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第91話

 アリーシャ達と武神流の神殿の入口で別れると、エルは武天闘地を用い天高く舞い上がった。

 そして、一気に協会本部を目指して空を翔けたのである。

 上空から街を眺めると現状の悲惨さがよく分かる。あちこちから火の手や噴煙が上がり、見るも無残な様相と化しているからだ。

 そんな中下手人である冬幻迷宮の冒険者達はというと、各地に散開しつつ相変わらず我が物顔で好き勝手犯罪を犯し続けていた。

 協会の兵士や偶々街に残っていた冒険者達も奮戦していたが、敵の多さと無秩序で野放図な暴れ方にかなり手を焼いているようだ。各所で落花狼藉に及んでいる凶賊共に対し兵を割かなくてはならず、かといって火災も放置するわけにはいかなかった。必然的に少ない兵を更に分けねばならず、実に後手後手の対応になってしまっていたのである。

 この身が1つでなかったのなら、少年がそんな益体もない事を思わずにはいられないほど、この都市は攻められていた。

 更に悪い事に、中央の広場から協会本部につながら大通りを全身フル装備の白銀の甲冑の一団、聖王国の騎士団が進撃していたのである!!

 協会の前には即席の防柵や防護壁が張り巡らされ、さながら砦の如き様相になっているが、すでに戦端は切って落とされたようで、気や魔法が雨あられと激しく空を飛び交っている。

 だが、はっきり言って協会側の分が悪い。

 アドリウムの各地で暴れる冬幻迷宮の冒険者達の対処するために、多くの兵を派遣した所に隙を突かれた格好で騎士団に攻められているのだ。協会側も踏み堪えているが、策を練り絶好の機会を逃さず襲い掛かった騎士団の方が圧倒的に有利と言わざるを得ないだろう。

 このまま協会が占領されてしまえば、この都市を掌握されてしまうだろう。加えて、協会長の殺害まで行われてしまえば——、その先にあるのは聖王国と亜人連合諸国との大戦争である。

 そんな未来は絶対に許してはならない!!

 エルは闘志を漲らせると、更に天高く上昇していった。

 そして遥か上空から騎士団を見下ろす形になると、自分の周りに全力で大量の気弾を生成していったのである。それも外気修練法で気力を回復させながら……。

 

 あまりの数に太陽を遮り地上に影を落とした頃、エルの激烈な攻撃が開始された!


「いくぞ! 連爆気弾!!」


 少年の意思に従い、周囲に浮遊していた気弾が次々に地上に落ちていったのである。

 ただし、奇襲は完全には成功しなかった。いち早く異変気付いた者が声を上げたからだ。


「頭上より攻撃が!?」

「防御結界!!」


 大声に反応し、防御魔法や気による防御を行えた者の被害はある程度抑えられた。

 あくまである程度は、である。

 騎士達には上位冒険者並みの力を有する者が多数存在していたが全てではない。

 加えてエルによって生成された気弾はその1つ1つの大量の気が練り込まれており、たとえ上位冒険者といへど気付くのが遅れれば、防ぐだけでも容易ならざる威力を内包していたのである!

 多くの騎士達の頭上から気弾の大群が降り注ぐと、破壊の嵐を巻き起こしたのだ!!


「うわあぁぁぁっ!?」

「救護班! 治療急げ!!」

「頭上の敵を打ち落とすのだ!!」


 地上は少年の凶悪な奇襲によって阿鼻叫喚の様相と化した。エルの不意打ちによって死傷者が続出し、その対応と混乱した状態での反撃と部隊の立て直しを迫られたからだ。

 そんな悲惨な有様を見ても、エルは攻撃の手を緩めなかった。空を飛びながら気弾を次々に生成し、地上に展開している騎士団に向けて打ちはなっていったのである!

 騎士団とてただでやられるわけではない。

 集の力を頼みに協力し合って防御結界を築きつつ、エルを打ち落とさんと魔法や気を雲霞の如く放ったのだ。

 ただそれでも、大空を自由に駆け巡る少年を撃墜できるかというと困難を極めた。

 距離がかなり離れているため、高速移動を得手とするエルにとっては回避はそう難しいことではなかったからだ。

 中には追尾してくる魔弾や魔法もあったようだが、少年が無数に作成し続けている気弾で迎撃し誘爆させたので、結局意味をなさなかった。

 逆に騎士団の方はというと大人数で行軍し大通りを埋め尽くしたのが徒となり、回避する余地も無く間断無く降り注ぐ気弾を防御し続けなければならなかった。

 必然的に協会本部への攻勢は弱まり、このままいけば遠くない内に反撃に転じられる、そんな希望も見えてきた。

 あくまで可能性であったが……。

 少年の1人に好き勝手やらせる程、聖王国の騎士団は甘くなかったのである!

 突如、エルの予想もしなかった方向から強力な攻撃をもらったのだ。

 そう、天空を飛翔するエルの頭上・・・・・・から蒼き雷が降ってきたのだ!!


