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仮想世界は異世界への扉  作者: クルシス
3/19

状況開始

表現を一部変えてみました、個人のイメージですけど多分あってます。

月1の投稿で遅いかな。もっとはやくしたい。

クリクを見送ってから、急遽メアリカに引っ張られる形でソヴィチナは艦橋前に戻った。

メアリカが艦橋付近に自分達以外は誰もいない事を確認してから扉を開けて中にも誰もいない事を確認する。

誰もいない事を十分に確認してからソヴィチナを艦橋内に引っ張ると扉の鍵を閉めた。


「ちょ、ちょっとメアリー。 急にどうしたのさ?」


「急じゃなきゃ駄目なのよ。

さて、異世界に来たとか仮想が現実になったとか、とんでもないけど仮定でも事実として受け止めた上で今後をどうするかだけど。

こうなった以上は情報収集よりもまずは安全確保よね」


メアリカは先程までの疲れはなかったかのようにインベントリから筆記用具を取り出して現状の情報と予定を書き込んでいる。


「えぇ~、今日はもう休むんじゃなかったの?」


メイドのいたとこ、メイド待機室にあるベッドに寝転んでお休みモードに入ろうと思っていたソヴィチナがメアリカの活発な様子に首をかしげた。


「ソヴィー、艦橋に戻った理由が分かってないようね。はい、そこに正座。」


「え、あぁ、うん。」


大人しく言われるがまま正座をするソヴィチナ、長身なのもあるがお尻と両足が肉厚で正座でもメアリカを見下ろしている。


「…えー、では説明するわね。」


教卓から見下ろす先生がごとく上から見下ろしたかったらしく、若干残念そうに首をかしげてからメアリカは艦橋内にある黒板にチョークで文字を書き込み始める。

書き込みながら何故かあるインベントリから眼鏡と指揮棒のようなものを取り出して装備していく。


「いい? まず現状は私達の常識から隔絶した非常識な現状なの。

異世界、かはまだ外の情報を得てないから半信半疑だけど今はそうだと仮定してる。

だけど仮想世界たるクリアドが、正確には私達のギルドが現実となったのは間違いない。」


ずれてもいないのに眼鏡を上げて完全に先生気分のメアリカ。

メアリカが先生となればソヴィチナは生徒となる。


「はい、メアリカ先生、質問です。」


なので挙手をして生徒を演じてみるソヴィチナ。


「どうぞ、ソヴィチナ君。」


とびっきりの笑顔で指揮棒でソヴィチナを指差すメアリカにソヴィチナも生徒を続ける。

元々ソヴィチナもメアリカもRPが好きでTRPGなども一緒にやった時はRP優先のプレイが多いので特に演じる事に抵抗感はない。


「何故ギルドが現実になったのは間違いないんですか? 僕もそういう風に仮定していますが間違いないと断言する理由は何ですか?」


「よい質問です、順を追って説明しましょう。」


口調も演じていき、お互いにRPに乗ってきたらしくノリノリで進めていくソヴィチナとメアリカ、気分は完全に教師と教え子である。


「まずPCとNPCを問わず、仮想世界で再現出来るレベルを越えて存在しているという事…個別に発生した感情に合わせて表情が変化するなどがその例。

加えて今私達が感じている感覚、ここまで五感を現実と空想の区別が完全につかない程に再現するなんて技術的に不可能なのです。少なくとも私達が使ってるようなRVデバイスでは…」


黒板に書かれた文章を指揮棒で示しながらメアリカは講義を続ける。

改めて説明されてくると仮想が現実になったなんてありえないという気持ちと、そうでもないと説明がつかないという気持ちがあふれて来る。

しかし否定ばかりでは話は進まない、仮定でも肯定して話を進めるべきとありえないという気持ちを抑え込む。


「なるほど…そっちはほぼ確定、ですね。

じゃあ本題なんですけど、どうして艦橋に戻ったのですか?

精神的に疲れてたのはあるんだしせめて仮眠くらいはとりたかったんですけど…。」


「あまい、あまいですよ! ソヴィチナ君!!」


ソヴィチナが深く考えずのんびりした気持ちで疑問をぶつけると、ビシッと指揮棒をソヴィチナの眼前に突きつけながらメアリカが声を張り上げた。


「ギルドが現実のものとなった…つまりギルドのNPCも現実になった。

さっきのクリクは間違いなく自我があった、挨拶程度でも人間と接したか否かくらいわかります。

じゃあそれがどういう事か、分かるかしらソヴィー?」


先生RPを止めて真剣みをおびた様子にソヴィチナも生徒RPを止めて真剣に考える。


(ギルドが現実になってNPCも現実になった、そのNPCには自我がある。それが問題。何が…あっ!)


