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仮想世界は異世界への扉  作者: クルシス
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自重しない設定

艦橋を出たソヴィチナは、クリクを見つける為に艦橋付近を見渡すが姿は見えない。


「…艦橋付近の見回りはどこまでって設定してたっけ? 南側通路には来た筈だからそこで待ち伏せるかな?」


クリクの設定を思い出しつつ隔壁のトラップがある南側通路へ歩き出す。

『クリク・ウォン・ヴァイナ』

ソヴィチナが作り上げたNPCの中でも重要な設定のNPCの内の1人である。

性能は超長距離精密射撃攻撃魔法を発射するスナイパー的なアウトレンジ戦法を得意としているが近接戦闘も不得意ではなく、近づけば銃による弾幕と高速の剣劇、加えて軍隊格闘での肉弾戦が待ち構える前衛よりのオールラウンダーのNPCだ。

設定としてはギルドの軍隊の1つ、ドソイア国防軍の将軍で戦争狂(ウォーモンガー)にして狂戦士(バーサーカー)の闘争大好き軍人。

攻勢作戦を得意とし、攻勢ドクトリンに精通しているが逆に守勢作戦は不得手。

しかし1度攻撃に出れば凄まじい戦果を手にする攻撃特化の卓越した戦略家であると同時に一騎当千の兵士でもある最高戦力の一角。

イメージはソヴィチナと同じく第二次世界大戦時の規律の国の国防軍の軍人をモデルにしており、いかにも規則と規律に厳格な女性将校と言った感じで性格も見た目通りだが融通がきかない訳ではなく臨機応変な対処も出来る有能者だが闘争好きの為、あらゆる目的を戦うという手段で解決しがちの面もある良くも悪くも軍人という感じだ。

そしてソヴィチナ・ライヒグラードに対しては強い恋愛感情を抱いているが相手が同性かつ総統という事もあって必死にその感情を隠している。


「うーむ、我ながら突っ込みどころのある設定だよね。 というか、よくよく考えればモデルにしてるだけで規律の国の国防軍軍人そのものって設定じゃなくて、あくまで僕達のギルドの国防軍や親衛隊、赤軍だからあまり気にする必要はなかったかな? いや、でもどう反映されてるかはどっちにしろ分からないか。」


改めて考えてみるとやってしまった感のある設定に我ながら笑ってしまう。

南側通路にも到着したのでクリクを待ち構える。


「さて、どう話すべきか…クリクは僕の事を『ソヴィチナ・ライヒグラード』という人物として認識してるとしたら総統らしく、あるいはギルドマスター? う~ん、でもギルドマスターはクリク的にはどうなんだろう? 総統=ギルドマスターって考え?それともプレイヤーと認識?」


NPCと同じくPCにも設定を書き込めるフレーバー要素な枠があり、それに準じたRPを楽しむPLは少なくなくソヴィチナもメアリカもそのPLに分類される。

ソヴィチナの場合、フレーバー設定に総統と言った役職を設定として書き込んでおりNPCを揃えてメアリカとそういうRPの遊びをした事もあった。

だがその内容のほとんどがニッコリ動画の総統閣下シリーズだったりパラノイアなTRPGの共産主義者だったりと史実とはかけ離れたものだったりする。

というよりソヴィチナとメアリカの持つ趣味の知識はそれらと他の様々なアニメやゲームに漫画が全てであり、ガチの知識人や詳しいマニアやオタクに少し深く論議されると容易く論破される浅知恵もいいところの代物だった。

もしモデルにした国防軍を史実と同じレベルで設定に反映されているとしたら分からない事の方が多い。


「…もう少し設定をよく思い出してみよう、僕もクリクも含めて…。」


クリクの見回りルート的に考えると時間にはまだ余裕がある、PCの設定も思い出しておいて損はない。

『ソヴィチナ・ライヒグラード』

ギルドマスターにして総統。

ドソイア軍の最高司令官ではあるが軍部は各将軍に委任している、基本は目標や目的を指示して命令を受けた将軍が具体案を考案し、将軍からあがって来た具体案に目を通して承認か否かを決めるといった方針の周囲に助けてもらうタイプのリーダー。

