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仮想世界は異世界への扉  作者: クルシス
2/19

プロローグ2

「…う、うぅん。」


呻き声をあげながらソヴィチナは目を覚ます。

何があったのか記憶を辿りながら起き上がって周囲を見れば見慣れた自分達のギルド拠点、戦艦「ドソイア」の艦橋だ。


「寝落ち、でもしたかな? 睡眠はきちんととってる筈なんだけど。」


見慣れた景色に安堵すると、ソヴィチナはぼんやりとしたままの頭に手を当てながら改めて現状を認識しようとする。

艦橋内部は特に変化はない、自身のPCについても違和感は感じない。

異常はないし寝落ちでもしたのかとため息をしたところで、近くにメアリカが倒れている事に気付く。


「え、ちょっと、メアリー!」


慌ててメアリカに駆け寄ったソヴィチナは、メアリカの状態を確認する。

HPが減った様子も死亡した事を示すデッドアイコンも現実世界での肉体的異常を示すリアルエラーアイコンも表示されていない、眠っているだけに見えるメアリカにソヴィチナは安心する。

慌てた自分を恥ずかしく感じながらメアリカも寝落ちをしたのかと思い、やれやれと肩を竦めようとしたソヴィチナはそこではっきりと思い出す。

運営から届いたメールを開いた途端、意識を失った事を。


「っ・・・寝落ちじゃない!? メアリー起きて! メアリー! メアリカ!!」


異常事態に陥っている、少なくともいつもの事じゃないと自覚したソヴィチナはメアリカを起き上がらせて両肩に手をかけて揺さぶる。


「ん、んう~・・・えぇ?何ぃ?」


しばらくしてメアリカが眠たげな声をあげながら目を覚ます。


「メアリー! あぁ、良かったよぉ・・・」


メアリカが目を覚ました事に心から安堵しうなだれてへたり込むソヴィチナに、今だ寝惚けた様子でメアリカはうなだれるソヴィチナにおかしそうな視線を送る。


「何よソヴィー、大袈裟ね。えっと、寝落ちしただけでしょ?」


「ち、違うよ、寝落ちじゃなくて気を失ってたんだよ。ほら、運営から来たメールを見てすぐに!覚えてる?」


状況を認識出来ていないメアリカにソヴィチナは、覚えていないのかとこうなる直前の事を聞く。

ソヴィチナの質問にメアリカは、訳が分からないといった様子だったがすぐに思い出したかのように表情を一変させる。


「そう、そうよ・・・あのメールを見た後で私は・・・あ、じゃあソヴィー!そっちはどうなの!?大丈夫?」


状況を飲み込めたメアリカは飛び起きるとそのままソヴィチナが大丈夫かどうか確認しようと一気に詰め寄りソヴィチナの体をいじくりだす。

ソヴィチナのお腹や胸をペシペシとメアリカが叩くとポヨンポヨンと体の肉が弾む。


「ちょ、ちょっと!そんな事しても仮想世界なんだから意味ないって!大丈夫だから!」


体をいじくりまわされている挙げ句に着ている服を脱がされそうになって慌てて声をあげるソヴィチナにメアリカも落ち着きを取り戻すと、自分がしている行為に気が付く。


「あ、ご、ごめん。つい・・・」


しゅんと小さくなって謝るメアリカ。

まるで親に叱られた子供のようにもじもじと泣きそうな顔でこちらを窺うように見ている。

PLとしては割と大人なメアリカだがPCは幼女のメアリカがやるとやられた側は罪悪感が沸いてくる。


「い、いや、心配してくれての事だからいいよ。にしてもいつの間にそんな感情表現が出来るモーションを作ったの?」


そしてそれはソヴィチナも例外ではなく、ずれた軍帽を直しながら笑って許す。


「え、いやいや、ソヴィーこそそんな笑顔を作れるモーションいつ作ったのよ?」


「ん、メアリーこそ何言ってるのさ。そういうプログラムはメアリーの専門じゃないか。」


異常事態である中、いつもと変わらぬ日常のやりとりを感じた事で安堵したメアリカが苦笑を浮かべ、すぐにはっとして表情を変える。


「ど、どうしたの?」


いきなり真剣に深刻に考え込むメアリカにソヴィチナは眉を顰め疑問の声を出す。

するとメアリカは考え込んだまま、ボソリと呟くように言う。


「私でもソヴィーでもないなら…いや、そもそも私達のPCってここまでPLの感情に合わせて感情表現が可能な表情、出来た? 今だって、ソヴィーの顔、凄い自然な形で感情表現されてるわよ。」


