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仮想世界は異世界への扉  作者: クルシス
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RPは黒歴史

新年あけましておめでとうございます。そして、やっと1日目が終わった!!長い!筆が遅い!申し訳ない!今年も頑張っていきます!

不満感を出すクリクにソヴィチナは安堵していた気分から一気に焦燥に気分が変わる。


(気を抜いたらこれだよ…けどまぁ、予想してなかった訳じゃない。どうしてか原因を調べないと、それさえ分かれば本当に問題なしだ。)


大丈夫と気を抜いた瞬間が1番危険だと思い知らされたソヴィチナだったがまだこっちが致命的なミスをしでかした訳ではないと考えてクリクの嫌いの原因を探る。


(ニャルラトホテプの事もあるから完全に元ネタ、史実通りじゃないと考えれるけど、戦術の事もある。あーもう、分からない。)


これがTRPGならGMの趣味嗜好から割り出せそうなものだが、今回はそれが出来ない。

しかもやり直しのきかないぶっつけ本番だ、今日1日で何度目かという緊張の波を感じるソヴィチナ。


「クリク、理由を聞いてもいいかな?」


「それは、言いにくいと申しますか…し、しかし、仲間として協力出来ない程嫌っている訳ではないので軍務に支障はありません!」


悩んだ様子で言葉を選びながら言われるとソヴィチナも気にして強く言いにくい。

しかしそれで済ませていい問題でもない為、外堀から埋めるような質問を考える。


「デリケートな事だし、無理に話せとは言わないけど…やっぱり相手の種族がクトゥグアだから?」


種族的に言うならクトゥグアとニャルラトホテプは完全に敵対関係だ、その影響で嫌いなのかとまずは確認する。


「いえ、それは違います。確かに私の種族であるニャルラトホテプはクトゥグアと敵対関係にはあります。

しかし我がギルドは多種族が所属、つまり様々な種族が仲間であるギルドですので、その影響からかあの種族だからこの種族だからという差別的な認識は低いかと…。」


「それは、例えるなら天使と悪魔の間柄であっても?」


「はい、ギルド所属の者であるならば全員そういう認識で問題ありません。」


種族は関係ない、では何が原因か?

最悪なのはメアリカの副官ポジションの『モナヒー・ノネ・シスタ』が紅茶の国陣営だからという理由だ、だがモデルにした国家間の関係による嫌悪だとすれば嫌悪対象がモナヒーだけではおかしいのである。

クリクの場合、下手をすればドソイア国防軍以外は全員敵と認識してもおかしくはない。

規律の国の国防軍は、自由の国と紅茶の国と赤い国を敵として戦っていたので嫌悪していると簡単に想像出来るが、実は同じ規律の国の親衛隊も国防軍は非常に邪魔に思っていた側面がある為、場合によっては周りは全部敵だ状態である。

無論その敵には紅茶の国と自由の国側の陣営のメアリカも入っているかも知れない。

しかしそのメアリカに対してクリクは敵対意識は持っていない、サブギルドマスターとNPCは違うのかも知れないが…。

やはり強引にでも原因を聞きだすべきだとソヴィチナは判断する。


「クリク、ならば何故嫌いなんだい? 仲間として協力出来ない程嫌っている訳ではないなら致命的な亀裂があるという事ではないんだろう?」


「それは…はい、これは私が勝手に嫌っているだけです。モナヒーが何かしでかしたのではなく、一方的に嫌っているのです。モナヒーの方は私の事を嫌ってはいない、筈です。」


(となると、史実国家の関係性は反映されてないと見るべき、かな?)


