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第89話

「ああああああああああっ!!」


 絶叫。それは魂からの絶叫であった。

 少年は心の底から声を迸らせると、血を流し倒れいく少女の元に疾駆した!!

 先程まで少年の傍にいた者など、エルが爆発的に気を発し周囲にまき散らした時点で吹き飛ばされている。

 まさか少女がその身を犠牲にするとは思わず虚を突かれたフォルスはというと、狼狽から立ち直る暇さえ与えられず怒り狂った少年にぶん殴られ、あっという間に遠くに消え去っていった。

 そして、エルは少女が地面に倒れる寸前に無事抱き留める事に成功したのである。

 向きを変え自分の方を向かせると、必死に呼び掛けた!


「リリ、リリ!!」


 駄目だ、こちらの呼び掛けに反応できるだけの力さえ残っていない。

 首の相当深い所まで刃が刺さってしまったのだろう。

 意識も混濁しているようで、自分の方をしっかり見ている様にも見えるが、医者でもないエルには判別できなかった。

 非常に危うい状況だ。

 今しも腕の中の少女の命が喪われようとしていた。

 早急に回復させなければ、大切な人と日常を謳歌する機会は永遠に失われてしまうだろう。

 今すぐ少年に取れる手段は、1つしか残されていなかった。

 危急の事態用に魔法の小袋(マジックポーチ)の中に取って置いた最上級回復薬。

 傷を高速で癒し肉体の欠損さえ再生させる、大いなる力を秘めた回復薬である。


「副長!? おのれ!!」

「このガキが!!」


 気で吹き飛ばした者達が武器を手にワラワラと集まってくる。

 今はそんな些末な事に構っている暇はないのだ。

 エルは無我夢中で自分とリリを大量の気で包み込むと、急速に竜の形を象っていった。

 思い付きから編み出され、今では武神流の名を広める一躍を担うまでになった技、気竜変化である。 

 気によって具現化された赤竜の体内に、少年と少女だけの2人だけの空間が作られたのだ。

 エルが全身全霊を賭けて創った気竜である。たとえ上位冒険者であったとしても、そう簡単に壊せるものではない!

 気竜に対し銘々が攻撃を開始したようであるが、正直どうでもいい。

 今はリリだ。彼女が助けられるかどうかなのだ。

 死者蘇生の大魔法は失伝して久しい。死んだ人間を生き返らせる事は不可能なのだ。

 少女の命は今や風前の灯火で、生命の女神(セフィ)大地母神エーナの神殿に運こぶ時間さえ残されていないだろう。

 エルの手にある回復薬が効果を発揮しなければ、その時は……!

 もはや自分で言葉を発する事もできなくなっている少女に対し、エルは祈る様な思いで最上級回復薬を一気に煽るとそっと少女の唇に口付けた!


 リリ、飲み込んで!!

 どうか間に合ってくれ!!

 お願いだから、僕にもう一度笑顔を見せてくれ!!

   

 心の底から少女の回復を渇望し、エルは薬を口内に流し込んでいった。

 はたして少年の尊き願いは——、か細く緩慢な動作ながらも、少女が回復薬を少しずつ飲み込む事で叶えられたのだ!!

 一体如何なる幸運かはわからない。

 リリの突飛な行動に対して拘束していた優男が驚き、剣を持つ手の力が僅かでも緩んだのか?

 はたまた刃の刺さった位置が良かったのか?

 あるいは、ただ単純に素人の無知ゆえの行動のおかげかもしれない。

 いずれにしろ少女が即死せずに済んだ事で、人体を高速で再生させる最上級回復薬の効果が現れたのである!!

 それに、エルにとっては理由なんてもうどうでもよかった。

 リリが助かった、それが全てだ。

 この腕の中の温もりを失わずに済んだ事に感謝しながら、更に回復薬を口移していくのだった。 


 首の傷も見る間に治っていくと、リリの意識も次第にはっきりしてきた。

 少女が最初に目にしたのは、何故か大好きな少年と唇を交わしているという赤面ものの光景であった。リリは当初大きく目を見開いて驚いたが、目を細めるとエルの為すがままに身を任せた。

