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物語の管理者、その本質。そして。




 ―――『物語の管理者』は、人を、常識を、神を、世界を、(ことわり)を越えた超次元にいる不可侵の存在の『代行』である。

 わかりやすく言えば、思考する作者と、執筆を自動で担当するAI知能。私とは、そのような存在だ。

、全てを思い通りに出来るけど、その全てを自分の思い通りにはできない、自由だけど、不自由。

 あくまで思考は全て不可侵の存在に従い、それの意思には逆らえない。だから少しでも物語を侵すと、ペナルティでバッドステータスを得る。マクラを人に変えた時の頭痛は、あれだけで済んでよかったと思えるほどだ。

 転生作業は本来なら自動で済ましているけど、今回のは私がした行為……『奴』を私の私情で幾度と無く転生させたことが原因だから、私自身がこなさなければならない。それをしない場合、頭痛ではすまないバッドステータスをもらうだろう。

 今回もきっと、結構なペナルティをもらうだろう。奴との戦いに備えるならば、行ってはいけない戦いだ。

 でもね、私だって生きている自覚がある。娯楽が欲しい。物語は読み飽きた。私は、自分が紡ぐ物語に飽きている。

 私は、飢えているんだ。私を愉しませることができるかもしれないものに。

 つまらないんだ。世界が色あせて見えるんだ。無限に続く無限の物語を見てももう、心が動かないんだ。

 だから、お前たちが私を楽しませておくれ。私が生み出した英雄たちよ。




「此処じゃ物語への影響が大きすぎるな。よし」


 パン、と手を叩く。世界が変わる。荒れ果てた世界。廃墟と荒野と瓦礫の山。誰も存在しない寂れた世界に、私はレンを連れて転移した。

 此処は、執筆を放棄した世界。自動書記も行わせず、もう荒廃しているだけの設定が残る世界。

 此処は、かつて奴が過ごした世界。その一部。私の戦闘用のフィールドとして残しておいた、戦いにつかうためだけの世界。


「っ……ここは」


「安心するといい。私を満足させれば君はすぐ元の世界に戻れる」


「……一つ、戦う前に教えて欲しい」


「いいよ。何でも答えてあげよう」


「……どうして。どうして、副団長が裏切った。どうして、革命軍を一度壊滅させた。どうして団長が死ななければならなかった!」


 ……なんだ、その程度のことか。


「そうしたほうが、面白いからだよ。あのまま物語を続けても、君は永遠に主人公として輝けない。英雄というのは悪と正義に導かれて輝くものだ。むしろ喜ぶといい。レン・ブリュヒルデという英雄は、あの事件を契機に完全に主人公として立ち上がったのだからッ!!!」


「面白い? そんな理由で、お前は俺たちから団長を奪ったのかっ!?」


「嗚呼そうだよ。物語に演出をっ! 物語を盛り上げよっ! 全ては読者が喜ぶ世界を創る為っ!」


 怒りに震えているのが、わかる。当然だ。これまで自分たちがしてきたことが全て私が決めたレールの上に過ぎないことと、自分たちの長が失われたのは、ただただそんなくだらない理由で決められたことだと知ったのだから。

