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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
17/59

第17章

 

 過ぎていく日々はクーパーウッドとアイリーン・バトラーを精神的にいくらか近づけた。大きくなっていく仕事の重圧のせいで、彼女にはこれまでほど多くの注意を払わなくなっていたが、この一年は頻繁に会っていた。アイリーンはこのとき十九歳、自分独特の多少微妙な考えを持つようになっていた。まず、家や家具の趣味の良し悪しがわかり始めていた。

 

「お父さん、どうしてあたしたちはこんな古い納屋にいるの?」ある日の夕食の席で、家族がいつものようにテーブルにつくとアイリーンは父親に尋ねた。

 

「この家がどうしたって、知りたいな?」テーブルに引き寄せられて、バトラーは尋ねた。胸もとにはゆったりとナプキンがねじ込まれていた。来客のいないときでも彼はこれにこだわった。「お父さんはこの家には何の問題も見当たらないんだがな。お母さんもお父さんも、ちゃんと暮らしてるだろ」

 

「まあ、ひどい、お父さんたら、わかってるくせに」ノーラが話に加わった。十七歳で少し経験は足らないが姉と同じくらい利口だった。「みんなそう言うもの。この辺りのあちこちに建てられているすてきな家を見てよ」

 

「みんな! みんな! 〝みんな〟って誰だい? 知りたいな」かんしゃくをほんのちょっぴりと、ユーモアをたっぷりにじませて、バトラーは言い返した。「お父さんは違うぞ。こういうのが好きなんだ。それが気に入らない人は住まなくてもいい。そういう子はいるかい? うちのどこが問題なんだ、知りたいな?」

 

 こういう質問はこれまでに何度も繰り返されてきて、こんな風に処理されたか、あるいは健康的なアイルランド人の笑顔を向けられて完全に聞き流された。しかし今夜はもう少しじっくり考慮されることになった。

 

「お父さんだって、ひどいのはわかってるでしょ」アイリーンはきっぱり訂正した。「ねえ、それを怒っても仕方ないでしょ? 古いし安っぽいし薄汚いんだもの。家具はみんなボロボロだし、あっちにあるあんな古いピアノなんか捨てちゃうべきよ。もうあんなもの弾かないから。クーパーウッドさんの――」

 

「そりゃあ、古いさ!」バトラーは叫んだ。自ら招いた怒りで何だか訛りがきつくなっていった。「ふうるい」としか聞こえなかった。「薄汚いだと! あれはどこでいただいたものだ? お前の修道院だろ。そしてどこでボロボロになったんだ? どこでボロボロになったのか言ってごらん?」

 

 娘がクーパーウッドに触れたことに話が及ぶところだったが、バトラー夫人が口を挟んだので言いそびれてしまった。夫人は太った、顔のでかい女で、いつも口元がニコニコしていた。ぼんやりした灰色のいかにもアイルランド人という目を持ち、髪はほんのりと赤かったが今は白髪に変わり、左の頬から口の下まである大きな腫れ物がかなり目についた。

 

「子供たち! 子供たち!」(バトラー氏は商売でも政治でも責任のある立場だったが、夫人にかかっては子供同然だった)。「ああたたち(丶丶丶丶丶)、もう喧嘩してはいけませんよ。さあ、お父さんにトマトを渡してね」

 

 アイルランド人のメイドがテーブルで給仕をしていたが、それなのに皿が人から人へと手渡された。白磁の模造蝋燭が十六本もある重そうで派手なシャンデリアが、テーブルの上の低い位置まで垂れ下げられ、明るく灯されたが、これもアイリーンには不快だった。

 

「お母さん、『ああたたち(丶丶丶丶丶)』って言わないでって何回言ったらわかるのよ?」母親が言葉もまともに話せないのにすっかり落胆してノラが訴えた。「もう言わないって言ったじゃない」

 

