第一章 第2話 謎の少女と謎の力
これが今日最後の投稿です。プロローグはほとんど文書がなかったのですがこの本編からは大体7千~一万文字をめどに書いていくつもりなのでよろしくお願いします。
何か、自分は不思議な夢を見ているのだろうか。
暖かい光に包まれているような感じでなぜか安心できる。でも目を開けようとしても開けられない。自分の体じゃないような感覚。暗いのに明るい、また周りの状態がはっきりと把握できる不思議な状態だ。次々と頭の中に色々な光景がやってきて過ぎ去っていく。いつまでもこの状態が続くのだろうか?
しかし、物事に終わりがあるようにこの不思議な状態も終わるのだろうと感じる。
切り替わっていく光景が徐々に遅くなっていくのだ。なら終着点に近づいているのだろう。
そして突如少しした振動とともにどこかに放り出される感覚、このとき今まで流れていた映像が消え、暖かい光も霧散してしまった。
次に感じるのは寒さだ。思わず身震いしてしまう。
俺は何か近くに無いのかと思いつつ手を動かしながら探し「何かを」つかんだところで意識がはっきりとしてきた。
「…………」
目を開けたがまだ完全に頭は働いていない。長い長い夢を見ていたような感じだ。というか本当に夢じゃないよな?
目線をぼんやりと彷徨わせてみて、肌寒さも感じやっぱり夢ではないと雲なんて物は一つもない空を見上げながら確信する。
しばらくそうやって、寝転がり横になっている少年であったが不意に自分のいる場所がおかしいということに気がつく。
正面の先に映る景色は確かに快晴の空なのだが目の端に、地面の断面が見えたのだ。少年は右に視線を向けるとそこは砂と石と断面。
まるで何かが地面を吹き飛ばしたような光景だ。
なぜここにという思いがあるが、ひとつ言えることは決して日常的な情景ではないということ。
では日常的な情景とはなんだろうかと考えると
「……あれ」
なぜか思い出せない。
すべてを思い出せないわけではない。日常のたとえばハサミはどう使うのか。火はどういうものか。歴史、経済など知識という部分では簡単に思い出せる。
けれど個人の思い出、自分がどういった人物だったのか。どういった生活をしていたのかを思い出そうとすると、頭に霧が架かったように見えないのだ。
何かすっきりしないモヤモヤしたものが頭を占めていると、無意識のうちだろう右手を軽く握る動作をしてしまう。最初から何かを右手に握っていたというのに。
軽く握った、いや軽く揉んだやわらかい物体は弾力良く押し返してきて心地よいものだと思う。と同時にやわらかい物体を持つ人物は艶かしい声を上げた。
「……んぅ」
「!?」
知識としては本来これはいきなり触っていけないものだと、普通は見てもいけないということを思い出しとっさに手を離す。辺りは静かなのに自分はとても煩かった。主に自分の心臓が。
声を出した人物である少女は眠りが深いのかまだ起きる事はない。が、心臓が煩い理由は少女が原因だったのだ。主に少女の格好が。
手の感触からダイレクトに柔らかいと感じるのはおかしい。その間に何かほかの感触が必要なはずなのにないのだ。
少女は衣服がなかった。
慌てて視線を逸らすが少年としてもどうすればいいのか、というか自分がなぜいるのかなど最初の疑問に戻ろうとする。が、その時
「……ッ」
頭の中に何かがよぎる。
それは誰か、女性がアスファルトの上に横たわり血を流している光景。
「一体なんだ?」
何か、誰かがいたのを思い出せそうで思い出せない。
でも先ほどの記憶というのか、あの中では目の前の女性は死にかけていた。隣に眠る少女は頭によぎった光景のように血は流していない。というか、少女の髪は銀色で死にかけていた女性は|《黒髪だった》。でも、本当に大丈夫か心配になり先ほどとは違い別の意味で動悸が激しくなっていく。
俺の手は自然と少女に手を伸ばし肩を揺すろうとした時。
「……」
「……」
目が覚めたのだろう。少女は視線をこちらに向けてきた。俺は驚きで硬直し相手は不思議そうにこちらを見ている。
どれくらい視線を重ねていたのだろうか。しばらくその状態が続く。
(な、なんか言わなくちゃいけないだろ!)