クリクの話を鵜呑みにするならば、どうやら完全にモデルにした国家間の関係は反映されてはいないらしい。

こちらの理解を超えた戦術の話は何故だという疑問はあるにはあるが、逆に言ってしまえばそれ以外はソヴィチナが考えた設定がソヴィチナの理解度や認識レベルで反映されている。


「分かった。けどクリク、言えるなら理由を教えてくれないかな? 勿論言いたくないなら言わなくてもいいから」


軽くおどけた感じを出しながら駄目元でもう一度聞いてみるソヴィチナ、これで聞けないならスパッと諦めてメアリカの元へ戻ろうと考えつつ、ざっと現状を確認してみる。

まだ不明な点はあるが、もう早急に確認すべき事はないだろう。

他のNPCも確認はいるが少なくともいきなり襲われるような心配はないと得られた情報から考えられる、ひとまずの安全は確保出来た筈だ。

なのでここで話を切り上げても良かったが、クリクの嫌いの理由は出来れば知りたい情報だった。

史実や元ネタに関する事による好き嫌いではないとすれば、何故か。

少なくとも設定ではクリクがモナヒーを嫌うなんて設定は書き込んでもいなければ考えた事もない、ソヴィチナとメアリカは基本的に仲良し設定を好むので意図しない限り、誰かを嫌いになる設定は考えないのである。

まぁ、多少ケンカしたりはする程度なら考えたりするのだが。


「それは…いえ、ソヴィチナ総統にそこまで求められては答えない訳にはいきません、これは完全な私情なのですから。」


僅かに悩んだ後で意を決したように言い、自嘲気味に笑うクリクにソヴィチナは胸が締め付けられる。

なるべくなら聞いておきたい事だと、駄目ならいいや位に思って聞いた事だ。

しかし考えてみれば言いたくないなら言わなくていいなんて言われたって、クリクからすれば絶対的上位者であろうソヴィチナから聞かれれば言わざるを得ないだろう。


(…悪い事、しちゃったよ…ごめんクリク。)


申し訳ない気持ちでいっぱいになったソヴィチナは心の中で謝り、しかし、聞いた以上はその理由をはっきりとさせようとクリクの発言、一言一句を聞き逃さないようにする。

クリクは何度か言葉を発しようと口を開いては閉じるの繰り返しをし、その度に顔が赤くなり表情に羞恥心が混じり始めた。

そして、ビシッと姿勢を正したかと思うと敬礼をして声を張り上げる。


「ぃ、一時期、モナヒーにソヴィチナ総統が甘えてばっかりだったからです! わ、私に甘えてくれれば良かったのに!」


「………え、うん? えぇ?」


思考が停止するソヴィチナ、クリクから完全に想定外の言葉が発せられたからだ。

モナヒーに甘えてばっかり? 私に甘えてくれれば? それはつまり、いわゆる嫉妬というモノでは?

そこまでは何とか把握出来たものの、何故そんな事になっているのかが全く分からなかった。

そんな事態は設定であるか?

