祖父、講習へ行く
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「おじいちゃんって、何でも知ってるね?」
膝に乗せた孫が感心して声をあげる姿に、微笑みかけながらも祖父は言った。
「いいや、おじいちゃんだって知らないことはまだまだあるぞ」
「そうなの?」
「ああ。たとえば――」
祖父はぱかっと口を開けた。
「おじいちゃん、本物の歯がのうなってしまったんでな。これから入れ歯の勉強をせねばならん」
「ほえー」
孫が興味深げに口を覗きこむ。
まさか、入れ歯を使うのに講習が必要だなんて思わなんだ。祖父は内心溜息をついていた。
「ジュンはもう大人の歯は生えたか?」
「ひとつ出てきたよ」
孫は祖父の真似をして大口を開けた。
「じゃあ、大切にしなきゃいけないな。おじいちゃんみたいに、入れ歯になる前に」
そう別れ際に忠告した。
講習ではいきなり入れ歯を外すように講師の指示があった。
祖父は馴染んできた入れ歯を人前で外すことに抵抗があったが、手で隠すようにしてそっと外してコップに入れた。
「――では、入れ歯がなくても食べられるように、こちらの煎餅を食べてもらいます」
(ええ?)祖父は妙に思って疑問の声をあげようとしたが、入れ歯のない口からはすうすうと空気が漏れるだけだった。
仕方がない、と思いながら煎餅を口に含む。歯茎では噛むことが出来ず、味わうには舌の先でペロペロと舐めるしかない。
(ううーん……)恨めし気にコップの入れ歯を眺める。口の中が心もとない。
消化されるように入れ歯が徐々に溶け出している。
お題:素人の祖父 必須要素:ペロペロ




