癒されタイムふぉーえばー。
枕タイムです。マクラタイムであり枕タイムです。
女の子の抱き締められながら寝るのが夢です。夢だけで終わりそうです。
「じゃあ君はこの世界でこういう設定でこういう種族でいいんだね? よしわかった。では次の人生を楽しんでくるといい」
八十五人目の転生先を選び終わり、命は次なる物語へ旅立った。命が宿った本を開き、これから彼が歩んでいく物語を考察し、構想し、手早く筆を走らせる。
決めた設定を殴り書き。思いついた始まりと終わりを走り書き。イベントなどの思いつく限りのネタを箇条書きで書き、そして最後に自動書記、と書いて本を閉じる。
これで彼の物語は私が直接加筆しなくても刻まれていく。紡がれていく。先ほどの物語世界もそうだったが、膨大すぎる物語世界の管理はこうすることでよほど余計なことが起きない限り無事に完結する。私の中心に浮かんでいる本は転生した人間の数と同じで八十五冊。それだけの物語が生まれ、世界が生まれたことになる。
さて問題は別にある。今回の転生の根本の原因は私がけしかけた春秋の行動によるものだと報告が入っている。ならば近いうちに奴は記憶を取り戻し此処に辿り着く可能性が高い。ならば防衛策を考えておく必要が有るかもしれない。
そこまで考えて、私は思考を放棄した。
いいではないか、別に。攻め込んでくれるのならばそれは私の願いが叶うかもしれないということだ。
私が滅びることはまだ有り得ない。どうせ奴は私を越えることなんて出来やしない。それだけ甘い人間だ。誰かがいなければ戦えない凡人だ。
強いて言うなら、楽しみだ。奴だけは私に傷を与えるくらいは出来る力を持っている。傷つき、お互いに全力を出し合える。奴はそのために存在している。
私を満たすための存在。嗚呼、楽しみだ。楽しみすぎる。早く来ないかな、英雄。
「……ふ、ふふふ。っはー……」
それにしても、疲れた。事態が事態だっただけに全て私で処理したが、本来ならば自動で転生処理を終わらせている。
首を勢いよく動かすと、盛大に音が鳴る。ゴキ、ゴキと若干の心地よさと鈍い痛みが身体に走る。
肩が凝った。身体が重い。肉体の疲労と精神的な疲労が重なり合い、全身を気だるさが襲う。
もちろん物語の管理者である私にとって疲労といったバッドステータスは即座にリフレッシュできる。だがそれをしないのは、今日は折角手に入れた最高の枕があるからだ。
「……まっくらーまっくらーふっくらふっわふっわまーくーらー」
居住空間への扉を、開ける。
「あ、あるじ様っ」
ベッドの上で静かに待っていたマクラが私を見つけて嬉しそうに歩き寄ってくる。その仕草はまるで小動物を思わせる。
マクラをもう一度ベッドに座らせ、彼女に抱き締めてもらう形で私もベッドに腰掛ける。枕であるはずが座椅子にもなるというのか。有能すぎる。
「お疲れです?」
「うーん、そうだね。疲れた」
「……お疲れ様ですですっ」
ぎゅう、と強く抱き締められる。あー温い。いい感じのマクラの体温が私を心地よい気持ちにしてくれる。いい感じのマクラの弾力が私を受け止めてくれる。
力を抜いて、彼女に全身を預ける。マクラもそれが嬉しいのか私を抱き締める力を少し強くする。疲労と心地よさが眠気を誘い、少しずつ私の意識は虚ろになっていく。
「ん……マクラ~」
「転生作業ってのは、そんなに大変なのです?」
「ああ大変だよ。何しろ転生する命に次の物語での立ち位置も、能力も全部設定し直さなければならないからね。一人ひとりにそれをやって合計八十五人分。そこから彼らの物語の設定やら資料を作って自動書記化させるのを繰り返して、とにかく忙しかった」
「あうー。マクラもお手伝いできればいいのですが」
「いいんだよ。お前は私をこうやって抱き締めてくれれば。それだけで十分私の元気が出る」
「う~。でも~」
心の底から私を心配してくれている。そう創ったとはいえ、私を気にかけてくれる者などこれまで存在してなかったから、その気持ちが向けてもらえるだけで幸せになれる。
いいものだ。やはり人型に創り直して正解だった。癒してもらいたい私の要望全てを受け止めて答えてくれる。
「あっ……えへへ」
少し身体を離して、向き合って彼女を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。私の行為を受け入れてくれることが、ただただ愛しい。
肩を押して、マクラの身体を押し倒す。抵抗のない彼女の身体は簡単に倒れ、両手を広げてくれた彼女に私はそのまま胸に顔を埋める形で倒れこむ。
身体をずらして、肌蹴た彼女の鎖骨に頬ずりする。小さい悲鳴が彼女の恥ずかしさを際立たせ、顔を真っ赤にしているのが手に取るようにわかる。
穢れの無い純白の柔肌の心地よさは思わず舌なめずりしてしまいたくなるほどだ。
マクラの背中に手を回して、胸に顔を埋める形で抱き締める。むにゅ、と柔らかい感触が顔全体に広がり、それだけで恍惚の表情を浮かべてしまう。
ちらり、と顔を動かして彼女の顔を見上げてみると、マクラもまた顔を真っ赤にしつつも嬉しそうに私を受け止めてくれている。
マクラの手が私の背中に回され、マクラの足が離れないようにと私の足を挟みこんでくる。全身をマクラに委ね、彼女の温もりと匂いに包まれる。
うとうとと、虚ろだった意識がより沈んでいく。これはいい。これはいい枕だ。私はようやく私を癒してくれる最良の枕を手に入れたのだ。
「おやすみです。あるじ様」
「……ああ。お休みだ」
今夜は、きっと悪夢を見ないで幸せに眠れそうだ。