水崎さんと私
制限時間:15分 文字数:464字
避難訓練の放送がかかると、不良の水崎さんが椅子を蹴って立ち上がった。
輪のついた椅子が転がるように床を走っていく。
「マジうっせーし」
吐き捨てるように言ったので、びくついた私の頭は潜りかけた机にぶち当たった。
「うぐぐ」
呻いていると、水崎さんが私を覗きこむようにして見た。化粧が濃い水崎さんに見られると、ガンつけられているみたいで怖い。
「アンタってさ、律儀だよねー」
「そ、そうですか?」
震えながら答えた。ああ、「何怖がってんだよ」とかいちゃもんつけられなきゃいいけど。
「高槻いねーんだから、好きにしてりゃいいのに」
高槻とは、養護の先生のことだ。
私たちは、保健室登校をしている。そうでもなければ、水崎さんみたいな人と知り合うこともなかった。
窓の外を見ると、ちゃんと制服を着て立っていられる生徒たちが整列している。
高槻先生がAEDの操作の指導をしている様子が見える。
私たちは、あそこからあぶれた二人……。
「さぼりながら高いとこから見物するのって、いい気分じゃね?」
水崎さんは、調子よく言って煙草をくわえた。
お題:緩やかな火事 必須要素:高校




