第三話:夢と現実の狭間
かなり更新が遅れました。すいません(汗)他の小説と平行作業してたら、話しもまとまらず、かなり長い作品になりました(滝汗)こんな作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
エコーは町に来ていた。
森ではなく、人々が賑わう市場にも似た町中だった。
「あらエコー、おはよう」
そんな中、一人エコーに話しかける、中年の女性がいた。
『…あらエコー、おはよう』
エコーはただそれを繰り返すだけ。
でも、女性もこの反応はわかっている。
彼女は、エコーは相手の言葉を繰り返して言うことしか出来ない妖精だから。
だから神につけられた名前はエコー。
それでも彼女は、めげずに頑張ってきた。これからも、きっとそうだろう。
エコー自身もそう思ってたに違いなかった。
眠りを拒絶するように、私は眠りから覚めた。
外はまだ暗い。
今日はちゃんと覚えている。
エコー
それが彼女の名前だった。
ただ繰り返すことしか出来ない妖精。
まるで私のような、そして私よりも切ない。
なんなんだろう、この気持ち。
自然と涙が出てくる。
多分私はその夢の続きを知っている。
だからだと思う。
自然に滴る涙は、私にそれを教えてくれた。
『…あらエコー、おはよう』
それは、私に言っているかのように、またその言葉が聞こえた。
「―――おはよう……か」
成斗くんにやっと言えた言葉。
いや、成斗くんが言ってくれたから、私は言えた。
本当の私の言葉はどこにあるんだろう。
私はとにかく体を起こした。
何か気だるい。
それでも今日も学校はある。
正直休んでも良いような気もしたけど、無理矢理体に渇を入れ、行くことにした。
それはまだ、夜中の四時のことだった。
授業も身に入らない。
エコーのことを考えていたからだ。
どんどん現実味が出てくるあの夢。
まるで私がエコーの記憶を辿っているかのよう。
エコーが私?
違う、私は人間だもの。
でも、似ている。
外見、それは似てなくても、なんて言うのだろう。実質的な物?
中身?
そんな感じの物が似ていた。
私は一体―――
ベシッ
「はうっ!?」
突然私の脳天に200のダメージ。
何事かと振り返ってみれば、そこには分厚い教科書を持ってたたずんでいる先生がいた。
あ…ヤバい。かなり怒っていらっしゃる……。
「私の授業そっちのけで、いい度胸だな。あぁ?富坂」
この人もとい、この先生は、女性教師の中でも郡を抜いて恐いとされている神領先生。
神の領域と書いて神領だ。
その名前に勝るとも劣らないほど、恐さでは天下一品なのだ。
その恐怖故に、巷からは『鬼神領嬢』と呼ばれ、崇められている。
まさに天衣無縫。
自然とひきつり笑いが出てくる。
だがそれも、神の逆鱗に触れたようだ。
「この状況で笑うとはいい度胸だ。覚悟はできてるんだな?」
なんて笑いながら迫ってきた。
あぁ、私は地獄への片道切符を手にしてしまったようだ。
なんか、鬼神領嬢は手をポキポキ鳴らしてるし。
終わったな――――
「ぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ぁう〜」
放課後私は、鬼神領嬢に職員室に呼ばれ受けてきた。
あの拳骨とバカでかい声はなんとかならないものか。
おかげで掃除当番、植物当番、飼育当番を任され、まさにこれが三重苦。
なぜ少し授業が上の空だっただけで、ここまでの仕打ちを……。
とまぁ、言わずともわかってると思うが、そんなことを私が言えるはずもなく、ただ言われた罰を受けるだけ。
はぁ、なんで私こんなかなぁ。
つくづく自分に嫌気がさしてくる。
でもまぁ、こういう性分なのだから、諦めるしかないわけで。
私は潔く、教室の掃除を済ませることにした。
「…………うわ、なにこれ」
普段気にしていなければ、気付かないのか、ゴミ箱は見事にゴミの山を築いていた。
これをかたずけるのか。
一瞬でやる気を削がれる。
いいや、結局やるしかないんだ、早く終わらせて帰ろう。
私は一通り掃いた後、最後の難関。ゴミ山と化しているゴミ箱の中身を捨てに焼却場へと向かった。
とは言っても焼却場とは名ばかりで、昔は燃やしていたらしいが、今は法律があるらしく燃やしていない。
だから、今はただのゴミ置き場。
しかし、教室から焼却場までの距離は相当なもの。
「これ、おもっ…い」
さすがに山になっていただけはある。
袋に入れて大きいばかりか、重さも計り知れない。
そんな物を運ばなきゃいけないらしい。
むしろ、燃えるゴミなのに、なんでこんなに重いのだろうか。
そんなこんなで、私は焼却場に着いた。
もうヘトヘトだ。
帰り、自分へのご褒美にジュースを買おう。
そう決意したとき、焼却場には先客がいた。
「…ん?あぁ!よぅ富坂」
そこにいたのは他でもない、成斗くんがいた。
「はわわっ!?」
いきなりだったせいか、私は後ろへ飛び退く。
しかし、さすが私。運が最悪に悪いらしい。
後ろが階段だったため、ズッコケてしまった。
「―――あっ」
フラフラッと階段へと落ちてゆく私。
「あぶねぇっ!!」
―――えっ!?