「自分のお母さんの喋り方に指図するのは誰かな?」バトラーは、この突然の無礼な口答えに、これまで以上に激昂して叫んだ。「お母さんはお前が生まれる前から喋ってたんだぞ、覚えておきなさい。お母さんが身を粉にして働いてくれなかったら、そうやって並べたてる立派なマナーはお前に身につかなかっただろうな。それをわきまえてもらいたい。お母さんは立派なんだ。さもなきゃお前の今日などありゃしないんだぞ、このつまらんお荷物め!」

 

「お母さん、お父さんが私を何て呼んだか聞こえてる?」ノラは母親の腕にしがみついて、怯えて不満をぶちまけるふりをしながら訴えた。

 

「エディ! エディ!」バトラー夫人は夫に頼み込むように注意した。「お父さんは本気で言ったんじゃないのよ、ノラ。本気じゃないってわかんないの?」

 

 夫人は赤ん坊にするように娘の頭をなでていた。まともな言葉遣いができないことに触れられても、バトラー夫人は全然気にしなかった。

 

 バトラーは末娘をお荷物呼ばわりしたことをあやまった。しかしこの子供たちときたら――まったく――大きな悩みの種だった。それにしても、子供たちはこの家じゃ不足なのか? 

 

「食事の席で騒ぐのはやめたらどうです?」若者然としたカラムが言った。黒い髪は、左から右耳のすぐ近くまで届きそうな長い目立つ前髪となって滑らかに額を覆い、上唇に短い波打つ口髭を生やしていた。鼻は短く上向きで、耳はやや突き出ていたが、明るくて魅力的だった。カラムもオーエンも、自宅が古くて貧乏くさいことには気づいていたが、両親はここを気に入っていた。損得勘定が働いて家族の平和を大事に思い、この場は黙っていることにした。

 

「まあ、うちの四分の一ほどもない人たちが、もっといいところに住んでいるのに、こんな古いところに住まなければならないのは情けない、とは思いますがね。クーパーウッド家だって――クーパーウッド家でさえ――」

 

「そうだ、クーパーウッドだ! クーパーウッドがどうしたって?」バトラーはアイリーンを正面から見すえた――彼女は彼の横に座っていた――バトラーの大きな赤い顔は燃えているようだった。

 

「だって、あの人たちでさえ、うちよりも立派な家を持ってるのよ。あの人はお父さんのただの代理人でしょ」

 

「クーパーウッド! クーパーウッド! クーパーウッド家の話なんかするつもりはない。うちではクーパーウッド家のルールなど採用しないからな。あいつらが立派な家を建てたからといって、それが何なんだ? 我が家は我が家だ。私はここで暮らしたい。ここでずっと暮らしてきたんだから、荷物をまとめて出て行くなんてできん。もしそれが気に入らないんなら、他にどうすればいいかわかるな。出て行きたければ出て行けばいい。私は動かんからな」

 

 こういう水たまりのように浅い家族の喧嘩に巻き込まれると、妻や子供たちの鼻先で反発をあおるように両手を振るのがバトラーの癖だった。

 

「じゃあ、近いうちに出て行くわ」アイリーンは答えた。「一生ここに住む必要がなくなってよかったわ」

 

 クーパーウッド家の美しい応接室、書斎、客間、今はまだ準備の最中でアンナ・クーパーウッドが散々話してくれた婦人部屋――金にピンクとブルーで色付けされたおしゃれでかわいい三角形のグランドピアノ――が、アイリーンの脳裏をよぎった。うちはどうしてそういうものが持てないのかしら? うちの父親は紛れもなく十倍は裕福なのに。しかし残念ながら、アイリーンの愛してやまない父親は昔気質だった。世に言う、がさつなアイルランド人の請負業者だった。金持ちではあるかもしれないが。アイリーンは物事の不公平に腹が立った――どうして、うちの父も金持ちで洗練された人になれなかったのかしら? そうすれば、うちだって――でも、ああ、文句を言って何になるっていうの? あの父と母が仕切ってるんだから、うちはどうにもならないわ。あたしはただ待つしかない。結婚がこの答えだわ――正しい結婚をすればいいのよ。しかし誰と結婚すればいいのかしら? 