「がっ!?」


 予想だにしなかった上からの攻撃、しかも本物の雷と同等の速さでである。

 気を全身にまとっていたおかげで黒焦げにされる事だけは免れたが、武天闘地を維持できなくなり真っ逆様に地上に落ちていった。

 ただ高さが大分あったおかげで回復する時間が稼げ、体制を整え気を地面に向けて噴射する事で墜落する事だけは何とか防げた。

 しかし全身を襲った痛みは甚大であり、神の御業をもってしても回復には時間を要し、荒い呼吸を繰り返さざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

 このまま追い打ちを仕掛けられれば更なる苦境に立たされるといった所であったが、何故か追撃が行われなかった。

 それ所か戦闘の最中だというのに、騎士団が中央から2つに割れると1人の人物が歩み出てきたのである。それは蒼天の空を想わせる荘厳な青き鎧を身にまとった銀髪の貴人であった。

 いくつかの諸国、とりわけ聖王国では青とは特別な色だ。

 中でも空色とも称される本瑠璃は一部の特権階級でしか身に着ける事を許されない、神聖視された色である。

 そんな蒼を身に纏った麗人、目鼻立ちもくっきりした絵画の題材にされそうな優美な男が、うっすらと笑みを浮かべ静かに歩み寄ってくる。

 エルには青を許される意味など知りもしなかったが、近付いてくる人物がその好男子の見た目に反して尋常ならざる実力の持ち主である事だけは直感的に理解できた。

 この男こそが自分を打ち落とした人物だと本能的に悟ったのである!


「私はカイン。カイン・F・メレク。聖王国シュリアネスにて聖騎士第5位に叙されている者だ。君の名を教えてくれないか?」


 男の口から発せられた言葉はそれほど大きくない。

 だが、不思議と隅々までよく通り耳に残った。それに加え、魅了の魔法も掛かっていないはずなのに、抗いがたい、いや自然に従うべきと思わせる何かがあった。

 聖騎士カイン。

 恐るべきカリスマと実力を兼ね備えた傑物が少年の目の前に立っていた。

 この男こそが今回の事件の主犯に間違いないだろう。知らず知らずのうちに気圧されたのか固い声になりながらも、エルは睨み返し毅然とした態度で声を発した。


「僕はエル、この街に住まう冒険者だ。何故こんな事をした! お前達のせいで、どれほど多くの人達が犠牲になったと思っているんだ!!」 

「全ては往生楽土、この地に千年王国を築くために……」

「?」

「君はこの大陸の現状を正しく認識できているかい? 各地で争いは絶えず、罵り合い、いがみ合う醜い現実を? 危うい緊張の下に見せ掛けだけの平和が成り立っているに過ぎない。一度何か起これば麻の如く乱れ、群雄割拠の大戦争に突入するだろう」


 朗々と淀みなく告げる言葉に迷いはない。カインの言葉は全くの真実であったからだ。

 時流に疎いエルは真偽を確かめる術をもっていなかったが、聖騎士の真摯な瞳から嘘を付いていないように思えた。

 だが、それがこの都市アドリウムを襲う理由につながるだろうか?

 ましてや、罪無き人々を殺めて良い理由には断じてならない!

 エルは険の篭った瞳で騎士を睥睨しながら大声を上げた。


「それなら、どうして自分から戦争を起こそうとする真似をしたんだ? アドリウムを襲う理由がどこにある!!」

「偽りの平和は長くは保たない。真の平和、恒久の平和を作るためには、この地に統一国家を樹立するしか道はない。シュリアネスの名の下にまとまれば民も安らげるだろう。そのためには、偶発的に戦国時代に突入するより、自分達が有利に進められるように計画的に引き起こすべきだ。そしてアドリウムは神々の迷宮のおかげで、1都市ながら多数の国を運営できるだけの尽きる事無き富が埋蔵されているようなものなんだ。戦略的に放っておけるはずがない」

「そんな事のために罪の無い人々を殺したのか?」

「……君に理解してもらおうとは思わなない。だが、誰かがやらねばならないんだ。たとえ罪を背負おうとも! 進む先が血塗られた道だったとしても! 人々のためにも理想郷ユートピアを築かなくてはいけないんだ!!」

「……」


 カインの言葉にあちこちから歓声や賛同の声が上がるのに反し、少年は異常なほど自分の心が冷めていくのを感じた。

 ようするに彼らは、人類の未来のためというお題目を掲げた革命者気取りの一団なのだ。

 それを実行に移せるするだけの力と求心力を持った男が頂点に立っているから、尚更性質が悪い。

 まあ百歩譲って、掲げた理想自体は素晴らしいものかもしれないが、やっている事は断じて許せるものではない。不意打ち、乱暴狼藉、火付け強盗である。

 騎士団は戦を仕掛けただけで、犯罪に手を染めたわけではないなんてお為ごかしにもならない。

 彼等が攻め易いようにかく乱するために、冬幻迷宮の冒険者達を雇ったのだ。

 それではこの地に住まう人々は何のために死んだのだ!