階段から落ちる途中、成斗くんは私を庇うように一緒に階段から落ちた。
「……いつつ――大丈夫か、富坂。怪我は?」
「うん、大丈夫。成斗くんは――――はひっ!?」
見れば私は成斗の腕の中。
顔が真っ赤なのがわかるくらい顔が熱い。
心臓は口から出てきそうなくらいバクバク活動していた。
正直吐き気すら覚えてくる。
ヤバい。非常にヤバい。
なんとかこの状況を打破しなくては。
って、そんなとっさに何かできてたら、苦労してないわよ。
だから私は固まるしかできない。
情けない。
笑い、冗談を言って、この場を和ませることもできない。
私は本当に何がしたいんだろう。
目的すら忘れかけてしまう。
でも、その瞬間。
ふっと、エコーの顔が脳裏に浮かんだ。
悲しそうな、そんでもって優しい笑顔だった。
そう言えば、夢で彼女は笑う度、いつも悲しそうな顔をしていた。
なんでなのか、私にはわからない。
でも、いつかきっとまた同じ夢を見る。
夢の続きを見るだろう。
そしたら、その理由がわかるのかな。
でも、私の中の何かがその続きを拒んでいる。
見てはいけない。そう言ってる。
「………ぃ。おい、富坂大丈夫か?」
「―――え?」
成斗くんが、急に私の目の前に現れる。
いや、元々いたのだが、私が忘れて、思いふけっていただけ。
でも、私に『あ、ごめん。大丈夫だよ』だなんて言える度胸がない。
だから出た選択肢は1つ。
「…………い」
「い?」
「いやあぁぁぁぁぁぁっ!?」
叫びながら、この状況を打破するくらいしか、方法がなかった。
ゲシッ
「――うげっ」
しかし、その途中。暴れた私の手は、成斗くんの頬を仕留めていた。
「……あ゛」
「いつつ…」
「本当にごめんなさい…」
校庭にある水道で傷を洗っている成斗くんに、私は深々と謝罪する。
あぁ、ダメだな、私って。
つくづく嫌気がさしてくるよ。
「いや、気にしなくていいって。結果がどうあれ、女の子に抱きついたままのオレが悪いんだしな」
「い、いや、私は別に……って、はわっ!」
私は何を言おうとしてるんだ。
でも本当に私に比べて、成斗くんは優しい。
それに社交的にもピカイチだ。
彼を好きな人なんて、三人に一人はいるんじゃないかってぐらいだ。
私なんかじゃダメなのかなぁ。
私なんかよりいい人なんてたくさんいる、その人達に比べれば、私なんて月とスッポン。
理想、高過ぎたのかな。
いやいや、何弱気になってるのよ絵子。
私だって頑張れば!
頑張れ、ば……。
そうよ、成斗くんだって私を見てくれるはず、だもん……。
私、何が悪かったんだろう。
私なんでこんななのかな。
「うっし、そんじゃまぁオレ帰るよ。富坂は?」
「……え?」
一人、罪悪感に浸っていた私の名前は唐突に呼ばれる。
その声はもちろん成斗くんのもの。
名前を呼ばれて嬉しい。けど、何が心の後ろ髪を引いている。
私、どうしちゃったんだろう。
前までは…そう、あの夢を見る前は―――。
そうだ、まさか。
思えば私は早い。
私はその場から走り去り、図書室へと向かった。
「え?ちょ、おい富坂!」
そんな成斗くんの声すらも、もう聞こえなかった。
図書室に来てみれば、受験勉強やら、何やらでちよこちょこと人がいるだけ。
そんな人気のない図書室は、夕方の日がカーテンとカーテンの隙間から射し込んできて、何か神秘的に見えた。
そうだ、あの本を探さなきゃ。
私の記憶が確かなら、古代ギリシアに私の夢と似た話があったはず。
それを探し出して、こんな夢を終わらせなきゃ。
じゃないと――。
『終わらせていいの?』
確かにそんな声が聞こえた。
人を小バカにしたように、笑いながら聞こえ、そして誰かの声にも似たような、でも何かが違う。
一体、誰の声なの……。
結局、学校の図書室には目当ての本はなかった。
いや、そんなことより私は、さっき聞こえた声の方が気になって仕方がない。
一体誰なのか。
なぜ、夢を終わらせてはいけないのか。
それが、知りたかった。
でも、それを知る術も、私が夢を見ないようにする術もない。
無力に私は夢を見続ける。
それは、仕方ないことだと割りきるしかないのだろうか。
そんなことを考えていても、やはり眠気は襲ってくる。
嫌な予感を尻目に、私はベッドに入った。