 

「今そんなことを争っても仕方ないでしょ」バトラー夫人は運命そのものと同じように、堅固で根気強く言い聞かせた。彼女はアイリーンの悩みがどこにあるかを知っていた。

 

「でも、うちがちゃんとした家を持ってもいいじゃない」アイリーンは譲らなかった。「さもなきゃ、ここを立て直すのよ」ノラが母親にささやいた。

 

「しっ! そのうちにね」バトラー夫人はノラに答えた。「待っててね。いつか、きっと全部解決しましょうね。あなたがた、そろそろお勉強よ。もう十分食べたでしょ」

 

 ノラは立ち上がって行ってしまった。アイリーンは落ち着いた。父親はとにかく頑固で手に負えなかったが、それでいて優しいところもあった。アイリーンは口を尖らせて、父親に謝らせようとした。

 

「なあ」テーブルを離れてもなお、娘が自分に不満を持っていることに気づくとバトラーは言った。娘をなだめるためには何かをしなければならなかった。「ピアノで何か弾いとくれよ、すてきなやつを」バトラーは、娘の技量と筋力を見せつけて、どうやって弾くんだろうと彼を驚かせるような、派手で景気のいい曲が好きだった。これは教育のたまものだ――おかげで娘はこういうとても難しいものを、素早く、力強く弾けるようになったのだ。「そしたらいつでも新しいピアノを買ってあげるよ。見に行っておいで。お父さんにはこれがかなりいいものに見えるんだが、お前が気に入らないんじゃあ、仕方がない」アイリーンは父親の腕をぎゅっとつかんだ。父親と言い争って何になるだろう? 家全体と家族全体の雰囲気に問題があるのに、ピアノ一台が何の役に立つだろう? しかしアイリーンはシューマン、シューベルト、オッフェンバック、ショパンを弾いた。老紳士はにこにこして行ったり来たりして考え込んだ。アイリーンはとても力強くて活気に満ち溢れ、同時にとても反抗的だったが、感情がないわけではなかったので、この中のいくつかには本当の気持ちと考え抜いた解釈が加えられていた。しかし父親には全然伝わらなかった。バトラーは娘を見た。明るく健康でうっとりするほど美しい自分の娘を見て、この子はどうなるのだろうと思った。どこか金持ちの男がこの娘と結婚するのだろう――商才に恵まれたどこかの立派な金持ちの青年だ――そして父親である自分は娘に大金を残してやるのだろうな。

 

 クーパーウッド家の二棟の落成を祝うパーティーとダンスが催されることになった。パーティーはフランク・クーパーウッドの邸宅、ダンスは父親の邸宅で行われることになった。ヘンリー・クーパーウッド邸は随分と見栄っ張りだった。こちらは応接室、客間、音楽室、温室がすべて一階にあって、かなり広かった。エルスワースは、これらの部屋が状況に応じて一つにまとめられ、遊歩道やホールやダンス会場――大勢の客が必要とするあらゆる用途――に格好の空間ができるように準備してくれていた。二人は最初からこの二棟を共同で使うつもりだった。最初は、執事、庭師、洗濯係、メイドなどのさまざまな使用人を共同で使った。フランク・クーパーウッドは子供たちのために女性の家庭教師を一名雇った。執事は本当の意味では執事でなく、ヘンリー・クーパーウッドの専用使用人だった。しかし、食卓での肉の切り分けから主人役までできたので、必要に応じてどちらの家でも使われた。また、共用厩舎には馬丁が一名と御者が一名いた。一度に馬車が二台必要になっても、両名とも馬車を走らせることができた。とても快適で満足できるように仕事が割り振られていた。

 

