いったい何が悪かったのだろう
自分や家族が異世界召喚されたら、召喚したやつらに一言いいたい。と思うことをだらだら書いてみました。
初めての投稿でちゃんとした作品になっているか心配です。
一部何かの小説か童話で聞いたお話を含んでいます。
「いったい何が悪かったのだろう。」
何度目になるのか、数えきれないほど繰り返した言葉を私は口にした。
私は帝国の筆頭魔術師アルジャン。
3年前勇者を召喚して魔王を討伐させたことがある。
未来見の魔術師が「勇者によって魔王が討伐される」という予言をしたからである。
この予言は未だかって外れたことは無い。
実際に、召喚された勇者により魔王は見事討伐され、世界に平和が訪れた。
勇者たちは民や王侯貴族の賞賛を受け、吟遊詩人はその武勇を歌った。
勇者たちの凱旋パレードは皇帝陛下の即位パレードに勝る賑わいだった。
勇者たちを元の世界に返す魔法は無かった。
しかし、私達は彼らの功績に報いるため名誉騎士に取り立てた。
一代限りではあるが貴族の仲間入りをさせたのである。
また、平民の10年分の年収に相当する報奨金も与えた。
名誉と身分と金、平民の彼らに対して破格の報酬である。
魔王軍と戦う前にも、十分な配慮をおこなった。
戦いを知らないという彼らに帝国騎士団による訓練をつけたのだ。
泣き言を言ったり、何度か治療師が苦労するほどの怪我をしたこともある。
しかし、結果として魔王軍との戦闘では一人の戦死者も出さず帰ってきた。
彼らには感謝されてしかるべきであろう。
実際に帝国騎士団で訓練の機会を得るというのは大変な名誉である。
本来貴族の中でも武勇に優れたものだけが騎士団に入団を許される。
入団した後も、数年間は見習いとして雑用をさせられるだけだ。
その訓練を勇者とはいえ平民の身分で与えられた彼らは大変な幸運なのだ。
騎士になったばかりの者や、まだ見習いの連中が嫉妬や羨望のまなざしで勇者たちを見ていた。
私にもその気持ちはよく判る。
もっとも平民の勇者たちは名誉に鈍感で礼儀作法に疎いようだ。
皇帝陛下に直接拝謁してお言葉を賜る際にも突っ立ったままで叱責を受けていたし、
帝国騎士団での訓練もさほど名誉とは思っていないようだった。
また、討伐に彼らだけを送り出すような無慈悲なこともしなかった。
治療師、鍛冶師、御者や馬の世話をする者など。
馬車には武器や食料医薬品。等々・・・
軍隊が行軍する際に必要とされる様々な物資や人員を用意して同行させた。
魔王との戦いではともかく、旅の途中では役立つだろうと1000名の兵士もつけた。
実際には魔王と戦わなくて良いからと言って、同行する兵士たちを説得するのは大変だった。
それでも帝国が魔王討伐に力を入れていることを他国に示すために討伐軍は必要だったのだ。
その費用捻出に財務大臣は頭を大いに悩ませたものだ。
結局、恒例の周辺諸国を招待しての皇帝主催の園遊会が取りやめになった。
そのため外務大臣の髪が薄くなってしまったのは周知の事実だ。
おかげで、勇者たちは盗賊や魔物たちに悩まされることなく、魔王領まで到着できたという。
帰りも兵士たちが待っていて、戦い疲れた彼らを無事連れ帰った。
勇者たちが王侯貴族への礼儀作法に気を使わないですむように、討伐軍は平民だけで構成するという気配りまでしたのだ。
魔王討伐から一月後、勇者たちは冒険者として魔物を倒しながら暮らしていた。
我々が鍛えてやったおかげだ。
貴族とはいっても名誉騎士では領地も屋敷もあるわけではない。
そこで小さな家を報奨金で買って、一緒に暮らしているらしい。
そんなある日、どこからか魔道師と称する男がやって来て彼らを元の世界へ連れ帰っていった。
勇者たちは、彼らの世界には魔法はないといっていた。
しかし、彼らを連れ帰った魔道師は彼らと同じ黒目黒髪だった。
勇者以外に黒目黒髪など見たことがないのだが。
勇者たちが元の世界に帰ってから数ヶ月後。
皇帝陛下や宰相閣下、私達魔術師や帝国騎士団団長と騎士たち。
帝国の重臣たちをはじめ数十名がいきなり異世界に召喚された。
突然のことに、我々はわけが解からず慌てふためいた。
気が付くと、目の前に勇者たちを連れ帰った黒目黒髪の魔道師がいた。
我々はいきなりの召喚をとがめて、直ちに帰すよう魔道師に詰め寄った。
国の中枢にいる我々が突然いなくなったら帝国は大混乱におちいるだろう。
礼儀もわきまえず、誘拐同然に国家の重鎮たちを召喚するなど、正気を疑われてもしょうがあるまい。
しかし、魔道師は平然と言い返した。
勇者たちの事情やその家族の悲哀などお構いなしに召喚した我々に、自分たちの都合を主張する権利はないと。
