に戻り、その薬物を取り除くと同時に離脱症状や禁断症状を起こす源も削除してしまおう。少なからず、余はそれが出来る。
主も出来るはずだが……多分、問題ないと忘れていたのかもしれないな。
さて、やることは決まった。
今、お傍に参りますぞ。主!
―――――――転移!
主が居るのはとある一室だった。
そこへ来ると主は乱れ狂ったように叫び声を上げていた。
なんとおいたわしい。今、お救いしますぞ。
やり方は簡単。余は主の魔力で出来ているためのしかかって同化すれば良い。
「ァァアアアア――グエッ!」
同化に成功した。 さて、まずは主の頭に行く。
記憶中枢に行って原因を発見した。
消去。
あと数分もすれば主は痛みから解放されるはずだ。
それと上書きしたことで全身に刻まれた傷跡も消えた。
余自身はもうそろそろ跡形もなく主の魔力に戻ってしまう。
そんなことを考えていると、脳の端に変な腫瘍みたいのがあるのを見つけた。
せっかくなので除去した。ついでにこれを取り除いたことで二度と離脱症状が出ることはないと分かる。これで安心して逝ける。
――そこで、一つの問題が浮上した。
腫瘍を取り除いたショックで脳に僅かばかりのダメージが入ってしまった。
要するにちょっとした記憶喪失だ。二週間ほどすれば戻るだろうから問題はない。
さて、余のなすべきことは終わった。
主、お達者で……。
~カルラッハ
どうしようどうしようどうしよう!!
邪神様が、邪神様がぁぁぁぁあ!!
ええい、こんな時に仮邪神様は何をしておられるか!
どこにもいない。フェイグラッドもウリクレアもヴェスリーラもいない!
ヴェスリーラからリンクが飛んできた。
『カルラッハ。今、よろしいですか?』
「なんだ! 邪神様はどうなされた!」
『落ち着いてください。スルト様は無事に助かりましたよ』
な、なんと……。
深呼吸して落ち着く。
「と、そうだ。先ほどから仮邪神様のお姿が見えないのだ。何か知らないか?」
『そのことなんですけれど……多分、スルト様を助けようとして自らを犠牲にしたのではないかと思われます。証拠にスルト様のお部屋に仮邪神様のお衣と仮面が落ちていましたので、ほぼ間違いがないと思われます』
「なんですとぉぉおお!?」
ば、馬鹿な。仮邪神様、私は貴方を疑っていたようです。
私が府外ないばかりに貴方にお任せしてしまったようです。
『カルラッハ、叫んでないでこれからを決めましょう。スルト様が眠り、仮邪神様亡き今、ムスペルヘイムを任せられるのはカルラッハだけなのです。スルト様が戻るまで何とか凌いでください』
「任された。くれぐれも邪神様を頼んだぞ。何か変化があればすぐに伝えてくれ」
『分かりました! 頑張ってくださいね』
リンクが切れる。
さて、邪神様のご無事も分かったことだ。フェイグラッドを叩き起こして事務作業を頑張らねばなるまい。
私は書類が多いに溜まっているであろ事務室に向かった。
~亮平
「うおおお!!」
俺はとどめとばかりに渾身の力を込めて水竜を切り裂いた。
「ギャオオオオォォォォ!!」
あれから戦うこと半日。水竜がようやく体を地に伏した。
伏したと言っても死んだわけじゃない。しぶとい……。
水竜が再び立ち上がり、こちらを睨む。
水竜は満身創痍の感じがするが、俺たちだってそろそろ限界が近い。
正直、竜がここまで強いとは思っていなかった。
攻略法はもう分かっている。竜族は倒すのではなく屈服させることが正しい攻略法だ。
それに気づいたのは戦っている最中だ。
前に戦ったあの巨竜をふと思い出す。
嵩都の話によればあの巨竜はクエルトの町に攫われた子竜を取り返すために来ていたとか。
俺の攻撃が効いているように見えたのは完全に気のせいで巨竜が動かなかったのは嵩都たちが巨竜と交渉していたからだそうだ。
嵩都は修行の際にどこかの里へと行くと言っていた。
あいつ自身は話していないが多分、その巨竜のいる竜の里とやらに行ったのだろう。
そこから導き出せる答えは一つ。さっきも言ったように屈服。
文献によると竜は仲間が殺されれば復讐のために全軍で人間界を暴れまわるそうだ。
恐らく、里に行った嵩都は竜と盟約とかを結んでいるに決まっている。
よって、竜族を相手にすればもれなく邪神軍が付いてくる。
下手をすれば嵩都と同盟を結んでいるであろう魔王軍までも口実とばかりに侵攻する可能性が高い。
ええい! なんて厄介な奴だ、嵩都め!