「え?」


メアリカに言われてソヴィチナも気づく、自分達のPCはまるで生身の人間のように表情が変わっていたのだ。

確かにプログラムを組めば表情自体は作る事が出来るが、個人の発生した感情に合わせて自動で表情が変化するプログラムなんて不可能だ。

少なくともソヴィチナもメアリカもそんなプログラムは組んだ覚えはないし作れない。


「ど、どういう事?」


ソヴィチナが疑問から思わずそんな言葉が出てくる、何かの勘違いだろうと現実逃避に近い気持ちで艦橋にある装備を確認する身だしなみ用の鏡を見た。


「…ソヴィチナのこんな不安そうな顔、初めて見たよ。」


鏡にうつるソヴィチナの顔はごく自然な表情で不安な顔をしている、よく見てみればエメラルドグリーンな瞳はうるうると涙を溜め込んで今にも泣き出しそうになっていた。

当然こんな表情になるプログラムなんて作った覚えも導入した覚えもない。

メアリカも同じように鏡を見ながらしかめっ面になる。


「あり得ないわよ、こんなの。仮にプログラムが出来るとして、それをいつどうやって私達のPCに入れたの? 

運営なら可能かもしれないけど告知は一切なかったし無断でしたなら法律にひっかかるもの。

そんな危険を犯す筈がないわ。」


「メールにあった通り、本当に異世界へ来たとか?」


鏡を見るのを止めて壁にもたれると自問自答をし始めるメアリカの対面にある操舵席に座り込むとソヴィチナも仮説を言う。

メールの全文を覚えているわけではないが異世界という単語は覚えていたのでそこから連想された仮説だ。


「そんなあり得ない事あるわけないでしょうが。」


しかしあっさりと否定される、もっともソヴィチナ自身本当に異世界へ来たなどとは半信半疑だが。


「だよね、とりあえず運営に連絡をとろうか。ひょっとしたらあのメールは運営に化けたハッカーの仕業で今の状況もそのハッカーのせいだったりするかもだし。」


「運営を出し抜いてこんな芸当が出来るハッカー?

うーん、信じがたいけど可能性としては有りだわ、もしかしたら運営が黒幕かもだけど。

あら、だとしたらどちらにしろ連絡もとれなさそうね。」


先程の仮説よりは現実味のある仮説にメアリカも今度は否定せずに話を続けるが表情は苦笑混じりで、本気でそうだとは考えていない様子だった。

連絡をとる為にメアリカがシステムウィンドウを開こうと片手を掲げるがなにも起こらない。

途端にメアリカの表情が固まる、そのまま何度もシステムウィンドウを開こうとするが何も起きなかった。

唖然としてソヴィチナを見るメアリカ、見られたソヴィチナもシステムウィンドウを開こうとするが同じく開かない。


「え、ちょ、ちょっと、システムウィンドウが開けないって、まさかでしょ!?」


「ま、待って、音声入力なら。音声入力…運営テレフォン、実行!

嘘…いや、まさか!? 音声入力…強制ログアウト、実行!これも!?

なら、ショートカットアイコンで…ひょ、表示されない、そ、そんな、バカな!?」


システムウィンドウが開けないという事態に2人に強い動揺が発生する、システムウィンドウにはその名前の通りにシステムに関する事を操作する為のウィンドウであり、開けない事には連絡はおろか、ゲームからのログアウトさえ基本的に出来ない状態となる。

システムウィンドウを介さない手段としては音声入力か、ソヴィチナのようにワンクリックで即実行可能のショートカットアイコンをあらかじめ作成しておいてそれをタップする方法だ。

しかし、全て実行されない。


「う、嘘でしょ、こんなのあり得ないわよ…。」


怯えからかメアリカの声は震えている、同じくソヴィチナも顔面蒼白になっていた。


「かなり、ヤバい状況だよ、これ…。」


全てがあり得なかった。

変なメールを見た後ですぐ気絶した事、PCの生身の人間と変わらぬ動作の事、ゲームのウィンドウが表示されず一切のオプション操作が実行出来ない為ログアウトが不可能な事、そんな状況にも関わらず何も反応がない運営の事。


