#1
読み専でしたが、書いてみたくなって書いてみた。
駄文です。文才とか欠片も無いです。ちなみに、オチも無いです。
ネタに困っていますが、後悔はしてません。
目を通していただけたら光栄です。
極東の島国、日本には、『眠らない町』と呼ばれる繁華街がいくつもある。
東京都新宿区。この町には日本でも有数の繁華街があり、そこが俺の活動の場、つまりは縄張りである。
煌々と輝く様々な店のネオンは、月も出ていない暗黒の夜を、まるで昼間のように明るく照らしている。それは人間という生き物が闇を恐れ、科学の進歩により闇を退けてきた証だと、俺は思う。
だが、光の当たる場所には必ず影が出来るように、この『眠らない町』にも影はある。
それも、人に害をなそうとする、極上の影が……
「て、てめぇ!何者だ!」
「……路傍の石ころに名を名乗る必要があるのか?」
「……ちっ!」
まだ周りには一般人もいるというのに、迷う事無くナイフを抜く男。
そうだ、それだけの『害意』、『悪意』を示してくれなければ困る。そのために、こいつの手下を何人も潰したのだから。
もっとだ。もっと膨らめ!
「死ねぇっ!」
ナイフを手に突進してくるのは、それなりの勢力を持っているヤクザの組員だそうだが、俺にとって相手がどこの誰かなんてどうでもいい。
ただ、『悪意』を持っていれば、それで良い。その『悪意』が俺の糧となるのだから。
ギィンッ!
突き出されたナイフを掴み、根元からへし折る。恐らく、一瞬の出来事すぎて男は何が起こっているのかまだ理解をしてはいないだろう。そしてそんな瞬間が俺の食事の瞬間でもある。口を開き膨れ上がっていた男の『悪意』を、深呼吸のように吸い込み、喰らう。
瞬きをするほどの、ほんの数瞬の出来事だが、もし俺達の影に注目していたならば、男から溢れ出た湯煙のような物が俺に吸い込まれるのが分かったかも知れない。
そして、これで本日の食事は終了だ。男には、もう何の用も無い。
「ひっ!」
『悪意』という、強い意志を失った人間は、脆い。少し視線で威圧するだけで、逃げ出すかその場で固まる。こいつは後者のようだな。
「……一応、教えてやるか。俺の名は六文……真田六文。光の中に生きる『鬼』だよ」
『悪意』という糧を喰らい、魂の器が満たされ力に満ちている俺の瞳を直視した男は、気を失いその場に崩れ落ちた。人集りが出来つつあるが、俺が歩を進めれば自然と道は開かれる。
端から見れば、ナイフを取り出した暴漢を退けたかのようにも見えただろうが、俺はただ食事をしただけ、いつもと変わらない日常の一コマである。
「……さて、明日も早いし、帰って寝るか」
軽く伸びをして自宅へと帰る。今日は数人から『悪意』を喰らう事が出来たので、腹はそれなりに満ちている。今夜は良い夢が見られるだろう。
----
『真田診療所』。
そこが俺の住処であり、人が抱く負の感情、主に『悪意』を喰らう俺とは違い、『病魔』を喰らうオヤジが経営する小さな診療所である。
もちろん国が定めた医師免許もちゃんと持っており、通常の診察もしているが、オヤジの食糧である『病魔』を患った患者が全国から集まる、その道では知る人ぞ知る診療所だ。
『鬼』。
俺やオヤジを簡単に説明するのなら、その一言以上に形容出来る言葉は無いと思う。まぁ科学技術の進歩によって明かりを灯し闇を打ち払った人間のように、光の中でも生活出来るようになった『闇に生きていたはずの眷属』。それだけだ。
ただ『鬼』と呼ばれて一般的にイメージするような、人を喰らうなんて事は無く、『鬼』の中でもそれぞれ糧とする物が違う。オヤジが『病魔』を喰らうように、俺は人の『悪意』を喰らう。
科学が発達した現代において、俺やオヤジは超非科学的な存在としか言いようが無いが、魂が欲している、とでも言えば良いのか、普通の食事では満たされない、魂が飢えているかのような感覚に陥るのだ。飢えが続くと体調不良に陥り、衰弱してしまう。それ満たすには、俺の場合だと週に2~3度は悪意を喰らう必要がある。昨夜のように、ね。
「……ん、ごちそうさま」
「はい、それじゃあいってらっしゃい」
両親と俺の3人家族。その中でお袋だけは普通の人間だ。何でも、多くの医者が投げ出したお袋の病、その原因であった『病魔』をオヤジが喰らい治療した事が縁で結ばれたらしいが、まぁ詳しく説明する必要は無い、かな?