 このパーティーの準備はかなり重要な問題だった。金融関係を重視するならできるだけ大規模にやる必要があるし、社交性を重視するなら排他的にする必要があったからだ。そこで、フランク邸での午後のパーティーは全員――ティグ家、ステナー家、バトラー家、モレンハウワー家、さらに、たとえばアーサー・リヴァース、セネカ・デイビス夫人、トレナー・ドレイク夫妻、フランクと面識があるドレクセル商会やクラーク商会のもっと若手の数名を含むもっと選りすぐりのグループ――を招待し、自然に人があふれてヘンリー邸に流れて行く形にした。後者が来てくれるとは思えなかったが、カードを送らないわけにはいかなかった。たとえ、アンナやクーパーウッド夫人やエドワードやジョセフの友人と、フランクが個人的に考えているメンバーにまで範囲を広げなくてはならなくなったとしても、なるべくなら一般大衆でないグループは夜遅くなってからもてなされる手筈だった。これはかなりの数になるはずだ。若い社交界のエリートの中から、勧誘されたか、強制されたか、影響されたかした最高の人たちが、ここに招待されるからだ。

 

 しかし、クーパーウッドは個人的にアイリーンに惹かれていたので、親たちの出席が不満この上ないにもかかわらず、バトラー家は午後も夜も両方とも両親と子供たちを、特に子供たちを招待しないわけにはいかなかった。どうやら、アイリーンでさえアンナとリリアンにとっては少し不満だった。この二人は一緒に招待者リストをチェックしていたときに、よくこれを話題にした。

 

「彼女はすごくお転婆でしょ」アイリーンの名前にたどり着いたとき、アンナは義理の姉に言った。「自分では結構物知りだと思ってるんでしょうけど、彼女はちっとも洗練されてないわ。あの父親もね! もしあんな父親をもったら、私ならあんな生意気な口はたたかないわ」

 

 自分の新しい寝室の物書き机の前でクーパーウッド夫人は眉をひそめた。

 

「ねえ、アンナ、私、時々思うのよ、フランクの仕事だからって私まであの家族に関わらせないでよねって。バトラー夫人にはうんざりだもの。向こうは善意のつもりなんでしょうけど、何もわかってないのよね。アイリーンは不作法もいいところだし、出しゃばり過ぎだと思うわ。うちに来るとピアノに向かうじゃない、特にフランクがいると決まってね。私は大して気にならないけど、きっとフランクはイライラしてるわ。曲はうるさいものばかりだし、繊細で上品な曲は全然弾かないのよね」

 

「私はああいう着こなし方って好きじゃないわ」アンナは同情するように言った。「着飾るにしても目立ちすぎよ。この前、馬車で出かけるところを見たんだけど、それがね、いい見ものだったわ! 縁取りを黒でびっしり編み込んだ真紅のズアーブ・ジャケットに、大きな真紅の羽根のついたターバンなんか巻いちゃって、真紅のリボンが腰のあたりまで届いてるんだもの。ドライブにそんな被り物をするなんて、よく思いつくわよ。それに手だってさ! 必見よ、あの手の持ち方ときたら――ああ――まさに――自意識過剰ってやつね。ちょうどこんな感じに曲がってるのよ」――そしてアンナはその仕草をやって見せた。「黄色い長手袋をつけて、片手には手綱、もう片方の手に鞭を持って、とにかく馬車を操るとき、狂ったように走らせるのよ、使用人のウィリアムを後ろに従えてね。あれは必見だわ。やれやれよ! あれで自分は大したものだと思ってるんでしょうね!」そして、アンナは半分は非難、半分は面白がって、くすくす笑った。

 

「招待しないわけにはいかないでしょうね。回避する方法がわからないし。でも、その様子が目に浮かぶわ。歩き回って、ポーズをとって、鼻高々でいるのよ」

 