頭ではそう考えても何も思い浮かばない。理由は彼女の瞳にあった。
青い瞳。
どこまでもどこまでも、何もかも吸い込むような澄んだ瞳を向けられ、視線を外せず思考が止まっている。
こんな状態がずっと続くかと思われたが、不意に少女のほうから小さい口が開かれた。
「あなたは誰?」
そういって 起き上がってくる少女。視線を上に考えながら少女の問いに返事を返そうとするとここで疑問、問題が発生する。すなわち
「……誰なんだろう」
自分が何者かということ。
今まで知識は思い出そうとすれば思い出せたが個人としてのことは思い出せない。何度も言うが個人は思い出せないのだ。先ほどの頭によぎった景色は個人のことだったのか……定かではないが。
とにかく、少女の問いに自分が答えられないことを思い出し困ってしまう。名前すら思い出せないのはおかしいと思うけど。
思わず腕を組んで首を捻りながら考えていると、目の前の少女は再び問いかけてくる。
「あなたは私の味方?」
あちらも首を傾げて聞いてくる。まあ初めて出会ったんだし敵対する気もないからないけ。そう思い俺は困りつつも答えた。
「うーん、たぶん敵ではないと思う……っ!」
しかし改めて重要なことを思い出す。
少女の格好は一体どういったものだったのか。それを今思い出したのだ。
話を聞くことや、反応を返すことも大事だが、このままではすぐに反応を返せない自分がいるので顔を逸らしながら着ていた上着を脱ぎ相手に渡した。こうすれば相手は意図を読んでくれるだろう。そう思って手を突き出した状態で待つけど
「?」
相手からは望んだ反応を得られず首を傾げるだけである。
あわてて声を張り上げた。
「目のやり場に困るから来てくれるとありがたいんだが!」
この叫びが項をそうしたのだろう。
ようやく少女は差し出した服に袖を通し上着だけを通してくれた。でもある意味もっとひどいことになっているような気がする。 上着だけを羽織ったことで太ももなど見える見えないできわどい格好になっているように見えるのだ。裸になっていないだけましだと納得するしかないけど。
自分も上半身がシャツだけになってしまい肌寒いがしょうがないだろう。
少しはましになった格好の少女に対して改めて視線を向ける。
改めてみる少女の格好は小柄だろう。年齢は十五ぐらいかまだ幼い。
肌は初雪のように白く滑らか。髪は洗礼された鋼のように銀色で、しかし触れば流れる川の水を掴むようにサラサラしているだろう。目が奪われた青い瞳も二つこちらを凝視している。
このとき何度目かの質問を再度少女は問う。
「あなたは味方?」
この問いに、結局自分のことがわからないことを思い出すが、とりあえず自分の考えを伝えなければならない。少年は静かに口を開く。
「さっきも言ったけどたぶん敵ではないと思う。ならどうしてここにいるのかと言われると……わからないとしか言えないけどさ」
証拠を出せといわれても個人の記憶がないのだからどうにもできないだろう。かといって、目の前の少女が敵とも思えない。根拠はないが……なんとなくの勘だ。
少女はこちらの問いにしばらく考えていたが納得いったのか。
「そう」
呟いて何かを考えるようにうつむき、次に顔を上げたとき違う質問をしてきた。
「あなたの名前は?」
この問いに困るが頬を指で掻きながら答える。
「実はわかんないんだよ」
「?、どうして?」
なぜかと首を傾げてくる少女に俺は今の自分の状況を話した。
自分は記憶が、主に自分に関することが欠けていること。ここには目が覚めたらいたことなど。
「だから名前もわからないんだ。ごめん」
謝罪する俺に少女は少しだけ困ったような表情を浮かべるが、一言呟き
「ショウ」
「ショウ?」
突如出た名前らしきものに首をかしげる。
「ショウ、私はあなたをこれからそう呼ぶ」
「まあ、俺には名前がないからそれでもいいけどどうしてショウ?」
「私とあなたは初めて会った。だからショウ」
決して答えになっていないが……何かしらの理由があるだろうか。でも、名前が思い出せない自分としては基準となる名前がないから丁度いいだろう。
「わかった、なら俺はこれからショウだ。それで君の事はなんて呼べばいい?」
普通に疑問に思ったことを口にしたが少女が俺にお願いをしてきた。
「ショウが決めて」
「俺が?」
少女はコクリと頷く。
(んー、名前を決めるのか。まあ、名前を決めてもらったのだからこちらも名前を決めてあげるのは正しい……のか?けど、とにかく決めないといけないだろうな。拒否したとしても頑として諦めないって感じの視線をずっと感じるし)
再びなんと言えばいいのか考えて少女の顔を見ていると不意に出てくる単語があった。
「ミュア?」
「?」
どうしてその名前ができてきたのかわからない。けど、この目の前にいる少女を見ているとなんとなくできてきた名前がこれだ。