「まさか、まさか本当に異世界へ来た?」


ここまであり得ない事が連続するとさっきの冗談のような仮説だってあり得るのでは、そんな思いがソヴィチナに浮かぶ。


「馬鹿な事を言わないでちょうだい、いくらここがゲームだからって空想と現実を混ぜないでよ…。」


メアリカが再度否定するがさっきはあった確信がなかった、メアリカも半信半疑なのだ。

あり得ないが連続して非現実的な事もあり得るのではないかと。

その場に体育座りで座り込んで深くうつむくメアリカ。

重い沈黙が辺りを包み込む。

やがてそんな沈黙に耐えきれなくなったソヴィチナは勢い良く立ち上がると気合いを入れるように、よしっと一声あげてぎこちなくも笑顔を作る。


「とにかく状況が分からない事だらけだ、確証を得るには情報を集めないと!」


そのままメアリカに近づき手を取ると立ち上がらせる。


「ほら、不安なのは分かるけど頑張れ頑張れ♪」


突然の事にされるがままのメアリカの頭を親が子にするようにソヴィチナは撫でた。


「ちょ、ちょっと、何するのよ!」


まるで子供扱いの撫でられに堪らず抗議するメアリカの様子にソヴィチナは嬉しそうに呟いた。


「よかった、いつものメアリーに戻って。」


頭を撫でる手を振り払い、抗議の視線を送りつつだがメアリカもソヴィチナの言葉に嬉しそうに返した。


「な、何よ。生意気に気なんて使っちゃって、リアルじゃ私の方が少しお姉さんなの忘れてる?」


「PCで言うなら僕の方が年上だからね、気だって使うよ?」


えっへんと言わんばかりに腰に手を当てて胸を張るソヴィチナの姿にメアリカは笑顔を浮かべ、よしっと気合いを入れる。


「さて!

ソヴィーのいう通り、状況が分からないなら情報を集めて確証を得るしかないわね。

ログアウト出来ないように閉じ込められた仮想世にしろ本当に異世界にしろ、情報がなければ全て後手にまわってしまうわ。」


いつもの調子を取り戻して行動を始めるメアリカに続くようにソヴィチナも行動を始める。


「メアリー、現状で僕達が出来る事を確認しよう。

ちょうどここはギルドオプションルーム、僕はギルドのシステムを確認するからメアリーはPCのスキルやステータス、インベントリとかを確認して。

現状で通用するかは別にして1つずつ明確にしよう。」


「了解。

ふふ、私達のPCは廃人プレイヤーの…しかも多々買わなければ生き残れないと言わんばかりに重課金の産物、全てそのままならどんな仮想世界だろうといける筈よ。」


やる事が決まれば行動は素早いソヴィチナがメアリカに指示を出しながらコンソールである舵の前に行き、ギルドのシステムウィンドウを開こうとする。

その横でメアリカがスキルやステータス諸々を確認しようとウィンドウを表示しようとするがウィンドウは開かない、そのせいかメアリカが考え込むように黙り不機嫌そうに顔をしかめる。


(開く、かなぁ?)


メアリカがウィンドウを開けていない事実に不安があるソヴィチナの気持ちを裏切ってギルドのシステムウィンドウは表示される。


「え、あ、開いた!メアリカ開いたよ。」


本当に開けるとは思っていなかったので驚きを隠せないでいるソヴィチナがそのいきおいのままメアリカに話しかけるがメアリカは黙ったままだ。


(しまった、そりゃあっちは失敗したのにこっちは成功って今の状態じゃ面白くないよね。)


若干の後悔と反省をしながらメアリカに謝ろうとした瞬間、メアリカがくわっと目を見開く。


「何よこれ、ウィンドウは開けないけど、感覚で分かるわ。スキルもステータスも変わらずだし使える。インベントリだって…。」


「え、ちょっと、メアリカ?」


一気に喋りだしたメアリカに面食らうソヴィチナをよそに、メアリカは空中に手を伸ばす。

するとメアリカの伸ばされた手が突然現れた黒い煙の塊に飲まれた。


「な!?」


絶句するソヴィチナ、思わず駆け寄ろうとしたのをメアリカに制止されて動くのを止める。

それを見てからメアリカは黒い煙から手を引き抜く、その手にはポーションが握られていた。


「やっぱり、感覚通りだわ。

ショートカットアイコンででもなく、ウィンドウででもなく、なんと言えばいいのかしら?