メアリカ・ネイビルとは仲良し。

軍務中は軍人っぽい口調で喋るが気心知れた仲なら軍務中でも砕けた口調になる時がある。

肥満体の見た目通りの大食漢で美食家、おやつを含めて1日5食。

人間ではなく豊穣と暴食を司る半神半魔の魔神であり、良く言えば豊満な体なのは司る権能の為。


「えっと、ソヴィチナの書き込んである設定はこれで全部…考えた設定はまだあるけど、この設定欄は他のPCも見る事が出来る事を考えて最低限の書き込みにしてたからなぁ。」


PCの設定欄は誰でも閲覧する事が出来た。

中には設定欄に性能や戦闘スタイル、裏設定といった細部に至るまでキャラクターの設定等を書き込んでいるPLもいたが、そのせいでPVPで不利になったり趣味が特殊で引かれたり等がある為、無記入や最低限こういうキャラクターだと分かる事だけを記入するPLが多い。

もっともあくまでフレーバー枠の設定欄なのでプレイヤーがキャラクターを作り変えたが設定欄では書き直し忘れてて善人設定なのに極悪人設定として書かれていたり、あえて誤った情報を載せて情報工作したりと必ずしも信憑性がある訳ではないのだが。


「ふぅ、ソヴィチナが1番やってしまった設定かも? やっぱり少しは自重するべきだった。」


自分の体をそっと撫でる、肉厚な感触が伝わってきた。

ソヴィチナ・ライヒグラードに書き込んである設定はソヴィチナのPLである少年の、現実では絶対に得る事が出来ない願望を注ぎ込んだ産物だ。

だからこそ、自重せず設定を考えてしまったのだが。


「ま、今さら言ってもしょうがない。設定に後悔はないんだし…。

けど半神半魔はもう少し考えておけばよかったな、天使と悪魔、両方好きだから合わせてついでに肥満の理由付けになればいいって短絡的に考えたところもあるし、変わった種族設定にしちゃった。」


ふぅ、と溜め息をついてから雑念が混じり始めた頭を軽く振り、意識をクリクが来る通路へと向ける。


「ん、待てよ? 種族、クリクの種族って確か…。」


自分の種族設定を思い出したついでといった感じでクリクの種族を思い出そうとする。

ついでに思い出すと赤い国の赤軍をモデルにしたドソイア赤軍は全員が亜人種という設定、規律の国の親衛隊をモデルにしたドソイア武装親衛隊は全員が吸血鬼という設定、同じく国防軍をモデルにしたドソイア国防軍は全員が悪魔という設定だ。

なのでクリクの場合は…。


「あぁーっ!?」


クリクの種族設定をはっきりと思い出してから、ソヴィチナは絶叫する。

致命的にやってしまった設定だった、規律の国の親衛隊や赤い国の軍隊をモデルにした設定がかすむ程に。


「クリクってニャル様じゃんっ!!」


転げ回りたくなる衝動を必死に抑えて、何とか頭を抱えてうずくまる程度に行動を抑える。

クリクの種族設定は悪魔、にカテゴリーされるかは分からないがクトゥルフ神話に登場する邪神『ニャルラトホテプ』にしていた。

クリアドでは種族ごとに有利、不利になるステータスという概念がなく、見た目や各個人が考えた設定でどういう種族かを判別出来る程度の設定好きやRP好きでなければ無用の代物、フレーバーな物でしかなかった。

でしかなかったのだが…。


「やばいやばいやばいやばい! 規律の国の国防軍だとかはあくまでそのものではなくモデルだったけど、ニャル様は『ちなみにニャルラトホテプである』って明確に書き込んでた…。

僕が持ってるニャル様の知識なんてアニメと漫画と小説がほとんど、あとはクトゥルフ神話TRPG動画が少しだけ………ガチ知識なんてないよぉ!!」


クリクを作成していた時は、クトゥルフ神話TRPGに興味があった事に加えてその神話に登場するニャルラトホテプが規律の国の伍長の総統に対して関わりを持っていた物語があるというのを聞いた事があり