少女も最初は首を傾げていたけれどすぐに頷き呟いた。
「ミュア、うん。私はミュア」
何度も頷きながらミュアと繰り返している。どうやら気に入ってくれたようだ。
そうやって二人の名前が無事に?決定し、それにしてもこれからどうすればいいのだろうかと顔を上げたとき目の端に何か光った。
自分でも体がとっさに動く。再び何か頭の中に先ほどよぎった光景が駆け巡るがそんなことを考える暇はない。
目の前にいるミュアを押し倒しながら飛んできた何かをよける。その直後に頭上を通過していき近くの地面に突き刺さった。突き刺さったほうを見てみると飛んできたものは鈍く光る銀色のナイフ。刺さる角度からあのまま立っていたら直撃していただろう。
突如の事態にいやな汗が背中を伝う。腕の中でミュアの声が上がり無事なのはわかるが、そんなこと気にしている暇はない。ナイフが一本とは限らない。
すぐに状況を読み込むため周囲に視線をそらすと幸いというべきか、新しいナイフはこなかった。
ただその代わり
「よく避けたなぁ。でも野郎には用がねえんでさっさと死んで隣の嬢ちゃんを渡してもらえねえか?楽しみたいんだけどよぉ」
自分たちを見下ろすように話しかけてくる男がいた。格好はどこかの山賊か盗賊のような格好で後ろにも同様の姿をした5人がいる。全員がミュアに視線を向けいやらしい笑みを浮かべていた。
心臓がバクバクなっている。けど、もちろん頷くという選択肢はない。
「いきなりナイフを投げてきてはいそうですかと、頷くはずないだろ」
「ほう、じゃあ少し痛い目にあってもかまわねぇってことだな?」
「よく言うよな。最初から死んでほしいといってる奴が」
こっちが気丈に反論すると五人のリーダーと思える先頭の奴が笑みを深くする。
「ははは!そうだな。確かにお前には用がねえから結局死んでもらうな。無用な質問だった」
ここで少し後悔する。相手が今の言葉でやる気になってしまったのだ。自分を奮い立たせるつもりで反論したのだが逆効果だったかもしれない。
「よし、なら俺らがこうすることも大丈夫ってことなわけだ。足が震えているようだがまあ、すぐにとまるぜ。死ぬことでなぁ!てめえらやっちまえ!」
集団のリーダはそういって人を殺せる武器を持ってこちらに襲い掛かってきた。こちらとしては逃げるしかない。幸い、地面がくぼんでいて敵がくるには窪みを降りてこなければならないため僅かな時間はある。しかし、こちらには武器もない。逃げ道も360度見回せても窪みの中心なのだからすぐに追いつかれる。
(どうすればいい!どうすればいいんだよ!)
震えるひざを抑えるように手を置き必死に考えを巡らせる。その間にも敵はこちらに武器を持って迫ってきており絶体絶命だ。
パニックに陥り、とにかくミュアだけでも逃がそうと考え捨て身で突撃するべきかと考えたとき、裾を誰かに引かれる感触に気がつく。
「大丈夫」
裾を引くのは当然近くにいたミュア。そんなミュアが大丈夫といいながらこちらに視線を向けて話してくる。
「相手に意識を向けて何かを望めばいい。そうすればきっと答えてくれる」
端的に言われ、一体何を望めと思う。
しかし、じっくりと考える時間はない。ついに敵は後数秒で武器の間合いに入るであろう。だから、俺は願った。とにかく目の前の敵を無力化できればいい。
(俺が知っている知識で、覚えてる知識で敵を無力化するときはどうする!無力化できる武器、現象……そうだ、あれだ!)
そういって、ある武器を想像しやけくそ気味にショウは願い、目の前の敵を痺れさせるということをイメージした。
すると
「「「ぎゃあああああああああ!」」」
後数歩進めばというところで4人の盗賊は突如何かの光が辺りに現れると同時に悲鳴を上げてぐずれ落ちる。よく見ると、体が痙攣し煙が立ち上がっていることから攻撃が成功したのだろう。
「な、なんだぁ!?」
上から指示をしていたリーダーと思われる男は突然倒れた味方に驚き、何が起こったのかわからないようだ。
しかし、この現象を起こしたとはずの俺にも事態がわからない。一体何が起こったのか。自分が何をしたのか。
確かにミュアに言われて自分は知識にある武器。スタンガンをイメージして電撃が出るようにイメージした。でも、自分の常識では決して想像しただけで現象を起こすことなど決してできなかったはず。けれど、実際には目の前で成功してしまったのだ。
自分が起こしたことにも半信半疑で呆然としていたが、味方がやられた男は逆上してショウを睨みつける。
「ちくしょうが!てめえ何しやがったこの野郎が!俺が直々に殺してやる!」
リーダーの男は目が血走り、一番最初にしたようにナイフを投げようと右手を振り上げ、こちらに投げようと振りかぶる
