表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

癒されるためなら擬人化だって許される。……許されない?

 木々の、草花の、土の、自然の匂い。人の手がほとんど加えられていない天然の匂いが私を支配する。

 思わず深呼吸。すー、はー。すー、はー。空気が美味いとは良く言ったものだ。澄んでいて、違和感にむせる事の無い素晴らしい大気だ。

 此処は、かつて私が執筆した物語の中。途中で執筆を中断して放置していた物語の世界。

 少し歩けば、獣道。猫やウサギといった有り触れた動物が当たりに点在し、私の様子を伺っている。

 猫か。可愛いものだ。ウサギもいいものだ。猫耳美少女もいいものだ。バニーなんて最高だ。語尾ににゃーとか言いつつ照れてもいいし純真無垢でもどんとこい。

 犬っ娘も大好物だしさらに言うと子犬っぽく尻尾をぶんぶん振って懐き度マックスな娘がいたら堪らない。おっと思わず涎が垂れてしまった。

 涎を拭いて、しばらく歩くと街道のような場所に出る。人の足跡と、車輪のような跡。この世界では機械技術の大半は普及されていないはずなので、恐らく馬車か手押し車の類だろう。

 街道を、のんびり進む。空を見上げながら、白く輝き太陽が肌を焼く。季節は夏なのだろうか、長袖の私には少し暑い。

 とはいえ暑さを感じてはいるが私にとって気温の変化は一切意味が無い。体調を崩すなんて有り得ない。

 少し歩いた先に見えたのは、レンガで造られたゴミ捨て場。使い古された家具や刀剣の類に、衣服に可燃物が纏められたものまである。

 街から街への通りであるだけあって、人の生活が垣間見えるゴミばかりだ。

 『剣と魔法が広まり一つの帝国が支配している』物語であるこの世界は、まだ少しばかり平穏が残っているようだ。

 最も、私が創り上げたキャラクターが生存しているのならば、平穏などすぐにでも失われるけどね。


「ごっみーごっみー。捨てる神いりゃ拾う管理者ありー」


 タンスの角を掴み、ひょい、と持ち上げる。紙のように扱う。見た目幼女の私だが、数百キロの重量までなら簡単に持ち上げられる。ように創っている。

 軽く投げてみせる。通行人が驚いた表情でこちらを見た気がするが、気にしない。関わるだけ無駄だから。


「どっこにーどっこにーあっるのっかなー」


 口ずさみながら、ふと街に出て適当な店にでも入ったほうが速いと気付いた。でも普通の人間と関わるなんて面倒なことしたくない。だって無駄だから。

 あったあったーみーっつけたーっ。


「ものがたりのかんりしゃは ぼろぼろになったまくら をてにいれた」


 思わず壮大な音楽が流れてきそうだが、残念なことに私は物語を紡ぐことができるだけで音楽などは専門外なのだ。非常に残念。

 ぼろぼろになった、綿が零れ灰で煤こけた枕。普通に考えればもう使うことなど出来ない寝具。

 だが私は不可能を可能に出来る理不尽の体現者である。私にかかれば不能の男性機能など全て解決できる。しないけど。

 枕に手を当てる。先に断言しておくが私は無機物に命や記憶が宿るとは思ってもいないし考えてもいない。だからこの枕はただの枕であり以前誰が使ったとかどんな経歴があるとかは一切ない。この枕は、ただただココに『捨てられていた』役目の枕なのだ。