 エルとリリの初めてのキスは、血と独特の回復薬の味が混じり合った戦場の中での口付けであった。


 気竜の外では相変わらず暴漢共が護りを破り、エルに復讐の牙を届かせようと奮闘している。

 怒号に加え、気や魔法の爆発音などと喧しい事この上ない。

 リリの命の危機は脱したが、まだ戦闘は終わってはいないのだ。それにマリナやシェーバの事もある。

 早急にこのならず者共を排除しなければならなかった。

 エルはそっと唇を放すとリリを見つめた。

 少女は助かった安堵と少年に助けられた喜びで、瞳が潤み上気している。もしかしたら、さっきの行為のせいもあるかもしれない。

 そんな少女を安心させる様に、エルは笑いかけた。


「リリ、ちょっと煩くなるけど少しの間だけだから、我慢してね」

「うん、わかった」


 リリは頬を赤らめてながらも至近距離からエルの瞳を見つめ返し、しっかりと頷いた。

 少年への限りない信頼が、悪漢共の恐怖を和らげたのだ。

 エルならきっと何とかしてくれる!

 リリはそう信じて疑わなかった。

 その信頼に応えねばならない。

 ただし、さすがのエルもリリを抱えたままの状態では、上位冒険者複数を相手取るのは難しい。

 とりあえずは……、

 ちょうど良く僕の周りに密集してくれている彼等にプレゼントを上げよう!

 エルは内側から爆発的に気の奔流を発生させ気竜を爆ぜさせると、硬質化し魔鉱もかくやという固い気の欠片を周囲に爆散させたのである!!

 そして、エルの作り出した気の暴風が人間を木の葉の様に吹き飛ばしていった。

 男共は悲鳴を上げる余裕さえなく四方八方にはじき飛ばされ、テーブルや壁にぶち当たって地に落ちると、ようやく悲痛な声を上げた。

 その間に、まんまとエルは高速移動するとシャーバの下にリリを送り届けたのである。

 渡した回復薬をマリナが飲ませた様で、顔色はまだ良くないがシェーバも大分回復しているようだ。


「お父さん!! お母さん!!」

「リリ!!」

「ああ、リリ!! よかった」


 お互いの無事に感極まり、涙ながらに抱き合っている。

 エルはそんな美しい情景に顔を綻ばせたが、直ぐに真顔に戻ると吹き飛ばした男達の動向を注視した。

 ここまでは首尾良く事が運んだが、これからが問題だからだ。

 親子を守りながら敵を倒さなければならないのだ。

 もう二度と少女達が傷つくなんて事はあってはならない!!

 そのためには——、この手を人の血で染め上げる覚悟をしなければならないだろう。

 エルはこれまで山というほど魔物を殴殺しながらも、人を殺した事は一度も無かった。

 対人戦闘の経験も少なく、いうなれば魔物専門の狩人の様な事しかしてこなかったのだ。

 しかし、今は危機的状況だ。多数の悪人共に対処しながら、大切な人達を何が何でも守り通さねばならない。正直今のエルには、相手に手心加える余地など残されてはいないのだ!

 ……先程リリを助けるために、気も神の御業も使えるものは何でも使って少女を拘束していた男を殴り飛ばしたが、もしかしたらあれが初めての殺人かもしれない。

 未だに優男が戦線に復帰していないから、よくて重傷か気を失っているといった所だろう。

 偶発的に人を殺めてしまったかもしれない。

 それをはっきりと意識しても、少年には良心の呵責が起きなかった。


 あいつ等はどんな卑怯な事でも平気でやる悪人だ!

 現にリリ達家族を僕に対する人質にしたし、もし駆け付けるのがわずかでも遅れていたなら、欲望の限りを尽くしリリやマリナさんを辱めただろう!

 そんな相手を気遣う?

 その結果、大切な人達が傷付けられる可能性があるとしても?

 ありえない!

 そんな未来は絶対にあってはいけないんだ!

 そして僕の行動が、自分だけじゃなく大切な人達のこれからを左右するんだ。

 僕の甘さのせいで、リリがまた傷付けられるかもしれないだ!

 そんな事許せるのか?

 許せない! 絶対に許せるはずがないだろう!!

 それなら覚悟を決めるんだ。

 大切な人が守れるのなら、喜んでこの手を汚そう。

 たとえ血塗られた道だとしても、この身が罪を背負ったとしてもだ!!

 

 エルの肝が据わり瞳には明確な意思が宿った。

 たとえ人を殺そうとも、揺るがず自分の為した事を受け止める固い決意を抱いたのだ!!