『だったら魔物の部分はただの悪魔とかじゃなくて邪神のニャルラトホテプにしよう、僕は総統でクリクは副官的ポジションだし』

なんて深く考えずに決めていたのだ。

NPCもPCもよく考えて設定やデザインは考えているソヴィチナだが割と思い付きでパッと付け加える設定もない訳ではないのである。


「僕のバカァ!! 簡単に世界を滅ぼせるような邪神の設定なんて安易につけるな!! ど、どうすれば…テレフォン!メアリー!」


【ソヴィー!? 戦闘になったの!? 大丈夫!?】


ソヴィチナがテレフォンを発動させるとすぐにメアリカがテレフォンに応じた、すぐに反応出来るように待機してたらしい。


【まだクリクには会ってない、けどクリクはニャル様だった!ニャル様!ニャルラトホテプ!】


【あ? は? え? ちょっと落ち着きなさいソヴィー、まだ会ってないなら即戦闘って訳じゃないでしょ? まだ安全だからゆっくり説明して。】


【ぅ、あ、うん。ごめん。えっとね…。】


メアリカに言われてようやく落ち着きを取り戻したソヴィチナは何とか説明をメアリカに伝える。


【クリクの種族設定がニャル様、ソヴィーってばやってくれちゃって………あっ…。】


【え? 今の、あ、は何…?】


そして説明を聞き終えたメアリカが思い出したように、あっと声をあげ沈黙した。

その声に込められた嫌な感じを考えると聞きたくはないが疑問をぶつけるソヴィチナ。


【言われて思い出したんだけど私も、ソヴィーの副官ポジのクリクがニャル様なら私の副官ポジのモナヒー・ノネ・シスタはクトゥグアにしようかなって考えて…やっちゃった♪てへ♪】


【何やってんだよおぉ!! 世界を滅ぼす気かあぁ!!】


【うるさぁ~い!! クトゥグアはとっても可愛い紅蓮の髪のお姉さんだから世界を滅ぼしたりしないのよっ!!】


【それ、僕達がやったクトゥルフ神話TRPGでの設定!本当にメアリーは僕と同じような趣味で同じような理解度のとっても気の合う良い仲間だよ!畜生っ!!】


同じレベルのオタクだと再認識しながら感情を爆発させてお互いに絶叫をしあう。


【えぇい! クトゥルフ神話TRPGで邪神や狂信者相手にリアル言いくるめしたのを思い出してRPすればいけるわよ!多分!】


【ぐうぅ…フレーバーが恐ろしい脅威になるなんて…。】


フレーバーとして考えた設定がとんでもない爆弾となってしまっていた。

結局具体案は出ないままテレフォンの効果が切れて通話が切れる。

再度テレフォンを使うには僅かだがインターバルが必要な為、そのまま呆然と立ち尽くす。


「あぁ、どうすれば…。」


半泣きになってソヴィチナはがっくりと肩を落としてぼやく。


「ソヴィチナ総統?」


「っ!?!?!?」


そしていきなり声をかけられた、完全に不意をつかれて驚きすぎて逆に悲鳴が出なかったソヴィチナがゆゆっくりと振り向く。


「いかがなされましたか。落ち込んだ様子に見えましたが…。」


そこには予想通り、クリクが立っていた。

テレフォンの魔法効果が切れる程の時間が経っていたのだからもうここに来てもおかしくはない。

しかし、あの邪神『ニャルラトホテプ』にどう対処すれば?

必死に考えるソヴィチナに対してクリクは心配そうにこちらを見る、その姿からは何の敵意も悪意も感じない、むしろ気遣いすら感じる。

その事に、慌てまくって混乱していた頭が少しずつ落ち着きを取り戻す。


「いや、構わないとも。こちらこそすまなかったな、さっきも言ったが考え事をしていたのだ。」


「そうでしたか。私でよろしければお力になります、何なりとお申し付け下さい。」


(ひとまず会話は成立している、後は上手く話して情報を得るだけ。)


