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水仙の花  作者: GRAIN
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第五話:Ekho

さてさて、今回からやっと山場が(汗

そして、特別ゲストが登場します(笑

はたして、皆様にわかっていただけるのでしょうか…とにかく、水仙の花をよろしくお願いします。

「彼女が――…」


老人は確かにそう言った。


彼は何かを知っている。


店先で少女の後ろ姿を見送る老人。


まるで、少女の背中に何かを見ているかのように。


それは、老人にしかわからない。


ただ、老人は懐かしげな、そして悲しそうだった。


まるで、過去の過ちをただ謝罪するかのように。


「さぁ店じまいかね…」


そう言うと、老人は店の中へ入ってゆく。


すでに日も落ち、黄昏を越えた時間。


店をしまうのには十分な時間だった。


でも、今日は何か違う。


老人は一つの本を見つめ、愛でるように触れる。


それは店の奥に眠っていた、もう一つの『Narcissus』。


老人は何を思ったのか、本に語りかける。


「過ぎた時間は戻らない。しかし、過去な過ちは今取り返すことは可能なのだ。時代、国を越えようとも、それは変わらない――…互いが引き合うからだよ。過去に、打ち勝つんだよ……そして、君はもう喋れないんじゃない。自分の言葉を持っている。そう思うだろう―――…エコー」

















自然と目が開く。


そこにあるのは、昨日別れを済ませた天井。


不思議と、夢は見なかった。


時計はまだ4時前を指している。


「そっか、昨日寝たの早かったもんな…」


気が付けば、寂しく思える。


夢を見ることで、軽い鬱になりかけていた私が、今では見ないことに不安を覚える。


机を見れば紙袋が一つ。


そう、昨日やっとの思いで見つけた、私の手がかり。


結局手を出さなかった。


分厚い本だから読みたくないわけではない。


自慢ではないが、昔から本を読むのは好きだったから。


でも、あと少しのところで、何か躊躇する。


本当にいいのか。真実を目の当たりにして、私はどうなってしまうのか。


そんなことばかり頭を過っている。


「…テレビでも、見よっかな―――」


体を起こし、パチッとテレビの電源を入れる。


ブラウン管の中では掃除機の販売やプロレスがやっていて、他はニュースとか砂嵐だった。


「何もやってないか」


そう言いながらも、テレビではプロレスが流れていた。


電気もつけず暗い中、テレビの光だけが部屋を照らしていた。


「……なに、やってるんだろ」


しかし、誰も答えてはくれない。


暗闇がそれを吸収するかのように。


私はポツンと体育座りをしてテレビを眺めていた。















私はいつも通り家を出た。


不安を拭いきれぬまま、空はまるで私の心を映しているかのようにどんよりとしていた。


「雨、降るのかな……」


ポツリと呟いた。


「おっはよ〜、絵子ぉ!」


その声が聞こえた瞬間、私は身を屈めた。


頭上からは、瑞穂のエルボーが空を切る音がする。


すかさず私は、振り向き様に瑞穂にタックルをかました。


「…や、やるようになったじゃない」


瑞穂が顔をひつらせながら、私に言った。


どうやら、プロレスを見ていたかいがあったらしい。














キーンコーン


その鐘の音と共に生徒が帰宅を始める。


私も例外ではない。


今日は鬼神領嬢は出張のために、私の三重苦はなし。


久々に日があるうちに帰路に着けた。


瑞穂も一緒だけど、気に病んでいる私には何かの助けなのかもしれない。


「やっと1日が終わったわねぇ……まぁ鬼神領嬢がいなかったから、拍子抜けではあったけど」


瑞穂が伸びをしながらそう漏らす。


なんだかんだで、鬼神領嬢も生徒からは人気がある先生ではあるからだ。


確かに、何か寂しい気もするけど、はたしてどうなんだろうか。




ドンッ




はへ?


不意に、後ろからどつかれるイメージ。


私はたまらず、地面に膝と手をついた。


瑞穂がまた私に何かしかけてきたのだろうか。


いや、違った。


振り替えれば、私とは逆に尻餅をついている女子生徒。


ネクタイの色からして、三年生だということがわかる。


「いたたたたたっ……大丈夫、アナタ。ごめんね」


彼女はそう気さくに言うと、スカートに付いた砂を払い、まだ転んでいる私に手を出してきた。


「あ、どうも」


私もそれに掴まって立つ。


一体誰だろう。


一回も会ったことはないけど、どこか懐かしいような――――…。


「じゃあ私急いでるから、ごめんね、じゃ……」


そう言って、彼女は走って学校を後にしていった。


「絵子、大丈夫?」


心配そうに、瑞穂が顔を覗き込んでくる。


私は短く、うん、とだけ答えて、彼女が後にした道をただ、眺めていた。


「しっかし、みぃ先輩も大変だよねぇ」


みぃ先輩……はて?


「ダレデスカソレ…」


「アンタ知らないの?」


確かに、名前くらいは聞いたことあるけど、私との接点がわからない。


「彼女は、冬野美華先輩。1年生まではテニス部のエースだったのに、2年生になって急に退部したと思ったら、原因不明の休学したのよ。噂では彼氏を看病してたんだって。やるわよねぇ…」


「あぁ――…君冬か」


接点っちゃ、接点だわね。















私は家に帰ってから机に向かった。


もちろん勉強――――と言いたいところだけど、本を読むため。


目の前の机の上にはあの本。


まだ表紙すら開いていない。


本当に知っていいのか。


エコーの二の舞になるんじゃないか。


夢の続きはきっと悲劇のはずだから。


だから、拒んでいた。


無意識に、私の手は動かなかった。


手を伸ばせば、絶対に届くのに、それが恐かったんだ。


真実を知ることが。


それは、あまりにも大きすぎる問題だった。


でも今日、夢を見れなかった。


寂しく思えたと同時に、私に何かを告げていたような気がした。


この先は望まない限り見るものではないと。


時には、逃げることも必要だと、エコーがそう告げているかのようだった。


逃げていいのか?


いや、それも手。


私は―――




なんでエコーは悲しくなかったの?




好きなはずなのに、近寄れない。




それでも、エコーはナルキッソスに近づかなくても、悲しそうにはしなかった。




エコーが諦めているから?




本当は好きじゃないから?




違う、そんなのじゃない。




好きだから、寂しくなかったはずなんだ。


好きだからこそ、エコーは強くなったんだ。


その後に、幸せがあると信じているから。


確かに、夢の続きが悪夢に変わるのかもしれない。


いや、それは確定なのかもしれない。


それでも、私にはエコーの体験した事実を垣間見なきゃいけないんだ。


それが、義務なんだ。


神話と言う以上、現実のことじゃないんだと思う。


でも話というのは、何もないところからできるものじゃない。


神話には、それに基づく話があるって聞いたことがある。


なら私は、それを見なきゃいけないんだ。


せっかく、私が手に取るまで埃に被っていた本なんだから。


エコーは私を待っていてくれたんだから。


私は、本の表紙に手をかけた。


「今、行くからね――――エコー」

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