 怒りでその身を真っ赤に染め醜い顔を晒す悪漢共に、少年が一歩を踏み出そうとしたまさにその時、横合いから不意を付き魔法が放たれた!


大地針晶アースニードル!!」


 黄土色した金属の巨大な杭が何本も高速で飛来し、鎧ごと敵の身体を貫いていったのだ!

 エルが振り向いた先には、大地母神の魔法使いであるディムが魔法を杖から放った姿のまま立っていた。その横にはカーンやイーニャ、そしてアリーシャといった頼もしい姿もある。

 ここまで来るまでにもう何度も戦闘をした様で、装備は汚れているし皆一様に玉のような汗を掻いている。街に異変が起きてから、急いでリリの元に駆け付けてくれたのだろう。

 すでに状況を理解しているようで、アリーシャ達の瞳には明確な怒りと殺意が篭っていた。


「やるわよ!!」

「「おうっ!!」」


 アリーシャ達の攻撃は苛烈を極めた。

 不意を打たれディムの魔法を受け苦しみもがく者達を、情け容赦なく斬り裂いていったのだ!

 彼女達は部族間の小さな戦争に参加たり、盗賊達との戦いも経験していたので、殺人に対する躊躇い等欠片も無かったのである。

 戦いに油断は禁物であり、甘さは身を亡ぼす事を重々承知していたからだ。

 本物の戦士である彼女達には、エルの様な逡巡も葛藤も遥か過去に克服した出来事だったのである。

 それに、大罪を犯した彼等は死罪が妥当だし、よくて終身奴隷である。

 そんな悪人共に情けを掛ける理由などどこにもなかったし、リリを、可愛い妹分を襲ったのはあまりにも許し難い行為であった。

 彼女達は確固たる殺意をもって、許されざる者共に手を下していったのである。

 そして、そこにエルも加わった。

 彼女達だけに手を汚させる心算など微塵も無かったし、意を決した少年には躊躇いはなかった。

 迷宮で魔物を倒す時と同様にアリーシャ達と息の合った連携を組み、未だに奇襲から立ち直れない男達に手加減無しの拳を振るったのである。

 骨を砕き肉を穿つ感覚は、人型の魔物とそう変わりなかった。

 迷宮には見た目も大きさも人に近しい魔物も存在し、そんな魔物もエルは殺してきたのだ。

 感触が似ているのは至極当然の事だろう。

 人を殺したというのに何の感慨も抱かなかったし、むしろ拍子抜けする程であった。

 こんなにあっけないものなのだろうか?

 エルは思考に埋没しそうになったが、まだ戦いは終わっていない事を思い出すと、勢い良く頭を動かし雑念を振り払うと、残る敵をアリーシャ達と共に追い詰めていった。

 上位冒険者といってもエルやアリーシャといった実力者には適うはずもなく、ほどなくして悪漢共との戦いは決着が着くのだった。 


 一方的な戦いも終わり、アリーシャ達と最低限の片づけを行うと魔道具の水管を取り出し身を清めた。

 リリ達はというとようやく人心地着いたのか、親子で喜びを分かち合っている。

 少女も無邪気な笑顔を浮かべてはしゃいでいるようだ。

 そんな少女の姿は喜ばしいもので必死に頑張った甲斐もあったというものだが、少年の脳裏には先程のリリの無謀な行いが思い出され、居ても立っても居られなくなった。

 恐怖したといった方が正解だろうか。少女が血を流し倒れ伏す姿が回想される度に言い知れぬ感情が体を駆け巡り、吐き気を覚えた。

 我慢できず笑い合う少女達の元に訪れると、手を回し強引に自分の方を振り向かせた。

 そして、きょとんとしている少女の頬を引っ叩いたのである。

  

「っ!?」

 

 少年の思い掛けない行動は少女だけならず、誰もが衝撃を隠せなかった。あのアリーシャでさえもだ。

 そうして驚き冷めやらぬ少女を無理やり引き寄せると、自分の腕にかき抱いたのである。

 普段の恥ずかしがり屋な少年からは到底予想もできぬ、大胆極まりない行動であった。

 リリはエルの思い掛けない行動に仰天しつつも、戸惑いがちに問い掛けた。

  

「エッ、エル?」

「……もう二度と、あんな事はしないでくれ」

「!?」


 震えていた。エルの全身が恐怖に打ち震えていたのだ。

 真竜にただ1人で挑む時でさえ興奮はしても、恐れる事無く立ち向かった少年がである!

