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#9

「喰らえ!より多く、より上質な糧を喰らう事が、我等の力を強化する唯一の手段だ!」



 久遠さんの指導の下、俺の鍛錬は日夜続いている。


 鍛錬と言っても、久遠さんが集める悪意や妖を喰らい続けるだけなのだが、封が解かれ、闇に生きる者としての本来の力を取り戻すには、兎に角喰らい続ける事が最優先らしい。


 そしてそんな鍛錬に比例して、俺の力はこの数日で飛躍的に上昇している。悪意を喰らう量も、暴君の顎の力も、以前とは比べ物にならない程に。


 吉良の持つ白い悪意に対抗出来るだけの力を身に付ける。


 それが当初の目的だったんだが、どうやら久遠さんはさらにその先を見据えているようだ。力を身に付ける事に異論は無いが、過剰な力は逆に日常生活の足枷にならないのかな?


 そもそも、例え人間や妖がどれほど深く濃厚な悪意を抱いていても、悪意そのものを糧とする鬼である俺の前では無力に等しいはずだ、と久遠さんは語る。ましてや、今の俺は悪意や妖を喰らうごとに全身が活性化しているかのような、眠っていた体が目覚め、力が漲っていくかのような感覚すら感じるのだ。この調子なら、吉良を前にしても怖じ気付くような事は無いだろう。



「……さて、六文。今宵はお主の力、暴君の顎についてじゃ」



 暴君の顎。

 何故この名前を久遠さんが知っていたかは分からないが、気付いた時にはオヤジはこの名前で呼んでいた。だからか、俺もこの名前を自然に受け入れていた。まぁ、今の俺の絶対的な切り札だ。



「そもそも暴君の顎はお主の能力の一端でしかない事は知っておるか?」

「あれが……一端?」



 暴君の顎は、悪意や妖だけじゃなく、人間の持つ全ての感情をも喰らい尽くす程の力がある。それが俺の力の一端でしかないだなんて、そう簡単には信じられない。



「六文。お主の本来の力は『存在の有無を操る』という物だ」



 ……はい、想像のはるか上空を飛ぶような宣告を受けました。

 『存在の有無を操る』?

 俺達は非科学的(・・・・)な存在だと、超常的(・・・)な存在だとは認識していたが、俺はそこまで異常(・・)だったんですか?



「歳で言えばもう元服をしても可笑しくは無い。今後はお主を中心にして、様々な事が起こるじゃろう。時には誰かが死ぬ事もな……そのために、お主には『不惜身命の六文』の名を与えた」

「……俺の命名者は久遠さんだったんですか?」

「お主だけじゃないぞ?亨も妾が名付けた」

「オヤジも!?」



 飛躍的に力を身に付けた今でも敵わないと思わせるだけの実力に、あのオヤジも頭が上がらず、それどころか命名までしていただなんて……本当に何者なんだよ……ってか、いくつだ?



「……呪われし存在。死ぬ事も、歳を取る事も出来なくなった哀れな鬼よ」



 俺の心の内を見透かしたかのように、ポツリと呟く久遠さん。その表情には少しだけ影が帯びていた。



「……まぁ良い。それで『存在の有無』についてじゃが……六文、お主はまだその力を十分には使いこなせてはいない」

「……ですね。今の今まで、俺の力は『悪意を喰らう』、もしくは『感情を消す』だけだと思っていましたから」

「では、これからは初体験じゃ。暴君の顎でそこの石ころは消しでみせよ」

「石ころ?」



 久遠さんの言葉を全て信用するなら、俺の力は感情や意識を消すだけでなく、物質にも作用するのが当たり前だろう。


 試しに石ころに向かって暴君の顎を放ってみる。

 ……だが、そう簡単には消えない。


 集中に集中して力を放ち続けても、石ころを消滅させるには軽く30分もの時間を費やしてしまった。


 物質を消すのはまだまだだな。



「時間こそかかったが、それでこそ真田の血よ」



 『存在の有無を操る』。

 あまりにも強力で、絶対的。これが俺の本来の能力なのか?



