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#3

「六文君、お願いします!私のパートナーになって下さい!」



 それはまるで想い人への告白のような台詞。しかも、それをあの辻香里奈が俺に向けて言い放っている。


 それは、単なる偶然か。それとも運命的な必然だったのか……



----


 とある日曜の事だった。

 朝早くから診療所のドアを叩く音がした。我が家の面々はまだ朝食の途中だったが、急患は時間との戦いでもある。オヤジは素早く行動に移っていた。

 椅子にかけてあった白衣を身に纏いドアを開くと、数人の女の子達が雪崩のように入ってきた。



「辻さん!しっかり!」

「先生!早く診て下さい!」



 どこか見覚えのある面々だと思っていたが、担ぎ込まれた女の子を見て気付いた。



「ウチのテニス部じゃん。辻さん、どうかしたの?」

「真田君!?何でここに!?」

「いや、ここ、ウチの実家だから。真田診療所って書いてあるっしょ?」

「と、兎に角!辻さんが部活中に倒れたの!頭をぶつけたのか、意識が戻らなくて……早く診察をお願いします!」



 とりあえず、緊急性は伝わった。診察室のベッドに意識を失っている辻さんを寝かせ、オヤジの診察が始まったのだが……医学に精通し、病魔を喰らうオヤジの診察結果は……



「……飢え、だね。魂が飢えている」

「飢え、ですか?」



 頭上にハテナマークを浮かべるテニス部の面々だが、俺にはそれだけで理解が出来た。何の因果かは分からないが、辻さんにも闇の血が流れていたのだ、と。



「とりあえずウチで少し様子見をしよう。君達は彼女の両親や部活の責任者、もしくは顧問に連絡をしてきなさい」

「は、はい」



 ドタバタとやって来た面々は、新たにやるべき事を告げられてドタバタと去っていった。



「六文、手をかしてくれ」

「ん」



 手術用のメスを手にしたオヤジが、俺の腕に切り傷を作る。そんなに深くは切っていないが、血が滴りだす。その俺の腕を辻さんの口に近付けた。

 すると、まだ意識は回復していないにも関わらず、辻さんは垂れた血を飲み込んだ。



「……これは?」

「恐らく、今まで飢えた経験は無かったんだろう……だから自分の不調にも気付かなかった。彼女は……『吸血鬼(ヴァンパイア)』だ」

「ふぅ~ん……『吸血鬼(ヴァンパイア)』、ね……」



 意外な現実を告げられても、俺の頭の中ではまだ許容範囲内だった。この世には俺やオヤジ以外にも闇から光の世界へと出た闇の眷属がいる。辻さんもそうだっただけの話だ。



「……んあ」

「お、気付いたか」



 俺の血をある程度吸った辻さんは、ベッドで横になっている自分の現状を把握出来ていないようだ。



「体の怠さは取れたかな?」

「あ……はい……何か、ここ数日の不調が嘘みたいで、今は全身に力が漲っています」

「だろうね。仮にも鬼の血を吸収したんだから」

「鬼の、血?」



 まだ自分に何が起こったのか、自分の体はどうなっているのか分かっていない辻さんに、ゆっくりと諭すように説明するオヤジ。


 その甲斐があったのか、事実を告げられた辻さんは、意外にも冷静だった。



「……驚かないんだね」

「ん~、現に私は飢え?て、倒れてここにいる……それが事実である事に変わりは無いし……それにね?今まで感じていた、他の人との違和感、って言うのかな……それは『私』が『吸血鬼(ヴァンパイア)』だからだ、と説明すると当てはまるし……」

「そっか」



 事実を真正面から受け止めている辻さんの姿から、オヤジの医者としての腕前に感心する。この場合は『患者』と言って良いのかどうかは分からないが、自分の状態を、真実を、ちゃんと受け止めさせる事は、医者の務めだろうから。