最初からそうだったかのようよ。ソヴィー、そっちもやってみて。

感覚で分かるだろうけど、やり方はインベントリから道具を取り出そうと思い浮かべる感じよ。」


「う、うん。なら武器を。」


メアリカに促されるままソヴィチナは武器を取り出そうと思い浮かべながら手を伸ばしてみると、まるで途切れていた回線が繋がったような感覚が来た。


(これが?うん、確かに感覚としか言えない、けど!)


自分の感覚を信じてそのまま取り出したい武器を想像して更に手を伸ばすとメアリカと同じように黒い煙が現れ、ソヴィチナの手を包み込む。


(これだ。)


手に何かを握った感触が伝わってくる、その何かを握ったまま手を黒い煙から引き抜くとその手には想像した通りの武器、インベントリに入っていた武器の1つである大口径ガトリング砲が握られていた。

そのまま振り回してみたりするとゲーム通り手に馴染むまさに愛用の武器だ。


「よし、この感じならPCには何もされてない、かな?」


PCのデータは最重要のデータと言ってもいい、そのPCデータが無事な実感を得てソヴィチナは上機嫌に武器を背負う。

ふと見てみればメアリカも数本のナイフと拳銃を2丁を取り出していた。

拳銃を両足の太ももにホルダーで巻いて装備し、ナイフを何本か器用に指に挟んで演舞のようにナイフで空を切っていた。

メアリカも心なしか上機嫌に武器を振るっている。


「さて、次はこっちだ。ギルドのウィンドウはどうなってるのかな?」


PCは問題なしと判断したソヴィチナはギルドのウィンドウを確認する。ランキング、運営からのお知らせやアップデート情報などの一覧は消失していたがギルドを運用する上で必要なモノは全て揃っている。


「こっちもギルド自体のデータは問題なし、でいいかな。メアリーはどう思う?」


「うん。どれどれ?」


ナイフを素早くスカートの中にしまったメアリカがひょいっとソヴィチナの背中に飛び乗り肩越しにギルドのウィンドウを見る。


「確かにギルド自体のデータは問題なさそう…。ん? ソヴィー、これ見て」


ウィンドウを見ていたメアリカが何かに気づいたらしくウィンドウの一点を指差す。


「メールアイコンが新着一件になってる…。」


メアリカが指差すアイコンはメールの形をしておりそこには数字で1と表示が付加されている。

ギルドのメールはこまめにチェックしており、あの妙なメールが来たときだって新着はそのメールだけだった。

つまりこのメールはそれ以降に受信したものだ。


「通信手段があった!?」


思わず大声をだし、ソヴィチナとメアリカは子を見合わせる。

慌ててメールを確認すると差出人は運営だ。

あの妙なメールと同じである。


「ど、どうしよう、また見た瞬間に気絶しちゃったりしたら。」


「そうは言っても、唯一の貴重な手がかりを見ないなんて選択肢はないでしょうが。開くわよ。」


躊躇するソヴィチナを無視してメールを開く、ウィンドウにはメールの本文が表示される。

『今回の異世界撹拌者にソヴィチナ様ならびにギルド「オビスティー・オーミリタク・ネカマジック」が条件を満たし、任命される事になりました。どうか変化の流れが止まった異世界を撹拌し、流れを再び起こしてください。変化をなくした貴方様達の新たな世界を先へと進めてください。』