「まぁ封を解き、本来の力を取り戻した。糧も十分に喰らった今のお主なら出来て当然じゃが……」

「もっと使いこなせるようになれ、と?」

「そうじゃな。亨を見ろ。病魔を喰らうだけじゃなく、『真偽を見抜く瞳』も使いこなしておる。先ずは呼吸をするのと等しく、自分の能力を使えるようになれ」



 ……それって、結構最終目標的な段階じゃないのか?オヤジに嘘が通用しないのは分かっていたけど、無意識下の呼吸と同じレベルで(ことわり)を操るだなんて、どんな化け物だよ。



「……しかし、そう()ぐ必要はあるまい。亨ですら力を使いこなすのには10年かかったのだからな」

「そんな余裕は無いですよ」



 あの吉良が10年も待つような事はしないだろう。奴なら、あのゲーム開始の宣言と同時に行動に移してもおかしくは無いのだ。

 俺には時間が無い。



「ふむ……では、少し荒療治を行おうか」

「荒療治?」

「過ぎた力のせいで封印された鬼は、何もお主だけでは無い」



 懐から扇子を取り出すと、久遠さんはそこら中に風を巻き起こした。すると、何処から生み出されたのか分からない、妖が無数に現れる。しかもそれなりに黒い悪意を抱いた妖だ。



「……妾の力。それは眷族を生み出す事じゃ」



 ……成る程。闇の眷族を生み出す力なんて持っていりゃ、そりゃ封印もされるわな。人間の視点から見れば、鬼の一族の首領と思われるだろうし。


 ……って、封印された?誰がその封を解いたんだ?



「ほれ、喰らえ。お主の糧ならいくらでも生み出してやろう」



 上質な糧、それが目の前に大量に現れている。

 久遠さんは糧を喰らえば喰らう程強くなれると言うが、久遠さんは力を行使しても飢えを感じる事は無いのだろうか?



「……そう案ずるな」



 ……顔に出ていたかな?



「妾が本気で力を使えば、このような底辺の妖なぞ無限に生み出せる。何なら、もっと強力な妖を生み出してやろうか?」

「い、いえ、こいつ等で十分です」



 呼吸を整え、妖を一気に喰らっていく。その度に全身に力が漲っていくのが分かる。まるで細胞の1つ1つが活性化しているようだ。


 数十匹もの妖を喰らった段階で、俺にも限界が来た。今までの経験からすると、異常な量と質の糧を喰らった。ここまで喰らえるようになっただけでも、俺の力が上昇している証なんだが……



「よし、それでは次はお主の力を使って妖を消せ」

「う、うぃっす」



 休憩は無いのね。


 糧を喰らい器を満たすと、次は器から力を放つ。そして器が空になればまた妖を喰らって満たす。力は使えば使った分だけ力は体に馴染んでいくし、飢えは満たせば満たすほどに器が広がっていく。


 この、本来ならあり得ない速度での追い込みと回復。その繰り返しが荒療治なんだろう。



 何十回と繰り返して行われた荒療治だったが、先にへばったのは俺の肉体の方だった。

 簡単に言えば過労なんだが、糧を喰らう事でここまで体力を消耗したのは初めてだ。



「……ふむ。それなりに強くはなったようじゃな」

「ですかね?実感はあまり無いんですが……」

「先程と同じように、石ころを消してみるがいい」



 またまたそこら辺に転がっている石ころに向かって力を放つ。


ボシュッ!!


 ……思っていたより力が跳ね上がってますね。一瞬ですよ?それに何か、石ころだけじゃなく周りのアスファルトにもまるでアイスをくり抜いたかのような跡が残っていますけど……



「これなら……」



 白い妖に負けないだけの力は手に入れた。最悪、吉良の存在そのものを消せるだけの力も。後は決戦でどう転ぶかだが……



「良いか、六文。決戦は明日行う」

「へ?いや、先ずは吉良が何処にいるのか調べたりとか……」

「問題無い」



 そこに、真っ白な小鳥が飛来して来て、久遠さんの肩にとまった。久遠さんは小鳥(そいつ)に話し掛け、頷いているんだが……既に場所も調べていたとか、久遠さん、貴方、かなり規格外過ぎやしませんか?

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