 今はそんな勇猛果敢な姿は見る影も無く、少女を喪っていたかもしれない恐怖に顔を歪め、小鹿の様に全身を震わせていた。

 リリも氷水を掛けられたかのように表情を一変させると、大粒の涙を流し始めた。

 今になって自分の無茶な行いが、どれだけ周囲に心配を掛けたのか理解したのである。


「ごめん、ごめんね」


 少女は大声で泣き出し、少年は身の震えが治まらず、ただ黙し少女を抱きしめ続けた。

 まるで手を離せば、少女の温もりが二度と得られないと思っているかのように。

 2人が落ち着くまでしばらくの時間を要するのだった……。



 それから大分時間が経ち、ようやくエルやリリが冷静さを取り戻すと事情説明と相成った。

 全員が事態を把握し終えるとある者は顔を真っ赤にし、またある者は顔を真っ青にした。

 前者はフォルス達純潔同盟の悪辣ぶりと、身勝手な理由からの戦争行為に湧き上がる怒りを抑えられないでいる者達だ。

 後者の顔を青くしている者達は、リリ達親子であった。

 リリの行動のおかげで結果的に事態は好転したわけであるが、悪漢共にあれだけエルは痛め付けられ苦しんでいたというのに実は演技であり、敵の油断を誘っていただけだったと伝えられたからである。


「そんな……」


 リリは顔色を悪くしたまま呆然と呟いた。

 自分の命を賭けた行動が余計な事かもしれなかったのだ。

 大好きな人が自分のせいで傷付けられるのが堪えきれなかったのもあるが、あの状況が続けば父も母も、そしてエルも殺されてしまうと思ったからこそ意を決して身を投げ出したのだ。

 それが間違っていた?

 そう考えると、また少女の瞳に勝手に涙が浮かび始めた。

 少女の涙を見てエルは大慌てである。

 少年としては、ただ少女に自分の身を犠牲にする様な行為を止めて欲しかっただけなのだ。

 リリを責めるつもりも、ましてや傷付けるつもりなんて全くなかったのだ。

 だが、現に少女を傷付けてしまった。

 どうしていいか分からず右往左往していると、事情を察したアリーシャが助けて来てくれた。姉が妹に接する様にリリをその胸に抱き寄せ、優しくあやす様に語りかけたのである。


「リリちゃん、エルはあなたを責めてるわけじゃないの。ただあなたに、自分の命を粗末にする様な事をして欲しくないだけなの」

「でもっ、私がっ、勝手な行動しなかったら……」

「はいはい、思い詰めないの。それに、あなたの判断はあながち間違いじゃないわ。対象がエルやあたし達じゃなかったら、あなたの考えは正しかったのよ」

「えっ!?」


 掛けられた言葉にびっくりして、リリは涙を流した顔のままアリーシャを見上げた。

 そんな少女を安心させる様にアリーシャは柔和な笑顔で頷き返した。彼女が本の一握りの仲間内にだけ見せる、思いやる溢れる優しい姿であった。


「冒険者といっても同じ人間でしょ? ランクが上がれば人間離れしてくるけど、骨が折れたり血を流せばやっぱり痛いのよ。でも、あたしやエルなんかは特別よ」

「? どういう意味ですか?」

「自分の意思で痛みに耐えれるの。ようするに、ものすご~く我慢強いのよ。目的を達成するためなら、他の冒険者じゃ耐えきれない事でも平気で我慢できるのよ。ねっ、エル、そうでしょ?」

「えっ? ええ、そうですね」 

 

 そう、エルやアリーシャは冒険者の中でも一際特異な者達である。

 戦闘狂という面もあるが、勝利を掴むためなら腕を食い千切られようが足を切断されようが受容できる、信じ難き意思の強さを持っているのだ! 