「本当に、どうしたらあんなまねができるのか私にはわからないわ」アンナは言った。「ノラは好きなんだけどね。はるかにいいわ。あの()はもったいぶらないもの」

 

「私もノラは好きよ」クーパーウッド夫人は言った。「本当にとても優しいし、私からすればあの子の方がかわいいわ」

 

「ええ、そうよね、私もそう思うわ」

 

 しかし、二人の注意のほぼすべてを独占して、二人の思考を、彼女のいわゆる奇行に釘付けにしたのがアイリーンであるというのは不思議だった。二人が言ったことはすべて奇妙でありながら真実だった。しかし加えて、この少女は本当に美しくて、知性も力強さも並外れていた。野心が根深かかったために、彼女はかえって強く意識して、自分が内面で戦いつづけていた社交的な欠点を自分自身の意識に反映するあまり、ある意味で一部の人たちを苛立たせていた。世間が当然のように両親を不適格者と見なし、さらにそれを理由に自分までそう見なしかねないことに憤慨した。彼女は本質的に誰にも引けを取らない価値があった。とても有能で急速に頭角を現しつつあるクーパーウッドはそれを理解しているようだった。過ぎ去っていった日々は二人を精神的に多少近づけていた。クーパーウッドはアイリーンに親切で、彼女に話しかけるのが好きだった。この頃は、彼がアイリーンの家にいるとき、もしくはアイリーンが彼の家にいるときはいつも、何とかして言葉をかけた。すぐそばまで行って、温かく親しげな態度でアイリーンを見た。

 

「やあ、アイリーン」――彼女はクーパーウッドの優しい目を見ることができた――「どう、元気かい? お父さん、お母さんはいかがです? ドライブにでも出かけてましたか? それはいい。今日、あなたを見かけたんです。とても美しかったですよ」

 

「まあ、クーパーウッドさんたら!」

 

「本当ですよ。衝撃的でした。黒の乗馬服はあなたに似合いますね。あなたの金髪なら遠くからでもわかりますよ」

 

「まあ、そんなこと言わないでください。あなたのせいでうぬぼれちゃうわ。それじゃなくても、うちの父と母は、うぬぼれもほどほどにしろって言うんですから」

 

「お父さんやお母さんなんて気にしちゃいけません。衝撃的と言ったのは、そう見えたからです。あなたはいつもそうですから」

 

「まあ!」

 

 アイリーンはうれしくてちょっぴり息をのんだ。頬とこめかみが赤くなった。もちろん、クーパーウッドにはわかっていた。彼はとても博学で、ものすごく力があった。すでにとても多くの人に、彼女の両親にも、聞くところによればモレンハウワー氏やシンプソン氏にも、高く評価されていた。それに、自宅と事務所はとても美しかった。さらに、彼の静かな激しさは、彼女の落ち着きのない力と相性がよかった。

 

 従って、アイリーンと妹はパーティーに招待されたが、バトラー夫妻は、その後のダンスは主に若者向けのものであると言葉巧みに言いくるめられた。

 

 パーティーには大勢の人が集まり、紹介ばかりしていた。エルスワース氏がかなり困難な状況下で達成したという、小さな効果の数々についての気の利いた説明を聞きながら、パーゴラの下を歩いて、両方の家を詳しく見て回った。ゲストの多くは古くからの友人で書斎やダイニングに集まって歓談した。たくさんの冗談が交わされ、肩を叩き、楽しい話が語られ、やがて午後が夕方になると、みんなは帰った。

 

 アイリーンは、ダークブルーのシルクの外出着に、ベルベットのペリースを合わせ、同じ素材の精巧なプリーツとシャーリングとで縁を飾って、印象的にしていた。山の部分が高くて、大きな臙脂(えんじ)色の造花の蘭を一輪飾った、青いベルベットのトーク帽は、おしゃれで颯爽とした雰囲気を彼女に与えた。トーク帽の下の赤みを帯びたブロンドの髪は、大きく束ねられて、長いカールした髪が襟元を覆うようにはみ出していた。必ずしも見かけほど大胆ではないのだが、そういう印象を与えるのが大好きなのだ。