 怒れ、憎め、この私を。物語の管理者を。

 そして私へ刃を届かせろ。奴のように。私を楽しませろ。私に命の尊さを見せてみろ。

 私が創り出した、仮初の命の英雄よ。


「っ……さあレンよ。怒るがいい、憎むがいい。私を超えることが、お前に出来るかなっ!」


 もう、来た。酷い頭痛と、重たくなる身体。恐らく能力の制限も来ているだろう。出せて三割、くらいだろうか。

 だが、いい。それでもきっと私は満足できない。だって、こいつの出来ることは全て私が定めたのだから。

 全てが漆黒に染まった刀を空間から取り出し、振るう。私だけが扱える特別な刀。

 レンは、柄と鍔だけの剣を構えていた。刀身が存在しないそれは、彼に与えた神の武器の一つ。

 彼が名を呼ぶ。己が神器の名前を呼ぶ。それに呼応して、柄から炎が溢れ出し刀身を形成する。


「炎帝ヴァイザーク……奴を断つッ!」


「やってみなよ青二才。やってみろよ成り損ないッ!」


 世界は、私の手の中だ。空を浮くことすら容易い。空を飛べる私と、地に這い蹲り人並みに跳躍することしか出来ぬレン。

 無理をしなくても、自ずと結果は見えてくる。上空からの私の振るう一撃を奴はかわすだけで精一杯だし、奴の振るう一撃は私に届きやしない。

 ヴァイザーク。使う者の『意思』によって力を増す。炎の刀身は破壊されることの無い絶対の刃。それと対を成す炎を喰らう神器でしか、その脅威を取り除くことは出来ない。

 そう定めたのが私だ。だからこそ、そのリーチも反応速度もわかっている。知っている。


「『炎帝』じゃ、私に傷をつけることなんて出来やしないんだよ、レンッ!」


「ぐっ、この……こいつ!」


 レンも完全には使いこなせていないのだろう。情けない。うねり、まるで意思を持った生物かのように私を追う炎だが、明らかにレンが振り回されている。

 挑発するかのように、懐に飛び込み、足を突き出し顎を蹴る。そんなに力を入れてないはずだが、それだけでレンはバランスを崩し倒れそうになる。


「おいおい、予想以上に弱いじゃないかっ!」


 それじゃあ、私が楽しめない。嬲り殺しにするのは、そこまで趣味ではない。

 わざわざ刃で傷つけず、徒手空拳で戦っているというのに。経験の無い相手との戦いだから力が出せないのだろうか、それとも。


「っは……っは。俺は……!」


「つまらない。つまらなすぎるぞレンッ! お前の英雄としての力はその程度じゃないはずだ! そのためのヴァイザークだっ!」


「っ……それでも、俺は」


 そこで理解する。レンという人物の戦う理由は常に『他人』のためだった。自分のことよりも、誰かのために戦う存在。

 その姿勢は確かに『英雄』だ。理想の英雄だ。だがそれで力を出せないのは、問題外だ。

 どうすればいい。どうすれば、こいつは私を愉しませるくらい力を出せる。

 答えは簡単だ。英雄として戦わせればいい。


「……レン・ブリュンヒルデよ。お前が私を愉しませないなら、私にも手段がある」


「手段、だと……?」


 刀を掲げて、空に映像が浮かぶ。それはレンの仲間たちの映像。姿を消したレンを心配して、思い悩む仲間たちの姿。


「お前の物語を、消してやる。『革命』の物語は不必要と判断する。生きとし生ける者全て、忘却の彼方に消し去ってくれよう。お前の戦いにお前の世界の運命全てを賭けてやる。仲間が、国が、世界が、お前が力を発揮できないために、消える」


 さあ、怒れ、怒れ、怒れ―――!


「……させ、ない。これからなんだ。これから、帝国を倒して、俺たちは俺たちの明日を掴むんだ!」


「来い、英雄ッ!」


「ッ……管理者ァァァァァァッ!」


 炎が、猛る。制御不能だったはずの炎はレンの意思に呼応してその姿を龍へと変える。

 これは、少し驚いた。『英雄』たちは一定の条件で覚醒し、私の知らない力を手に入れることが出来る。そう調整していた。

 それが、目の前で起こった。私の知らないヴァイザークの力だ。英雄レン・ブリュンヒルデが生み出した世界の外へ繋がる力だ。


「―――竜帝ヴァイザーク・ヴォルスト」


「良い名だ。さあ……私を愉しませろッ!」


「―――っ」


「―――っ!?」


 炎の剣が/一瞬で鋼鉄と化し/私の/視界を/両断/


 ―――。



 /。

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