そして、自己紹介をするならば、俺、真田六文は『暁学園』の高等部に通う1年生だ。小・中・高とエスカレーター式に進学するし、この少子化の影響で、クラスは30人規模の2クラスのみ。そのせいか、横の繋がりが親密なのが特徴だろう。
「六文君、おはよー」
「おはよ」
通学路で俺に声をかけてきたのは、『辻香里奈』だ。こいつは『どこの少年漫画のヒロインだ?』と疑いたくなるような容姿をしている。
ショートカットだがサラサラの黒髪に、テニス部の活動で軽く日焼けした褐色の肌。目鼻立ちも愛くるしく、スタイルも抜群。学業は常に学年の5位以内をキープしており、部活でも1年生でありながらすでにエース候補と呼ばれているんだから……神は己が選別した人間には、二物も三物も与えるもんなんだろう。
ちなみに、大方の予想通り俺はそんな神の恩恵を受ける事すら無く、平々凡々な見た目である。まぁ、そもそも人間ですらないのだからあまり気にした事は無いんだが、肉体の成長期に入ったというのに、まだ160センチしかない低身長だけは少しだけコンプレックスだったりする。
高校までの通学路。目を凝らしてみると人の『悪意』というものはそこら中に転がっている。例えば、俺が辻さんと一緒に登校している姿を見て、現在進行形で生まれているちょっとした嫉妬心という『悪意』。
それらは糧として喰らうには些か脆弱ではあるが、喉が渇けば自然に水を飲むように、軽く喰うだけでも多少の誤魔化しにはなる。
まぁ昨夜はしっかりと食事が出来たので今はその渇きも感じないけどね。
「あ~……月曜ってサボりたくならない?」
「そう?私は月曜が楽しみだよ。部活にドップリの土日も楽しいけど、月曜日なら皆に会えるからね!」
……模範的な学生の返答には、返す言葉も無いです。はい。
確かに高等部までずっと一緒に過ごしてきた同級生達は、俺にとっても大切な存在ではあるが、簡単に言うと、サザ○さんシンドロームってやつ?休み明けは少しだけ憂鬱になるんだよね。それは黒板に向かいシャーペンを動かしていても、例え体育で体を動かしていても、何処か集中出来ないんだ。
教室に着くとそれぞれの席に向かうが、やる気が低空飛行中の俺は自分の席に着くとバリケードを張った。
まぁ単純に机に突っ伏して、近寄るな!と全身でアピールしているだけなんだけど、長年の付き合いからか、クラスメイト達はそれだけで察してくれる。
だもんで、1限目が始まるまではグターッと時間が過ぎるのを待つ……
……つもりでいたが、異変に気付いたのはその時だった。
「スンマセンっ!ちょっとトイレっ!」
「ちょっと!真田君!?」
ホームルームの真っ最中にも関わらず教室を飛び出し、担任の楠センセの制止の声も聞かずにその気配のする方角へと駆ける。
俺の本能が告げているのだ。極上の餌が現れた、と。
辿り着いた場所は、平常時には封鎖されているはずの裏門である。だが鍵は壊され、夏場だというのにジャージのフードを深くかぶった男がいた。
「ここで、何してんだ?」
俺の問い掛けにも臆する事無く、男は包丁を取り出した。
「……誰でもいい、って目付きしてんな」
今度はニヤリと笑みを浮かべ、男はそれを返答としたようだ。男は『狂気』を含んだ瞳をギラつかせ、包丁を振り上げると、迷う事無く俺に振り下ろしてくる。
だがな?生憎俺は人間じゃない。刃物なんぞで傷付くような肉体じゃないんだよね。それに人間の動きなんて意識すればスローモーションのように見る事が出来る。
まぁ、今まで喰らってきた『悪意』があるから、今の俺の『力』があるんだが、それを持ってすれば暴れる男の包丁を受け止める事など造作も無い。
「……るんだ」
「あ?」
「ここから、始まるんだ……」
「始まるって……何がよ?」
「俺の……聖戦だ!」
途端に膨れ上がる男の『悪意』。それは昨日喰らったものに比べても、段違いに色濃く、深い。
それは『悪意』を喰らう俺にとっては、極上の糧なのだ。
