漢検カンニング
制限時間:1時間 文字数:1200字
彼の特技はカンニングだった。
消しゴムのケースの裏にはびっしり文字が書き込まれ、改造された眼鏡は隣の奴の答案を盗み見るルーペとなった。鉛筆に簡単な通信機能をつけていたこともある。
傑作だったのはティッシュでできたカンニングペーパー。万一見つかりかけた時は鼻をかんでそのまま先生に
「これ捨てといて」
と渡せばいい。先生は顔をしかめてティッシュを摘み、証拠隠滅に協力してくれるというわけだ。
「同級生のよしみでぼくに仕事を頼むってことかい」
彼は薄ら笑いを浮かべた。
別れて数分も経つと忘れてしまいそうな特徴のない顔つき。中肉中背のくたびれたサラリーマンにしか見えない彼だが、本当の職業はスパイである。最も得意とするのは試験会場への潜入で、替え玉受験の替え玉になりつつ次の試験問題を鮮やかな手際で盗んでくる。
「漢字検定なんて、記憶でどうとでもなる試験だと思うけど」
彼が依頼を聞いて、一瞬不可解そうに首を傾げて俺を見つめた。
「まさか記憶もどうにもならないくらいバカなのかい?」
「いや俺、成績真ん中くらいだっただろ。……娘だ」
「娘さん?」
「小テストで0点を連発する娘がいるんだ」
「……なるほど、トンビがトンマを生んだということか」
失礼な独り言が聞こえた気がするが無視する。
「それが今度学校で漢検を受ける。お前には娘に気付かれないように娘を合格させてやってほしい」
「なるほど。それは、手間がかかる」
彼は顎に手を当てて思案した。
監視カメラが試験を受けている娘の手元を映し出す。
本来は別の教室が会場だったのだが、彼が仕込んだ生ゴミ爆弾により異臭騒ぎが発生、会場が思惑通りに変更になった。
娘はペンケースに手をかけた。ペンケース持ち込み可なことを知って、彼は「仕込み放題じゃないか!」と呆れていたがどんなカンニングペーパーをしかけたのだろう。娘に気付かれてはいけないんだからな? かぱっと開いたペンケースの蓋の裏に貼ってあったのは……、
「俺の写真じゃないか……」
なんで俺なんだよ。娘も鉛筆片手に困惑してるじゃないか。どんなお父さん大好きっ子だよ。
……と思っていると娘は答案用紙に落書きをしはじめた。ちょっとは努力する気配を見せてほしいよ。
シャッシャと適当に線を引っ張って描いている絵をよく見れば、写真を模写した俺の似顔絵だった。
どんなお父さん大好きっ子だよ(にやけ顔)。
娘が似顔絵の目鼻を修正しようと、消しゴムを取り上げた。すると、ゆらっと写真の俺の顔が揺れ、「が・ん・ば・れ」と口を動かした。娘は目を擦った。俺も目を擦りたかった。
どうやら写真ではなく薄型液晶だったらしい。だが、娘はバカなので分からないだろう。
画面は揺らめいて、漢字や読み仮名をゆっくりと出していく。
ははあ、なるほど。ここからが本番だったのか。
娘は操られるようにして、回答用紙をすべて埋めきった。
お題:記憶の彼 必須要素:漢検




