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つぶやき

買い物

作者: ユリイカ

女性の月経に関する表現が出ます。 大丈夫な方だけどうぞ。

 暑かった。太陽の下からやっとスーパーの中へ避難した背中がひんやりとする。自分で思っていたよりも外は暑いようだ。滲んだ汗が急激に冷やされると、早く着替えて風邪ひくよ!という彼女が脳裏に浮かんだ。春夏秋冬、めぐる季節の中で最も紫外線が強いのは夏ではなく5月らしい。春風が日差しを含んでねっとりと絡みついていたから恐らくそうなんだろう。この季節、熱中症は室内でもかかるらしい。何か飲まないと駄目だな。スポーツドリンクでも買い置きしとくか。買い物かごへペットボトルを最初に入れた自分に思わず苦笑する。あいつが紫外線だ熱中症だと煩いから、いつの間にか自然と買うものまで習っている。他に、あ、醤油が切れそうだった。あとはあれとこれと。あ、あれ、あいつがこの前食べたいって言ってたゼリーだ。


 一見すると、順調に買い物を進めているように見えながら、俺は先ほどからあるコーナーを避けるように行ったり来たりを繰り返していた。そうこうするうちに目的の物ではないものが次々とかごを埋めていく。


「・・・くそ。」


 それを数十回繰り返し、小さな小さな最後の抵抗を口に乗せて俺はその一生縁がないものをかごに放り込んだ。背中の冷えはもう分からないくらい頬が熱かった。レジへ並ぶ頃には、かごは山盛りで帰りを思うと少し憂鬱になった。でも、支払いを済ませて両手に持った袋の重みを感じながら足が急ぐ。歩きながら、先ほどまで頭の中で煩く話しかけていた彼女の姿が今朝の姿と入れ替わる。


 ぐったりとベットに寝ている小さい背中。うつ伏せの姿勢で表情が見えないのに、その顔が笑っていないことだけはわかった。か細い吐息、このまま死んでしまうんじゃないかと思った。薬は飲んだから、もう少ししたら平気になると彼女は言ったが、とてもそうなるとは思えない。ベットに膝をつき、冷や汗で張り付いた髪を耳にかけてやる。顔が見れるかと覗き込むと彼女は両手で顔を覆って枕に埋もれてしまった。それからくぐもった声がする。


「なんだ?」


 自分でも驚くほど優しい声で返事を返す。


「・・・お願い――買ってきて。」


「は?」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。よく知らない単語が聞こえた。


「買い置きするの、忘れてたの。今日の分しか、なくて。」


 真っ赤になった耳とくぐもった声。うつ伏せの理由が体調不良だけではないことに安堵する。


「・・・わかった、買ってくるから。待ってろ。」



 待っているだろう彼女のもとへ足が急ぐ。もう薬は効いただろうか。






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