 理想のための尊い犠牲だった?

 恒久の平和のための礎だとでもいう心算なのだろうか?

 許せない! ああ許せるわけがない!!

 アドリウムに住まう1人として、彼らの蛮行は絶対に許容できるものではない!!

 怒りをその身に宿し荒れ狂う2色の気を顕現させたエルは、腰を落とし拳を構えた。


「お前達の勝手な都合で殺された者達の気持ちを考えたことがあるか?」

「許しは請わない。いや、許してくれとは言える立場でもないな。理想郷ユートピアを築いた後に煉獄の炎に裁かれ、地獄の災禍を受ける事で報いよう」

「ふざけるなっ!! お前達の野望もここまでだ!!」


 大喝と共に風迅を起動、超高速移動にてカインに迫り真っすぐに拳を突き出した。

 エルの怒りそのものを表す様な愚直で真っすぐな一撃だった。

 たが、底知れぬ実力者相手への特攻は無謀の極みであった。

 少年はその代償を己が身ですぐに支払わされる事になった。

 我を忘れていたとはいえ抜刀したと気付かせぬ早業で腰の聖剣を抜き放し、エルの武人拳を、気で強化された拳をあっさりと中指から手首付近まで切断してみせたのである!

 一瞬の斬撃、それも少年の気の強化をものともしない恐ろしい聖騎士の技の冴えであった。

 だが、ここからがエルは普通ではない!

 激甚な痛みを覚えながらも伸ばした手をさらにそこから突き出したのである!!


「おおっ!!」

「!? 聖盾セイクリッドシールド!」


 痛みで引く所か逆に前に進み、斬られた拳に更に気で包み突きを放ったのだ。

 これにはカインも予想外であったようだがさすがは聖王国にその人ありと謳われた実力者、瞬時に魔法の盾を形成し、受けてみせたのである。

 拳と盾が激突した数舜後、エルが雄叫びを上げ更に気と力を込め盾をぶち破りカインの肉体に拳を届かせんとしたが、聖剣の平で受けられ数歩後退させるだけにとどまった。

 信じられぬ技量の持ち主である。

 もしかしたらかつては冒険者で、エルよりも遥かに深い階層に潜れる実力者だったのかもしれない。あくまで憶測の域は出ないが、心身の成長のためには魔物と闘い魔素を得るのが効率的なので、どこかの迷宮で冒険者をしていた確率は高いだろう。

 それよりも、今はこの実力の高さが問題だ。

 そう簡単に決着は付かないだろう。

 いや、下手すればエルでは勝てない可能性すらあり得る。

 警戒を強める少年に対し、聖騎士の方は自分がふき飛ばされたのを純粋に驚いているようだ。


「ははっ、信じられない力だね。やはり私が君の相手をして正解だったようだ」

「すぐにその軽口を叩けないようにしてやる!」

「はははっ、それはどうかな? 聖十字ホーリークロス!」


 カインが蒼い気を纏わせた聖剣を十字を切ると、その軌跡にそって気の刃が放たれた!

 それも、エルをもってして辛うじて躱せる程の高速で!!

 完全には回避できなかったのか、頬が横一線に切れ血が流れ出した。

 威力も十分なようだ。

 口惜しいが強敵、それも勝てるかもわからない程の敵と認識せざるを得ない。

 こんな様ではカインを倒し、協会本部を襲っている騎士団を攻撃できるのはいつになることや……。

 重要な事実に気付きはっと協会の方を見ると、いつの間にか騎士達は攻撃を再開していた。

 それもいつくも結界を張り巡らせ音を遮断する事で、エルに悟らせなくする念の入用である。

 小憎らしい策を弄しぶりである。

 周りを見てようやく血の昇った頭が冷えてきた。

 そうだ、怒りに任せてカインと闘ってしまったが、肝心なのは騎士団に協会を攻めさせない事なのだ。

 カインもその事が分かっていたからこそ、あえてエルに事実を話し時間稼ぎをしていたのだ。

 ならば自分のやるべき事は――、


「行かせはしない! 聖雷セイクリッドサンダー!!」


 武天闘地には飛翔しようとした所に、再び蒼き雷を落とされ邪魔されてしまった。

 どうやらここにエルを釘付けにする積りのようだ。

 協会の守りに対し、騎士団の物量で押せば勝ち目は見えているのだ。

 カインの戦術眼に誤りはない。逆に少年の方は焦りが募る。

 このままでは防護柵を破られ、協会内部に突入されるのも時間の問題だからだ。

 なんとか目の前の実力者を振り切り、騎士団に攻撃を加えばならない。

 エルの思いとは裏腹にカインの巧みな立ち回りに翻弄され、望まぬ闘いを余儀なくされるのだった。


    




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