 オヤジは自分より話しやすいであろう話し相手として診察室に俺を残して出て行ったが、その杞憂は必要無かったようだな。



「……で、六文君の時はどうだったの?」

「何が?」

「自分が人間じゃないって知った時の話」

「俺は……認めたくなかったよ……知ったのは初等部の頃だったけど、周りと違う、それが……怖かった」

「怖かった?」

「自分という存在が、皆の害になってしまうんじゃないかって……皆に迷惑をかけるんじゃないかって……それが怖かった」

「そっか……」

「……でも、飢えで倒れて学校を休んだ次の日、皆が本当に心配して声をかけてくれて……それが凄く嬉しかった。あの日の事は忘れられない。だから、自分を見失わないよう、自分のせいで皆を傷付けないように、今まで過ごしてきたんだ」

「ふ~ん……いつも男子の悪ふざけの中心にいる六文君にそんな仲間思いな1面があったなんてねぇ」

「いや、そこまでひどい事はしてないでしょ?」

「女子の目線から見ると、ウチの学年はハッチャけ過ぎに見えるんだよ?まだまだウチらの学年の男子はお子ちゃまだなぁって、女子は噂してるよ?」

「マジか……」



 それは、俺にとっては知りたくない事実だったよ……

 辻さんの衝撃的発言(カミングアウト)で俺のキャパは飽和してしまい、少し現実逃避したくなった。



「ふふ……まぁ六文君が意外と優しい事は分かったし、私の中での好感度は上がったから。それでよしとして?」

「……でも、それを広める気は無いんでしょ?」

「あれ?バレてる?」

「辻さんとも長い付き合いだからね」

「だね!」



 笑いながら馬鹿馬鹿しいやり取りを続けていると、診察室の扉が開いて、オヤジと辻さんの両親が姿を見せた。



「香里奈……」

「お父さん……お母さん……」

「……すまなかった」

「ごめんね、黙っていて……」

「ん~、気にしてない、って言ったら嘘になるけど……もう平気だよ。私が何者なのかは問題じゃない……私がどう生きるか。それを考える良い機会になったから」



 辻さんは、出生の秘密を知らせなかった実の両親を目の前にしても責める事は無く、キチンと現実を受け入れて今後についてを話し合っていた。

 詳しく話すなら、どうやら辻さんは隔世遺伝的に『吸血鬼(ヴァンパイア)』として目覚めているらしく、両親もどう対処すれば良いのか分からなかったらしい。



「……彼女は強いな」

「そうだね」



 事の成り行きを見守っていた俺とオヤジは、辻家の家族会議が終わるのをしばし待っていた。


 10分程の話し合いをした結果、辻さんにも定期的に糧、つまり生者の血を吸わせる必要があるという結論に到り、その血を誰がどう提供するのか?という話題になった。



「単純に血を吸う必要があると言っても、普通の人間の血より、私達のように闇に生きる者の血の方がお嬢さんの飢えは解消出来るでしょう」



 オヤジの提言を聞いた辻さんの両親は、血を提供してくれる闇に生きる者、と聞いても、思い当たる存在はいないようだ。普通の人間であるご両親にとってみれば、そう簡単に思い付くわけないよな。



「……六文君、じゃ、ダメかな?」

「は?」



 辻さんのその発言は、あまりにも唐突だった。



「同じ学園に通う仲間だし、同じく人に在らざる存在同士だし……それに鬼の血は私のような存在には特効薬なんですよね?」

「確かに鬼の血には人間よりも力はあるが……しかし、それは私じゃなくて本人が決める事だからね……」



 オヤジは俺の反応を確かめるかのように視線を向けてきた。辻さんも、その両親も、期待を込めて俺の言動を待っている。



「六文君、お願いします!私のパートナーになって下さい!」



 それはまるで想い人への告白のような台詞。そこに恋愛感情は無いだろうが、大切に思っていた仲間の1人にそんな言葉を告げられると、非常に断り辛いものがあって……



「真田君、私達からもお願いする。香里奈のために、君の血を分けてくれないだろうか?」



 この通りだ!と頭を下げる辻さんの両親。オヤジは俺の返答に期待しているのか、ただ黙っているだけだ。

 ……仕方ない。同級生を、仲間を助けるためだよな?