男は俺が掴んで放さない包丁からは手を放し、腰に差していた銃を取り出す。アメリカじゃないんだから、平和な日本で一般人が銃を持ち出して来た事には驚きだったが、鉛の弾丸でも俺の肉体を傷付ける事は出来ない。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!と3発の銃声が鳴り、制服には穴が空いたが、俺の肉体的なダメージはゼロ。
だが、銃を放ってもダメージを受けない俺を前にしても、男の『悪意』が萎える気配は無い。それどころか、未だに膨れ上がり続けている。
「……アンタ、憑かれてるな?」
光を克服した『闇の眷属』は、何も俺やオヤジだけじゃない。人間を依り代に、他者の魂を喰らう奴だっている。目の前の男はそんな存在、『妖』に取り憑かれているようだ。
「死ね死ね死ね死ねぇぇっ!」
弾切れになるまで引き金を弾き続けた男は、俺を殺した、と安堵したのか一瞬の隙を見せる。その隙を突いて接近し、首を掴み持ち上げる。
「……悪いが、俺はそんな武器じゃ死んでやれないんだわ」
「ば、馬鹿な!俺は選ばれたんだ!俺こそが支配者に……っ!」
「黙れ」
狼狽する男を一喝し、その膨れ上がっていた『悪意』を吸い込み、喰らう。その瞬間に男の心底に隠れていた『妖』も姿を現す。
まぁ、人間の破壊衝動を増強させるだけの、名も無い脆弱な『妖』だ。だが、放置しておくと取り憑かれている男は再び犯罪に走るだろうし、ここで逃がすと別の人間に憑くので面倒だ。男が放っていた『悪意』と一緒に吸い込んで喰らった。
『妖』の持つ濃厚で純粋な『悪意』は、俺にとっては最上級の御馳走だ。体の隅々まで力が行き渡る感覚に浸っていると、男は正気を取り戻したようで、ガタガタと震え始めた。
「俺の名は真田六文……地獄への渡り賃に、俺の名を覚えておきな」
俺は自分が正しいと思った事も、綺麗事をしているつもりも無い。それに、人間社会を守りたいだなんて使命感も持ち合わせてはいない。
『悪』はもっと巨大な『邪悪』で征す。それだけだ。
「ひぃっ!」
悪意を失った男は、例に漏れず心が折れ、先程までの狂気が嘘だったかのように、ただただ全てに怯えている。そこでやっと銃声を聞き付けた教員が何人か集まり始めたが……
「真田君!?どうしてここに!?怪我はしていないな!?」
「まさか、1人で暴漢と争ったのか!?危険な真似は止めてくれ!」
まぁ口々に色々言われました。どれも心配しているからこその発言なんだろうが、俺はただ食事をしただけで、危険度なんて皆無に近かったけどね。
「……とりあえず、部外者が簡単に学内に入れないよう、対応をお願いします」
「……分かった。学園長にも報告しなければならないし、セキュリティの強化は提案するよ」
「お願いします……じゃあ、俺は授業があるんでこれで失礼します」
未だに周囲に怯えまくっている男を見るが、普通に『悪意』を失った人間より、憑いていた『妖』と共に心を失った人間は、下手をすると廃人になる。せめて少しでも正常な精神状態に戻ることを願いながら、俺はクラスへと戻った。
不審者の噂は早々とウチのクラスにも届いていたし、銃弾で穴が空いた制服には皆から問い詰められたが、俺に怪我が無い事を知ると、一様に安堵してくれるクラスメイト。うん、平和って良いね。
……授業?
満腹感からくる眠気で快眠でした、まるっ。
----
その日の授業が全部終わり、部活に向かう者、仲間と帰宅する者……放課後というそれぞれの時間を有効活用するために、皆が教室を去っていく。
俺はもちろん帰宅部である。
人外の存在である俺の身体能力を持ってすれば、それこそどんなスポーツでもプロになれるだろう。でも、生憎とそんな熱はもう持ち合わせていない。部活に汗を流す事が嫌いなんじゃなくて、冷めた。それがピッタリかな?
まぁ、部活の話は置いといて、我が家の夕食は診療所の診察が終わった8時から。つまり、その時までは自由に『悪意』を喰いに街に出掛ける事が出来る貴重な時間なのだ。
1度帰宅して、服を着替えてから街に繰り出す。昨日のように美味い『悪意』を求めて……
まず、1話。
お付き合いいただき、ありがとうございました。