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水仙の花  作者: GRAIN
7/8

第七話:私の名前は

お久しぶりです(汗 更新遅れたこと、大変申し訳ありません。なにぶん、会社が…………いや、言い訳はしません(笑 では、第七話をお願いします。

気がつけば、私は涙が頬を伝っていた。


今までの話しの内容では、ヘーラーも自分勝手ではあったが、エコーも非がないわけではない。


そんな内容に、感動なんて起きるはずがない。


なのに止まらない涙。


なぜだろう。


私は訳もわからず涙を流している。


まるで、エコーの気持ちを私が代弁しているかのよう。


私がエコーを?


何を言っているのだろうか。


よく自分を物語の主人公と投影して見ることは、ある話しだが、これとはまた別。


まるで、自分が本当に昔体験した事実のよいな感覚。


投影ではない、完全にシンクロしていた。


「なん、で……」


訳もわからず言葉がでてくる。


次に出てくる言葉もわかるような気がする。




なんで……




こんな事になってしまったのだろう…




きっと、こんなはずではなかったはずなのに。みんなの為に頑張ったのに、報われない。


それはまるで自分が今までに体験したこと。


やるせない、怒りや悲しみをどこに向けていいかもわからない。


苦しくなるほど、エコーは近くにいた。


でもなんでだろう。


まだ先を読んでいないはずなのに、これは絶望とは違う。


むしろ、期待。


悲しみと怒りの連鎖の中から、私には何か希望の光を見ていた。


続きが気になる。


何があって、こんなにも期待ができるのか。


いやむしろ、この期待が気のせいであってほしくない。そんな気持ちでいっぱいだった。


でも、今私が続きを読むことは叶わなかった。


泣き疲れたか、普段読まないような分厚い本を読んでいたからか、いつのまにか私は、机に伏すように意識は夢心地にいたっていた。





















悲しみに喉が震える。


しかし、さっきまで聞き慣れていた声は虚しくも掠り声ほども聞こえない。


ただ、自分は叫び苦しんでいることも周りから見れば吐息を吐き出しているようにしか見えないことだろう。


周りに泣いていることも気づいてもらえず、それが悲しみという際限なく続く絶望へと変わっていった。


エコーと名をもらい、その代わりに大切な物をなくした木霊にもう生きていく気力は残っていなかった。


だから、このまま空回りする声を叫び続け、いずれ消え去るものと思っていた。


そう、さっきまでは。







「……誰か、泣いているのかい?」







草の根を分け、茂みから姿を見せた青年は優しく微笑んでいた。









「見たところ、君は妖精………いや、木霊かな?」


あってるかな?なんて言いたそうに彼はエコーに笑顔を向ける。




―――――えぇ、貴方の言うように私は木霊です。




そんな簡単な言葉すら口からは出てこない。


思いとは裏腹に、出た言葉はこれ。


『見たところ、君は妖精………いや、木霊かな?』


ただ言葉を相手と重ねるだけ。


まさにエコー。


名前に相応しく、おうむ返しするしか能がない木霊。


気持ちなどに関係はなく、常に感情のない言葉を連ねる、他人から見ればただの悪戯好きで趣味の悪い木霊。


つまりはそんな存在。


それを証拠に、ほらみろ。


せっかく私を見つけた彼でさえ、キョトンとこちらを見ている。


なんだ、この木霊は。


多分そう思っているに違いない。


変な木霊だって、ムカつく木霊だって。


でも、彼の口からは意外な言葉が発せられた。




「君、面白い木霊だね」




それがどれだけ嬉しかったか。


ただの何の使い道のない木霊だと思っていた自分からしてみれば、まるで天からの声にすら聞こえた。


「名前はなんて言うのかな?……って、木霊には名前がない者もいるんだったね」


彼は困った顔で私を見る。


『名前はなんて言うのかな?……って、木霊には―――――』


違う、こんなこと言いたいわけじゃない。


私はエコー。


言葉を失い、相手の言葉を借りなければ喉すら響かせられない木霊。


言いたいのに言えない。


もっと話したいのに、会話が続くはずもない。


私は――…生きながら死刑宣告されたようなものなんだ。


「じゃあ、僕が君に名前を付けてあげるよ。そうだな……僕の言葉を繰り返す木霊――――エコーなんてどうかな」





あっ………。




―――――エコー。




それは私の名前。




声を代償に手にした名前。




この人には、伝わっていたんだ。私の叫びが。


辛くて、誰にも聞こえない声で泣き叫んでいた。


だから、一人として私を慰めてはくれなかった。


でも彼は、私を見つけた上、心の叫びすら感じとってくれた。


嬉しかった。


何にも代えられないほどに嬉しかった。


「気に入ってくれたようだね。よろしく、エコー」


また優しい笑顔を向けてくる。


思わず瞳から涙がこぼれ落ちる。




『……よろしく、エコー』




泣きじゃくりながら、確かにそう答えた。


「違うよ―――――僕の名はナルキッソス」


『ナル……キッソ…ス』


ゆっくり彼の名前を言葉にする。


「そう、だから、エコーはこう言わなきゃ――――…よろしく、ナルキッソスってね」


そこで何かが、私の中で崩壊する。


涙が止まらない。


まるで底がないように溢れ出す。









『―――――…よろしく、ナルキッソス』




それがやっと私が彼に言えた初めての言葉だった。

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