冬の使者と妻たち
北の大陸は年中凍土に覆われ、白く冷たい雪が年月も関係なく降り積もるという
そんな大陸の空には当然の如く凍える様な大気が存在している
北風の精霊たちは凍えた大気の衣を纏うと、夜の明けぬ極夜の始まりを合図に寒気を伴う冬の使者として南へと進路をとる
南下する毎に白い雪原に茶色い土の大地がチラホラと増えていく
彼等が途中に立ち寄る森や林では、木々が常緑の葉や硬い皮に身を包み、自身や自らのウロ等に潜む者たちが凍えぬ様に気を使いながら冬の使者を見送るのだった
南に向かえば当然の如く寒さは緩むが、彼等が運ぶ寒気が緩んだ周囲を冷やし冷たい雨や雪の結晶を大地に落としていく
南方の暖かな暖気を運ぶ南風の精霊たちは、冷やされていく大地から逃れる様に暖かな大気を求め去っていく
遥か北から旅する彼等……北風たちの到来は、行く先々で凍える季節の訪れを報せる冬の使者ともいえた
そんな大地が冷たい雪に覆われる中、数少ない冬の華やさを彩り、彼等を迎える存在がいた
彼女たちは椿の花の精霊
色付き少ない季節を精一杯彩る彼女等は、冬の使者が身を休める宿り樹として彼等を迎える妻たちでもあった
椿たちは今年も緑の葉と紅や白や薄紅の花弁で身を飾り、冬の間にしか共に過ごせぬ夫を出迎える
季節を報せる旅を終えた北風たちも、再び逢えた喜びを示し己の伴侶を抱き締める
北風と椿の再会は、冬の宴の開催を報せるモノでもあった
椿たちは夫の傍らで酒を注いだり、白い舞台で舞い踊る
北風たちも盃傾け演舞を眺め、妻の傍らにて長き道中の疲れを癒し英気を養う
冬の寒さに息を潜める動物達は、今季の宴が少しでも短くなる様に願いながら日々を過ごす
しかし椿たちは少しでも長く北風たちといられる様に、鮮やかな花の彩りを添え彼等を引き止める
今年の冬は長いか、短いか?
それは気儘な北風たちの心しだい