 

「すてきですよ」すれ違いざまにクーパーウッドは言った。

 

「夜は違う格好をするわ」アイリーンは答えた。

 

 少し豪快な歩き方で体を揺らすように威勢よくダイニングルームに入っていき姿を消した。ノラと母親はクーパーウッド夫人とおしゃべりをするためにそこに残った。

 

「まあ、すてきになりましたね」バトラー夫人は息をついた。「きっとここなら幸せになりますわ、必ずね。エディが今の家に落ち着いたとき、私、言ったんです。『エディ、私たちには立派すぎるくらい――ほんと、そうだもの』って、するとあの人がね『ノラ、天国の向こうにもこっちにもお前に立派過ぎるものなんかない』って言って、私にキスしたの。図体のでかい若者が、そんなこと言ってきたら、あなたならどう思います?」

 

「すてきなお話だと思いますわ、バトラーさん」クーパーウッド夫人は少しまわりを気にしながら言った。

 

「母はこの話をするのが好きなんです。ねえ、お母さん。ダイニングを見に行きましょう」ノラが話しかけた。

 

「あなたがたがここでずっと幸せでいられるといいですね。そうなることを願ってます。私は我が家でずっと幸せでいました。あなたがたもずっと幸せでいられますように」そして、夫人は呑気によたよた歩いて行った。

 

 クーパーウッド家の者は七時から八時の間に急いで食事を済ませた。九時になると、夜のゲストが到着し始めた。今度は装いも一変した――薄紫、クリームホワイト、サーモンピンク、シルバーグレーをまとった少女たちが、レースのショールやゆったりとしたドルマンを脱ぎ、滑らかな黒い服装の男性たちがそれを手伝っていた。寒い外で、馬車の扉がバタンと音をたて続け、ひっきりなしに新しいゲストが到着していた。クーパーウッド夫人は夫とアンナと一緒にパーティー会場に通じる正面入口に立ち、ジョセフとエドワードとヘンリー・W・クーパーウッド夫妻はその後ろにいた。リリアンはオールドローズのトレーンつきドレスを着て魅力的だった。四角の深い襟ぐりから、上質のレースの繊細なシュミゼットが見えた。クーパーウッドが初めて会った数年前のような滑らかな美しさは顔になかったが、顔も体も依然として注目を集めた。アンナ・クーパーウッドは不器量とは言えないが、美人ではなかった。小柄で色黒、鼻は上向きで、鋭い黒い目をしていて、快活で、詮索好き、聡明だが、残念なことにやや批判的な雰囲気があった。着こなしはかなり上手だった。スパンコールの輝いているビーズの黒は、彼女が色黒でも髪の赤いバラと同じように、アンナの外観をかなり引き立てた。滑らかな白いふくよかな腕と肩をしていた。明るい目、快活な態度、賢い物言い――こういうものは魅力の幻想を作るのには役立つが、本人がよく言ったように、ほとんど使い道がなかった。「男性はお人形みたい相手を求める」からだ。

 

 夕方、若い男女のグループに混じってアイリーンとノラがやって来た。アイリーンが黒いレースの薄い網のヴェールと黒いシルクのドルマンを脱ぐと、兄のオーエンが受け取った。ノラはカラムと一緒だった。背筋を伸ばしてまっすぐに立って、にこにこしているアイルランド人の青年は、自力で目覚ましいキャリアを切り開きそうに見えた。ノラは靴の甲の少し下までくる、短い女の子らしいドレスを着ていた。淡い模様の入ったラベンダーと白いシルクのもので、ところどころにラベンダーの小さなリボンが目立つ、可憐なレースで縁取られたフリルがある、ふわふわのフープスカートをはいていた。ウエストにはラベンダーの大きな飾り帯、髪には同じ色のバラ飾りがついていた。ノラは愛嬌満点で――熱望する明るい目をしていた。

