苦行の末に
制限時間:15分 文字数:438字
一行書いては原稿用紙を丸めてはごみ箱にポイする。まとまらない、決まらない、始まらない。
そろそろインクも尽きてきた。
「アァー!」
左手から万年筆をぽろりと落とし、頭を掻き毟る作家、公暁。彼の頭から降るフケがやまない。
いまどき、パソコンも使わず手書き原稿にしているのは彼のアナログ主義による。
公暁は手を使うのも面倒というように万年筆に噛り付いた。口でなんとか起こした万年筆は原稿用紙に曲がりくねったいびつな線を引くことがやっとであるが、公暁はその線が永遠に続いていくように感じられた。
――残り少ないインクは、俺をどこへ連れて行こうというのだ……。
公暁は万年筆を咥えてモガモガ言いながら原稿用紙のマス目が線路のように自分の真下を流れていくのを感じた。
公暁は自らの小説の世界を旅していた。今ではハットを被り、ステッキをついたハイカラな紳士だ。
「ごきげんよう」
会釈をして、さあ一歩踏み出そう。
翌日、公暁の原稿を取りに来た編集は公暁がグースカ眠っているのを発見した。
お題:つまらない小説家 必須要素:難解な設定
必須…クリア出来ましたかね? そして夢オチってやつだ