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吾輩は風である
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吾輩は犬である。
名前は風という。かつて文豪に書かれた猫は名を貰えなかったそうだが、吾輩は飼い主の前に姿を現した直後にこの名を授かった。
飼い主は吾輩を、そよそよと心地よい風が吹いてきたように思ったらしい。
春のことだった。
「ふーう?」
飼い主の手が吾輩の背を撫でる。その手つきは不安になるほど優しくて、吾輩はずっとこの場に凪いでいたくなる。
「風、私のお骨ね、一本取っておいて貰えるって」
久しぶりにはしゃぐ飼い主の声は、それでも出会った頃よりもずっと弱々しく聞こえた。
「だからね……風の好きな場所まで連れて行ってね」
飼い主が微笑んで、白いカーテンの前で両手を広げる。
吾輩は吠えた。そんなことをすれば病室から直ちにつまみ出されるであろうことは分かっていた。
だが、吠えずにはいられなかった。
お題:犬の風 必須要素:文豪
お題を登場キャラの名前にする方法もありますよね、っていう