ふぅ、と一息ついてソヴィチナは気合を入れた。

慌てはしたが慌てても慌てなくてもやる事は変わらない、設定の不安を追い出してRPに専念する。


「ならばクリク将軍、悪いが試したい事がある。いいか?」


「っは! 何なりと!」


敬礼を決めて真っすぐこちらを見つめるクリクからは忠誠心をひしひしと感じる、この分なら多少ミスをしても体調が悪いで誤魔化せそうだと少し気が楽になる。


「そう気負う必要はない。ではクリク将軍、自分なりの考えや思っている事で構わない…自己紹介をせよ。」


「っは! 自己紹介、ですね。相手の想定はありますでしょうか?」


「そうだな…相手は初対面だ、例えるならば目上の存在を相手にする面接のような場面を想定するものとする。」


「なるほど、では…。」


クリクが簡単な確認をした後、数秒目をつぶり、見開くと胸に片手を当て柔らかな笑顔を浮かべる。


「初めまして、クリク・ウォン・ヴァイナと申します。

『オビスティー・オーミリタク・ネカマジック』の軍隊、ドソイア軍・ドソイア国防軍の将軍を務めさせていただいております。

種族は邪神、ニャルラトホテプです。

特技は戦闘全般、小さなものは暴徒鎮圧、大きなものは戦争に至るまで幅広く対応出来ると自負しております。

兵士としては超長距離精密射撃攻撃魔法を主体としたアウトレンジ戦法、または銃による弾幕と高速の剣劇、加えて軍隊格闘での肉弾戦を用いた近接戦法が得意ですね。

他にもいくつかの魔術も行使できますが最も得意なのが近接戦法です。

指揮官としては攻勢作戦、中でも電撃戦を得意としております。

精鋭軍人として必ずやお力になれるかと…。」


言い終えると軽くお辞儀をして締めくくるクリク、顔をあげるとビシッと敬礼をする。


「以上で自己紹介を終わります!」


「うむ、よろしい。少し待て。」


「っは!」


クリクが1歩下がり後ろで手を組む、こちらの指示には素直にしたがっている。

最悪、戦闘を想定していたのでこれは嬉しい事態だった。

そしてやはり種族はニャルラトホテプが入っていた、悲しい事態だった。


(うん、クリクの自己紹介は設定と大きな差異はない。魔術も複数行使出来るのも事実、けど…。)


設定に大きな差異はない、ただし付け加えられているモノはあった。


(攻勢作戦が得意、攻勢ドクトリンに精通している。とは書いたけど電撃戦が得意なんて書いてない。)


魔術が複数行使出来る、というのはNPCの性能面である変わらない事実の為、理解出来るがドクトリンは具体的には書いていない。

ソヴィチナとしては規律の国の戦術である電撃戦は好きな戦術なのだが、今は重要ではない。


(…もう少し探ってみるか。)


何がどこまで反映されているか分かれば、可能なら法則性も分かれば文句なしだ。

今のところ危険も感じない為、クリクで更に情報収集をする事を決める。


「クリク将軍、電撃戦以外の戦術を知っているモノだけでいい、答えよ。」


「っは! 私の知識では攻勢に偏りがありますがそれでも様々な戦術を取り揃えております!まずは…。」


戦術について聞いた途端、クリクは表情をキラキラさせて立て板に水が如く言葉が紡がれていく。

オタクにうっかり軽い気持ちで趣味を聞いたら洪水のように話があふれでてくる感じに似ているとソヴィチナは思った。


(ま、まぁ戦争狂の狂戦士だし、戦闘の事を聞かれたら嬉々として話すよね。)


ソヴィチナが考えている間にもクリクからは次々と戦術が語られていく、その内容は明らかにソヴィチナが持つ戦術の知識量を遥かに越えていた。

途中から身ぶり手振りも含めて話すクリクの表情は楽しさに満ち溢れている、その様子を見ると少し心苦しいが事態が進まないので話を中断させる。


「クリク将軍、もう十分だ。クリクの知識には感心するぞ。」


「などもあり…ぁ、っは! お褒めに預かり光栄です。」


若干しょんぼりしたクリクに心の中でごめんと告げると、次の確認に移る。


「次は種族について答えてもらおう、クリク自身もそれである『ニャルラトホテプ』について答えよ。」


「っは!ニャルラトホテプとは、旧支配者の一柱にして旧支配者の最強のものと同等の力を有する土の精ですね。そして無貌の為、今のこの姿以外にも姿を変える事が出来ます。」


(くぅ、やっぱりあのニャルラトホテプ。ニャル様はTRPGでは好きだけど現実じゃあまた違うよ。)


冷や汗が出そうになる気持ちでいっぱいになるが、既に賽は投げられている。

出来る事はクトゥルフ神話TRPGでのプレイを思い出してあのニャルラトホテプを相手にうまく話をしていくしかない、元ネタ通りなら世界だって滅ぼせる危険な相手だがやるしかないのだ。


「後は漫画やアニメ、珈琲、紅茶等の嗜好品が大好きです。」


(やるしか…っへ?)


緊張の糸が一気に緩むような発言が聞こえた、一瞬ニャルラトホテプにそういう設定があったかとソヴィチナは考えたがそんな設定は元ネタには絶対にない。


(漫画やアニメ、嗜好品が好きって設定は僕とメアリーでやったクトゥルフ神話TRPGでの設定だ。僕達が考えるニャルラトホテプって事なのか? けどそれならさっきの戦術の知識はどういう事?)