そんなモノはモナヒーにもソヴィチナにも、勿論クリクにもない。

一応、クリクはソヴィチナに対して恋愛感情を密かに抱いている為、そういう事態は考えられなくもないがソヴィチナにはそんな事態になる場面に心当たりは何もない。


「えっと、クリク。ごめん、詳しく」


なので、正直に聞くソヴィチナ。


「ソヴィチナ総統とメアリカ様が一時期、モナヒーに抱きついたり胸をさわったり膝枕をしてもらったり頭を撫でさせたりとモナヒーの私室で甘えていたではありませんか!」


そして聞かれる事を予見していたらしく、もじもじとしながらもクリクはよどみなく喋り出す。

しかし、言われた内容に心当たりはない。


「ん、いや、待てよ? モナヒー、クリク、私室…。」


だが言われた内容の中で引っ掛かりを覚えたソヴィチナはその引っ掛かりを頼りに思い出そうとする。


「ぎゃああぁぁっ!?」


「ソヴィチナ総統!?」


そして思い出した。

奇声を発してしまったがそんな事はどうでもいい、クリクが驚いているがそれもどうでもいい。

今重要なのは過去にメアリカ以外には誰もいないと思い、悪のりして2人でおこなったRPがNPC(たにん)にしっかり見られていたという事だ。

はっきり言って死ぬほど恥ずかしい、出来るなら今すぐここから走り去りたい。

しかし、このまま走り去ってクリクを放置する事は出来ない。

必死に体に鞭を打って何とか体裁を整えるソヴィチナ。

もっとも苦笑いの冷や汗だらだらだったが。


「ク、クリク。他に何かいつもと違うなって感じの事はあったかな? モナヒー関連じゃなくて、例えば会議室で各将軍を集めて開催した会議、とか?」


「おっぱいぷるーんぷるん等言っていた奇妙な会議の事ですか?」


「全部かよおぉ!! NPCの前でやっちゃってた恥ずかしRPは全部見られてたのかよおぉ!!」


今度は耐えきれずにその場でがっくりと膝から崩れ落ちて倒れるとびくびくと悶絶するソヴィチナ。

それを見たクリクが慌てているがそれを気にする余裕はソヴィチナにはなかった。

しばらく悶えていたソヴィチナだったが、なんとか立ち上がるとゆらりとクリクに近づき両肩をがっしりと掴む。

ギロリとクリクをにらむソヴィチナの目が据わっていた。


「クリク将軍…それらは深い意味はなく、子供の遊びのようなものだ。忘れたまえ、これは総統勅命である…いいな?」


砕けた口調、というよりはいつもの口調から軍人口調に切り替えて力強く命じるソヴィチナ。

それくらい本気で忘れて欲しい案件だった。


「あ…っは! 総統勅命、了解致しました。それらは忘れます!」


鬼気迫るソヴィチナにクリクがやや圧されながらも命令を承認する。


「うむ! よろしい、では話は以上だ。下がりたまえ。」


その様子にソヴィチナは大きく溜め息をつくと頭を押さえながら、クリクからの情報収集は切り上げて艦橋に戻る為にクリクに下がるように指示を出す。

ひとまずの安全は確認出来たし得られた情報の整理も必要だ、それに不安であろうメアリカに安全を伝えて早く安心させてあげたい。

…と、いうのもあるが一番の理由は黒歴史とも言える恥ずかしRPが見られていた事に対する精神的ダメージだった。


「っは、失礼致します!」


クリクは敬礼をすると再び見回りへと戻っていく。

その後ろ姿を見送り、見えなくなるともう一度盛大に肩を落としながら溜め息を吐いた。

安全が確認出来た安心と黒歴史が見られたという羞恥心がごちゃ混ぜになった気持ちで頭がいっぱいだが全体的に見れば情報収集は成功と言っていい。

現状を考えるならむしろ上出来だった。


「はぁ、成果はあったしひとまずの安全も確認出来た。よかったと考えてメアリカの元へ戻ろう。」


・・・・・・・・・


「うぅああぁぁっ!!!」


メアリカのいる艦橋へと戻り、情報共有をしたソヴィチナとメアリカだったが案の定、自分達の恥ずかしRPが見られていた事実を知ったメアリカは悲鳴をあげて艦橋内を転げ回り、頭を抱えて狂乱していた。

ソヴィチナの時と違い、ここにはNPCはいないので思い切り感情を爆発させて発散するメアリカの様子をソヴィチナは朗らかな笑顔で見つめている。


(そうだよねぇ、そうなるよねぇ。いやぁ、自分だけじゃないって安心するよぉ…。)


そのまま少しの間放置し、メアリカが落ち着いてきたのを見計らってソヴィチナは転がっているメアリカの肩に手をやり声をかけた。


「落ち着いた?」


同族、仲間を見る目で慈しみがこもった視線を送るとメアリカは、あんたもか、みたいな顔をしてフッと笑う。


「ぐすっ…落ち着いた、ありがと。」


起き上がらせろと言わんばかりに手を伸ばして促すメアリカに苦笑しながらもその手を取って起き上がらせるとメアリカがパンっと、頬を叩いてから大きく深呼吸をする。


「ふぅ…まだ精神的ダメージが大きいけど、この際それは置いておくわ。

得られた情報からして安全は確かに確認出来たわね、あとはクリク以外のNPCからの情報収集がいるけど、まぁすぐにじゃなくてもいいかしら?