考えてみるとすぐに気づく事だった。

ハッとしてソヴィチナがメアリカに顔を向ければメアリカも真顔で頷く。


「つまり、僕達は本当に自分の子供のような存在を手にしてしまったんだね。

確かに大変だよ、この歳であんな大きな子供をもつなんて…学生結婚レベルだ…。」


閃いた、そう言わんばかりに目を輝かせる。


「ちっがーう!! 確かにそれもそうだけど私が言いたいのはそうじゃないわよ!! バカッ!!」


バンバンと黒板を叩きながら予想外の答えに頷いたのが馬鹿らしく思えて怒っているメアリカに対してソヴィチナは、じゃあ何が問題なのかとメアリカを問い詰める視線を送る。


「いい?

私達のギルドは徹頭徹尾、自分達が自分達だけで楽しむ為に作った趣味のギルド。

だから世間一般には不味いであろう設定やシンボルマークも多少アレンジしたりもしたけどバンバン使ってる。

シンボルマークはこの際いい…いや、普通は不味いけど誰も知らない異世界なら問題ないわ。

兎にも角にも設定が問題なのよ。

まぁ、私も設定に関しては、いろいろとやっちゃってるけど…。」


「…元々ソロギルドの予定だったんだ。設定は好きにさせてよ。

それとシンボルマークは、原形があるようなないような…確かに現状では問題ないよね。」


シンボルマークと言ったところで艦橋に掲げられた国旗を見るソヴィチナとメアリカ、その国旗はギルドのシンボルマークが描かれている。

紅茶の国のユニオンフラッグの中央に赤い国の金色の鎌のマークで大きな円を描き、その円の中で黒色の槌が規律の国のハークロの形を作っている。

円の外側には白星がいくつも散りばめられていてその数は自由の国の州の数である50個。

ソヴィチナとメアリカの趣味の国家の国旗を融合させたギルドマークだ。

やや偏りがあるデザインかも知れないが、そこは一応ギルドマスターたるソヴィチナの方がサブギルドマスターのメアリカよりも上位なのでギルドマークにもそれが反映されていたりする。

そしてそのギルドマークも元の世界では不味くともソヴィチナとメアリカの世界を知らない異世界ならば何も問題はない。


(…あれ? だったら設定だって別に問題はないんじゃ?)


設定だって元の世界では不味くとも別に誰も知らない異世界ならば問題ないのでは?

無論、元の世界では不味いであろう設定やシンボルマークの件はソヴィチナにも自覚はある…というより不味いであろうモノのほとんどはソヴィチナの趣味のモノだ。

メアリカが紅茶の国と自由の国を趣味の中心部にしているのに対してソヴィチナは赤い国と規律の国を趣味の中心部にしている。

ソヴィチナの趣味にしている国家が史実で何をしたのかを考えれば一般的に不味いというのはすぐに分かる。

でも知らなければ…。


「あっ。 ひょっとして…設定が問題って、そういう事…?」


しかし、自分の趣味を改めて考えてみてやっとメアリカの言いたい事に気づく。


「今度こそ、頷いて正解よね?」


確認してくるメアリカに首を縦に振る。

気づいた事態は相当に厄介だと頭を抱える、空想が現実になると問題が山積みになると思い知らされる。


「メアリー側って言えるNPCならともかく僕側のNPCの設定って、規律の国の武装親衛隊に国防軍、赤い国の赤軍…国防軍はこの中ではまともだろうけど戦争狂だとかしてるよ。

もし本気でなってたら不味いね、絶対…。」


「私側のNPCだって金の亡者だとか幼女趣味だとか、やっちゃってる設定の子はいるわよ。

最重要なのがこっちは紅茶の国の近衛メイド隊に自由の国の軍隊…作った時は好みでポンポンしてたけど考えてみればソヴィー側のNPCと相性最悪じゃない。

もし史実みたいな関係が設定として反映されていたら…下手をすればギルド内で世界大戦?

ともかくその辺りの設定がどう反映されているのか把握する必要があるのよ!

クリクが艦橋周辺の見回りをしてた以上、反映されてるのは間違いないんだから…。」


ソヴィチナはあくまでフィクションとしての趣味として赤い国と規律の国を好んでいるだけで、本気で主義に共感して心酔してるわけではない…それはメアリカも同じであり、あくまでフィクションとしての趣味としての好みなのだ。

しかし、ソヴィチナ側のNPCは設定として規律の国の武装親衛隊に赤い国の赤軍と設定しているものがいる上に中には、戦争という手段を行う事を目的化した戦争狂の軍人という設定だってある。

メアリカはメアリカで資本主義をお金至上主義か何かと思っているのか、お金大好きっ子や宝石大好きっ子、加えて何故か幼女趣味…いわゆるロリコンなど、メアリカ側のNPCの設定は多岐にわたっている。

もし全て史実のような設定が反映されたとしたらメアリカ側はともかくソヴィチナ側は非常に危ない。


「なるほど、だから艦橋に戻ったんだね。

艦橋なら、ギルドオプションルームならギルド内部を全て掌握出来る。

システムそのものは健在なのはさっき確認したもんね。

万が一NPCに襲われたとしてもここさえ押さえておけば耐えられる…凄いねメアリー。」


クリクに会ってからのわずかな間にここまで考える事が出来たメアリカに尊敬の眼差しを向けるとメアリカは顔を真っ赤にして外に顔を向けた。


「ま、まぁ襲われる心配はないかもだけどね。クリクはソヴィーには勿論だけど、私にも様付けで呼んでいたもの。少なくとも、こんちには死ねって事態はない…筈だわ。クリク以外は、分からないけど…。」