クリクの戦術の知識はソヴィチナの理解を越えており、全く知らない戦術まで説明してみせた。

何故そういう違いが出たのかを把握出来ればNPCの設定関連で困るものは少なくなる。


(この部分はメアリーと相談しよう、後はそれぞれのNPCや僕達への認識の確認。

これが分かれば対処がしやすくなる、最高なら全員味方…ひとまずは安泰になる。

最悪でもクリクの反応を見るに、問答無用で戦う事にはならない…と思いたいなぁ。

あーもう! いくよ、まずは僕への認識の確認。)


願望が混ざり始めた思考を切り替えて、ニャルラトホテプについての説明を続けるクリクに制止をかけて次の確認に進む。


「よろしい、では次にクリク将軍は私についてどう思っている?

あぁ、先に言っておくがどう答えても構わない。素直な気持ちで答えよ。」


「っは!………は? ど、どう思っているとおっしゃられましても…。」


(うっ、直球で聞きすぎた?)


今まではすらすらと受け答えしてきたクリクが見せる困ったような様子に焦るソヴィチナだが、クリクの方はと言えば急にもじもじと体をくねらせて口ごもってしまっている。

心なしか顔も赤くなって目が泳いでいた。


(あれ、反応が妙だ…。)


失言や不可解な発言に対する反応にしては変だった、しかし何故そんな反応になるのかは分からない為、沈黙してしまうソヴィチナ。


「えぇ、ソヴィチナ総統の事は好意を持っていると申しますと言うか、親愛、いや崇拝。尊敬…んうぅ…。」


沈黙したソヴィチナに何を感じたのかクリクは、なんとか言葉を発しては取り消しを繰り返して煮え切らない態度だ。

ついさっきまでのクリクの様子とはあまりに違いすぎている。

何か質問に問題があったとしか考えられないとソヴィチナは考え、そして…。


(あ、そうか! 艦橋で自分で言ってたじゃないか…クリクは僕の事が好きって…。)


分かってから再度クリクの様子を見てみると、何とも微笑ましい感情が生まれて来る。

好きな人に自分の事をどう思っていると聞かれて慌てているなんてまるで思春期の子供のようだった。


「はは、クリク。そんなに慌てなくていいよ、単純に僕がどういう存在かを聞いてるだけなんだからさ。

メアリー…メアリカについてもどう思っているのかを聞こうと思ってたし。」


軍人口調を止めて素の状態で話すソヴィチナ、総統という上位者として話すと考えるならミスかも知れないが『気心知れた仲なら砕けた口調になる』という設定をソヴィチナ・ライヒグラードにはつけられているし、何よりNPCという自分達の子供が見せた微笑ましい姿に慈しみを覚えたからだ。


(設定云々は確かにあるけど、それでも自分達の子供を少しは信用してもいいよね?)


ソヴィチナは軍人を意識して気を張っていたのを止めてリラックスするように軽く一息つく。

そんな様子にクリクは一瞬、面を食らったような仕草を見せ、すぐに嬉しそうに笑顔になる。


「っは!ありがとうございます! そして申し訳ありません、少々取り乱しました。

改めまして…ソヴィチナ総統は我らがギルド『オビスティー・オーミリタク・ネカマジック』のギルドマスターであり、我々作られし従者が全身全霊で敬服すべき創造主様であらせられます。

メアリカ様もサブギルドマスターと名称は変わりますがソヴィチナ総統と同じ存在との認識です。

このギルドにおいてソヴィチナ総統とメアリカ様を敬服しない者など存在しないと断言致します!」


力強く、はっきりと言われたその内容にソヴィチナは目を丸くする。

そして内容を理解したところで深く嬉しく思う。


(僕達がNPCを大事に思っていたように、NPCも僕達を大事に思っていてくれたんだね…。)


子供とも言える存在に大事に思われていた、その事に嬉しさが込み上げ、そして安堵も生まれる。

この様子なら何も心配はないと…。


「ありがとうクリク、じゃあ他のNP…従者をクリクはどう思っているの?」


「共に歩む大切な仲間です。 が、モナヒー・ノネ・シスタは嫌いです!」


「…え。」


何も心配はない。

そう思い、気軽に他のNPCについて聞いた途端に心配の種が沸いて出た。

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