「……分かりました。俺の血が必要な時は、いつでも言って下さい」



 まぁ、こうなる事は辻さんの正体を知ってからある程度は予想をしていたので、特に悩む事は無かったが……



「じゃあ、早速お願いしても良いかな?」



 飢えを満たす時の充足感を味わった辻さんだが、まだまだ全快ではないようだ。仕方なく腕を差し出すと、まだ血が滴り落ちていた傷口から血を吸い始めた。



「ちゅうぅぅぅ……はぁ、流石、鬼の血だね。本当に力が体の隅々まで行き渡るみたい」

「そりゃどうも……でも、俺も自分の飢えを解消しなきゃならないから、毎日は無理だからね?」

「分かってる」

「それと、辻さんも無理はしない事。飢えを感じたら、いや、感じる前にはちゃんと告げるように」

「うん……ありがと」



 とりあえず現時点での飢えは解消されたのだろう。俺の腕から口を離した辻さんは、顔色も大分良くなっていた。



「……これで今までと同じように過ごすなら、どのくらい持つのかな?」

「ん~、多少の差異はあるけど……2~3日は大丈夫じゃないかな?」

「そっか……」

「でも、本当に飢える前に言ってよ?」

「うん。ありがと」



 その後、オヤジの再診でも異常は見当たらず、俺と辻さんの間には単なる同級生以上の新たな繋がりが作られてその日は終了した。

 失った血を補充するため俺の飢えは少し強まったが、まぁ質にこだわらなければ、人の悪意を集めるのも大した問題じゃない。量を取るか、質を取るかなだけだ。



「……それにしても、何の見返りも求めずに血を与えるなんて、大盤振る舞いだな」

「別に他意は無いけど、辻さんとも初等部からの付き合いだからね……こんな俺でも必要とされるなら応えたい。それだけだよ」

「……惚れてるのか?」

「さぁ?どうなんだろうね?」



 ニヤニヤと笑みを浮かべるオヤジの問いには肯定も否定もせず、俺は悪意を喰らいに出掛ける準備を始めた。

 辻さんに血を提供する事で、俺が飢えに苦しむような事があれば、辻さんは俺から血を吸う事に躊躇いを感じるだろう。そうならないためにも、俺の体調管理はしっかりしないとな。



----


 休み明けの月曜日。

 午前の授業が終わり昼飯の時間に入ると、ニコニコした辻さんが俺の方へとやって来た。



「ん?どうかした?」

「ギブアンドテイク、じゃないけど、私なりの感謝の気持ちだよ」



 そう言って机の上に置かれたのは、2人分の弁当箱だった。



「俺らの辻香里奈が、真田と飯!?」

「えぇぇっ!?2人に何があったの!?」

「香里奈って、真田君みたいな人がタイプだったの!?」

「あれか!日曜に辻さんが倒れたって話!真田の家に運ばれたんだろ!?」



 ……何だか外野がうるさいです。



「六文君、昼はいつも焼きそばパンでしょ?それじゃあ栄養が偏るからね」

「……よく知ってるね」

「長い付き合いだからね」



 ちなみに本日の弁当はハンバーグ弁当だった。

 他のクラスメイト達の前で、特に辻香里奈ファンや他の女子の前で、辻さんの好意を切り捨てる事は出来ず、まぁこのくらいなら、と好意に甘えさせてもらう事にした。



「それでさ、私は六文君ともっと仲良くなりたいんだよね」



 付け合わせの茹でたブロッコリーを口にしながら、辻さんは何の躊躇も無くそんな事を口にする。



「仲良くって……具体的には?」

「そうだなぁ……先ずは六文君も私を名前で呼んで?敬語も使わないってところから始めようか」

「……分かったよ」



 辻さん……じゃなくて、香里奈は嬉しそうに微笑んでいるが、俺は周囲からの好奇と怨みが込められた視線に見つめられ、非常に居心地の悪い昼飯の時間を過ごした。


 まだ今週は始まったばかりなんだが、これからこんな日々が続く事を考えると、少しだけ憂鬱な気分になるな……

 亀更新&駄文にお付き合い下さい、ありがとうございました。

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