最後は自信がないのかだんだんと声が小さくなるメアリカ。

命の危険がある以上、軽はずみに断言は出来ないと思っているのだ。

ソヴィチナもそれが分かっている為に、根拠もなく大丈夫などとは言えなかった。


「ねぇ…もし襲われたらどうする? 絶対に襲われないなんて保証はない、ここはゲームじゃなくて現実…。

もし死んだら、それでもう終わり。

ゲームオーバーしちゃったけどコンティニューで再チャレンジなんて、現実にはないのよ。」


照れていた様子は消え去り、不安と恐怖があふれ始めたメアリカがその場に座り込みそうになっている。

死の予感、命の危険…それらを考えた事で不安と恐怖が冷たい現実味を帯びてメアリカを怯えさせる。

考えてみれば先程のRPも不安や恐怖を打ち消す為の空元気だったのだ、それを理解しソヴィチナの心中に、沸々と湧き上がるモノがあった。


(………だ、駄目だ。 僕が、僕がしっかりしないと、僕は…僕は男だ! こんな時にしっかりしないでどうするんだよっ!)


ソヴィチナだって命の危険を可能性として考えてしまった、不安も恐怖もある。

ソヴィチナもメアリカもただの一般人に過ぎない…死を覚悟する場面など空想の中でしかない。

しかし、いつまでも怖がってはいけない。

何よりメアリカは女性PLでありソヴィチナは男性PL…。

女性が不安がっているのを、怖がっているのを助けられないなんて、男性としては耐えられなかった。


「とりあえず、敵意はなかったクリクで試してみよう。

ここに呼んで…いや、艦橋から少し離れた南側通路で僕がクリクと話すよ。

そこなら迎撃用トラップがあるから、万が一襲われるような事態になったらテレフォンの魔法で…。」


話を区切り、テレフォンの魔法を発動させるとメアリカが体をピクリと反応させた。

ソヴィチナも通話がかかっているのを感覚で感じる。


「よし、通話をかけるから隔壁を閉じるトラップを発動させてね。

僕も上手く立ち位置を調節してクリクだけを閉じ込められる位置に誘導するから通話して合図したら隔壁をよろしく。

艦橋周辺の隔壁の防御力はクリアドでも最高峰を誇るから閉じれば少なくとも時間は稼げる筈だよ。

その間に僕は艦橋に退避、メアリーは全隔壁の閉鎖、後は迎撃トラップでNPC達を無力化させよう。

出来れば我が子同然のNPC達は傷つけたくないけど、贅沢は言っていられない。

じゃあ、状況開始だ…!」


テレフォンの魔法が有効な事と武器を再確認しつつメアリカに指示を出すと、艦橋の出入口へ向かう。

言われた内容と行動を理解したメアリカが慌てて駆け寄る。


「1人で行く気!?

確かにクリクには敵意はなかったけど、私達が総統でもメイド長でも軍人でもない…ただの一般人なんて知ったらどうなるか分からないのよ。私達が大切に思っていたってあっちが同じように思ってるかなんて…。」


NPCはソヴィチナにとってもメアリカにとっても非常に大切な存在だ。

しかしNPCがPCを、ソヴィチナとメアリカを大切と認識してるかなどNPCに聞かなければ分からない。


「そこは、クリクのある設定にかけるよ。」


「ある設定って、何よ?」


メアリカの問いかけにソヴィチナは人差し指を立てて自信ありげにウィンクをする。


「クリクは僕の事が好きって設定。」


「…まぁ、私も人の事言えないけど、自分を好きって設定にしたの?」


一気に緊張感が抜けたように肩を落とすメアリカにソヴィチナは逆にふんぞり返る勢いで背筋を伸ばして腰に手を当てる。


「僕というよりはソヴィチナ・ライヒグラードをだよ。ユリ嫌いな男子はいません!」


「そんなホモ嫌いな女子はいませんみたいに言わなくても…はぁ、なんだか心配する雰囲気じゃないわね。いつものソロプレイみたいに1人で行って1人で無事に帰って来なさい。」


メアリカでは背丈の関係上、肩に手が届かない為にソヴィチナのお腹をポンと叩くと操舵席に飛び乗る。

そのままギルドのウィンドウを起動させて何時でもトラップを発動出来るように待機した。


「ソヴィー、吉報を期待してるわ。トラップなんて使わせないでよね。」


ニヤリと悪戯子供のように笑って、ソヴィチナを送り出す。


「大丈夫任せて! この僕、ソヴィチナ・ライヒグラードを信じてよ。」


片手をヒラヒラと振りながら背中越しに答えるとソヴィチナは艦橋を出た。

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