 だから誰かに拾われても別に構わないし、燃やされても裂かれても私には関係ない。いや、なかったというべきか。

 ズキ、と小さな頭痛。小さなペナルティ。だがこれは私の生活を彩るためのものであるため、我慢。


「それ」


 指が光る。青白い光。私にしか、物語の管理者にしか見えない光。私は指を走らせて、枕に光で文字を書き込む。

 状態を、新品に。綿は、新品に。生地も、新品に。煤は消えうせ弾力を取り戻した綿は抱き締めるだけで私に極上の快楽を与えてくれる。

 これをこのまま抱き締めたままでも素晴らしく癒されるだろうが、それだけでは物足りない。だから。


「これは私の気まぐれでありこれは物語に関与しないことである。よいか? よしっ」


 天を指し、大地を指し、枕を指し。誰かに告げるわけでもないが、自分自身への確認を込めて、指差し呼称。間違いないように、もう一度、枕に指の光を走らせる。

 文字を刻む。思いを刻む。人となりを刻む。想い出を刻む。私の力を理解できるように全ての情報を刻む。そしてそれ以外は基本的にいらない、必要ない。必要ならば私が教えればいい。髪は銀。ふわふわで結構長め。胸は八十六。これには拘りがある。あとはキュッっと引き締めてボンッと出す。人によってはエルフ耳とか八重歯とかそういう要素を求めるだろうけど、私は普通でおっけー。ワインレッドとライトイエローのオッドアイ。碧とライトイエローの異色双眸の私とちょっと似てるようで似てないように。

 幼さは、少し残して。私の理想の身体を創って。


「はい、おはよう」


「………………ふぇぁ?」


「ああそうだった。んちゅー」


「んっ!?!?!?!?!?! んーんーんー!!!!!」


 枕の姿が青白い光に包まれて、姿を変える。膝を突いた少女。私より一回り大きいくらいの、銀髪でオッドアイでメイド服の少女。

 意識がはっきりしていないのか、まだ瞳に光が灯っていない。そして、私の力が完全に注入されていないことに気付いて、口付ける。

 驚いて、逃げようと身体を剥がそうとする枕を完全に押さえ込み、抱きかかえるように口付けを続ける。

 いつしか枕も私からの口付けを受け入れてくれて、枕の身体から力が抜けていくのがわかる。それと同時に、彼女の身体に私の力の断片が満ちていくのがわかる。

 唇と離すと、茹蛸以上に顔を真っ赤にした枕が口をパクパクさせながら大きく腕を振っていた。


「ん……ぷはっ! な、なななななななにするですかあるじ様っ!?」


「おー、もう私のこと創造主だと理解したかめっちゃ頭いいね撫で撫で撫で撫でー」


「あふぅ……」


 撫でてやると、幸せそうに目を細める。可愛い。


「ってぇっ! 違いますです! あるじ様私は―――」


「うん。元枕。いわゆる擬人化。だからお前の名前は―――マクラだよ」


「カタカナにしたってわかるのは読者様だけですし若干誤解が生まれると思いますです!?」


「はっはっは。さすが私が創っただけある。メタ発言も優秀だ」


「そういう問題じゃないと思うのですが……です」


「いいんだよ。お前はマクラ。私の寝具。私を癒して癒して甘やかしてふやかせるために生まれた存在だ。だから」


「……だから?」


「だーいぶっ!!!!!!!」


「ですーっ!?」


「うわっはーやわらけー高級羽毛布団よりやわらけー女の子最高ーうっひょーぐへへーよいではないかーっ!」


「んぁ、ちょ、あるじ、さまぁ!」


「……お前たち、何をしている? 此処が何処かわかっていての狼藉か?」


 マクラの胸にダイブして、彼女の肌を柔らかさを匂いを全部堪能している最中に、私の至福の時間を邪魔する輩が現れた。

 しかも男だ。しかも野蛮だ。しかも臭いぞ。適当に創ったモブだとしても創った私が情けなるくらい気持ち悪い奴が出たぞ。

 髭も体臭も口臭も酷いし背負った斧は手入れもされておらず血生臭い。

 それも一人ではない。五人ほど。どいつもこいつも男臭い。ムカついてくる。


「あ、あるじ様……っ」


 離れたマクラが、不安そうに私を見上げてくる。やれやれ、私の情報を入れたはずなのだが、これは彼女の性格なのだろう。

 怯える彼女の表情もまた、私をそそらせる。そうだ、こんなむさくるしい野郎共の相手などしていられない。でも少しは、私好みのこの少女にいいところを見せてやりたい。

 だから私は、『本』を手に取る。


「大丈夫だよマクラ。君の主は完璧で完全で全能で、少しばかし死にたがりで、英雄が大嫌いな、物語の管理者だよ」

マクラ。

ヒロイン。

元、枕。

高級羽毛布団より柔らかく主を抱きとめてふんわり抱き締めて甘い匂いで癒してくれる、そんな美少女。美しい銀の髪と、ワインレッドとライトイエローの異色双眸。管理者に振り回されるけど、健気に頑張っちゃうタイプのメイド。



メイド服は黒と白の彩色であまり派手ではない。これ重要ねテストにでます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