 

 しかし、その後ろには、うっとりするような黒のサテンのドレスを着た姉がいた。キラキラしている真っ赤な銀のスパンコールが、魚の鱗のようについていて、丸みのある滑らかな腕を肩まで露出し、礼儀作法に関する本人の良識に照らして大胆さが許すぎりぎりの深さまで、コサージュの前後がカットされていた。アイリーンはもともと容姿端麗で、背筋がまっすぐ伸びていた。豊かな胸は緩やかに膨らんでいる腰よりやや大きいのに、それでもきれいに調和のとれているボディラインに溶け込んでいた。前後が深くVの字型にカットされた、襟ぐりの深いこのコサージュは、黒いチュールと銀色の薄絹の、短い優雅な(ひだ)のあるオーバースカートの上で、彼女を完璧に引き立てた。ふっくらと滑らかな丸みを帯びた首は、たくさんの黒い切子面(ファセット)が施された黒玉の一インチ幅のネックレスで、クリームピンクの白さが一段と強調された。健康なピンク色のおかげで自ずと色調が高かった顔色は、頬骨に貼られた極小の黒い絆創膏で強調され、ドレスで赤みを帯びた金色が強調された髪は、目のあたりでゆったりと、器用にふわふわに束ねられた。この宝物の髪の大部分が、二本のゆるい三つ編みにされて、首の後ろで黒いスパンコールのネットが被せられ、眉毛はペンシルで強調されて髪と同じくらい重要なものになった。こういう場面にしては少し強調しすぎかもしれないが、これは衣装というより、彼女の燃えるような生命力のせいだった。アイリーンにとって芸術は、肉体的、精神的に重要なものを抑制することを意味していたはずであり、人生は彼女にとってそれらを強調することを意味した。

 

「リリアン!」アンナは義理の姉を小突いた。アイリーンは黒を着ているのに、自分たちのどちらよりもはるかにすてきに見えると思うと悲しかった。

 

「わかってるわ」リリアンは抑えた口調で答えた。

 

「また来てくれたのね」彼女はアイリーンに向かって言った。「ねえ、寒くないの?」

 

「気にならないわ。部屋はすてきなんでしょ?」

 

 彼女は柔らかい明かりのともる部屋と目の前の群衆を見つめていた。

 

 ノラがアンナと雑談を始めた。「あのね、こんな古いもん着るもんかって思ったんだけど」ノラは自分のドレスのことを話していた。「アイリーンったら私を助けてくれないの――意地悪なんだから!」

 

 アイリーンはクーパーウッドと彼の近くにいた母親の方に進んでいた。トレーンを留めていた黒いサテンのリボンを腕から外して、スカートを蹴り、自由に広がるにまかせた。傲慢な割に、目は懇願でもしているように輝いた。まるで元気なコリーだ。きれいに並んだ歯が美しく見えた。

 

 すてきな活気のある動物を理解するように、クーパーウッドは彼女のことを正確に理解した。

 

「あなたがどんなにすてきか言葉にできません」まるで二人は昔から理解し合っているかのように、彼はアイリーンにささやいた。「まるで炎と歌のようだ」

 

 なぜこんなことを言うのか、自分にもわからなかった。特に詩人というわけでもないのに。事前にこのセリフを考えていたわけでもなかったのに。ホールで彼女を初めて見てからずっと彼の感情と考えは元気な馬のように、飛び跳ねていた。この少女のせいで、クーパーウッドは歯を食いしばって目を細くした。彼女が近づくと、無意識のうちに顎を引き締めたので、一層反抗的で、力強く、手際がよさそうに見えた。

 

 しかしアイリーンと妹はたちまち、紹介されたりダンスのカードに名前を記入するのがお目当ての若い男性たちに囲まれて、しばらく姿が見えなくなった。

 


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