ここまで読んで2人は、ウィンドウを見たまま呆気にとられた顔をする。

これではまるで本当に異世界へやって来たと言われているようなものだ。


「な、何よ、意味が分からない。異世界の撹拌者? 流れを起こせ? 私達の新たな世界?」


「…まだ、全部読んだ訳じゃない。最後まで読めば納得のいく答えがある、かも…。」


しかし疑問符だらけの頭をなんとか再起動させて続きを読んでいく、本文を全て鵜呑みにして現状説明を要約すると以下の通りだ。


1.ここは自分達がいた世界ではなく異世界である。

2.自分達は「クリアド」のPC、そしてギルド「オビスティー・オーミリタク・ネカマジック」がそのまま現実のモノとして顕現した存在である。

3.異世界へ転移させられた理由は、変化の流れが停滞した世界の撹拌、それによる変化の流れの促進である。なお、手段は問わず、変化さえするなら善悪の区別もない。


「最後まで読んでも分からない、どこの空想小説よ。」


ありえない、2人の頭のなかをその思考が埋め尽くす。しかし現実は変わらない、いや、現実と仮想が変わってしまったが。

異世界に来た、ゲームが現実になった、そう考えれば説明はつくと理解できるが納得は出来ない。


「…もう今日は寝よう、いろいろ有りすぎて疲れたよ。事実にしろ、悪戯にしろ、何かの陰謀に巻き込まれたにしろ、今日はもう何もしたくない。」


ぐったりとした様子でソヴィチナはギルドウィンドウを閉じた。


「そうね、疲れた頭で考えても駄目だわ。確か、メイドがいたとこ、にベッドがあったわね。あそこなら一緒の部屋で寝れたっけ。流石に個室に別れるのは現状じゃ怖いし」


ずっとソヴィチナの肩に乗ったままだったメアリカが飛び降りるとソヴィチナにすぐ同意する。

精神的疲労にメアリカも参っていたらしく、気怠さがにじみ出ていた。


「そうだね、リアルじゃまずいけどPC同士ならいっか。」


現実では男女の2人だが今は女性PC同士だ。とくに問題はないと判断し、2人は艦橋を出て部屋へと歩き出す。


「おはようございます、ソヴィチナ総統、メアリカ様」


不意に声がかけられた。誰かいたのか、そう思い咄嗟に身構えながら声がした方向を向くソヴィチナとメアリカ。

そこにはソヴィチナと同じ系統の上級軍服を着て、長剣と小銃を携えた青髪のポニーテイルの女性軍人が1人、ビシッという効果音がつきそうな程にキチンと敬礼をして立っている。

そしてその女性軍人はソヴィチナとメアリカはよく知っていた。

彼女はソヴィチナの作り上げたNPCの中でもソヴィチナの副官的存在という設定の特別な名前付きのNPCである。

いつも艦橋付近を周回するようプログラムしてあるのでここで出会うのは何も不思議ではない、敬礼も近くを通ればするようにプログラムしてある。

そこまではいい、問題なのは…。


((何で、喋る!?))


頭の中で絶叫するソヴィチナとメアリカ。

NPCには音声データを組み込む事で喋らせる事が可能だ、音声データは自作のものもあれば声優などの音声データを会社が販売しているものもある。

しかし「オビスティー・オーミリタク・ネカマジック」のNPCは、設定でこういう声だと決めたりはしても音声データは入れてはいなかった。

警戒から武器に手がのびた時、目の前にいるが女性軍人が敬礼の姿勢のまま申し訳なさそうな顔をする。


「大変申し訳ございません…ソヴィチナ総統、メアリカ様。このクリク・ウォン・ヴァイナ、何かご不快にさせる事を?」


「「…っ」」


裏表もなく、本当に申し訳ないと思っていると感じるその姿に、まるで生きているかのようなその存在に出そうになった驚愕の声を何とか抑え込むと、この場をどうするべきかとソヴィチナとメアリカは必死に考える。


「ぃ…いや、別件で少しな。クリク将軍が気に病む事はない。」


「そ、その通りよ。クリク将軍が何かした訳ではないわ。」


そして考えた結果は、相手を自分達が作り上げたNPCと見なして自分達もPCになりきりRPする事だった。

いけるか? 一抹の不安を抱えながらクリクの反応を待つ。


「そうでしたか、それを聞いて安心致しました。では自分は見回りに戻ります。失礼いたしました。」


2人の言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろすかのように力が抜けた様子のクリクは2人に再度、ビシッと敬礼をするとその場を去っていく。

そのままクリクの姿が見えなくなるまでその場で立ち尽くしたソヴィチナとメアリカはクリクの姿が見えなくなった途端、2人して酷い頭痛に悩まされたように頭に手をやる。


「あぁ、そうか。そうだよね…ギルドが現実になったというならNPCも現実になるよね。

現実ならそりゃあ喋りもするよ…はは、どうしよう?」


ソヴィチナが呟くとメアリカも頭に手をやりながら呆然と上を見上げる。


「もう、認めるしかないわね…あのメールは真実だって事。ここは異世界であり私達の仮想世界は現実世界へと変わったのよ。」


深い溜め息を2人してついて、だが受け入れる。

自分達はあのメールの通りに異世界へ来たのだと。

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