俺たちは再び戦闘を再開し、更に一時間ほどが経過した。
水竜がようやく本当に倒れて動かなくなった。
「グッ、人間め。ここまで強いとは……」
「なっ――言葉を!?」
喋った。概ね予想はしていたため驚きはしない。ただし、ネイルさん以外。
「主ら、何が目的だ」
俺は一度筑笹を見て、頷いたのを確認してから口を開いた。
「目的はお前と戦うことだった。間違っても財宝とかに興味はない」
そういうと水竜は驚いたように目を開けた。
「なんと……それは本当か?」
その問いに俺は頷いた。
俺たちは戦闘終了とばかりに剣を納めた。
水竜はそんな俺たちに満足したのか敵意のない視線を向けた。
「左様か。フフフ、久しぶりに面白い人間が来たな。それにこの寂れた場所の掃除もしてくれたようだ。主らの名を聞いておこうか」
その掃除というのは徘徊していた水棲型の魔物のことだろうか。
それはともかく、俺たちは名を上げていく。
俺たちが名乗り終わると水竜が口を開いた。
「我が名はハルドモニアスという」
「覚えておくよ」
「フフフ、主らは島に拠点を構えておるのだろう? 久々に楽しめた礼をしようではないか。今晩の東の位置で宴をしようではないか」
東――そこで俺は今の状況を思い出した。
「あ……それはちょっと不味いかな。今、東の拠点には世界の命運を握る馬鹿野郎が必死に戦っているんだ。 そこに大多数の人数がいると勝手に敵認定されるかもしれない」
「なんと。そんな者が居るのか。というか我が領地で世界の命運を握っちゃう戦いしているのか!?」
水竜が驚愕している。なんとも珍しい物を見ている気がする。
「すまない。宴なら南側でやろう」
「ふむ……致し方あるまい。ちなみにだが、東側で戦っている者は主らより強いのか?」
「……俺たちを瞬殺するくらいわけないくらいには強い」
「瞬―――ッ。……その者の名は、何という?」
「朝宮嵩都」
ハルドモニアスはその巨体の首を傾げて名を思い出している。
「……おお、先日竜神様が言っていた者か。意外と世間は狭いようだ」
竜神――そんな奴とも知り合いなのかあいつ……。
ハルドモニアスと少し話した後、俺たちは別れて安全エリアまで戻った。
安全エリア以外は転移が使えないため、エリアの物資をまとめていると拠点に残っているヴェスリーラさんからリンクが飛んできた。
「どうしました?」
『た、大変です! スルト様が、スルト様が息をしていないんです!!』
一瞬、マジで頭が真っ白になったが驚きがそれを上書きした。
「なんだって!? 分かった。とにかくすぐに戻る!」
リンクを切り、俺は状況を皆に伝えた。
これは、正直に言ってかなりヤバイ。下手したら戦争になるかもしれない。
何度も言うが嵩都は多種多様な種族に好かれているため、この事情が知れ渡ったらアジェンド城が世界地図から消えるだろう。すぐに手を打たなくては!
俺たちが南の拠点に戻った時、そこには横たわった嵩都がいた。
最初に発見したのは定時に様子を見に行ったアネルーテのようだ。
その時は既に息をしていなかったそうだ。
心肺は停止していない。脈もあるが呼吸をしていない。
ネイルさんによると魔力循環という酸素を得ずとも生きている仮死状態だそうだ。
ひとまず安心だ。
ちなみに下手に刺激して起こすと魔力が乱れて死んでしまうこともあるようなので俺たちは嵩都を一足先にアジェンド城に戻すことにした。
その際にアネルーテが付き添いで一緒に戻って行った。
その夜には宴が開催された。嵩都とアネルーテには悪いが攻略成功を祝って盛大にやらせて貰った。
グラたん「次回、記憶喪失」