とにかく安心して休めるっていうのは助かるわ。」


気持ちを切り替えたメアリカはソヴィチナから聞いた情報をメモした手帳を片手に状況をまとめ始める。


「うん、まだ分からない事は多いけど少なくともギルド内部に敵はいないと思うよ。」


「えぇ、とりあえずその認識でいいわね。次に優先度の高い情報は外の情報だけど、それは私が艦橋から望遠鏡で見える範囲で調べておいたわ。」


艦橋内にある備え付けの望遠鏡を指差しながらメアリカはソヴィチナからの情報をメモした手帳のページを何枚かめくると、その開いたページをソヴィチナに見せた。


「おぉ、そっちでも調べておいてくれたんだ。ありがとね。」


まさかメアリカの方でそんな事をしているとは思っていなかったソヴィチナが素直に感謝をすると、メアリカは照れくさそうに頬を指でかいて、フンと鼻を鳴らす。


「一応、そっちに危険を押し付けちゃってた形だし…少しはやっておかないとだもの。あ、勿論、連絡が入ったら即応出来るようにしてたわよ。」


「流石はメアリーだよ。で、調べた結果はどう?」


「バッチリって言いたいけど、やっぱりここからだけじゃ全然よ。」


ソヴィチナが訪ねるとメアリカが答えながら黒板に手帳を見ながら情報を書き込む。

黒板には簡易のイラストがかかれ、陸上戦艦『ドソイア』を中心に次々とイラストと文字が書き込まれていく。


「まず結果から言うとメールで異世界とあっただけあって現在地は未知の場所。分かるのは現在地が何もない緑の平原で遠くに山々がつらなっている事と、同じく遠くに街道らしき通路がある事、雑多な物だけど柵みたいな物もあったから多分間違いないわね。アルフスの少年ヘータの世界観や中世をイメージすれば分かりやすいかも。」


(中世か…。)


中世、しかも異世界とくればファンタジーな世界なのだろうか?

しかしファンタジーじゃない現代でも中世をイメージさせるような場所はあるだろう、それとも中世に見えるのはこの辺だけで実際は宇宙を艦隊が行き交うようなSFな世界かも知れない。


「うん、行ってみない事には分からないけど…街道、という事はその道に沿っていけば町がある筈だね。ギルド関連が落ち着いて、周辺の探索が済んだら調査しにいこうよ。」


中世かファンタジーかSFかはおいておいて、街道があるという事は、ある程度は文明を築いた知的生命体がいるという事だ、接触して得るものは多いだろう。


「それには私も同意件だわ。ここから望遠鏡で見る事が出来る範囲で分かる事はあまりに少ないもの。だから遠からず町には行く。だけどそれよりも今はやる事…いや、やりたい事があるの。それは…。」


「それは?」


勿体ぶるようにわざと区切られたので重要な事かと思い、真剣に聞く姿勢を取るソヴィチナ。

それを見てからメアリカも真剣な表情で頷く。


「NPC達に周辺への警戒態勢を命じた後で、ベッドで寝る! 精神的にもう限界!! 疲れた!!!」


握り拳まで作った気合の入った叫びだった、切実な気持ちがヒシヒシと伝わって来た。

無論、ソヴィチナも疲れていないかと聞かれれば非常に疲れている。

元々この異常事態に精神的疲労が限界で休むつもりだったのにクリクが喋った事で緊急の情報収集が必要と行動した上に、その行動中は命の危険があるかもと緊張の糸を張り巡らせていたのだ。

ベッドに寝転べば、いや、床に寝そべって目を閉じているだけでもすぐに熟睡出来る自信がある。


「………まぁ、ひとまずの安全は確認出来たし、僕もそれでいいと思うよ。」


そうして、異世界最初の1日は終わった。

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