また、召喚した勇者たちに帝国の法や習慣を押し付けたのだから、今回は勇者の生まれ育ったこの国の法が我々に適用されるのは当然だと。
20歳前の勇者たちはこの国ではまだ大人ではない。
彼らへの我々の行為はこの国の法律では立派な犯罪であると言われた。
我々は、未成年者の誘拐監禁と虐待および傷害。
殺人の強要、さらに未必の故意による殺人未遂などの罪状で告発された。
そして、勇者の国で裁判にかけられることになった。
魔王討伐軍が平民だけだったことは高貴なる者の責任の放棄だと非難された。
自分たちで戦わず、何の関係もない異世界から勇者召喚をするなど無責任の極みだと断罪された。
自分たちは安全な場所にいながら、勇者たちを死地に追いやるなど卑怯であるとも言われた。
騎士団での訓練も、勇者たちが生き残るために必要だったといったのだが。
勇者として召喚され戦いを強要されなければ必要ないものだと。
厳しい訓練は虐待であり、瀕死の重傷を負うほどの傷害事件である。
治療師による治療も、その後に何度も虐待を繰り返すための残虐な行為である。
実際、訓練と称して必要以上に勇者たちを傷つけた騎士見習いたちの存在を指摘された。
同行した討伐軍も勇者たちの逃亡を防ぐための見張りとしか考えられない。
第一、最も助けが必要だった魔王領では誰一人同行しなかったではないか。
境界線に布陣して勇者が魔王領から逃げ帰ることができないように見張っていただけだ。等々・・
我々が勇者のことを思ってしたことは尽く悪意ある残虐行為であるとされた。
また、未来見の予言については魔道師によって無意味であると断言された。
その予言は間違ったことがないと反論した我々に魔道師は言った。
「未来の一断面を覗き見て、それで未来の全てを知ったつもりか。愚かさの極みだ。」
黒目黒髪の魔道師はわれ等を見回しながら語った。
「ある男がいた。
頭が良く、将来を見込まれて都の学園に留学していた。
ある時、男は10年後を見ることの出来る鏡を覗く機会があった。
鏡の中の男は豪華な服を着て、美女を侍らせ、大勢の取り巻きに囲まれて宴会の中心に座っていた。
男は自分の将来が保障されていると思い、勉強を怠けるようになった。
結果。男は学園を放校され、いつしか盗賊の仲間になった。
しかし、男には鏡で見た成功者に必ずなるはずだという確信があった。
ある時、盗賊の頭領となった男は手下を集めて宴会をした。
そして、ふと今の自分の姿がかって鏡で見た姿であることに気がついた。
その直後、役人がその場になだれ込んで男は手下とともにつかまった。
処刑台の上で、男は自分の経験を語った。
あの時未来見の鏡さえ覗かなければ、自分は懸命に勉強して成功者になっていたはずだ。
未来を覗き見ることさえなかったら・・
そう言いながら男は処刑された。」
我々は沈黙するしか無かった。
結果。
勇者の召喚の実行犯である私の刑期は13年と決まった。
最も責任が重いとされた皇帝陛下は15年である。
その他の大臣たちも勇者召喚の決定と実行に責任がある者たち。
勇者の虐待に関わった者たちに刑が言い渡された。
さらに、帰す方法も無かったのに勇者たちを召喚したことを魔道師が糾弾した。
勇者の国の法律に触れない範囲で彼なりの罰を加えたのだ。
それは、刑期はそれぞれ別でも、戻るのは召喚された時から15年後の帝国になるというものだった。
15年の間に帝国はどうなっているだろう。
帝位は皇太子が継いでいるのか。
大臣たちや私の地位は、領地や財産は、そして家族は。
皇帝陛下や重臣が一度に居なくなったのだ。
最悪、国そのものが滅んでいる可能性もある。
我々は勇者たちがわが国で味わったのと同様に、全く未知の異世界で、孤独と不安を抱えながらすごしている。
そんな我々を見て、看守が吐き捨てるように言った。
「それでもお前たちは帰れると判っているだけましだろう。」
「毎日訓練という名の拷問で傷だらけになるわけでもない。」
「血塗れになった自分の姿に悲鳴を上げて目覚めることもない。」
看守は勇者の縁者だという。
突然いなくなった娘のことを心配し心労で倒れた妹のことを。
真面目な少女が、不良の家出のように噂されて家族が苦しんだことを。
今も、姪はうなされて眠れない夜があるということを。
怒りと憎しみの満ちた目で睨みながら話した。
看守も黒目黒髪である。
ここは、網走刑務所異世界人特別収容所。
日本人が異世界人とよぶ我々のような魔法を使える人間を閉じこめておくための牢獄である。
日本とは我々が魔王を討伐するために召喚した黒目黒髪の勇者たちが生まれ育った国だ。
「いったい何が悪かったのだろう。」
何度目になるのか、数えきれないほど繰り返した言葉を、また私は口にした。
R15は保険です。