しかし
「へ?」
そんな声がリーダーの男から声が出ていた。
それもそうだろう、今振りかぶって投げたはずのナイフが目の前に落ちてきて、しかも「誰かの腕が」一緒に落ちてきたのだから。
「ぎ、ぎゃあああ!?」
数瞬して痛みとともに理解したようだ。自分の腕がどうなったのかを。
「う、腕がぁ!俺の腕があ!」
痛みと腕を失ったという事実から男はパニックし、辺りに血が撒き散らしている。目の前の惨劇に俺は視線が硬直するが、まだ終わりではなかった。少し考えれば解る事である。一体どうして、何が惨劇を引き起こしたのかを。
「痛てぇ!いてぐぎぁ!」
叫んでいた男が奇妙な悲鳴を上げると次に見えたのは、男の胸から生えた銀色の爪だった。
「―――!ぁ……」
言葉にならず瞳孔を広げた男は次の瞬間爪を抜かれ、その反動で地面に崩れ落ちた。辺りには血の匂いが充満し始める。爪を貫かれた男は動かないことから生きていることなど絶望的なはずだ。
でも、そんなことを考えている時間はない。
爪を突き刺した生き物はゆっくりとこちらに視線を向けてきた。
向けてきた生き物は一言で言えば熊だ。でも知識にある熊とは違い二本足で立ち前にある手は約30cmほどの鋭い爪が光っていた。その爪は今崩れ落ちた男の血がこびり付き怪しい光を放っている。毛並みも銀色で視線をこちらに向けられた。
「何だよあれ!」
目の前で人が死に、理解する前に次の脅威に向けられる視線。
今度こそパニックを起こそうとしたとき、やけに耳に静かな声が届いた。
「ショウは頑張った。次は私に任せて」
そういって、先ほどまで隣にいたミュアが突如駆ける。ミュアの手にはいつの間にか剣が握られていた。でも少し変わった剣なのだ。普通の銀色の輝く剣ではなく、朱色に染まる赤い剣を持っており所々火花を散らしている。
先ほどひとつの命を奪った熊は次の敵と認識したのか、ミュアを視線にいれ雄たけびを上げるとミュアに突撃した。
「はあああぁぁぁぁ!」
【グルアアアアァァ!】
お互いが気合を入れてそれぞれの獲物を振り上げていた。ミュアは朱色の剣を突き出し、熊は自慢の爪を突き出だしている。
目の前の状況に目が話せないまま、互いの武器を突き刺し軍配が上がったのは
【グアアアアアアアア!】
ミュアだった。
ミュアの剣は熊の爪を切り裂き熊のお腹を切り裂いていた。
対してミュアは表情をあまり変えずに熊に剣を向けて何やらを呟いていた。
「求めるは火、求めるは破壊、求めるは個。 火球」
呪文を唱えたミュアは言葉どおり火の球を何もない空間からだしそれを熊に向けて放つ。
熊は痛みと爪をなくしたショックか動きが鈍かったが、本能からか右に避けようとする。でも
「そっちはダメ」
火球は囮だったのだろう、先に回りこんだミュアが剣を振りかぶり熊の首を切り飛ばしていた。
さすがに切り飛ばされてしまっては生物である限り動けないだろのだろう。静かに巨体を横に倒し辺りに体が沈む音が響く。
その様子を見て俺がしたことは
「おえぇ」
吐くことだった。脅威が一応去ったことで自分の時間が動き出した。
初めての人の死、周りに漂う血に気持ち悪さを覚えたのだ。少なくとも自分の中ではこんなことはなかったはず。知識はあっても実物を見たことはなかったはず。
「大丈夫?」
いつの間にかそばにやってきたミュアに背中を擦られながら心配をしてくれていた。
その様子にしばらくして少し落ち着いたところで返事を返す。
「ごめん、こんなこと慣れていないみたいでさ。情けないけど」
弱々しく苦笑しながら答えるとミュアは少しだけ、ほんの少しだけ怯えたような悲しそうな色を瞳によぎらせて尋ねてきた。
「私が怖い?」
一瞬なぜ怖いと聞かれたのかわからなかった。でもミュアが向ける視線は先ほど倒した熊に向けられている。次に剣についた血に向けられていた。どうやらミュアは今の戦いで俺がミュアに対し怯えたのではないかと思ったようだ。
俺は笑みを浮かべながらお礼を言った。
「そんなことないよ。少なくともミュアは俺を守ってくれたんだ。感謝することはあっても怖がることはないさ。ありがとうミュア」
お礼を言うとミュアは出会ってから初めて薄く笑みを浮かべてくれた。その笑顔にドキリッと視線を奪われ今日何度目かになる硬直をしていると突如
「な、何よこれ!どんな状況なの!」
森の中に一人の女の声が響き渡るのであった。
いかがでしたでしょうか。自分的にはキャラをもっと引き立てたいかなとも考えてました。その中で結構ミュアのことがお気に入りだったりします。
さてさて、この後主人公とミュアはどうなるんでしょうか。最後の言葉を発した人物とは!次回をお待ちください。次の投稿は一応明日投稿するつもりです。基本土日に投稿できればと思いますが余裕があれば、平日にも投稿いたします。では