 想像を絶する精神の強さで痛みを抑え込み耐え抜くのである。

 そんな事普通の冒険者に真似できるはずがないのだ。

 だが彼等にはできる。できるからこそ今があるのだ。

 傷付く事を厭わず闘い続けられたからこそ魔物の屍の山を築き、異常な速度で成長できたのである。

 しかし、我慢できるといっても痛いのは変わりない。

 少年は少女を助けるために、筆舌に尽くし難い苦しみに耐え続けたのだ。

 そう思うと、また涙があふれてくる。リリは泣きはらした顔でエルを見た。


「エル、ごめんね。痛かったよね?」

「なあに大丈夫さ。アリーシャさんの言う通り、僕は我慢強いんだ。それに、冒険者は傷付く事も仕事の内だからね。それより僕は、リリが傷ついた事の方が痛かったよ」


 エルは心痛な面持ちで胸に手をやった。

 本当に心が痛かったのだ。リリが意識を取り戻すまでの時間は、少年にとって恐ろしい拷問だった。

 彼女が死ぬかもしれない、助からないかもしれないという思いが僅かでも浮かぶだけで、胸が張り裂けそうになったのである。あんな思いはもう二度と味わいたくない。


「エル……」

「まっ、リリちゃんはエルを信じて自分の身を大切にしなさい、ってことね。エルは普段は頼りないけ

ど、やるべき時はやる男よ。きっと何とかしてくれるわ。それを信じて待つのが良い女ってものよ?」


 エルの方を振り向いた少女の小さな頭を自分の胸に抱き直しながら、アリーシャは明るく心構えを説いた。反省すべき点は反省する。でもいつまでもくよくよしている必要はないのだ。

 可愛い妹分はやっぱり元気に笑っているのに限る。

 そんなアリーシャの思いが伝わったのか、やっとリリに笑顔が戻ってきた。エルもそんな彼女を見てほっと息を吐いた。

 いつもの太陽の様に明るい笑顔に戻ったリリは、溌剌とした声でアリーシャに礼を述べた。

 

「アリーシャさん、ありがとうございます! 私、頑張りますね!」

「よろしい! リリちゃんも元気になったことだし、これからの事なんだけど……」

「ああ。今この街は戦争中だしな」

「賊は早急に鎮圧すべきなんだけど、リリちゃん達の安全も確保しなくちゃいけないしね」


 現実は問題だらけである。

 宿の外では冬幻迷宮の冒険者や純潔同盟の奴らが暴れまわっているし、事によると既に聖王国の騎士団が到着しているかもしれない。そうであれば、直ぐにでも激しい戦いに発展するだろう。

 エル達も街の平和を取り戻すためにも参戦すべきであったが、そうするとリリ達をどうするかが問題だ。いつまた宿屋に無法者が襲撃してくるかわからない。こんな所に置いておくわけにはいかなかった。

 どうにかリリ達が安全に居られる場所を見つけねばならなかった。

 皆頭を悩ませていたが、名案を閃いたエルが大声を上げた。


「武神流の神殿に行きましょう!!」

「武神流?」

「はい、神殿にはアルド神官をはじめとした武官が大勢います。それに、武神流の修練場はかなり広いですし、周りを高い壁で囲まれているので神殿の前の門を通ってしか入れません」


 この苦難に当たり、エルが思い浮かべたのは自分の頼もしい師匠であった。

 それに、武神流の神殿や修練場は外壁に覆われ入口も限られている。正面にある門の防備を固めれば、ちっとやそっとの事では落とせないだろう。

 そんなエルの考えにディムやカーンがいち早く理解を示した。


「武神流の神殿は外からしか見た事はないが、エルの言う様に修練場が広いなら大人数を収容できるだろうし、入口を固めるれば十分守り通せそうだな」

「それに武神流は、普段から民を守り悪を挫く事を標榜しているからね。危急の時だからこそ、困った民を放っておけないはずさ。多分街の人達も逃げ込んでるんじゃないかな?」

「決まりね。武神流の神殿に行きましょう!!」

「「はい!!」」


 そうと決まれば後は行動するのみだ。

 エルは不安そうなリリやシェーバ達を勇気付けようと声を掛けた。

 

「リリ、シェーバさん、それにマリナさん。僕達がすぐに安全な所まで連れて行きますから、安心して下さい」

「ありがとう。そしてすまない。迷惑を掛けてばかりだな」

「今は緊急事態ですし、気に病まないでください」

「娘を助けてもらうばかりか私達の事まで助けてもらって、何とお礼を言えばいいか……」

「これでも武人の端くれですからね。それに困った時はお互い様ですよ」

「エル……」

「大丈夫、僕を、みんなを信じて。必ずこの街を平和を取り戻してみせるさ!」

「うん!!」


 エルやアリーシャ達はリリ達を護衛するように隊列を組むと、武神流の神殿に向けて急ぎ足に向かうのだった。







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